VRMMO【Original Skill Online】

LostAngel

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第四十四話

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【第四十四話】

『おはよう諸君!調子はいかがかな?私は株式会社「チェリーアプリ」社長兼代表取締役の、白峰桜だ』

「この配信も随分と久しぶりだな」

「そうか?イベントの前後で半月に一回は聞くし、そうでもないだろ」

「グレープ、意外としっかり聞いてるんだね。ウチはもちろん、聞いてるふりをして後からトーマに説明してもらう!」

「おいハッパ、なにがもちろんだよ。一々説明する俺の身にもなってみろ。ハッパもグレープを見習ってだな…」

「いや、俺も聞き流してるぞ。長いし、真剣に見てるのは画面の白峰社長だけだ。キレイ系でかっこいいじゃんか!」

「あっ…」

「お前にはニヒルがいるだろ…」

「ニヒルちゃんは別だ!女の子には色々タイプがあるだろ!」

「……」

「……」

 そ、そうか。

 俺はこれ以上の会話は不毛と判断し、手元のウインドウに表示されている画面に視線を戻した。

 熾烈を極めた人ゴブ戦争が終わってから、数日後。

 朝早くに俺の家に集合した俺、グレープとハッパの『OSOソロ連合』は、その他大勢のプレイヤーとともに白峰社長の配信に聞き入っていた。

『さて、今月初めから昨日まで行われた第二回イベント「サクラ個体とサクラジェムで春満開!」は、現在OSOを遊んでくれている諸君らの大多数が参加してくれた。改めて深く感謝を申し上げたい。ありがとう!!』

