その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

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第3章 学術都市

57話 戦い終わって

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 そこからはレーテの独り舞台だった。
 まだ動いているデカブツを見つけては矢よりも、風よりも早くソイツの場所へ跳び、一撃で胸を貫く。
 デカブツが動かなくなるたびに、その周りにいたヤツラから驚きとも喜びともわからない声が湧くのが聞こえた。
「お疲れ様。一人で二体の駆動停止とは大したものだ」
 まだ血の乾いていない姿のまま、ルクレツィアがオレの方へ来た。
「カルロとダネルは大丈夫なのか」
「ダネルには私の愛飲してる魔力回復薬を飲ませたからな、何かあっても自分の足で逃げ回るくらいは余裕だ。
 犬種の少年は口の中を切ってはいたが、それ以外に大きな外傷はないよ。
 今は少年にダネルの様子を見てもらっている」
 そうか、無事なら良かった。
 何だか一気に体の力が抜けて、その場に座り込む。
「私からしたら、君のほうがひどい傷だと思うんだが? 胸から腹にかけての傷、かなり深いんじゃないか? 大体、全身傷だらけじゃないか」
「ハッ、このくらいもう血は止まってら。服が切られてダメになった程度だ」
 流石にここまでボロになると、新しい服にしたほうがいいな。
「それでも後で治療院の連中に診てもらった方がいいだろう。
 ユリウスが逃げたのは残念だが、ユリウスの研究内容が手に入れば良しとするさ」
 なんかコイツ、悪そうな顔してねえか?
「ユリウスの話は聞こえてたからな、あいつが何か用意していたのは確かだ。内容によっては教授陣による争奪戦の始まりだからな、楽しみだ」
 ひょっとしてコイツ、悪いやつなんじゃねえ?
「そんな悪者を見るような目で見ないでくれ。研究者なんて倫理観を取り払えば、知識欲を満たすことしか考えないものなんだ
 まあ中には、研究成果でいかに金や名誉を生むか考えるのが好きなやつもいるがな」
「んなことぁ、どうだっていい。とりあえず今はゆっくり休みてえ」
 周りを見ると疲れたんだろう、オレみたいに座り込んでるやつもいれば、互いに肩を抱き合ってるヤツ、歓声を上げるヤツ、いろいろだ。
 何にせよ、あのデカブツのことはもう考えなくても良さそうだ。


「だーかーら、血ぃ止まってんだから取ったって構わねえだろうが」
「ダメですよ。縫ってるんですよ? 傷が塞がるまで、包帯を取ろうとしないでください」
 壁も床も天井も白一色の部屋の中、白い服を来た只人がオレが包帯を外したのに、新しい包帯を巻き直す。
「いくら竜種だからって、傷跡を乱暴に扱ったらあとが残っちゃいますよ」
「戦ってできた傷だ。残った所で恥でも何でもねえ」
「そう言う問題じゃないです。先生がいいって言うまで、大人しくしていてください」
「わがまま言ってるな、君は」
 フード付きの上着を着たルクレツィアだ。後ろにはダネルもいる。
 白い服を来た只人は黙って頭を下げる。
「彼と話をしたいんだが、大丈夫かな? 場合によっては少し連れ歩きたいんだが」
「はい、ルクレツィア教授。出歩いてはいけないほどの重症ではありませんし、散歩程度でしたら問題ありません」
「そうか。この椅子、借りるぞ」
 部屋にあった椅子をオレのいるベッドのそばまで引っ張り、そこに座る。
「まずは元気そうで良かった、全身傷だらけだったから、大丈夫か心配だったんだ」
「あの程度、ケガのうちにもならねえつうの。何しに来たんだよ」
 オレがこの部屋に入れられたのが三日前、その時からルクレツィアには会ってない。
 それどころかレーテやカルロにすら会ってない。
「君達の処遇について、教授会で結論が出たのでそれを伝えに来たんだ」
「ふーん」
「ふーん、じゃないだろ。自分の処遇が気にならないのか?」
 処遇も何も、オレ何か悪いことしたっけ?
 包帯を巻き終わった白服が、ルクレツィアに頭を下げてから部屋から出ていく。
「ピンとこないのも無理はないか。この街で教授といえば学院で勉学を教える立場でもあるんだが同時に議会制度における議員、あー、お前に分かりやすく言うと村長や長老のような立場でもあるんだ」
 長?! このルクレツィアが?
「立場上そうと言うだけで、私なんて碌な発言権もない、頭数合わせみないなもんさ。
 古代魔術の研究なんて現代魔術の発展にも、生活技術の向上にも役に立たないからな」
「で、結局なにしに来たんだよ」
「君達は今回の件に巻き込まれた被害者、ということで意見がまとまった。この都市に拘束する理由はないから、傷が癒えたら自由の身だ」
「自由の身も何も、オレ何か悪いことでもしてたのか?」
「君と犬種の少年は何の問題もない。問題が会ったのは、吸血鬼の彼女だ」
 レーテが?
「彼女、と私なんだが禁忌秘術という、分かりやすく言うと使ってはいけない術、を体に使っていてな。それについて意見が割れたんだ。
 禁書庫行きか、このままにするかでね」
「禁書庫ってなんだ?」
「永遠に出られない牢獄くらいに思っておけ」
 そう言ってダネルがため息を吐く。
「教授が自分に禁忌秘術なんて使っていたせいで僕まで聴取を受けたんですから」
「いいだろう、特に何か罪に問われてないんだから」
「ルクレツィアがここにいるってことは、レーテとルクレツィアも大丈夫だったってことだよな」
 満面の笑みのルクレツィアと特大のため息を吐くダネル。
 何だ、何があったってんだ。
「権力と金に勝る物はないな。私があのレオナルドの姉だと知ってる連中はみな私を罪に問おうとはしなかったし、吸血鬼化の禁忌秘術が金になるかも知れないと分かった瞬間、残りも掌を返したんだからな」
 ようはどういうことなんだよ。
「お前がそう言う顔をするのもわかるよ。僕も尊敬していた先生が金と権力で掌を返す人だと分かって衝撃的だった」
「要点だけ言うなら彼女、レーテも今まで通り自由にしていていい。多少の条件はこちらから付けさせてもらったが、彼女は了承済みだ」
 じゃあ、何も心配することはないってことか。
 アイツらがこれからどうするかは知らねえけど、捕まったりなんだりがないなら、それが一番だ。
「で、ここまでが君達の処遇に関する話。ここからは君に聞きたい話になる。ダネル」
 ダネルがカバンから透明な板を取り出し、ワンドで表面に何かを描く。
「ユリウス教授、いや元教授か。ユリウス元教授の隠し研究室が発見された。そこでこの人物が発見されたんだが、誰かわかるか?」
 ダネルが透明な板を裏返し、オレに手渡す。
「オイ、これ何なんだよ」
「ユリウス元教授の隠し研究室で見つかった青の男性だ」
 そんなもん見りゃわかる。
 オレが手に持っている板には青い鱗の竜種が映っている。
 でも、ありえない。なんでこの街でこの人が?
「その顔、お前の知り合いか?」
「知り合いとかそんなどころじゃねえ」
 この人は、だって、そんな。
「オレの、義兄さんだ」
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