22 / 103
第2章 港湾都市
22話 無駄な買い物
しおりを挟む
「レーテ、僕は相当額を君に渡しはしたが、なんでこんなに減ってるんだ? 何に使った?」
「ゴーヴァンの購入と、ここまでの旅支度と道中の旅費」
「だとしても使いすぎだ。たかだか奴隷一人買うのにどれだけ使ったんだ、君は!」
たかだかだ?
「私の条件に合うのがこの、ゴーヴァンしかいなかったんだ。仕方ないだろう」
「仕方ないわけあるか! この出費額、相場の十倍以上は払ってるぞ。金銭感覚がないのは分かってはいたが、酷すぎる! どう見ても、その男にそれだけの価値などないだろうが」
価値がないだ?
「オイ、テメエ。人のこと物みたいに言ってんじゃねえぞ」
「奴隷は商品だ物だ。大体なんだ、口答えのようなことを口にして。奴隷印の効果が薄いのか? だとしたら、あの街で雇っている魔術師の程度が知れるというものだな。ただでさえ品質不良の奴隷なんて商材を扱っておきながら、こんな不良品を相場の十倍? 商売を舐めてるのか」
「オレぁ物じゃねえ! ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!」
「止めておきな、ゴーヴァン。レオナルドは口が悪いんだ、腹を立てていたら気が持たないさね」
立ち上がりそうになったオレに、レーテの手が塞ぐ。
「レオナルド、分かっているだろう。私の条件に合うヒトを探すのは難しいんだ」
「ならレーテ、君も僕が無駄な出費と買い物が嫌いなのは知っているだろう」
「ああ、そのせいで親戚中に敵を作ってることもね」
オレが甘くしすぎた薬湯をレーテが一口飲む。
「レオナルドに仕える騎士たちの中には、条件に合うものもいるかも知れない。けれど」
「吸血鬼の食事になれ、だなどと言えたものではないからな。変に話が広がれば教導会が五月蝿そうだ」
「教導会とは過去に問題を起こしたことがあるからね。また面倒になるのは避けたいのさね」
男が大きなため息を一つ吐く。
「だからって相場の十倍は……そいつを一体どこでどういう経緯で買ったんだ」
「反抗的で良いから強い者を、ということで闘技場で戦っていたゴーヴァンを紹介されたんだよ」
「闘技場? 剣闘奴で青い鱗の竜種……まさか、噂に聞いた狂竜を買ったのか?」
二人の視線がオレに集まる。
「知らねえよ、何だその狂竜ってのは?」
「そう言えば、ゴーヴァンのことをそう呼んだ輩がいたような」
「はは、あーはっはっはっは! そうかそうか、連中やっぱり失敗していたか。いい気味だ!」
何だコイツ、急に笑いだして。
「いいじゃないかレーテ、これは相場の十倍の価値はある。だから僕は常々言ってたんだ、鞭だけで縛ることなんて無理だと。飴も与えなければ意味がないってね」
「なあコイツ大丈夫か」
「レオナルドはいつもこうだから、気にすることはないさね。しかし、そんなに面白い話をした気はないんだがね」
男は大きく首を横に振ると、オレを指差すし、低い笑いを漏らしながら口を開く。
「連中が鞭だけで仕上げようとした結果がコレだ。隷属印で隷属意識を高めるにも限度がある。なら飴で縛り付けて鞭で修正すれば良いものを、あの街の連中、鞭を振るうしか能がない。それで自分達が噛みつかれてたんだ、これ以上に笑えることはないとも」
「そう言えば、あの街とこの街は仲違いしているんだったけね」
「仲違いと言うより、僕が、商品を独占されていることが我慢できないんだよ。しかしレーテの今回の買い物のお陰で、次の定例商会議で僕の案を通しやすくなった」
「レオナルドが納得してくれたのなら、それで良かったさね」
「ああ、無駄な買い物じゃなかった。それが分かったから十分だ」
「オレのことを物みたいに言うんじゃねえ」
なんなんだコイツは本当に! オレのことを物か何かだとでも思ってんのか。
オレのことを買った奴らみたいに、殴ってでもやったほうが良いやつかコレ?
「ゴーヴァン、レオナルドは口が悪いと言っただろう。腹を立てるだけ損というものさね」
「しばらくこの街にいるのだろう。いつものように僕の屋敷に来ると良い、連絡はしておく」
男は一呼吸つくと、レーテを見る。
「で、他に僕に知らせることはあるのかい?」
「ゴーヴァンの胸の印を消せる魔術師を消化して欲しいんだがね」
「魔術師を紹介、か」
猫種の男のヒゲが何回か動く。
「隷属印の解呪なんてしてどうする。奴隷を買ったんだ、その印はあって然るべきだと思うが」
「そういう約束、でね。ゴーヴァンを自由にするのが、私の当面のやることなのさね」
お、ちゃんと覚えてんのなコイツ。
男の方はふうんと、特に関心なさげな返事を返す。
「君がそうしたいならそうすれば良い。まあ学術都市へ行く前に、この街の魔術協会に依頼を出しておく。それでいいかな」
「おお! さっさと消せるんなら消してくれ!」
「おや、この街で済むのかね」
「僕は魔術師の技云々はわからないから、やれるかどうかはわからんがね。まあ駄目だったら駄目で、学術都市の知人宛の紹介状を書くさ」
男が立ち上がり、机の方へ戻っていく。
「さて僕は仕事に戻るとしよう。四方山話は夕食のときにでもお願いするよ」
「ゴーヴァンの購入と、ここまでの旅支度と道中の旅費」
「だとしても使いすぎだ。たかだか奴隷一人買うのにどれだけ使ったんだ、君は!」
たかだかだ?
