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早乙女静香ルート
幸せの定義2
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※この作品は同人ゲーム「男子校でハーレムが作れる俺マジ勝ち組」からテキストを抜き出したノベル版です。
ゲームテキスト形式なので背景やキャラ名の指定が残っています。
原作ゲームは18禁ですが、今作は18禁シーンを削除し全年齢版として公開します。
PCを持っていない方のために、同じく全年齢版の体験版プレイ動画もございます。
詳しくは「はとごろTIMES」のホームページをご覧下さい。
また、漫画も投稿しています。そちらも是非ご覧下さい。
《早乙女家・風呂場》
自分の家の風呂場は、何故か居心地が悪かった。
いつものようにシャワーで済ませて早々に出る。
静香
「あれ……」
いつもバスタオルをしまっている場所が空っぽになっていた。
どうしようかと迷っていると、脱衣所の扉が開けられ母さんが入ってくる。
心
「ごめんなさいしずか。今日バスタオルをしまい忘れて……」
静香
「――――ッ!」
咄嗟に母さんと対峙するように向き直るが、遅かった。
母さんは目を見開き、持っていたバスタオルを落とす。
見られた。あの痣だらけの背中を。
この人につけられた、忌み嫌われていた証。
心臓がバクバクと音を鳴らす。逃げ出したいけれど、扉は母さんで塞がれている。
こればかりは、さすがに記憶を刺激するのではないか……そう思うと恐ろしくて声すら出なかった。
母さんが歩み寄る。思わず身体が震える。
けれど、僕が思っていたようなことは起きなかった。
心
「…………」
母さんは黙って、バスタオルを拾って僕の身体を優しく拭いた。
それから簡単に服を着せて、優しく僕を抱きしめた。
心
「ごめんなさい……全然、気づかなかった」
静香
「……?」
心
「どうして黙っていたの。そんなに痕が残るなんて、酷いことをされたんでしょう?」
心
「一体、誰がそんなこと……」
頭の中で、何かが音を立てて割れた気がした。
身体を心配してくれる優しい母。全身で感じるやわらかい温もり。
すべて、すべて、しあわせなもの。
その幸せが、ガンガンと僕の頭を叩いて、砕こうとする。
静香
「う……ぁ…………」
これでいい……?
いやだ。
静香
「あ、あぁ……ううぅっ……」
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ。
静香
「うあああああああああああっ!!」
温かいそれを突き飛ばし、とにかく逃げたくて駆け出した。
《住宅街》
外は雨が降っていた。そんな中を、傘もささず靴も履かずに走った。
母さんの記憶が戻らなくてよかった。嫌だった。
しあわせだった。いやだった。
何かを考えることが苦痛で、嫌で、ただ走ることだけ考えた。
どこに行こうとしているのかなんて分からない。
考えたく、ない。
《自宅・居間》《零時視点》
何もする気になれず、一人リビングでボーっとする。外からはザアザアと雨の音が聞こえていた。
零時
「……静香」
気がつくと静香のことばかり考えている。
いつだったか、あいつは俺無しに生きられないと言っていたけど、それは俺も同じだった。
静香に会いたい。
会って……どうするんだろう。俺がしてやれることなんて無い。
あいつが手に入れたかったものはもう、そこにあるんだ。
零時
「今度こそ、本当に用なしだな……」
この家で静香と暮らすことも、もうないのだろうか。
きっと俺の存在は心さんには認められない。このまま付き合い続けるのも難しくなるだろう。
零時
「女々しすぎだろ、俺……」
自分の情けなさに腹が立つが、どうしようもない。
そんな時、玄関から来客を告げる音がした。
零時
「――――ッ!?」
インターホンの音で飛び起きる。もう遅い時間だ。思い当たる来客は一人しかいない。
零時
「静香……っ!」
玄関の扉を開け、言葉を失った。
零時
「せい、か……」
静香
「零時……零時、零時、しょうご……!」
ずぶ濡れで、Yシャツだけの静香。靴すらはいていない。
どうしてそんな格好でとか、傘も差さずにどうしたとか、そんなことを聞くことすらできない。
静香は俺を見るなり飛びついてきて、俺を呼び続けた。
静香
「しょうご……うぁ、あぁぁ……しょう、ご……」
まるで壊れた玩具みたいに、零時と繰り返す。
俺にはなにもできなかった。抱きしめてしまったら、もっと壊してしまいそうで。
どうして、こんなことになっているんだ。
静香は幸せじゃなかったのか。心さんは優しくしていたのではないのか。
零時
「……とりあえず、うちに入ろう」
静香
「う……うぁ……っ、ぁ…………」
返事はなかったが、このままにもしておけない。
少し強引にだが、その身体を引っ張って部屋へと連れて行くことにした。
《自室》
着ていた服を脱がし、シャワーを浴びせ、身体を拭いて俺の服を着せる。
その間静香はされるがままで、瞬きだけが生きていることを教えてくれた。
零時
「どうしたんだよ……話すこと、できるか?」
静香
「…………背中を……見られた」
零時
「それで、まさか心さんの記憶が……?」
静香は弱弱しく首を振る。
静香
「ちがう……あのひとは、やさしかったよ……しんぱいして、くれた……」
静香
「だれが、やったんだって……」
零時
「な、んだよ……それ……!」
頭が一瞬にして怒りに支配される。冷静になんてとてもなれなかった。
零時
「誰がって、あんただろうが! ふざけんなよ! 散々痛めつけといて何を……!」
静香
「でも……仕方ない、ことだ」
零時
「何がだよ!」
静香
「あの人に記憶が無いのは、あの人のせいじゃない……」
零時
「あ……」
そうだ……それは、俺のせいじゃないか。
俺の力が心さんから男だった静香を消してしまった。静香の事を忘れさせてしまった。
俺が……悪いのか…………
静香
「僕は……永い間、あの人と仲良くなるために努力していた」
おかあさん、おかあさん。小さな静香がそう言葉をかけるたび、母は怖い顔で睨む。
少しでも手を触れたなら、汚らわしい、触るなと家具や物で叩かれる。
あんたなんか嫌い。男なんて嫌い。産まなければよかった。
静香は叩かれるのは自分が悪いからだと信じて、ごめんなさいと謝り続けた。
母が落ち着いている時は、学校であった出来事のような平凡な会話を語り続けた。
返事なんかない。返ってくるとしたら、冷め切った視線と暴力だけ。
そんな日々を十年以上続けて、それでも静香の願いは届かない。
静香
「今の母さん中に、あの頃の僕はいない……頑張っていたことすべて、なくなっている」
静香
「そして今の僕ですら、いない」
静香
「努力は結果を残せなくても、何かしら意味があるのだと信じていたけど、違ったんだな」
静香
「あの頑張りに意味なんかなかった……十五年以上のすべてが無駄だった……」
そんなに悲しいことが、真実だった。
子供の頃の静香の行いには、意味なんてない。
自分の人生のほとんどを費やしてした努力は、無駄でしかない。
静香
「だから、魔法なんてものにあっさりと負けてしまう」
静香
「生きていたこと全部が無駄だったなんて、気づきたくなかった……」
人はよく「生きる意味」を探す。そんなものがなくたって生きていけるのに。
でも、静香には「生きていた意味」がない。
それがなければ、人は生きていけない。
静香
「零時……僕は、だれだ?」
零時
「静香は……せいかだろ」
静香
「うん。そうだな……だれなんだろうな、せいかって」
もう、俺の言葉も届かなくなってきている。
静香はこんな思いを十何年もし続けてきたってのか……
ずっと近くにいたけれど、俺はその辛さを全然分かってやれてなかった。
静香が幸せになればいいとか……分かったようなつもりで言っていた。
静香
「ずっと思い描いていた幸せな家庭すら嫌がって逃げて……意味が無い上にばかなのか、僕は」
静香
「幸せなはずなのに……これでよかったのに……」
幸せな、はず……? これでよかった……?
