6 / 28
第6話 力試し
しおりを挟む
このピオネロのギルドの地下には訓練場がある———そう話には聞いていたが、俺も実際に入るのは初めてだった。
そこは地下といっても天井が高く、広々とした空間で閉塞感は全くない。
壁も実に頑強で、どんな攻撃を受けてもビクともしなさそうだ。
「レベルの概念が出来るまでは、ここで冒険者の実力を測っていたんですよ。今はその必要もなくなって、有事や災害時の避難場所ですね」
オルコギルド長はぐるりと室内を一周し、最後にコツコツと壁を叩いた。
「結界も大丈夫そうですね。いつでも始めて良いですよ」
「分かった。来い、ラント」
「いや、話が見えない」
ロワに舌打ちされるが、俺を置いてけぼりで勝手に進めたのはあんたの方だろ。
ここで俺と手合わせするつもりなのは分かる。
だが何の為に?
「私の実力を見せてやる。同時にお前の実力も把握しておきたい」
「あー、まあ、そういう事なら………」
「とりあえずかかって来い。私にかすり傷さえ負わせる事は不可能だがな」
「へえ、言うねえ………それじゃあ、遠慮なく!」
俺は腰の得物を手に取ると、ヤツの懐に飛び込んだ。
一瞬、ロワの目が見開かれる。
今はオルコギルド長がそばにいる。
危険と判断すれば止めてくれるだろうと、俺は寸止めする事なくロワの横っ腹目掛けて短剣を突い———
キンッ!
肉ではなく、透明な硬質の物体が俺の剣を弾き返した!?
その反動でか、無傷ではあるが、痩身痩躯の魔法使いがグラリとよろけた。
「何だ!? 今の!」
「………魔力による防護壁だ。フン、力と敏捷性はそれなりだな」
確かに、魔法職の中には防御を得意とする者もいるけれど、あれは魔法で透明な盾を作った感じだった。
でもロワのは何か違う。
「触ってみてもいいか?」
「ん」
面倒臭そうな表情ではあるが、両腕を広げて許可してくれた。
無防備な隙だらけの態勢だ。
俺はとりあえずロワの胸の辺りに触れて、すぐ違和感に気がついた。
「これが防御壁? 壁と言うより膜だな」
俺の手は服の布地に触れている筈なのに、その感触が無い。
身体の線に沿って、透明な膜が張られているようだ。
「ああ、通常は盾の形状になっているか。まあ、経験した方が理解は早い」
「え?」
どう言うことか問う前に、俺はロワに突き飛ばされ、硬い床にしたたか背中を打ち付けた。
文句を言うより先に、天井に突如現れた大量の氷の矢に、視線が釘付けになる。
氷柱では無い。その先端にはご丁寧に鋭い矢尻がついていた。
「………おい、嘘だろ」
「口は閉じてろ。あと動くな」
「無茶言う———」
言葉の途中で氷の矢が俺目掛けて落ちて来た。
自然落下ではなく、意図的に速度を上げてある。
俺は咄嗟に腕を上げ、顔と頭部を守る———が、次の瞬間衝撃が襲った。
「痛っ! いてっ、おい、いい加減っ、攻撃やめろっっ!!」
意外にも、突き刺す痛みではなく、ボコボコ殴られるような鈍痛を全身に感じた。
激痛では無いが不快な事には変わりない。
文句を言ったせいか、攻撃は始まった時と同様、不意に止んだ。
「どうだ? 致命傷はないだろう」
偉そうな声と共に、腕を掴まれ引き摺り起こされる。
……………確かに。
ロワの手を振り払い、改めて自分の身体を確認する、
多少アザになっている箇所はあるが、これくらいなら怪我の範疇に入らない。
しかし俺の頭上にぶら下がっていた氷の矢の速度は、殺傷能力が有るものだった。
それがほぼ無傷で済んだという事は———
「俺にも、さっきの防御壁を使ったのか?」
「当然。でなければ死んでた。衝撃は多少受けるがな」
「いつに間に呪文の詠唱したんだ?」
「そんなものはしない」
「へ」
目の前の美貌の男は傲然と言い放つが、それは俺の常識と異なる。
俺の知っている魔法使い達は皆、呪文の詠唱後に魔法を発動させていた。
単純に魔力を身体強化に使う場合はその限りではないが、魔法を専門職とする冒険者は呪文の詠唱、もしくは短縮した技名などをいつも叫んでいた。
そういえば、さっきゴルフォを倒した時もロワは何も言ってない。
「ここに発動前、発動中、発動後の映像が完璧に思い描ければ、魔法を使うのに呪文など必要ない。むしろ邪魔だ」
コツコツと自分の頭を指差し、男は当然の事だと言った。
コイツ———規格外だ。
呆然とする俺を尻目に、
「いやあ、お互いに頼り甲斐のあるメンバーが見つかって、本当に良かったですね」
と、オルコギルド長は明日の天気の話でもするかのように、のほほんと笑った。
そこは地下といっても天井が高く、広々とした空間で閉塞感は全くない。
壁も実に頑強で、どんな攻撃を受けてもビクともしなさそうだ。
「レベルの概念が出来るまでは、ここで冒険者の実力を測っていたんですよ。今はその必要もなくなって、有事や災害時の避難場所ですね」
オルコギルド長はぐるりと室内を一周し、最後にコツコツと壁を叩いた。
「結界も大丈夫そうですね。いつでも始めて良いですよ」
「分かった。来い、ラント」
「いや、話が見えない」
ロワに舌打ちされるが、俺を置いてけぼりで勝手に進めたのはあんたの方だろ。
ここで俺と手合わせするつもりなのは分かる。
だが何の為に?