「私の条件に合うのがこの、ゴーヴァンしかいなかったんだ。仕方ないだろう」
「仕方ないわけあるか! この出費額、相場の十倍以上は払ってるぞ。金銭感覚がないのは分かってはいたが、酷すぎる! どう見ても、その男にそれだけの価値などないだろうが」
価値がないだ?
「オイ、テメエ。人のこと物みたいに言ってんじゃねえぞ」
「奴隷は商品だ物だ。大体なんだ、口答えのようなことを口にして。奴隷印の効果が薄いのか? だとしたら、あの街で雇っている魔術師の程度が知れるというものだな。ただでさえ品質不良の奴隷なんて商材を扱っておきながら、こんな不良品を相場の十倍? 商売を舐めてるのか」
「オレぁ物じゃねえ! ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!」
「止めておきな、ゴーヴァン。レオナルドは口が悪いんだ、腹を立てていたら気が持たないさね」
立ち上がりそうになったオレに、レーテの手が塞ぐ。
「レオナルド、分かっているだろう。私の条件に合うヒトを探すのは難しいんだ」
「ならレーテ、君も僕が無駄な出費と買い物が嫌いなのは知っているだろう」
「ああ、そのせいで親戚中に敵を作ってることもね」
オレが甘くしすぎた薬湯をレーテが一口飲む。
「レオナルドに仕える騎士たちの中には、条件に合うものもいるかも知れない。けれど」
「吸血鬼の食事になれ、だなどと言えたものではないからな。変に話が広がれば教導会が五月蝿そうだ」
「教導会とは過去に問題を起こしたことがあるからね。また面倒になるのは避けたいのさね」
男が大きなため息を一つ吐く。
「だからって相場の十倍は……そいつを一体どこでどういう経緯で買ったんだ」
「反抗的で良いから強い者を、ということで闘技場で戦っていたゴーヴァンを紹介されたんだよ」
「闘技場? 剣闘奴で青い鱗の竜種……まさか、噂に聞いた狂竜を買ったのか?」
二人の視線がオレに集まる。
「知らねえよ、何だその狂竜ってのは?」
「そう言えば、ゴーヴァンのことをそう呼んだ輩がいたような」
「はは、あーはっはっはっは! そうかそうか、連中やっぱり失敗していたか。いい気味だ!」
何だコイツ、急に笑いだして。
「いいじゃないかレーテ、これは相場の十倍の価値はある。だから僕は常々言ってたんだ、鞭だけで縛ることなんて無理だと。飴も与えなければ意味がないってね」
「なあコイツ大丈夫か」
「レオナルドはいつもこうだから、気にすることはないさね。しかし、そんなに面白い話をした気はないんだがね」
男は大きく首を横に振ると、オレを指差すし、低い笑いを漏らしながら口を開く。
「連中が鞭だけで仕上げようとした結果がコレだ。隷属印で隷属意識を高めるにも限度がある。なら飴で縛り付けて鞭で修正すれば良いものを、あの街の連中、鞭を振るうしか能がない。それで自分達が噛みつかれてたんだ、これ以上に笑えることはないとも」
「そう言えば、あの街とこの街は仲違いしているんだったけね」
「仲違いと言うより、僕が、商品を独占されていることが我慢できないんだよ。しかしレーテの今回の買い物のお陰で、次の定例商会議で僕の案を通しやすくなった」
「レオナルドが納得してくれたのなら、それで良かったさね」
「ああ、無駄な買い物じゃなかった。それが分かったから十分だ」
「オレのことを物みたいに言うんじゃねえ」
なんなんだコイツは本当に! オレのことを物か何かだとでも思ってんのか。
オレのことを買った奴らみたいに、殴ってでもやったほうが良いやつかコレ?
「ゴーヴァン、レオナルドは口が悪いと言っただろう。腹を立てるだけ損というものさね」
「しばらくこの街にいるのだろう。いつものように僕の屋敷に来ると良い、連絡はしておく」
男は一呼吸つくと、レーテを見る。
「で、他に僕に知らせることはあるのかい?」
「ゴーヴァンの胸の印を消せる魔術師を消化して欲しいんだがね」
「魔術師を紹介、か」
猫種の男のヒゲが何回か動く。
「隷属印の解呪なんてしてどうする。奴隷を買ったんだ、その印はあって然るべきだと思うが」
「そういう約束、でね。ゴーヴァンを自由にするのが、私の当面のやることなのさね」
お、ちゃんと覚えてんのなコイツ。
男の方はふうんと、特に関心なさげな返事を返す。
「君がそうしたいならそうすれば良い。まあ学術都市へ行く前に、この街の魔術協会に依頼を出しておく。それでいいかな」
「おお! さっさと消せるんなら消してくれ!」
「おや、この街で済むのかね」
「僕は魔術師の技云々はわからないから、やれるかどうかはわからんがね。まあ駄目だったら駄目で、学術都市の知人宛の紹介状を書くさ」
男が立ち上がり、机の方へ戻っていく。
「さて僕は仕事に戻るとしよう。四方山話は夕食のときにでもお願いするよ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる