その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

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第4章 青い竜の村

73話 生きたいように、やりたいように

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 早く飯を持ってきてくれと待っていると、カルロとダネルが小さい鍋と塊のパンを持ってやって来た。
「オッサン、メシ持ってきたぞ」
「おお! やっと飯が食える!」
 小さい鍋とパンを受け取って、パンに思い切りかじりつく。
 硬いけど食えねえわけじゃねえし、噛めば噛むほどほんのり甘くなっていくのもいいな。
 鍋の中身は、スープか。
 鍋が触れるくらいになってるってことは……やっぱり冷めてるな。
 まあでも、具はデカいし食べごたえあるからいいか。
 腹が減ってるからか、冷めかけたスープも硬い塊のパンも、やたら美味く感じる。
「オメェらは食わなくていいのかよ」
「おれとニイちゃんはもう食ったよ。今は休憩ってやつ」
「僕はこれから授業だ」
 オレが一人腹減らしてる間に、飯食ってやがったのかコイツら。
 コイツらがいる間に聞いておきたいことがあったんだった。
「そうだ。オメェらどっちでもいいんだけど、義兄さんのいる場所知ってるか?」
「学院付属の治療院の場所か。分かるが何かあったのか」
「義兄さんに会いに行きたくってな」
「ゴメン、オッサン。おれ、まだどこに何があるかはわからないんだ」
「カルロ君はこのあと教授の手伝いがあるだろう。僕も授業があるからな。ゴーヴァンの今日の分の仕事が終わったら案内する」
 てことは、残りの薬を全部飲み終わるまで撃ち続けりゃいいってことか。
「この薬こんなに飲んだのか?」
「飲んじゃ悪かったか?」
「いや、そう言うわけじゃない。まさか一度に二本以上飲んだりしてないだろうな」
「オウ、飲んだぞ。途中からクラクラしたのが収まらなかったから、二本飲んでた」
 どうしたんだ、何か考え込んで。
「この薬、飲みすぎると腹でも壊すのか?」
「いや、そう言う訳じゃあない。お前は気にせず続けてくれ」
 そうか?
 じゃあ、食い終わったら続きやるか。
 三人でどうでもいいことを話しながら、飯を腹に詰め込んでいく。
「じゃあオッサン、おれ、そろそろ戻るよ」
「僕は授業に出席する。僕が迎えに来るまで続けてくれ。何かあれば壁の通信機……そこの透明な結晶で連絡してくれ。
 カルロ君、そのときは頼んだよ」
「うん。分からなければ教授に聞けばいいんだよな。
 オッサン、またな」
 さて、続きだ続き。
 魔砲を構え、的を撃つ。
 オレしかいない部屋で破裂音だけが響き続ける。
 一人で話し相手もいないまま撃ち続けて、最後の一本の薬に手をかけた時、ダネルが部屋に入ってきた。
「そろそろ終わった頃か?」
「後コイツ一本飲んで撃つだけ撃つところだ」
「なら今日はここまででいい。魔晶石を外してしまってくれ。分解の仕方は……聞いてないだろうな。僕がやるのをよく見ていろ」
 オレから魔砲を受け取って、何かカチャカチャいじりだしたと思ったら、爪くらいの大きさの宝石を取り出す。
「覚えたか」
「悪い、もう一回頼む」
 この後、しばらくダネルから中の宝石の取り出し方と、取り付けた後の元に戻す方法を教わることになった。
 部屋から出て空の色を見たときには、真っ赤に染まっていたから、日が出ている間、ずっとこの部屋にいた頃になる。
「カルロはどうしたんだ?」
「教授が文字の勉強を見てくれている。物を覚えるのが早い子だ。今日教えたことはもう覚えてしまったんだからな」
 カルロのヤツ、しっかりやってるんだな。
 ダネルの後について、歩いていく。
 道を覚えるために、忘れないように目印になりそうなものの場所、曲がる角を頭に叩き込む。
 しばらく歩いていって、白い建物に入った。
 長い通路を進んだり、角を曲がったり階段を登ったりしながら、一つの扉の前で止まる。
 ダネルが扉を開けると、義兄さんが部屋の中で眠っていた。
「義兄さん、調子どうだ?」
 眠ったままの義兄さんに声をかける。
「オレ、今日さ」
 はたから聞いてれば、どうでもいいことを話す。
 それでもいいんだ。義兄さんとこうして話ができるから。
「それでさ、腕がハズレるかと思ったんだ」
 ひょっとしたら、こうしている間に起きてくれるかも知れないから。
 もしかしたら、何か言い返してくれるかもしれないから。
「それにしてもルクレツィアのヤツ、ヒッデエ散らかった家に住んでてさ」
 言葉が口からでなくなる。
 義兄さんの胸が静かに動いている。本当に寝てるだけにしか思えない。
「なあ、ダネル。オレ、義兄さんに何か出来ることってないのか?」
「僕は治療学が専門じゃないから何をすればいいかは分からない。ここの職員に聞いてくれとしか言えない」
 そっか。
「オレのせい、なんだよな。義兄さんが、こうなったのは」
 ダネルは何も言い返して来ない。
「なあ、オレが義兄さんの代わりになる方法ってのはないのか?」
「青は、戦って死んだ戦士を侮辱するのが普通なのか」
「どういう意味だよ」
「お前のお義兄さんはお前と戦って死んだんだろう。本意であれ不本意であれ戦いで死んだ者を無かったことにしたいと思うのは」
 ダネルを睨むように見てるんだろう、ダネルが俺から一度視線を外すが、すぐにオレの目を見てくる。
「戦士に対する侮辱じゃないのか」
 ダネルの言葉に息が止まりそうになる。
「正直お前の気持ちは分からない。それでも戦いの中で決まったことであるなら……その人だって受け入れた結果なんじゃないのか」
「もし義兄さんがそう思ってくれてても、オレは」
「ならその人に罵られれば満足なのか? いっそ斬り伏せられたいのか?」
 村に帰るまではそう思ってた。
 けど今は違う、そうじゃない。
「義兄さんと一緒にいたい。みんなと、一緒にいたい」
「なんだ。何をしたいか分かってるじゃないか。なら、そうすればいいだろう」
 でも、義兄さんはそれを許してくれるのか?
 オレが言いたいことを言うより先に、ダネルが次の言葉を言う。
「それはお前が決めるな。その人が目を覚ました時にその人が決めることだ。お前はそれまでやりたいようにやればいい」
 オレのやりたいように……
「やりたいようにやって、いいのかな?」
「言ったろう。それを決めるのはその人だ。お前はその時まで生きたいように生きてやりたいようにやれ」
 オレの生きたいように、やりたいようにか。
 そうか、そうだな。
 ダネルの言葉のおかげで、少しだけ、本当に少しだけど胸の奥の何かが薄まったような気がする。
 けどコイツ、もっとあれこれ言ってくるかと思ったけど、意外と……
「オメェ、けっこう優しかったりするのか?」
「そんな訳無いだろう。今にも泣きそうな子供みたいな顔をしているからだ。目の前でウジウジされるのが嫌なだけだ」
 やっぱりオメェ、けっこう優しいな。
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