「私の実力を見せてやる。同時にお前の実力も把握しておきたい」
「あー、まあ、そういう事なら………」
「とりあえずかかって来い。私にかすり傷さえ負わせる事は不可能だがな」
「へえ、言うねえ………それじゃあ、遠慮なく!」
俺は腰の得物を手に取ると、ヤツの懐に飛び込んだ。
一瞬、ロワの目が見開かれる。
今はオルコギルド長がそばにいる。
危険と判断すれば止めてくれるだろうと、俺は寸止めする事なくロワの横っ腹目掛けて短剣を突い———
キンッ!
肉ではなく、透明な硬質の物体が俺の剣を弾き返した!?
その反動でか、無傷ではあるが、痩身痩躯の魔法使いがグラリとよろけた。
「何だ!? 今の!」
「………魔力による防護壁だ。フン、力と敏捷性はそれなりだな」
確かに、魔法職の中には防御を得意とする者もいるけれど、あれは魔法で透明な盾を作った感じだった。
でもロワのは何か違う。
「触ってみてもいいか?」
「ん」
面倒臭そうな表情ではあるが、両腕を広げて許可してくれた。
無防備な隙だらけの態勢だ。
俺はとりあえずロワの胸の辺りに触れて、すぐ違和感に気がついた。
「これが防御壁? 壁と言うより膜だな」
俺の手は服の布地に触れている筈なのに、その感触が無い。
身体の線に沿って、透明な膜が張られているようだ。
「ああ、通常は盾の形状になっているか。まあ、経験した方が理解は早い」
「え?」
どう言うことか問う前に、俺はロワに突き飛ばされ、硬い床にしたたか背中を打ち付けた。
文句を言うより先に、天井に突如現れた大量の氷の矢に、視線が釘付けになる。
氷柱では無い。その先端にはご丁寧に鋭い矢尻がついていた。
「………おい、嘘だろ」
「口は閉じてろ。あと動くな」
「無茶言う———」
言葉の途中で氷の矢が俺目掛けて落ちて来た。
自然落下ではなく、意図的に速度を上げてある。
俺は咄嗟に腕を上げ、顔と頭部を守る———が、次の瞬間衝撃が襲った。
「痛っ! いてっ、おい、いい加減っ、攻撃やめろっっ!!」
意外にも、突き刺す痛みではなく、ボコボコ殴られるような鈍痛を全身に感じた。
激痛では無いが不快な事には変わりない。
文句を言ったせいか、攻撃は始まった時と同様、不意に止んだ。
「どうだ? 致命傷はないだろう」
偉そうな声と共に、腕を掴まれ引き摺り起こされる。
……………確かに。
ロワの手を振り払い、改めて自分の身体を確認する、
多少アザになっている箇所はあるが、これくらいなら怪我の範疇に入らない。
しかし俺の頭上にぶら下がっていた氷の矢の速度は、殺傷能力が有るものだった。
それがほぼ無傷で済んだという事は———
「俺にも、さっきの防御壁を使ったのか?」
「当然。でなければ死んでた。衝撃は多少受けるがな」
「いつに間に呪文の詠唱したんだ?」
「そんなものはしない」
「へ」
目の前の美貌の男は傲然と言い放つが、それは俺の常識と異なる。
俺の知っている魔法使い達は皆、呪文の詠唱後に魔法を発動させていた。
単純に魔力を身体強化に使う場合はその限りではないが、魔法を専門職とする冒険者は呪文の詠唱、もしくは短縮した技名などをいつも叫んでいた。
そういえば、さっきゴルフォを倒した時もロワは何も言ってない。
「ここに発動前、発動中、発動後の映像が完璧に思い描ければ、魔法を使うのに呪文など必要ない。むしろ邪魔だ」
コツコツと自分の頭を指差し、男は当然の事だと言った。
コイツ———規格外だ。
呆然とする俺を尻目に、
「いやあ、お互いに頼り甲斐のあるメンバーが見つかって、本当に良かったですね」
と、オルコギルド長は明日の天気の話でもするかのように、のほほんと笑った。
0
あなたにおすすめの小説
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる