パークラの荷物持ちと魔法使いがパーティーを組んだら

クロタ

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第14話 裸の付き合い

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「この先に水辺があったな」

朝食を終えて、ロワが唐突にそう言った。

「ああ、あるな」
昨日も今朝も炊事に使用した緩やかな流れの川が、野営した広場のそばにある。
彼は何が言いたいんだ?

疑問が表情に出たのだろうか、ロワはひょいと片眉を器用に上げる。
「いい加減、身体を洗わないと匂うぞ、私達は」
「え」
確かに、この前いつ身体を洗ったのか覚えていない。
ここみたいな安全な水場があれば、飲料水を汲んだ後に入っているが、最近はご無沙汰だ。
一応気休め程度に、ロワの魔法で出した水で身体を拭いているが、それも毎日では無い。

「じゃあ」
「ああ、先に行っていろ。私はコレを片付けてから行く」

言うなりスタスタと前方に生い茂った林の方へ歩いて行った。
ロワが林の中に入る前に、バサバサと大きな音を立てて、それ——『大牙猪(オオキバイノシシ)』が彼目掛けて突進してきた。
昨日全部狩り尽くした第49階層の魔物達が、一夜明けダンジョンの力を糧に湧いてきたのだ。

反り返った立派な牙を、痩身の魔法使いに突き立てようと飛び掛かるが、杖の一振りで呆気なく喉を切り裂かれる。
連日ロワの攻撃魔法は見てるけれど、惚れ惚れする程鮮やかな手並みは見飽きる事がない。

「さっさと行け。昨日の様子だとまだ40頭はいるだろう」
「ああ、任せた。……………あっ!」
「何だ」
「昨日は言わなかったけど、それ食べられるんだった。ちょっと味と匂いに癖があるから、人によって好き嫌いが分かれるけど」
「…………………………………了解した」

ロワの目と声に力がこもる。
目の前の魔物が食糧と知って、俄然やる気が出たらしい。
うん。どうやら完全に通常運転に戻ったようだ。
ロワ1人に任せて大丈夫だと判断した俺は、お言葉に甘えて行水しに川へ降りた。



「終わったぞ」

半時もしないうちに、ロワが川に来た。
『大牙猪』はそれ程強くない魔物だ。
だから昨日もサクッと片付けた後、調子に乗って第50階層まで行き『モザイク』と遭遇してしまったのだ。

『大牙猪』の討伐自体は瞬殺だから、時間が掛かったのは魔法で解体作業までやってくれたのだろう。
本来なら魔物の解体も俺の仕事だが『魔法でやると効率が良い』=『解体時間が減ると待たずに美味いものが食べられる』とロワが気付いてから、進んでやってくれるようになった。
実際、俺の半分以下の時間で解体してくれるので助かっている。ロワ様様だ。

「……………………何をしている」

彼の視線が俺の頭から爪先までを往復する。

「何って、洗濯? 水浴びしたついでだよ」
「全裸でか」
「裸になったから、脱いだ服洗ってるんだろ? ロワのも洗ってやるから、早く脱げ」
「……………ああ」

何とも言い難い声で同意してから、彼は自らも服を脱いで一糸纏わぬ姿になった。
いや、唯一身に着けているものがある。細い鎖を通して首から下げた『冒険者カード』だ。
冒険者として唯一の証明書であり、縁起でもない話だが、万が一死んで遺体が損壊していた場合の、身元確認にも使われる。

俺も肌身離さず着けているが、ここ数年『レベル10』で固定された数字は、変化の兆しすら見えない。
「俺のカード壊れてるんじゃないのか……?」
「そんな事はない。魔法技術の粋を集めて作られたものだぞ。カードの原料である魔石に、個人の状態を常に感知する呪文が刻まれ———あ」
俺に釣られて自分のカードを見ていたロワが、珍しく驚いた声を上げる。
「どうした?」
「…………昨日までは『レベル50』だったが、今『レベル52』に変わっている………」
「何ぃっ!!?」

ロワのカードを覗き込むと、確かにその数字は『52』に間違いない。
高レベルになる程次のレベルに上がりにくくなると言うのは嘘だったのか!?

「私はずっと戦っていたからな。それで上がったのだろう」
「ハハハハ、俺は料理しかしてないしな………」
「……………………」

しばらく沈黙が続き、川のせせらぎしか聞こえなくなった。

………………………今更落ち込んでも仕方がない。洗濯するか。
川の流れは緩やかで、底は浅い。
俺は水の流れを分断する小さな中洲まで行って、そこで洗濯を再開した。
真っ裸のままだが、ダンジョンの中だと言うのに陽の光はあたたかく、少しも寒さを感じない。

持ち込んだ洗濯板でゴシゴシとロワの服を洗っていたら、彼も中洲を挟んだ反対側で身体を洗い出した。
服を着ていると背が高い分ヒョロリとした印象が勝つが、結構ロワの身体は骨太だ。
余分な肉が無いので痩せ型には違いないが、これで綺麗な筋肉がつけば顔が良いのも手伝って、世の女性が放っておかない美丈夫になるだろうに…………。

そんな当人にしたら余計なお世話な想像を膨らませていたら、目が合った。
アレ? 
ロワの顔に違和感を感じて凝視すれば、その正体はすぐに分かった。

「ロワ、その右目……」
「ああ、今はモノクルを外しているからな。オッドアイは珍しくてジロジロ見られるから、普段は色付きのレンズで瞳の色を誤魔化している」

言いながらパチパチと瞬きする右目は、空色の左目とは全然違う金色だ。

「色の前に左右で視力が違うから、調整の為に普段はモノクルをしている」
「へえ………そりゃ大変だなあ」

期せずして、ロワがモノクルを着けているが謎が解けた。
特に俺は気にしてなかったが、そう言う理由ならば納得だ。
ロワの服の汚れも粗方落ち、俺の服と合わせて風魔法で乾かして貰おうと振り返った時———

「私はダンジョンを進む。撤退はしない」
「!」

唐突に大事な話をブッ込まれた。
いや、俺から話そうかと思ってたから、それ自体は良いんだ。
問題は———

「今の俺達の状態じゃあ、難しいぞ?」
「分かってる」

気力だけで行けないのは、ロワも昨日の一件で身に染みたはずだ。
第50階層———『モザイク』がいた事から、アレはもともと最深部手前にあったものが、ダンジョンの歪みで昨日たまたまあの階層に配置されただけなのだろう。
おそらく今日第50階層に降りて行っても、昨日と同じ環境だとは思えない。

しかしロワの目的を考えると、『モザイク』のいたあの場所に再度挑む気なのは明白だ。
彼がこのダンジョンに潜った最大の理由——薄紫の実のついた黒い花、それが見つかるまで出る気は無さそうだ。
今まで通ってきたどの階層にも、残念ながら黒い花は見つからなかった。
そうなると、やはりもっと先まで降りていくしかない。

『お前はこの先行き詰まって、絶対後悔するハメになる。これは予言だ!』

先日のゴルフォの捨て台詞が、呪いのように頭の中で木霊する。
ヤツの言っていた事は、悔しいが正しい。
レベル10の俺じゃあ、あの『モザイク』には絶対敵わない。

「………ロワ、気持ちは分かる。でもここは一旦外に出て、他の高レベルのパーティーメンバーを募らないと、あの『モザイク』には勝てない」
「私には時間が無いんだ!」

血を吐くような絶叫だった。

「私の求める黒い花は………『透過病(トウカビョウ)』の特効薬かもしれないんだ」
「とうか……びょう?」

俺の鸚鵡返しに、彼は思い詰めた顔でゆっくりと頷いた。
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