VRMMO【Original Skill Online】

LostAngel

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第四十一話

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【第四十一話】

 サイド:トーマ

「グギャアアアアアアアアアッッッ!!」

「進めええっ!」

 『フィフスソウルゴブリン・サクラ』の咆哮が轟くと、俺、セツナ、『魔王』、マスターさんの四人は一斉に走り出した。

 前にはゴブリンの群れ、後ろには俺が生み出した怪物。

 進むも地獄、戻るも地獄とは、まさにこのことだな。

「…っ、はっ!」

「ギャアアアッ!」

「グギュギュウゥ!」

 俺の前方では大きなハンマーを持ったマスターさんが、一振りで何匹かのゴブリンを薙ぎ払った。

「……っ」

 かと思えば、手のひらを開いてハンマーを手放す。

 ゴブリンがいなくなり、前に空いたスペースに向かって助走をつけながら、右腕を振りかぶる。

 地面に落ちたハンマーは、跡形もなく消失。

 すぐさま小さめの槍が出現し、彼の右手に収まった。

「はっ!」

「ギャッ!」

 そして、槍投げのフォームで、思いっきり投擲。

 空気を裂き、うなりを上げて発射された一本の槍が、襲いかかろうとしていた『ゴブリン・アサシン』の胸を一瞬で貫いた。

「次は…、これだ」

「ギャアアッ!」

「ガギィイアッ!」

 アサシンが吹き飛ばされる最中、槍は突如消失。

 代わりに、今度は一振りの剣がマスターさんの手元に現れた。

 間を置かず、隙間を埋めるように立ちはだかったゴブリンたちを切り捨てていく。

「すごいな…」

 俺はゴブリンをあしらいつつ、マスターさんの戦い方に感心する。

 彼のスキル【アーツマスター】は、あらゆる種類の初期装備を生み出すことができる。便利ではあるが、様々な武器の熟練度が要求される難しいスキルだ。

 しかし、面白い活用法もある。

 今マスターさんがしたように、生み出した武器を数回使ったら手放し、新たな武器を生み出して振るうという戦い方だ。

 リーチを自由自在に変え、効率よく複数体を倒すことができるから、この戦い方は対ゴブリン戦にぴったりと言える。

「三人とも、ついてこれそうか!?」

「よっ…っと!」

 しまった。つい、マスターさんの戦闘に魅入っていた。

 俺は気を取り直し、迫る『ゴブリン・ソードマン』の斬撃をひらりとかわす。

 そして、反撃とばかりに魂を抜いてやる。

「そらっ」

「ゲギャ!!」

「ギャギャオオッ!」

 魂は手放して鎖帷子にストックしておき、抜け殻になった肉体は集団に向かって蹴り飛ばしておく。

 俺の魂を混ぜてもう一度強化個体を作ってもいいんだが、足は止められない。

 今はゴブリンのトップを倒すという作戦を遂行するため、前へ進まなければならない。 

「しかし、ずいぶんワンパターンだね。ゴブリンってのは」

 彼女は軽口を叩きながらも、『ホブゴブリン・ファイター』の拳を全てよけ、カウンターを顔面に叩き込む。

 俺たち一人一人を点とすると、今俺たちは、四点が作る不揃いな四角形のような陣形を取っている。

 マスターさんが一番前の点、俺が左側に位置する点、という具合だ。

 そして右には彼女、セツナがいる。

「グギャアアアッ…!」

 重い一撃を食らったファイターは、叫び声を上げながら地面に倒れた。

 だが、ノックアウトまではいかなかったようだ。

 顔を押さえながら、何とか起き上がろうとしたが…。

「はいっ♪」

「グギャ、アギャッッ!!」

 首を踏み抜かれ、あっけなく倒された。

「はいっ、はいっ、はいっ」

「ギャギャギャッ!」

「グウギイイィィッッ!」
 
 彼女の勢いは留まることを知らない。

