その口吻(くちづけ)は毒より甘く

門音日月

文字の大きさ
85 / 103
第4章 青い竜の村

83話 休日

しおりを挟む
「今日は休んでいいぞ」
 仕事に出かけようとした所で、ルクレツィアからそう言われた。
「今日は私の休みだからな。お前らもみんな、休み。好きに過ごせ」
 出かける直前にそんなこと言われたって、どこで何すりゃいいんだ。
「教授、この近くに公園とかある?」
「あるぞ。場所はだな……」
 カルロがルクレツィアに何かを聞いている間、何をしたものかと考える。
 ここしばらく何もない部屋で魔砲を撃ってばかりだったから、人のいる賑やかな場所に行きたい。
 ユリウスの不安はあるが、賑やかな場所に行って過ごしたい気持ちがある。
「姉さんはどうする?」
「ワタシはいつもどおり、ガーウェイのところに行くつもりよ」
「オレ、夕方頃いつも義兄さんに会いに行って一回も会ったことなかったけど、姉さんもいつも行ってたのか?」
「ワタシは昼頃に行っていたから。夕方前には家の片付けと夕飯の用意で帰ってるの」
 それで会ったことがないわけか。
「あそこで働いてる人達に、体をほぐすといいって言われたから、腕や足を曲げる手伝いをしたり、寝返りを打つ手伝いをしたり……ワタシでも出来ることを手伝ってるの」
「それならオレも手伝うって」
 姉さんは首を振り、アズを見る。
「アズを攫おうとしてる人、まだ見つかってもいないんでしょ? ワタシも一緒に連れて行きたいけれど、ワタシだけだとこの子を守れるのか不安だから」
 悲しそうな顔をする姉さん。
「ゴーヴァンと一緒にいるのが一番安全だと思うの」
「じゃあアズも連れてみんなで」
「いつもアズの面倒を見てもらってるのに、こんな事をいうのは親失格って思われるかも知れないんだけど、今日一日アズと遊んであげて欲しいの。
 アズがアナタに懐いているっていうのもあるんだけど、村から街に来て一緒に遊べる相手もいないでしょ。だから身の回りが安全になって、一緒に遊べる友だちができるまで、アズと一緒にいてあげてくれないかしら」
 別に一緒にいてやるのも、遊び相手になるのも構わねえ。
「ねえ、ゴーヴァンおにいちゃん。なにしてあそぶの?」
 アズは嬉しそうな顔でオレを見てる。けど……
「何だか義兄さんの場所、盗ってるみたいだな」
「そんなことは言わないで。本当ならワタシがやらなくちゃいけないことを、アナタがしてくれているだけなんだから」
 姉さんはそう言ってくれるが、やっぱり義兄さんのいる場所を奪っている、そんな気持ちがどうしても消さなかった。
「アズ、お前どこか行きたいこととかあるか?」
「んー、わかんない」
 だよな。
 街来てから行った場所なんて、オレと一緒に魔砲撃つ練習場所に行って剣の稽古してただけだもんな。
 いきなり行きたい場所とか聞かれても、わかんねえよな。
「オッサン」
「名前呼べって行ってんだろ」
「むぅ……ゴーヴァンのオッサン」
「おっさんじゃないよ、ゴーヴァンおにいちゃんだよ」
 アズに言われ、カルロが言いにくそうな顔でオレを見る。
 いいぞアズ、もっと言ってやれ。
「ゴーヴァン、ニイちゃん、教授から公園の場所聞いたから、そこにアズ連れて行ってやろう」
「公園?」
「広場みたいなトコだよ。アズの剣の練習でも何でもやれるような場所」
 へえ、そんな場所があるんだな。
 なら丁度いいか。
「じゃあアズ、カルロと一緒に公園ってトコ、行くか?」
「うん、行く!」
 じゃあ決まりだな。
「カルロ、お前も来るんだろ」
「当たり前だろ。おっさ……ゴーヴァン、ニイちゃん場所わかんねえだろ」
「カルロおにいちゃんもいっしょ? やった!」
「よかったわね、アズ。今日はお兄ちゃん二人と遊びに行くのね」
 姉さんにそう言われて、アズは満面の笑みを浮かべる。
 アズには今、年の近い遊び相手がいないんだ。カルロと遊べるってのは嬉しいんだろうな。
「で、姉さんは義兄さんの所でいいんだよな」
「ええ、今日は夕方くらいまでいるつもりよ」
 そっか、とだけ短く返事を返す。
 そうだよな、姉さんだって会える時間は少しだって義兄さんに会いたいもんな。
「ルクレツィア、レーテとダネルは何やってんだ? あとオメェはどうすんだ」
「レーテ君は学院の中フラフラしてるんじゃないか? ダネルは図書館にこもって勉強勉強だろ。
 もし二人が来たら君等がいる場所を伝えておく。
 私は家で寝てる。休日はいつも寝ることに決めてるんだ」
 二人が来た時にオレ達がどこにいるか教えてくれるなら、昼寝でも何でも好きにしててくれ。
「よし、じゃあアズ、今日はカルロと一緒に何したい?」
「剣の稽古!」
「いや、いつもやってるだろ。他に何かしたいことねえのか?」
「カルロおにいちゃんとはしたことないもん。今日はカルロお兄ちゃんともやるの!」
「え、おれもやるの?」
 まさかと思ったんだろう、カルロは少し驚いた顔でアズを見る。
 そんなカルロにアズは元気よく、うん! とだけ答えた。
「アズ、おれ剣とか使ったことないから弱いぞ」
「じゃあ、じゃあ、ぼくがカルロお兄ちゃんにおしえてあげる! だから一緒にやろ!」
 おお、おお、楽しそう顔しやがって。
 カルロのやつも嫌な顔はしてねえし、今日は一日こいつらの剣の稽古でもするか!
 休みか、天気もいいし、いい一日になりそうだな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...