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3. あなたを知る
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「とりあえず、2人とも席につけ」
授業より10分遅れて教室に現れた閃と茶髪の少女に、教師が指示を出す。
空席は2つ。
教室の中央と、窓際の最後尾。
「閃(せん)は真ん中、広(ひろ)は隅っこな」
「はーい」
「は、はい!」
(名前、広っていうんだ)
指定された席に向かいながら、閃は少女の名前を確認する。
「お前高校でも遅刻かよ~!」
「駅にいないと思ったらー」
「うるせー」
広は席へ向かう途中、何人かにヤジを飛ばされていた。
「?」
クラスの多くの人が広を知っている状況を、閃は不思議に思った。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
「えーっと、クラス全員揃ったので、改めて自己紹介の時間にしよう。
その場に立って、名前と中学と部活と―――」
教師が高校初の授業内容を説明する。
「・・・」
閃は不安になる。
この立石(たていし)高校に、自分の中学から進学した人がいないからだ。
「じゃあ次の列ー」
目立ちたくはないが友達は欲しい。
そして楽しく高校生活を送りたい。
自分の選択に後悔したくない。
様々な思いが頭の中で沸いて消えない。
「はい、次の人」
「えっ」
他の人の紹介を聞かずに ひたすら悶々としていると、あっという間に順番が閃に回ってきた。
話す内容は設定されているのに、不安と緊張で何も考えられなくなる。
(この席、どこを向いて話せばいいの?
ああ、みんながこっち向いてる)
「・・・」
しかし、いつまでも黙ってはいられない。
閃は足に力を入れてその場に立ち、口を開く。
「せ、閃といいます。
…月山(つきやま)中学から来ました」
ザワザワ…ザワザワ…
「っ!」
閃が出身中学を話した途端に、教室がざわつき始める。
「つきやまってあの月山?」
「さすがに遠くない?」
「あそこって中高一貫じゃなかったっけ?」
ひそひそ話や好奇の目が閃に集中する。
「ぁ・・・っ・・・」
周りの反応に耐え切れず、閃はうつむく。
しかし、どうしても耳から周りの情報が入ってくる。
(ざわめきが止まない、どうしよう…)
うまい一言で切り返したり、周りを気にせず自己紹介を続けたりする気丈さを、閃は持っていない。
「・・・」
次の言葉が出てこない。
教師も助けてくれない。
これまで無意識に避けてきた状況のつらさを、閃は痛感する。
(こんなことになるくらいだったら、やっぱり―――)
「どこそこ。聞いたことねーな」
「え…?」
その一言で教室は静まり返り、注目の的は中央から窓際の一番奥に移る。
「で、どこなの」
広だ。
彼女が閃に問いかけたのだ。
「あ、えっと!
月山中は田舎で、静かなところです。
立石高校からは少し遠いですが、電車で通える距離です!
部活は、弓道をやってました」
「「おおー!!」」
「っ!」
閃が部活について話すと、教室中がまたざわついた。
しかし、このざわめきは先ほどのものとは違う。
「すごい!中学から弓道やってたの?!」
「アタシ高校で弓道やりたいんだ!よかったらいろいろ教えて!」
クラスメイトが次々と閃に声をかけてくる。
「は、はい!あの、よろしくお願いします!」
(なんでだろう、あんなに苦しかったのに…)
広に声をかけられた瞬間 自然と言葉が出てきたことを、閃は不思議に思った。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
「じゃあ最後ー」
「あい」
(あっ)
自己紹介はいよいよ最後、広の番だ。
閃は周りと同じように広の方を向く。
「名前はヒロ。羽前(はねまえ)中学から来ました」
「知ってるー」
「このクラスの半分は羽前だよね~」
「うっせーしゃべらせろ」
(羽前中なんだ)
羽前中学は立石高校の隣の駅にある中学。
その近さから、羽前中学の多くの生徒はこの高校に進学している。
「部活は水泳をやってました」
(広さん…)
名前、出身中学、部活。
この時間ではそんな表面上のことしかわからない。
きっと同じ中学から来た生徒は、広のことをより深く知っている。
