その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

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第3章 学術都市

49話 学内捜査開始

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 朝飯を食ってから最初に向かったのは、ルクレツィアのところだった。
「おはようございます、教授」
「おはよう、ダネル。今日はよろしく頼んだぞ」
 部屋の中を見ると、レーテが疲れた顔でルクレツィアが座っていた椅子にもたれかかっていた。
「ネエちゃん、具合悪いのか?」
「具合が悪いと言うより、とにかく疲れてね。一晩ルクレツィアに付き合ったんだが、調べられるだけ調べられると、こうも疲れるものなんだね」
 疲れたように息を吐くレーテを見ると、いつも似まして肌の色が白くなったように感じる。
「オメェ本当に大丈夫かよ。顔色悪くなってるぞ」
「そうだね、今日の夕方くらいには血を飲ませて欲しいね。ルクレツィアには代わりになるかもと変な薬を飲まされたけど、何か変わった感じはないからね」
 腹減ってんのか。なら、具合悪そうなのも納得だ。
 で、その飯が俺なんだよな。……はあ。
「ではこれから教授に指定された場所の捜査を行います。彼らを同行させ、何かあった場合はこの子が連絡に来ます」
「分かった。だが、何かあった場合は逃げることを考えてくれよ。何をしているかもわからない相手だからな」
「だったら学生の僕にこんなことをさせないでください」
「何、学生にも調べられてるなんて噂がたてば、相手も動きにくくなるだろう。私としては、人体実験を止めさせることが第一だと考えてるからな」
 ルクレツィアは一本の鍵を取り出し、ダネルの方へ差し出す。
「学院の親鍵だ。これでどの部屋にも入れる。何かあったときは、人体実験の件で私に指示されて調査してる、とかなんとか適当に行っておけ。責任は私が取る」
「で、怪しいやつは片っ端からふん縛っていいんだな?」
「ああ、この部屋の入口にロープがあるだろ。そこ。持っていって構わないから、不審な奴は全員捕まえておいてくれ」
 ルクレツィアが指さした辺りにロープが適当に置かれていた。
 ダネルは肩にかけたカバンから板を取り出すと、ルクレツィアと何かを話し始める。
 俺はその間、適当に積まれたロープをまとめ直すことにした。本当に適当に持ってきたんだな、長さも太さもめちゃくちゃだし、絡まっちまってる。
「カルロ、ロープまとめるからお前も手伝え」
「うん、わかった」
 カルロと二人絡まったロープを解き、長過ぎる奴は人一人縛れる長さに剣で切ってまとめ、短いやつは作業の邪魔にならない場所に避けておく。ただでさえ散らかった部屋が余計散らかっていく気がするが、俺が住んでるわけじゃねえし、いいか。
 ロープをまとめながらレーテを見ると、目を閉じて椅子にもたれかかっていた。疲れたとか言ってたし、寝てるんだろうな。
「カルロ、オメェこのロープ少し持てるか?」
「おう、任せとけオッサン」
 そう言って何本かロープを肩に下げて立ち上がる。
「しかしオメェ、本当によく働くな」
「当然だろ。働かなきゃ金もらえないんだぞ。」
「へ? 金なんてもらえるのか?」
「あの後、おれが教授と話してもらえる金、少し増やしてもらったんだ」
 本当にちゃっかりしてんな、コイツ。
 残りのロープをまとめて肩にかける。
「こっちは準備できたぞ」
「こっちもいつでも行ける。ついて来い」
 ダネルを先頭に建物の中を歩いていく。
 随分広いが、カルロのやつ、何かあったらルクレツィアのとこまで帰れるのか?
「カルロ、お前ルクレツィアの部屋の場所覚えてるか?」
「道はなんとなく。でもおれみたいな犬種は鼻が利くからさ、何かあれば匂いをたぐればあの部屋に行けるよ」
「なら大丈夫だな」
 通路を真っすぐ行ったり左に曲がったり右に曲がったりを何度か繰り返した後、ダネルが一枚の扉の前で立ち止まる。
「まずはここだ」
 ダネルが扉に鍵を差し込んで回すと、乾いた音がなる。
 扉の向こうには模様の描かれた床と、それを囲むように並ぶ机と椅子が見えた。
 最初に剣を構えてオレが入り、誰もいないことをダネルに合図する。
 ダネルがワンドを構え、宙に模様を描く。
「示せ真実!」
 ダネルの目が妙な色に光り、睨むように部屋の中を見回す。
「この部屋は……隠し扉のたぐいはないな」
「何でそう言い切れんだ?」
「隠蔽の魔術を看破する呪文を使ってる。それに何も引っかからないからここには何もない」
「だから、どういうことだっつってんだよ」
「はぁ……隠し扉の類を見つける呪文を使ったが何も見つからなかった。この部屋に隠し扉の類は存在しない」
 ため息を吐くダネル。
 何か言いたそうな目ぇしてるが、言ったらぶん殴る。
「カルロ、部屋の外に誰かいるか?」
「ううん、誰もいない」
「授業中だからな。この時間この辺りをうろついてる奴はまずいないだろう。いたら捕まえて構わない。」
 捕まえていいなんて、随分はっきり言うんだな。入っちゃいけない部屋だったりするんか?
「オイ、ダネル。この辺は何の部屋なんだ?」
「個人の研究室だ。教授たちの個人研究室と、学生が借りて使う研究室がある」
 要は個人の部屋ってわけか。で、勝手に入ったことことを言われたらルクレツィアのせいにしとくと。
「何だか凄く頭の悪い理解をしている気がするが、まあ、それで大体あってる」
 頭使わなくていいなら、楽でいいや。あれこれ考えるのは、性に合わねえ、いや苦手だ。
「さあ、ここには何もない、次の部屋に行くぞ。ところで」
 ダネルがオレを見て呟く。
「お前の仕事にはオレの護衛も入ってるんだよな?」
 それは知らねえな。
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