その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

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第3章 学術都市

50話 むかしばなし

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「ふわぁあ」
 いくつ目かの部屋に入ったときだ。
 流石に緊張するのも疲れてきて、あくびが出た。
「お前な、何のんきに欠伸なんてしてるんだ」
「つってもな、誰もいなけりゃ何にもねえじゃねえか」
「何もないなら何もないでいいんだ。自分が学んで生活してる場所で人身売買や人体実験がされてるなんて、考えたくもない」
 そう言ってダネルは頭を振る。
 まあそりゃ、自分が住んでる所でおかしなことされるのはイヤだ、ってのはわかる。
「けどさ、こんだけやることないと、おれもヒマだよ」
「じゃあ、この辺りに伝わる昔ばなしでも聞かせようか?」
 部屋の中を見回し、カルロを見る。
「体が欲しかった王様の話は知ってるかい?」
「体が弱くって、他の人の体を欲しがった王様の話だっけ」
「何だそりゃ」
「あれ、オッサン知らないの?」
「竜種の村はここより離れた場所だからな。お前が知らないのは別に普通のことだ。僕もこの街に来るまで知らなかったからな」
 暇つぶしにはなるか、とつぶやいてからダネルは話を始めた。


「昔々、この辺りを一つの国が統治してた頃の話だ。どのくらい昔か? 少なくとも千年以上は前の話だ。
 一人の王様がいた。
 その王様は生まれつき体が弱くて、よく病にかかっては寝床に伏せ、何をするにも誰かの助けを借りずには何も出来なかったらしい。
 だから王様は体が欲しかった。どんな戦士より強くて、どんな美人より美しい、そんな体が欲しかった。
 ある時王様は、国中にお触れを出した。
 自分に最も優れた体を授けたものに好きな褒美を与えるってな。
 大勢の魔術士や薬師、医者が褒美欲しさに王様へ色んな方法を教えた。
 けどどれも駄目だった。
 王様は失敗した輩をみんな処刑してしまった。
 そのうち処刑されることが怖くて、誰も王様に優れた体を与える方法を教えなくなったんだ。
 でも困ったことに、王様の体は病でどんどん弱っていって、このままではいつ死んでしまってもおかしくなかった。
 そんな時、一人の魔術士が王様にこういったんだ、王様は誰になりたいのですかって。
 王様は、国で一番の戦士になりたい、病にも負けない体になりたいって答えたんだ。
 魔術士は国で一番の戦士を連れてこさせて、呪文を唱えた。
 すると王様の体から魂が抜けて、国一番の戦士の体に入っていったんだ。
 王様は国で一番の戦士の体を手に入れたんだ。
 は? その戦士はどうなったのかって? 昔話だ、そんなことまで語られちゃいない。何より魂を入れかる呪文なんて、この話以外に聞いたこともない。
 だがそれ以来、王様は他の体が欲しくなると魔術士に命令して自分の魂をその体に入れるようになった。
 美しい体が欲しければ国一番の美人に、他の種族になりたい時はその種族をって感じでな。
 その国の奴らは何が理由で自分の体を王様に取られるか分からなくて、恐ろしくなった。
 だから国の民は反乱を起こした。
 その結果、国はばらばらになってなくなってしまった、という話だ。
 王様はどうなったかって? さあな。反乱で殺されたとも、魔術士から教わった呪文で他の誰かに成り代わったとも、神様とやらに罰を受けたとも、色々と伝わってる」


「まあ、そう言う話があるっていう話だ」
「その王様がどうなったのか、結局わからねえんだよな」
 次の部屋の扉を開け、オレとダネルで中を確認する。
「魂の入れ替えなんてどの資料にも書いてないらしい。この話は反乱の理由を何か風刺したものじゃないか、というのが考古学者たちの見解だ」
「魂の入れ替えねえ」
 死んだら魂は祖霊たちのいる死者の国に行くって、葬式の度に聞かされてきた。
 そういう霊は祖霊になって行きている奴らを守ってるんだって。もしオレを祖霊が守ってるなら、とんだ役立たずだ。あの時生かすのは、オレじゃなくて義兄さんの方だったのに。
 じゃあもし、死者の国から義兄さんの魂を連れてきて、オレの体を与えることが出来たら? オレは……
「オイ、何をぼうっとしてるんだ?」
「別に何でもねえ」
 ダネルが言ってたろ、そんな方法はないって。
 しかし何だこの部屋。ずいぶん寒くねえか?
「おいダネル、この部屋寒くねえか?」
「ああ、薬品の冷蔵保存室だからな。立体魔法陣を使って部屋の温度を冬の日よりも寒くしてるんだ。ああ済まない、カルロくんはこの鍵を持って部屋の外にいてくれないかい。万が一扉が閉まったときに開けて欲しい。学院の中で凍死なんてゴメンだからね」
 カルロは鍵を手渡すと、されると部屋の外に出ていく。
 本当に仕事に関しちゃ聞き分けがいいのは助かるな。
「示せ真実!」
 棚や箱の並んだ部屋の中をオレを先頭にして、ダネルが部屋の中を確認していく。
 しっかし寒いな、この部屋は。ここだけ真冬になったみたいだ。閉じ込められたら本当に投資するんじゃねえか?
「ん、これは……ゴーヴァン、この箱開けられるか?」
「コイツか? ちょっと待ってろ」
 何か書かれている箱の蓋に手をかける。うん、特に留め金はない。
 蓋を一気に開ける。
「うっ……」
 ダネルが吐き気を催す音が聞こえた。
「これ……死体、だよな?」
 箱の中を確認する。中は犬種と猫種が一人ずつ。体中に霜の降りている上、片方は腹の中身が飛び出している、生きているとは思えない。
「ダネル、コイツらどうするんだ」
「一度、教授に報告しよう。箱は蓋をしておいてくれ、見るのが辛い」
 ダネルに了解の合図を送り、部屋の入口へ向かう。
「おかしい、扉が閉まってるぞ」
「はぁ? オイ、カルロ! 開けてくれ!」
 扉を何度も叩くが、何の反応も返ってこない。
 吐く息が白い。寒さが鱗に突き刺さる。尾の先が冷えて、痛みを感じ始める。
「オイオイ、冗談じゃねえぞ」
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