 メニュー画面の枠の中の社長がそう言うと、深々と頭を下げてお辞儀をした。

 この人はこういうところが律儀だ。ゲーム開発者としては珍しい人格者で、会社の舵を取る経営者でもある。

 きっと、俺たちが知る以上によくできた人なんだろう。

「それにしても、トーマのマイハウスは広いな。こんなに人がいるのに、まだまだ入りそうだ」

「その代わり、突出した機能はないけどな」

「確かに。遊び心が全くない。殺風景。効率を追求した、寝るのとストレージボックスのためだけの家だね」

「おい、そこまで言わなくていいだろ」

 Yが珍しく褒めたと思ったら、ニヒルが珍しく毒を吐いてきた。

 まあ、あの件は俺にも責任がある…。

 なんてことは全くないので、完全に彼または彼女の逆恨みだ。

「過ぎたことでいつまでも腐ってるな、ニヒル。すでに俺とノーフェイスが罰を受けただろう」

「それはそれ、これはこれだよマディウス。あの日、きみがいなかったせいで、あいつにやられて全滅したんだからね」

「それは、お前たちの力量不足だろう。俺に非がないのに噛みついてこられても困る」

「…マディウス?替え玉まで用意してサボった人が言っていいセリフじゃないよね?」

「何度言えば分かる。その名で呼ぶのはやめろ」

「それこそ、マディウスの態度次第なんだけど?」

「は?」

「ん?」

 このように、ニヒルと『魔王』はいつにもまして言い争うようになった。

 原因は言わずもがな。

 『魔王』が人ゴブ戦争に飛び入り参加するため、以前から決まっていたニヒルとの狩りの約束を蹴ったからだ。

 これのなにがあくどいかと言うと、発覚を少しでも遅らせるために替え玉を用意していた。

 しかも、騙される側だったニヒルのクランに所属するノーフェイスを使ってのことだから、余計に質が悪い。

 結局、その日約束していたニヒルとグレープは替え玉に気づかないまま、北の鉱山にある坑道のフィールドに入った。

 そして、強敵の『サクラ個体』と出会っていざ戦闘というときに、ノーフェイスがいつまで経ってもスキルを使おうとしないので発覚に至った。

 彼のスキル【百面相】は指定した人物の容姿をコピーするものだが、コピーしたプレイヤーのスキルを使うことはできないという欠点がある。

 また、ニヒルが言う『あいつ』とはある『サクラ個体』のことで、彼または彼女いわく、本物の『魔王』がいたら倒せたかもしれない相手だったとか。

 なので、肝心なときにいなかった彼をちくちくと責めているわけだ。 

「勘弁してくれ…」

 さらに、ニヒルは俺にも非があると暴論を展開して、ストレス発散を図っている。

 なんでナイフがかわされるからって、俺が代わりにリスキルされなくちゃいけないんだよ。『魔王』は大人しく罰を受けろ。

 俺としては飛び火でしかないが、暗殺者である彼または彼女の魔手から逃れることはできない。

 イベントが終わったら俺、『魔王』、ノーフェイスの三人は鉱山に駆り出されることが勝手に決まったので、詳しくはそのときにでも話そう。

『前置きが長すぎたな。本題に移ろう。ただ今から、第二回イベント「サクラ個体とサクラジェムで春満開!」の「サクラジェム」取得数に応じたランキングを発表するっ!』

 さて、いよいよか。

 俺は周りの喧騒を全て無視し、目の前の画面に集中する。

 余計に口を挟んで、これ以上罰と仕事量が増えるのはごめんだ。

「まあまあ、二人とも落ち着いて。僕たちとしては来てくれて助かったんだから」

「もう、アールは甘いよ。結局、ゴブリンの総大将は倒せなかったんでしょ?」

「それについては知らない。トーマが生み出した魔物と相打ちになったからな」

「俺も、森で奇襲してきた『ゴブリン・サクラ』は倒せたが、引き返してきたゴブリンどもに不覚を取ったから分からん」

「聞きたいな。『ゴブリン・キング』って、一体どんな相手だったの?」

 『魔王』とニヒルの口論にアールとマスターさんが参加し、なぜか俺の方に矛先を向けてくる。

 まずい。

 微妙に答えづらい話を振られた。

「どんなって、単純にゴブリンの究極系だったな」

「だね。スキルは使ってこなかったけど、ゴリゴリのパワー系って感じ」

「っ!」

 急に後ろから声が聞こえ、俺は心臓が飛び出そうになる。

『といっても、私の口から言うことはないがな。ランキングの結果は、今この瞬間から公式サイトで確認できる。サクラジェムを一個でも持っていればランキングに乗る仕様になっているので、ぜひチェックしてみてくれ』

「セツナ!?どうしてここに?」

 俺は社長の説明もほどほどに、さっきまでいなかったはずのセツナに聞き返す。

「いやあ、トーマの家は有名だよ?攻略Wikiに住所が載ってるし、私が不法侵入するのもわけないよ」

「それについては、もう諦めてるからいい。…なぜ今日、このタイミングで来た?」

 セツナがはぐらかそうとするので、俺は分かりやすく言い換えて詰め寄る。

 彼女は爆弾だ。なにせ、ゴブリン領に海があるのを知っているのは、【カオスメーカー】の面々を除けばセツナしかいないから。

 もし他のプレイヤーがいるこの状況で口を滑らそうものなら、潜在的な経済的損失は計り切れないぞ。

「いいんかい。…まあとにかくさ。いい、トーマ?」

「どうした?」

「近う寄れってこと。それともなに?あのこと、バラされてもいいんか?」

 意味ありげに手招きするセツナにすっとぼけてみるが、脅された。
 
 俺に拒否権はないので、素直に従おう。

「なあ、あのことってなんだ?」

「聞くな」

 手のひらを前に出して勘の良いグレープを黙らせ、俺は座ったままセツナの近くに寄る。

 今俺たちは、各々和室と洋室で適当に集まって話し合ったり、だらけたりしている。

 自分の家よろしく、洋室で椅子に座ってくつろいでるのもいるが、ほとんどが畳の上で喋りながら白峰社長の配信を聞いている。

『それと、「サクラジェム」と限定アイテムを交換できる窓口も設置しておいた。こちらもランキング同様、OSOのメニュー画面からでもアクセスできるから、ぜひ確かめてみてくれ』