ただ、閃はこの時間で、広の優しさを知った。
授業より10分遅れて教室に現れた閃と茶髪の少女に、教師が指示を出す。
空席は2つ。
教室の中央と、窓際の最後尾。
「閃(せん)は真ん中、広(ひろ)は隅っこな」
「はーい」
「は、はい!」
(名前、広っていうんだ)
指定された席に向かいながら、閃は少女の名前を確認する。
「お前高校でも遅刻かよ~!」
「駅にいないと思ったらー」
「うるせー」
広は席へ向かう途中、何人かにヤジを飛ばされていた。
「?」
クラスの多くの人が広を知っている状況を、閃は不思議に思った。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
「えーっと、クラス全員揃ったので、改めて自己紹介の時間にしよう。
その場に立って、名前と中学と部活と―――」
教師が高校初の授業内容を説明する。
「・・・」
閃は不安になる。
この立石(たていし)高校に、自分の中学から進学した人がいないからだ。
「じゃあ次の列ー」
目立ちたくはないが友達は欲しい。
そして楽しく高校生活を送りたい。
自分の選択に後悔したくない。
様々な思いが頭の中で沸いて消えない。
「はい、次の人」
「えっ」
他の人の紹介を聞かずに ひたすら悶々としていると、あっという間に順番が閃に回ってきた。
話す内容は設定されているのに、不安と緊張で何も考えられなくなる。
(この席、どこを向いて話せばいいの?
ああ、みんながこっち向いてる)
「・・・」
しかし、いつまでも黙ってはいられない。
閃は足に力を入れてその場に立ち、口を開く。
「せ、閃といいます。
…月山(つきやま)中学から来ました」
ザワザワ…ザワザワ…
「っ!」
閃が出身中学を話した途端に、教室がざわつき始める。
「つきやまってあの月山?」
「さすがに遠くない?」
「あそこって中高一貫じゃなかったっけ?」
ひそひそ話や好奇の目が閃に集中する。
「ぁ・・・っ・・・」
周りの反応に耐え切れず、閃はうつむく。
しかし、どうしても耳から周りの情報が入ってくる。
(ざわめきが止まない、どうしよう…)
うまい一言で切り返したり、周りを気にせず自己紹介を続けたりする気丈さを、閃は持っていない。
「・・・」
次の言葉が出てこない。
教師も助けてくれない。
これまで無意識に避けてきた状況のつらさを、閃は痛感する。
(こんなことになるくらいだったら、やっぱり―――)
「どこそこ。聞いたことねーな」
「え…?」
その一言で教室は静まり返り、注目の的は中央から窓際の一番奥に移る。
「で、どこなの」
広だ。
彼女が閃に問いかけたのだ。
「あ、えっと!
月山中は田舎で、静かなところです。
立石高校からは少し遠いですが、電車で通える距離です!
部活は、弓道をやってました」
「「おおー!!」」
「っ!」
閃が部活について話すと、教室中がまたざわついた。
しかし、このざわめきは先ほどのものとは違う。
「すごい!中学から弓道やってたの?!」
「アタシ高校で弓道やりたいんだ!よかったらいろいろ教えて!」
クラスメイトが次々と閃に声をかけてくる。
「は、はい!あの、よろしくお願いします!」
(なんでだろう、あんなに苦しかったのに…)
広に声をかけられた瞬間 自然と言葉が出てきたことを、閃は不思議に思った。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
「じゃあ最後ー」
「あい」
(あっ)
自己紹介はいよいよ最後、広の番だ。
閃は周りと同じように広の方を向く。
「名前はヒロ。羽前(はねまえ)中学から来ました」
「知ってるー」
「このクラスの半分は羽前だよね~」
「うっせーしゃべらせろ」
(羽前中なんだ)
羽前中学は立石高校の隣の駅にある中学。
その近さから、羽前中学の多くの生徒はこの高校に進学している。
「部活は水泳をやってました」
(広さん…)
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この時間ではそんな表面上のことしかわからない。
きっと同じ中学から来た生徒は、広のことをより深く知っている。
ただ、閃はこの時間で、広の優しさを知った。
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