その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

文字の大きさ
45 / 103
第3章 学術都市

45話 地図

しおりを挟む
 ダネルと闘った後、うーうー言い続けるコイツを抱えて、医務室とか言うところまで連れて行ってやった。
 連れて行ったら医者に、やりすぎだとか言われて、なんか、オレだけ怒られた。
 やりすぎって言われても、オレは一発しか殴ってねえぞ?
 医者にダネルを預けて、帰る時だった。
「胸の印、消してくれてありがとな。次会う時は、もういっぺん闘うぞ、いいな」
「泣かせる……次あったら泣いて負けましたって……言わせてやる」
 おうおう、いい根性じゃねえか。
「いいぜ、いつだってやってやるよ!」
 拳をダネルの方へ突き出す。まあ何だ、それなりに楽しかったからな。また闘ってやってもいいかな、くらいには思ってる。何より、オレの方が強いってとこ、ちゃんと見せてやってねえしな。
 そしてオレたちは今、街の中を意味もなく歩き回ってる。
「さて、どうしたもんだろうな」
 とりあえす地図ってもんがあれば、ダネルのヤツが村までの帰り方は教えてくれるって言うし、売ってる店でも探してみるか。
「レーテ、地図屋ってのがどれかわかるか?」
「地図屋かい……ああ、そこの道の角にある店がそうだね」
 お、すぐに見つかったな。
「なあ、見てみたいんだけど入っていいよな」
「オッサンが故郷に帰るのに必要なんだろ。行こうぜ」
 道を行く人の流れをかき分けて、オレとカルロは地図屋へ小走りで向かう。
 地図屋の店先が見えてくると、妙なものを売ってる店だな、と思った。
 皮を薄く広くなめしたヤツや乾いた感じの薄い大きな布のニセモノみたいなヤツを、筒型に丸めて何本も木箱の中に立てたり、棚の上に積んである。店の壁には丸めたヤツを広げたんだろう、何か絵や模様が描かれていて、オレには何が何のかさっぱりわからないものばかり並んでいた。
「いらっしゃい、どこの地図を探してるんだい?」
 店の奥で本というやつを開いていた店主らしい男が、こちらに声をかけてきた。
「なあアンタ、青い鱗の竜種の村の場所、知らねえか?」
「青い鱗の竜種の村ねえ、うちも長くこの商売やってるけど、青い鱗の竜種なんて見るのはお客さんが初めてだよ」
「マジか、そりゃ」
「ああ、竜種なんて緑しか見たこと無いな。いや、たまにだけど、黒いのは見るな」
 ゲッ、てことは……
「青い竜種の村なんて、聞いたこともないな」
 そうなるよな。
 てことは結局、ダネル頼みか。
 いや待てよ。ダネルのやつは黒の村からどうこうって話もしてなかったか?
「じゃあ、黒い鱗の竜種の村がわかるやつはねえか?」
「黒? それだったら確か、この辺りに」
 男は立ち上がって、棚に押し込まれている丸められたヤツを一つずつ広げていく。
 レーテとカルロは暇なんだろう、広げて飾ってあるヤツを見て何か話し合ってる。
「おお、あった。これだ」
「見せてくれ!」
 皮を広く薄くなめしたそれを店主の手から取り、書かれたものを見る。うん、わからん!
「レーテ、オメェ字読めたよな。これ見てくれねえか」
 店の中を見て回っていたレーテを呼び、目の前に地図とかいうのを広げて見せる。
「黒の村までの行き方、書いてあるか?」
「んー、村の行き方が書いてあると言うよりは、どこにどんな町や村があるか書いてあるね」
 地図の一箇所を指差す。
「ここに黒い竜種の村、って書いてあるね。後は、これは街道の名前、この辺りは山や川の名前かね」
 ぃよっし! ダネルのヤツ、黒の村から青の村に来たって言ってたからな。これがありゃあ、村の場所はわかるな。
「カルロ、金あるよな。これ買おうぜ」
「ちょっと待てって、オッサン。オヤジさん、これっていくら?」
 カルロの値段交渉が始まった。
 これ新品とか、新しく書かれてること正しいのかとか、中古ならもう少しとか、俺とレーテが辺に口を出すと邪魔になるだろう雰囲気で、カルロと店主は話を進めている。
 カルロと店主はしばらく話した後、オレたちにカルロが満面の笑みを向けた。
「売値より、少し安くしてくれるってさ」
「よくやったカルロ!」
 オレは思わずカルロの頭をクシャクシャに撫で回す。
「やめろってオッサン、首が取れる」
 そう言いながら笑うカルロに、オレは少し嬉しい気持ちになる。
 一緒にいるのは短いかも知れないが、それでも、少しでもコイツにはこういう顔をしてもらいたいんだ。
「後はダネルに聞くだけだな」
「ゴーヴァン、ダネルに村の場所を効くときだけどね、最初に謝っておくことだね」
 へ?
「少ぉしばかり、やりすぎたからね。最初に一言謝っておきなね」
「アレのどこがやりすぎだよ。普通はもっとケガしたっておかしくないのに、腹に一発くれただけだぞ」
「ダネルの目が、相当怒ってたからね。やりすぎたって謝らないと、適当なことを教えられるかもしれないね」
 はぁ?!
「迷っても私は困らないけど、ゴーヴァンは困るだろう。そうならないように、ね」