「で、なにが言いたい?」

「トーマさあ、あのとき逃げたっしょ?」

「…あのとき、とは?」

「ちっ」

 分かりやすくとぼける俺に、セツナは我慢の限界のようだ。

 軽く舌打ちし、俺の襟首をつかんで引っ張ってきた。

「あのさ、今更しらばっくれられんの?」

「だから、なにを言っているのか…」

「あのとき、『ゴブリン・キング』から逃げたよね?分かってるんだよ?」

「……」

 ドスを利かせてきたセツナに対し、俺はあからさまに黙秘を貫く。

 どうやら、俺が敵前逃亡をしたことに気づいているようだ。

 しかし、この様子だと確信がない。直接俺の姿を見てないからだろうな。

 あのとき、俺と同じく『ゴブリン・キング』の蹴りを食らって吹き飛んだセツナは、断定できるほどではないが俺が逃げたことを疑っている。

 だからこうして、二昔前くらいのヤンキーのように脅しを利かせてきた。

 俺が自白することを狙って。

『私から伝えることはこれで以上だが、せっかくこうして配信枠を取ったんだ。なにもせずに終わるのはもったいない』

「私の声の反響具合で分かったけど、トーマは近くにいたでしょ?しかも、勢いよくドアを閉めた風圧も感じ取れたから、トーマがデスした可能性はない」

「だが、逃げた俺の姿を直接見たわけじゃない」

「それは…、そうだけど」

 当たり。やはり虚勢を張っていたんだな。

 それにしても、声の反響とか風圧を感じ取れたとか、感覚の鋭さが桁違いだ。

 リアルならそういうことができる達人がいるのも納得できるが、ここはOSO。ゲームの中だぞ?

 スキルもなしにそんなことができるプレイヤーは、セツナ以外にいないのでは?

「近くに裏口のドアがあったし、セツナが疑う気持ちも分かる。でも、俺は敵前逃亡なんてしていない。誓ってもいい」

「……」

 とぼけるのをやめて、俺はセツナを丸め込む作戦にシフトした。
 
 少し前に説明したはずだが、彼女は海の重要性を理解しきれていない。だから、彼女は俺と協力して『ゴブリン・キング』を倒す考えを改められなかった。

 よって、ここで俺が敵前逃亡したことを認めてしまうと、彼女との信頼関係が途切れてしまう。今更、あれが意味があっての行動だったと理解してもらうことは不可能に近いからな。

 そのため、この場を乗り切り、かつセツナの信頼関係を維持し続けるためには懐柔が手っ取り早いと判断する。

『ということでこれから、「サクラジェム」の取得数が多かったプレイヤーをランキング形式で発表したいと思う』

「キングの蹴りがいいとこに入ってな。脳震とうの状態異常にかかってまともに動けなかったから、自刃したんだ。立つこともできなかったから囮にもならないし、倒れたままだとセツナの注意が散漫になるだろうと思って、裏口から出た」

