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第2章:空白の検索結果(ゼロリザルト)
第2話:永遠に来ない来週
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【前回のあらすじ】(第2章第1話)
澪は裏口アプリで森の光点を確認する。
遭難した少年の捜索はECO-SCANが担い、「見落としはない」と言い切った。
◆
自宅を出て、愛車に乗り込む。
電気自動車の静かなモーター音が、澪を都市のただ中から、山間に位置する職場へと運んでいく。
道中、車窓を流れる街並みは整然としていた。
信号の制御。
交通量の調整。
電力の配分。
すべてがネットワークで管理され、最適化されている。
ハンドルを握りながら、澪はふと、今朝の父の顔を思い出した。
行方不明の少年のニュースを見ていた時の、寂しげな横顔。
その表情は、忘れもしない「あの日」と同じだった。
(……一週間だった)
澪は無意識に唇を噛む。
母・神代沙耶と再会して、そして永遠に別れるまでの期間。
たった一週間。
それが、私と母に許された時間のすべてだった。
◆
私の年齢が十やそこらの冬だったと思う。
ハッキリとした歳は思い出せない。
リビングで小テストの勉強をしていた私に、父がおずおずと切り出した。
「沙耶から、電話があった」
母の名前を聞いた瞬間、胸の奥が冷たく硬直したのを覚えている。
幼い頃に研究を選んで出て行った人。
今さら、何の用なのか。
父は否定しなかった。
ただ、困ったように眉を下げて、同じ言葉を繰り返した。
「でも、会いたがっていた」
私は迷い、怒り、それでも最後には頷いた。
「一回だけなら」と条件をつけて。
翌日の放課後。
駅前の喫茶店。
母は、白いコートを着て待っていた。
久しぶりに見たその姿は、記憶の中の母とほとんど変わっていなかった。
小柄で、線の細い体つき。
年齢に似つかわしくない、どこか幼さを残した容姿。
知的で、どこか浮世離れしていて。
そして不器用な笑顔。
――ああ、母だ。
「……あ、澪。来たよ」
「こんにちは」
会話は、恐ろしいほど弾まなかった。
母は研究の話なら何時間でもできる人なのに、必死で「母親らしい話題」を探していた。
「学校はどう?」
「友達とは遊んでる?」
不器用な人だと思った。
母親らしく振る舞おうとしている様子が、少し滑稽にも見えた。
そのズレた質問が、逆におかしくて。
意固地になっていた自分が、急に馬鹿馬鹿しく思えた。
私は、初めて母の前で小さく笑った。
それを見た母が、ほっとしたように目を細める。
別れ際。
母は席を立ち、コートを羽織った。
「じゃあ……そろそろ行くね」
「うん」
ぎこちないやり取りのまま、母は入口へ向かう。
扉の前で一度だけ振り返り、小さく手を振った。
「来週も、ここに来ていいかな。……また、話せるかな」
「それとね、今度は……澪に、見せたいものがあって」
「……テストがあるときじゃなくて、時間がある時なら、いいよ」
母の顔が、ぱあっと輝いた。
「うん! じゃあ来週ね。約束!」
父は何も言わず、母の後を追って席を立つ。
扉が開き、二人の背中が外の光に溶けていく。
私は席に残り、その様子をただ見送っていた。
それが、私が最後に見た「動いている母」だった。
その一週間後。
「来週」の約束の日が来る前に、母は死んだ。
山でのフィールドワーク中、熊に襲われたのだ。
「時間があるときなら」
あの言葉は結局、“ない”と同じだったんだと、あとになって分かった。
※次回は明日21:00更新。よければ お気に入り登録 をお願いします。
澪は裏口アプリで森の光点を確認する。
遭難した少年の捜索はECO-SCANが担い、「見落としはない」と言い切った。
◆
自宅を出て、愛車に乗り込む。
電気自動車の静かなモーター音が、澪を都市のただ中から、山間に位置する職場へと運んでいく。
道中、車窓を流れる街並みは整然としていた。
信号の制御。
交通量の調整。
電力の配分。
すべてがネットワークで管理され、最適化されている。
ハンドルを握りながら、澪はふと、今朝の父の顔を思い出した。
行方不明の少年のニュースを見ていた時の、寂しげな横顔。
その表情は、忘れもしない「あの日」と同じだった。
(……一週間だった)
澪は無意識に唇を噛む。
母・神代沙耶と再会して、そして永遠に別れるまでの期間。
たった一週間。
それが、私と母に許された時間のすべてだった。
◆
私の年齢が十やそこらの冬だったと思う。
ハッキリとした歳は思い出せない。
リビングで小テストの勉強をしていた私に、父がおずおずと切り出した。
「沙耶から、電話があった」
母の名前を聞いた瞬間、胸の奥が冷たく硬直したのを覚えている。
幼い頃に研究を選んで出て行った人。
今さら、何の用なのか。
父は否定しなかった。
ただ、困ったように眉を下げて、同じ言葉を繰り返した。
「でも、会いたがっていた」
私は迷い、怒り、それでも最後には頷いた。
「一回だけなら」と条件をつけて。
翌日の放課後。
駅前の喫茶店。
母は、白いコートを着て待っていた。
久しぶりに見たその姿は、記憶の中の母とほとんど変わっていなかった。
小柄で、線の細い体つき。
年齢に似つかわしくない、どこか幼さを残した容姿。
知的で、どこか浮世離れしていて。
そして不器用な笑顔。
――ああ、母だ。
「……あ、澪。来たよ」
「こんにちは」
会話は、恐ろしいほど弾まなかった。
母は研究の話なら何時間でもできる人なのに、必死で「母親らしい話題」を探していた。
「学校はどう?」
「友達とは遊んでる?」
不器用な人だと思った。
母親らしく振る舞おうとしている様子が、少し滑稽にも見えた。
そのズレた質問が、逆におかしくて。
意固地になっていた自分が、急に馬鹿馬鹿しく思えた。
私は、初めて母の前で小さく笑った。
それを見た母が、ほっとしたように目を細める。
別れ際。
母は席を立ち、コートを羽織った。
「じゃあ……そろそろ行くね」
「うん」
ぎこちないやり取りのまま、母は入口へ向かう。
扉の前で一度だけ振り返り、小さく手を振った。
「来週も、ここに来ていいかな。……また、話せるかな」
「それとね、今度は……澪に、見せたいものがあって」
「……テストがあるときじゃなくて、時間がある時なら、いいよ」
母の顔が、ぱあっと輝いた。
「うん! じゃあ来週ね。約束!」
父は何も言わず、母の後を追って席を立つ。
扉が開き、二人の背中が外の光に溶けていく。
私は席に残り、その様子をただ見送っていた。
それが、私が最後に見た「動いている母」だった。
その一週間後。
「来週」の約束の日が来る前に、母は死んだ。
山でのフィールドワーク中、熊に襲われたのだ。
「時間があるときなら」
あの言葉は結局、“ない”と同じだったんだと、あとになって分かった。
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引き続きよろしくお願いいたします。
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