 二本の細腕をしなやかに動かし、あるときは急所を突き、またあるときは奪った武器を振るう。

「ギャアアアッ!」

「ま、こんだけいっぱいいるんだからこんなもん?」

 武器を持たないが故の、完成された戦い方。

 それが、セツナの強さだ。

「セツナ」

 ただ、ゴブリンを倒すのに夢中になる余り足が止まっていたので、俺が呼びかけておく。

 出会ってすぐに気づいたが、彼女はかなり好戦的だ。

 放っておいたら、一人で延々とゴブリンの相手をしかねない。

「あいよ」

 俺の言葉を聞いたセツナは、素直に前へ進み始める。

 俺も彼女も斜め前を向きながら戦い、歩みを進めている。半ば背中合わせの状態だ。

 これは言い換えると、マスターさんが切り開いた道のサイドから攻めてくるゴブリンたちを俺とセツナで対処している形になる。

 よって、どちらかがポジション取りを間違えると、陣形が瓦解してしまう恐れがある。

「ちゃんとやってるか、『魔王』?」

「…マディウスもがんばってんじゃん」

「お前ら、俺を後ろにして楽してるな?」

 最後に、一番後ろの点である殿は『魔王』が務めている。

 こいつはフットワークが軽いくせに、初期装備の短剣しか持っていないせいで、スキル【魔物図鑑】で魔物を召喚しないと決め手に欠ける。

 …という自らの弱点を彼は理解しており、それをカバーできるように率先して行動に移している。

「全く。お前らはただ倒すだけでいいが、俺はこいつらの相手をしなければならないんだぞ」

 現に今も、迫る『フィフスソウルゴブリン・サクラ』の警戒をしつつ、背後を狙うゴブリンたちを適当にあしらっている。

「ギョオオアアアッ!!」

「っ…!、ふんっ」

「ギャァ!?」

 『ホブゴブリン・ウォリアー』の振り下ろし攻撃をするりとかわした『魔王』。

 無駄のない動作で短剣を振り、斧を持つ腕を切り裂いた。

「消えろ」

「ギャッ!」

「ギャン!」

 続けて、痛みで武器を取り落としたファイターの胸にハイキック。

 でかい図体をぶっ飛ばし、後ろのゴブリンたちにぶつけることで攻勢を削ぐ。

「グウウアアアアアッ!」

「ギャグアッ!」

「それに、せっかく助けに来てやったのに『サクラ個体』の出迎えもない。これなら、トーマは見捨てておけばよかったか?」

 戦闘中だというのに、よく動く口だな。

 だが、腕は確かだ。

 『魔王』はさらに、斬撃のコンビネーションをしかけてきた二体の『ホブゴブリン・ソードマン』をかいくぐり、剣を持つそれぞれの手に刺突をお見舞いした。

「グウアアアッ!?」

「ギャグググッ!?」

「少しでも役に立て」

 剣を手放してしゃがみ込んだソードマンたちを突き飛ばし、群れの中に送り返した。 

 『魔王』は、意図的に敵を生かしたまま戦闘不能にしている。

 というのも、魔物のゴブリンにも情があり、傷ついた味方を前にすると躊躇し、攻撃の手を緩めるという検証結果があるためだ。

 その習性を利用し、頭数を数十体減らすのではなく、数百体の足止めに専念している。

「グギャアアアアアアッ!!」

「おい早くしろ。やつが来る」

 そんなことを考えているうちに、例のゴブリンが追い上げてきたようだ。

「アアア、アアッ…」

「ギャッ、グ…」

「ちっ」

 いつの間に肉薄してきた『フィフスソウルゴブリン・サクラ』は、手負いのソードマン二体を素手で引き裂き、『魔王』の前に躍り出る。

 なんて膂力だ。五人+αの知識と経験は、『ゴブリン・サクラ』を次の段階へ引き上げるらしい。

「マディウス、やばくね?」 

「マスターさん、あとどれくらいですか!?」

 それを見た俺とセツナは、ほぼ同時に言葉を発した。

 セツナの声は少し上ずっていた。あれがいとも簡単にホブゴブリンを葬った瞬間を目にして、身の危険を感じたのか?

 それとも、強敵を相手しなければならない『魔王』に情が湧いたのか?