「…そうだったの?」

「ああ。こればっかりは俺のせいだ。誤解させてしまったし、一撃で戦闘不能になってすまないと思ってる」

「いや…、それならしょうがなし。私も変に疑ってごめんね」

「大丈夫だ」

 俺が話を繕って披露すると、セツナの怒りがふっと収まり、代わりに申し訳なさそうな雰囲気を纏う。

 よし、これでもう大丈夫だろう。

 山場を乗り越えられたし、今日は死なずに済みそうだな。

 人を丸め込むには、虚実の織り交ぜと押し引きが大切だ。

 自刃したのは嘘八百だが、蹴りがクリティカルヒットして脳震とうになったのは紛れもない事実。

 百パーセントの虚言を吐くと見破られやすいが、実を混ぜて虚の純度を薄めれば、話の強度も上がるというもの。

 あとは、適当な頃合いに下手に出て謝るのも有効だろう。

 大抵の人は、虚勢を張ることを威圧的になることと同義と考えている。

 なので、ペコペコ謝る人が堂々と嘘をついているとは思わない。よほど疑い深い相手じゃなきゃな。

『早速、10位から発表していくぞ。第10位!クラン【アルファベット】のサブマスター、Y!サクラジェム取得個数、125個!』

「Y、すごいじゃん!」

「おめでとう、Y」

「照れるな。ありがとう、皆」

「クランマスターとしても鼻が高いな。よく頑張った」

「なんて言ってるが、ほとんどZが集めたものだろ」

「じゃあ、【アルファベット】皆の手柄だな」

「違いない。KもIもLも頑張ってくれたし、俺たち全員の功績だ」

 10位として発表されたYが、周りの人たちから賞賛されている。

 彼が表彰されるのも今回くらいだろう。せいぜい喜んでおくといい。

 ああ、YがZや他のクランメンバーの分まで『サクラジェム』を所有していたのは、クラン内の一人のランキングを少しでも上げるためだ。

 このランキングの仕様は、至極単純なものとなっている。

 一言で言うと、イベント終了時刻の瞬間に一人一人が持っていた『サクラジェム』の量で順位が決定する。 

 そう。

 この仕様のため、クランに属する者は協力してジェムを一人のプレイヤーに集約してしまえば、他のメンバーを犠牲に、その一人の所有数を格段にアップさせられる。

 つまりこのランキングは、プレイヤーが『サクラジェム』を獲得し、奪い合う個人戦であると同時に、クランに入っている人が圧倒的有利なチーム戦でもあったということだ。

「終わったか?」

「ああ。一件落着ということで、セツナも一緒に配信を見ないか?」

「うん、いいよ」

 話が落ち着いた頃合いを見計らって、マスターさんが俺とセツナの話に入ってきた。

 もしかしたら彼には俺の嘘が悟られているかもしれないが、問題ない。

 マスターさんとは一つ目の森に入るときに別れたから、詳しい事情は知る由もないはず。

『共に戦った仲間たちは、ぜひ称えてやってほしい。…続いて、第9位の発表だ。第9位!クラン無所属のハッパ!サクラジェム取得個数、137個!』

「しぇーいっ!だいしょうりっ!」

 自分の名が呼ばれると同時に、ハッパが立ち上がって決めポーズを取る。

「やるなあ、ハッパ!」

「おめでとう、ハッパちゃん!」

「ゴブリンとの戦いでも頑張ってたし、納得のランクインだね」

 そんな彼女に、グレープやロボーグ、アールが惜しみない賞賛を送った。

 ちなみに『しぇーいっ!』というのは、『よっしゃあ、いぇーいっ!』がなまって出た言葉だ。深い意味はない。

「彼女が、ハッパちゃんでいいん?」

「ああ。【爆発魔法】のスキルを持つ、さいきょうのプレイヤーだ」

「森の手前で、俺が不意打ちを食らったのが【爆発魔法】だな。ただ、あのときはゴブリンが『スキルジェム・【爆発魔法】』を服用していたから、コピーされたスキルだが」

「へえ、あれが…。しっかしトーマが最強って言い切るなんて、よっぽど強いんだねあの子」

「いや、さいきょうはさいきょうでも、最凶の方だ」

「…あ、そういう?」

「セツナも気をつけろ。あれは人の心が欠落したモンスターだ」

「大丈夫。うちのチームはそういうやつらばっかだし、扱いには慣れてる」

 俺とセツナは、当人たちに聞こえていないのをいいことに好き勝手に言い合う。

 ハッパは、脳のリミッターが外れたプレイヤーの一人。

 彼女の元来の性格なのか、それとも【爆発魔法】の性質がそうさせたのかは定かではないが、とにかく攻撃的で好戦的。

 味方も構わずスキルをぶっ放し、動くもの全てを排除しにかかる凶悪な魔法使いとして暴れている。

 先日の人ゴブ戦争で活躍したみたいだが、俺は彼女に対する評価を変えるつもりはない。

 イベントが終わった今、ユルルンマーケットの自警団長を再開すると言っていたし、正義の名の下に大量殺人を繰り返す日も近い。

 そう、俺は見ている。

『お祝いは終わったか?それでは、第8位の発表だ。第8位!クラン【文明開花】のアカネ!サクラジェム取得個数、185個!』
 
「よしっ!」

 普段感情を表に出さないアカネが、珍しくガッツポーズをして喜ぶ。

「よくやったな、おめでとう」

「おめでとうございます、アカネさん!」

 近くに座っていたガイアとシャボンも、拍手を送って彼女を祝福した。

 アカネは、先の人ゴブ戦争でかなりの活躍を果たしたという。

 特に、Dと呼ばれるプレイヤーが放ったアリの魔物どもから生還できたのが大きい。

 なにせ、デスすると所持アイテムを全て失ってしまう。

 さらに乱戦になりがちなゴブリンとの戦闘では、得たアイテムは分け合わず、全てその人のものになるというルールがある。

 以上の仕様とプレイヤー間の取り決めのおかげで、死なずに『サクラジェムの欠片』を持ち帰ったことがランキングの上昇に貢献したんだろう。

 もちろん、【文明開花】も他のメンバーのジェムも集約していたはずだし、アカネ以外の活躍も大きい。

『まだまだいくぞ。次に、第7位の発表だ。第7位!クラン【強奪&鏖殺】のグリッド!サクラジェム取得個数、192個!』

 続いて呼ばれたのは、ここにいないプレイヤー、しかもプレイヤーキラーの名だった。

「……」

「……」

「……」

 さっきまでの活気が嘘のように、辺りは静寂に包まれる。

 けど、これが普通の反応だと言えよう。

 10位から8位までがこの場にいたのがおかしかったんだよ。

「おうさつ?」

「みなごろしを意味する『おう』という字を使った、鏖殺という言葉だ」

「う~ん?そんな熟語あるんだ?」

「まあ、中二病用語だな。必死に考えたんだろう」

「あ、そういう…」

 恐らく初めて『鏖殺』という単語を聞いたセツナに、俺は簡単に説明する。

 【強奪&鏖殺】は、主に『始まりの街』やユルルン付近で活動しており、初心者を狙ってPKをする半端なプレイヤーの集まりだ。

 よっぽどの初心者でなければ、カモになることはほとんどないと言ってもいい。
 
 当のグリッドたちも、人の命を狙うくせに堂々と名乗りを上げたり、粘着やリスキルといった害悪な手を使わないといったモットーを掲げていることもあり、プレイヤーたちからヘイトを買われることも少ない。