 ダネルがいる学院の医務室に戻り、オレ一人で会うことになった。
 レーテとカルロは部屋の前で待っている。
「……なんだ?」
 ダネルがオレを睨みつけるような顔で見上げてくる。
「あー、うん、なんだ」
 謝れとは言われたものの、いざ謝ろうとすると、なんで謝らなきゃならねえだって気持ちが強くなる。
 村の場所教えるってのは、ダネルのヤツが約束したことだ。
 でもだ、レーテが言ったみたいにヘソ曲げてウソ教えられるのは困る。
「だー、クソっ!」
 ベッドで上体を起こしているダネルの前、床の上に座り込む。両手を握り、ヒザの斜め前について頭をとにかく低く下げる。
 黒がどうかは知らねえが、オレたち青の氏族では頭を下げる時はこうだ。とにかく相手より頭を低く、これが一番の謝り方だ。
「すまねえ、やりすぎた! 許してくれ!」
 謝り方なんざ、これしか知らねえ。これでダメなら後はどうにでもなれだ。
「お前、なんで謝らなきゃいけないのか分かってないだろう」
「な、何言ってんだテメェ?!」
「大方レーテさんかカルロ君に、僕に謝れと言われたから謝ってるんだろう」
 そのとおりだ。てかなんで、そんなことわかんだ?
「戦い好きな青が、今回のことで自分から頭を下げるなんて考えられないからな。安心しろ、黒の氏族はそんなことで腹をたてるほど狭量じゃない。村の場所を教えると言ったんだ、間違いなく教えるさ」
 なんだよ、その自慢そうな顔は。
「どうせ地図も買ってるんだろう、見せてみろ」
「おう、ちょっと待ってくれ!」
 レーテとカルロの所へ急ぐ。
「オイ、地図。地図だ!」
「そんなに急がなくても持っていくさね」
 筒型に丸めた地図を持ったレーテとその後ろにカルロがついて入ってくる。
「これだ! どうだ、わかるか?」
「少し古い地図だが、場所はこれでわかるぞ。黒の氏族の村がここであの村がここということは……青の村は森を越えた先、湖近くのこの辺りだな」
 おお、湖なら子供の頃言った記憶がある。森は義兄さんと狩りに行ったあの森か?
 しかしダネルのヤツ、なんか渋い顔してんな。
「ゴーヴァン、この地図どこで手に入れた?」
「街の地図屋で中古? で買ったんだ。どこか変なトコでもあんのか?」
「いや、村の場所が随分詳しく書かれてあるからな。どこの誰が使ってたものかと思ったんだ」
 ダネルは地図を前に腕を組んでいるが、それはどうでもいい。
 故郷に帰る方法が見つかったんだ、そっちの方が大事だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...