 さっきの戦闘では俺を心配する素振りを見せていたし、割と優しい人なのかもしれない。

「もう少しだ!もう少しで、ゴブリンの波から抜け出せる!」

 俺の問いかけに、戦闘中のマスターさんはよく通る大声で答えてくれる。

 俺と彼が檻に閉じ込められて数十分が経過した現在は、ゴブリンの軍勢の大部分がすでに『始まりの街』側に侵攻した後。

 俺たちはやつらの進軍の方向と反対に進んでいるので、いつかゴブリンの群れから抜け出せるときが来るだろう、という算段だ。

「ちょうどいい。お前たちは先に行け」

「でも、マディウス一人じゃ…!」

「こいつは、俺が相手する」

 俺とマスターさんのやり取りを聞いた『魔王』は適当なことを言い、それに反応したセツナが引き留めようとする。

 『フィフスソウルゴブリン・サクラ』と『魔王』の距離はかなり近い。これだと、戦わずに逃げるのは不可能だ。

 ならば、一人で残って足止めする。

 俺たち三人の生存率を上げるため、『魔王』は自らの命を投げ打つ選択をした。

 …なんてことは、絶対にない。

「セツナ、あいつは大丈夫だ。どうせ、あのゴブリンをページに加えたいだけだからな」

「え?ページ?」

「………」

 試しに、身も蓋もないことを言ってみる。

 すると、どうだろう。俺たちの会話が聞こえたであろう『魔王』は、だんまりを決め込んだ。

 どうやら、『あのゴブリンをページに加えたい』というのは図星だったようだな。

「説明は後でする。とにかく、今は急いだ方がいい」

「…分かった」

 俺は、不承不承といった様子のセツナを丸め込む。

 『フィフスソウルゴブリン・サクラ』は普通のゴブリン種や『ゴブリン・サクラ』のように、フィールドで自然に湧く魔物ではない。

 なので、独立した種として【魔物図鑑】のページに加わることはないと俺は思っている。

 だが、そんなことをこいつに教えてやる暇などないし、たとえ暇があったとしても教えるつもりはない。

 もはや覚えている人の方が少ないと思うが、俺と『魔王』は今、どちらがより多く『サクラジェム』を手に入れられるかを競っている最中だからな。

「最後列が見えた!もうすぐ抜けられるぞ!」

 なんてことを思っていると、前に立つマスターさんが吉報をもたらしてくれる。

「いくぞ」

「…っし、うん!」

 それを聞いた俺とセツナは、寄ってくるゴブリンたちを返り討ちにしながら彼の下へ急ぐ。

 同時に左右から緑の波が押し寄せ、『魔王』と『フィフスソウルゴブリン・サクラ』の姿が隠された。

 まあ、心配は無用だ。あいつなら平気な顔して追いついてくるだろう。

「ここまで来たのは、初めてだな」

 マスターさんも、『魔王』のことは気にしていないようだ。

 移動と攻撃、武器の持ち替えを絶え間なく繰り返し、ゴブリンたちを蹂躙しながら進軍の手を止めない。

「続くぞ」

「はいよっ!」

 そこに、無手の俺とセツナも加勢する。

 マスターさんの軌跡をなぞり、両脇から迫るゴブリンたちを排除して回る。

「………」

 ゴブリンの叫び声、武器どうしが擦れる音、地面になにかがぶつかる音。

「………」

 戦場に様々な音が鳴り響く中、終始俺たちは無言だった。

「………」

 新たに形成された三角形の布陣は、その形を維持しながら前へ前へと食い込んでいく。

「ギャギャアアアッ!」

「グギャンッ!」

「………っ!」

 そして、数体のゴブリンを処理した後。

 俺はちらりとマスターさんの方を向くと、前を占める緑の面積が少しずつ減っている気がした。

 いや、見間違いではない。

 薄めの緑の間から、もっと深く暗い緑がちらちらと見え隠れしている。

 あれは、木?

 もしかして、ゴブリンたちのアジトは森の中にあるのか?