 つまりPKクランでありながら、そんなに有名ではない。

 なので、最近始めたセツナも知らないのも無理はない。

 ちなみにグリッドが第7位という順位なのは、俺が考案した『ゾンビ燃焼式サクラジェムマラソン』のおかげだろう。

 あいつら、俺を利用するだけ利用しておいて切り捨てるとは。

 そこも正々堂々としておけよ。

『…スタッフがうるさいから巻きでいくぞ。第6位!クラン【暗殺稼業】のニヒル!サクラジェム取得個数、235個!』

「お、おお…。呼ばれると嬉しいね」

「ニヒルちゃん、坑道でもあまり死んでなかったもんな!」

「というか、ほとんどお前を盾にしてたような気がするが…」

「そ、そんなことはないよ?グレープが前衛だったからだよ?」

「取り繕うのはよせ。卑怯者が」

「え?いつも召喚した魔物を捨て駒みたいに扱ってるマディウスが言う?」

「は?」

「ん?」

 照れたニヒルにグレープと『魔王』が茶々を入れると、また険悪な雰囲気になった。

 何回同じことやるんだよ。

 よくこんなチームでパーティプレイが成り立ってたな。

「『魔王』落ち着けって!『魔王』が魔物を弾避けにしてたのは事実だろ!?それにニヒルちゃんは、危なくなったら一目散に逃げて命を繋いでくれたんだよ!」

「…お前、口が達者になったな」

「なぜだろう、擁護してくれてるはずなのに心が痛いよ…」

 グレープも成長したな。

 どうやら『魔王』とニヒルとの攻略を活かし、無自覚に二人の精神を抉る話術を身につけたようだ。

『次、第5位!クラン【聖女の奇跡】のレイナ!サクラジェム取得個数、289個!』

「レイナか。納得の順位だ」

「彼女は欲の皮が突っ張った人だからね。食い込んでくるとは思ったけど、まさか5位とは…」

 5位の発表に、マスターさんとアールが反応する。

 レイナというプレイヤーは、βテストで名を馳せた【勇者パーティ】の一員だ。

 彼女のスキルは、【等しく差し伸べられる救いの手】という。魔法系のスキルであり、プレイヤー、NPC、魔物問わず、全ての生物の傷を癒すことができる。

 このスキルは他者を回復する最上位の手段として知られており、ほぼノーコストで発動する【自己再生】はもちろん、現在開発途上のポーション類よりも回復の時間効率が良い。

 それだけでなく、このスキルは他者を蘇生することも可能らしい。まさに奇跡だ。

 ただし、制約も多い。

 まず、このスキルを所有しているプレイヤーは殺生行為が禁じられる。分かりやすく言うと、魔物の命を奪ったり、PKをすることができない。
 
 いわば、『戒律』だな。

 無理やり禁を破ることはできるが、大きな代償が伴う。【等しく差し伸べられる救いの手】の場合は、一定期間のスキル使用不能状態の付与だ。

 話が長くなったな。

 要するに、マスターさんとアールはレイナの顔馴染みであるため、その人となりをよく知っている。

「そんなにすごいのか?噂程度には知っているが」

「なんと言えばいいか分からないが、現金なやつ、と言えばいいのか?」

「トーマとは気が合うんじゃないかな。ある意味、たがが外れてるから」

 どうやらレイナは、俺のようなろくでなしのようだ。

 彼女がクランマスターを務める【聖女の奇跡】というクランは、回復と支援が行えるスキルを持つプレイヤーのみで構成されている。

 そして性質上、数多のパーティにメンバーを派遣して攻略の手伝いをしているそう。

 それならば、秘密主義のプレイヤーが多い『フロンティア』を拠点にしているとはいえ、俺の耳にも多少なりとも情報が入ってくるはずだが、少なくともOSO内では彼女の名を聞いたことがなかった。

 恐らく意図的に情報を開示しないようにしているか、関係者たちに多大な貢献をしているために大規模な緘口令を敷くことができている。

 これは、かなりのやり手の可能性が高いな。

「ま、いずれ会うことになるか」

「え?トーマもついに『フロンティア』でガンガン攻略するのかい?」

「いいや。どうせこの先、イベントで会うだろ」

「ああ、なるほど」

 思わせぶりなことを言う俺にアールが食いついてきたが、きちんと訂正しておく。

 攻略最前線のフィールドを意味する、『フロンティア』の難易度は異次元だ。

 未知のフィールド、未知のダンジョン、未知の魔物、それに未知の街や未知の種族。自分たちが持つ限られた力を駆使し、これら全ての未知に対応しなければならない。

 しかしそのためには、最低でも四人一組のパーティ、欲を言えばクラン単位でプレイヤーが集まらないと厳しい。

 もちろん、そんな中でもソロで活動する絶対的強者もいることにはいるが、少数派だ。

『さ、次は4位の発表だ!第4位!クラン【ランキング】のナナ!サクラジェム取得個数、302個!』

「あいつめ…」

 リスキルの思い出がよみがえり、俺は苦い顔をする。

 恐らく、やつが手に入れた『サクラジェム』の大部分が、俺と一緒に様々なクランから盗み出した盗品だ。

 それは間違いない。

 あれが手の内にあれば俺もこの順位にたどり着けたのかと思うと、歯がゆさしかない。

 次に機会があれば、ファーストともども汚名を着せてやるからな。

『いよいよトップスリー!第3位!クラン【魔王軍】のマディウス!サクラジェム取得個数、489個!』

「…これで3位、だと?」

「ぷっ」

「あんなに自信満々だったのにねえ、マディウス!…ぷぷっ」

「お前ら、表に出ろ」

 ここぞとばかりに散々バカにするグレープとニヒルに、『魔王』がキレた。
 
「俺はただ、笑いがこらえきれなかっただけだ!ニヒルちゃんのように重箱の隅をつついてないぞ!」

「最期の言葉はそれでいいか?」

「あれ?…なんだか私も体を動かしたくなってきたかも」

 さらっと傷口に塩を塗るグレープ。

 悪意がなさそうで悪意しかない言葉に、ニヒルもカチンときたようだ。

「三人とも、やるなら外でやってくれ。今日ばかりは他の人にも迷惑だ」

 腰を浮かせた三人に向かって、俺は語気を強めて言う。

 普段はどうでもいいが、この場には配信を聞きたいプレイヤーが集まっている。

 二度あることは三度あるが、トーマの顔も三度まで、ではない。

「大丈夫だって、分かってる!どうせ結果は後で見れるし、ニヒルちゃん、『魔王』、行こうぜ!」

「お前、これから自分がなにをされるか分かってないのか?」

「マディウス、無駄だよ。彼は素でやってるから」

「…そうだな。そういうやつだった」

 小芝居は唐突に終わった。

 喧嘩を売られていることに素で分かっていないグレープに、『魔王』とニヒルは降参して元の場所に座り直す。

「なんだ、いいのか?」

 それを見て、未だ意味不明という風なグレープも再び腰を下ろす。

 今回も、グレープの勝ちか。

『クライマックスが近づいてきたな!第2位!クラン【繁栄の礎】のヴァーミリオン!サクラジェム取得個数、556個!』

 これも、順当の結果だな。

 大方、スキル【軍需産業】で生み出した物品を売買して荒稼ぎしたんだろう。

 俺が考案した『ゾンビ燃焼式サクラジェムマラソン』の成果も合わせて、上位に入賞するほどの量を確保できたのも納得だ。いくら『サクラ個体』であろうと、銃火器の前では無力に近い。

 だが、所詮2位止まり。【繁栄の礎】のやつらは完全に慢心した。

 これだけ用意すれば1位を取れるだろうと高をくくってしまったが故に、敗北した。

 用済みになった俺を平気で切り捨てたことといい、どこまでも詰めが甘いな。

『ラスト!第1位!サクラジェム取得個数、777個!多くのプレイヤーの中から1位をもぎ取ったプレイヤーの名は…』

 だから、ナナもマディウスも、ヴァーミリオンも…。

 俺に負けるんだよ。

『…トーマ!クラン未所属の、トーマだあああああっっ!!!』

「……」

 にいいっ。

 名を呼ばれると同時に俺は、ほうれい線に跡が残るくらいに深く、邪悪な笑みを浮かべた。
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