「森だ、もう抜けるぞ」

 タイミングよく、より視界が開けているマスターさんがこちらを見ずに言う。

 やはり、あれは森だったか。

「行きます」

「…りょうかいっ」

 報告を受け取った俺とセツナはすぐさま、マスターさんと距離を詰める。

 ここまでくれば、スペースを広く保つ必要はない。

 前線を一点突破し、ゴブリンの群れを突っ切る。

 それが、持久戦が不利な今の俺たちにできる最善の選択。

 セツナもマスターさんも、口に出さずともそれを理解している。

「はああああっ……、はっ!」

「ガギャアアアアアッ!」

 マスターさんが『ハイゴブリン・ウォリアー』をトンファーでたこ殴りにし、大きく吹き飛ばす。

 視界を塞いでいた巨体がいなくなって一気に視界が開けると、瞬く間に青々とした木々が姿を現した。

「二人とも来い!」

「はいっ!」

「うっす!」

 視線だけをこちらによこしたマスターさんの大声に、俺とセツナは共鳴する。

 ついに、あと数十メートルで魔物たちの過密地帯を抜けられる。
 
 これでもう、ゴブリンたちとはおさらばだ。

「ゴギャギャッ!」

「走るぞ!森を目指せ!」

「行けるか、セツナ?」

「よゆーよっ!」 

 分かりやすい到達地点ができた。

 俺たちは応戦するゴブリンどもを無視し、森を目指して全力疾走を始める。

 体も集中力も、もう限界だ。

 この後にゴブリンの王と、もしかしたら俺とマスターさんを檻で閉じ込めたプレイヤーと戦うとなると、これ以上の無理はできない。

「………」

「………」

「………」

 そしてまた、三人は無言になる。 

 俺もセツナもマスターさんも腕を振り、足を前に進めることだけを意識している。

「………」

「ギャギャギャッ!?」

 対面した『ゴブリン・ファイター』は体を張って、マスターさんを食い止めようとする。
 
 だが、するりと脇を抜けられる。

 これも検証で明らかになったことだが、ゴブリンは俺たちの言葉を理解していない。

 それは確かなアドバンテージなんだが、その逆もしかりということを気をつけなければならない。俺たちも、ゴブリンがなにを言っているかはさっぱり分からないからな。

 ただグギャグギャ叫んでいるだけに聞こえるが、リザードマンにきちんとした言語体系があることを考えると、やはり彼らの鳴き声にもなんらかの意味があるだろうと推測されている。

 つまり、プレイヤーもゴブリンも、大声で作戦を話しても相手に警戒されるだけで、それほど問題ではないということだ。

「グウッギャギャッ!」

「………」

「…ギャアアッ!?」

 今度は、『ハイゴブリン・ソードマン』がセツナの前に躍り出る。

 しかし、彼女は地面を踏みつけ、有り余るエネルギーを用いて大きく跳躍することでソードマンの頭上を通り過ぎた。

 さっきまで各個撃破で殲滅していたのに、一転して明らかな逃げの一手。

 このように、急に戦法を変えられると、人語を理解できないゴブリンたちは対応することができない。

「………」

 俺は足を止めずに考える。

 あと一体…。

「ガガガガウウウウッ!!」

 俺の前に現れたこいつをどうにかすれば、森にたどり着ける。

「ギャガアアウウッ!」

「………」

 目の前のハイゴブリン種のウォリアーは、大きな斧を水平に振るってきた。 

 俺はそれを、前に転がることで避ける。

 肉厚の刃が背中の上で空を切った。

 よし、かわせたな。

 すぐに体勢を立て直し、ウォリアーの横をすれ違いながら走り抜けようとした瞬間…。

「ガガガアアウウウウッ!」

 瞬時に斧を手放し、手が空いていたウォリアーに右腕を掴まれた。

 まずい!

 …なんて、焦ることはない。

「そうくると思ってたよ」

 読んでいた。

 マスターさんとセツナの行動を見たウォリアーが、回避して俺が後ろに抜けることを読んでいたのを…、読んでいた。

「はっ!」

 俺は前に進む慣性に逆らわず、固定された腕を軸としてウォリアーの背に張りつくように、体を百八十度回転ターンさせる。

 そしてその勢いのまま、自身の左腕を体に突き入れた。

 こうなってしまえば、いつものパターンだ。

 魂を掴み、引き抜く。

 ただそれだけでいい。

「ガガウウッ…」

 魂を失くし肉体だけになったウォリアーは、抵抗の途中で沈黙することとなった。

「………」

 勝った。

 俺は手を開いて鎖帷子に魂をくっつけると、息つく間もなく走り始める。

「それほど、離れていないな」

 改めて前を見ると、そう遠くない位置にいるマスターさんが森に入るところだった。その少し後ろにはセツナもいる。

 よかった。二人は無事に森まで行けたんだな。

 そう思ったのもつかの間…。

「ギャッララララウウゥッ!!!」

 森の中から威勢の良い鳴き声がするとともに爆音が鳴り響き、木々の間から閃光が漏れ出す。

 【爆発魔法】か。

 先を行くマスターさんが危ない。

「…なっ!」
 
 セツナが硬直し、驚いた様子を見せる。

「……つっ!」

 と同時に、マスターさんが吹き飛ばされて森から出てきた。

 彼は爆発を食らったようで、何度か地面をバウンドしながら彼女の前で止まる。

「ギャッ…ラララッ!」 

 木の陰から姿を現したのは、桜色の体を持つゴブリン。

 『ゴブリン・サクラ』だ。

 それも、『スキルジェム・【爆発魔法】』を使用した個体。

「……ター………夫っすか……!?」 

「……け」

 遠くて聞こえづらいが、二人がなにか話している。

 まずは合流した方がいいな。

 そう考えた俺は、前方の『ゴブリン・サクラ』から目を離さないようにしつつ、彼らの下へ向かう。

「俺がこいつをやる。セツナは、トーマと先へ行ってくれ」

「えっ?なんて言った?もう少し大きな声で頼む」

「聞こえてなかったか?いやこの距離だ、そんなはず…。まさか、残って戦ってくれるのか?」

「ごめん、なに言ってるか分かんない?もう一度言って?」
 
 ようやく追いつけた。

 マスターさんは無事なようだ。欠損してる箇所もないし、火傷も見られない。
  
 ただ、会話が噛み合っていない。

 二人とも、至近距離の爆発で耳が駄目になったのか。 

”分かりました。あの『ゴブリン・サクラ』はマスターさんにお任せします。”

「っ!」

 思わぬ事態になったが、俺がアイコンタクトを使えるから平気だ。

 マスターさんに視線を送り、作戦を理解したことを伝える。

「わっ!ってトーマじゃん。声くらいかけてよ、びっくりした…、むぐっ!」

”これを飲み込め、耳が治る。”

「っ!!」

 さらにセツナの後ろに回り、インベントリから取り出した『スキルジェム・【自己再生】』を彼女の口に突っ込む。

 謎の手段でコミュニケーションをしかけられ、二人とも驚いている。

 申し訳ないが、ゆっくりしていられない。これが一番早いから納得してほしい。

”セツナ。あのゴブリンはマスターさんに相手してもらう。俺たちは森に行く。”

”分かった。”

「っ!!!」

 今度は、俺が驚く番だった。

 まさかセツナ、今のやり取りだけでアイコンタクトを習得したのか?

「ふふ。いこうっ、トーマ」

 いたずらが成功したかのような笑みを浮かべると、彼女は俺の手を握った。

 やはりこの人は、底が知れない。
 
 己の強さにつながるものを瞬時に理解し、己のものにする。一秒前は自分が優位にあったはずなのに、一秒後には抜かれている。

 これが、セツナがプロゲーマーとして恐れられている所以か。

 つくづく味方でよかったと思う。

”それじゃあ、お願いします。”

”頼んます、マスター、さん。”

「っ!」

”任せろ。”

 二人から情報が送られてきて、またマスターさんが困惑してしまった。

 だがすぐに持ち直し、力強い一言を伝えてくれる。

 アイコンタクトで。

 彼もまた、天性のゲームセンスの持ち主だな。

「ギャッラララララアアアッッ!!!」

 忘れ去られた伏兵は顎が外れんばかりに口を開けてもう一度叫び、自らの存在を主張した。

「来いっ!」

 対するマスターさんは、すぐさま立ち上がって臨戦態勢を取る。

「まだ聞こえづらいけど、だいじょうぶっ」

「あと一息だ」

 あの『ゴブリン・サクラ』は任せます。

 俺とセツナは一人と一匹を迂回するように走り出し、目と鼻の先の距離にある暗い森を目指したのだった。
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