零時
「……違う」
この壊れきった姿を見て、ようやく俺はしてきた間違いに気づけた。
零時
「幸せなはずって、そんな風に言ってる時点でおかしかったんだよ」
温かい家庭が必ずしも幸せになるわけじゃなかった。
ずっと求めてきたものを得ることが、幸せになるわけじゃなかった。
幸せは定義されたものじゃない。
俺達が、自分で決めて、掴み取るものだ。
零時
「俺も、こうすればお前が幸せになるんだって自分に言い聞かせてた。誤魔化そうとしてた」
零時
「俺らは二人して、本当にしなきゃいけなかったことから逃げてたんだよ」
零時
「目の前の、見せ掛けだけの幸せに逃げ込んで」
見せ掛けだけの幸せは、優しく優しく静香を蝕んだ。
見えないところからじわじわと溶かして、簡単に壊れてしまうくらいに。
静香にその幻を見せてしまったのは俺だ。
でも、それを見せないように防ぐことはできたはずだ。
俺はそこから逃げていた。
今度は逃げない。心さんになんか任せない。俺がするべきことをする。
俺が静香の逃げ道を塞いで、一緒に前に進むために支える。
零時
「お前、心さんに言ったのか。自分の思ってること」
静香
「え……」
零時
「これが幸せだからとか理由つけて押さえ込んでることがあるだろ。それ、心さんに言ったことあるか」
静香
「押さえ込んでる、こと……」
思い当たるものがあるのだろう。静香の目に少しだけ戸惑いが映る。
静香
「い、言えないから押さえ込むのだろう。言ってしまったら、もうあの母さんは……」
零時
「押さえ込んでるから幸せじゃねーんだろうが! 心さんがお前を見てないのは、お前が自分のことを伝えないからだ!」
零時
「静香はいないんじゃない、お前が静香を隠してるんだ!」
静香
「僕が…………」
静香
「でも……それを伝えて、母さんが全部思い出したらどうする」
静香
「また敵でも見るかのような目で見られろというのか……あんなのはもういやだ。たくさんだ」
零時
「その時は……俺がお前を殺してやる」
静香
「え……?」
零時
「きっとお前は一生そのことを引きずって生きるだろ。そうなったら、俺にはもう幸せにしてやれない」
零時
「お前を苦しませないよう、心中してやるよ」
静香
「本気で……言っているのか?」
零時
「冗談でんなこと言うか。お前だって、それが一番いいって分かってるだろ」
静香
「………………」
静香
「……そう、だな……生きていた意味がないのだから、死んだところで何も変わらないか」
全てを投げ出したかのような返事。
それでいい。全てを投げなければ、向き合えない事がある。
零時
「静香」
静香
「…………」
零時
「俺を殺さないでくれよ。大好きだ」
静香
「…………考えておく」
これで俺はもう逃げられない。
静香が前を向くまで、何度だって言葉をかける。
零時
「今日は泊まってけ。お前の家には母さんから連絡入れてもらう」
静香
「ああ……」
この日、俺は静香と同じ布団で寝た。
ぴったりと背中をくっつけて、向き合うことはなかった。
ゲームテキスト形式なので背景やキャラ名の指定が残っています。
原作ゲームは18禁ですが、今作は18禁シーンを削除し全年齢版として公開します。
PCを持っていない方のために、同じく全年齢版の体験版プレイ動画もございます。
詳しくは「はとごろTIMES」のホームページをご覧下さい。
また、漫画も投稿しています。そちらも是非ご覧下さい。
《早乙女家・風呂場》
自分の家の風呂場は、何故か居心地が悪かった。
いつものようにシャワーで済ませて早々に出る。
静香
「あれ……」
いつもバスタオルをしまっている場所が空っぽになっていた。
どうしようかと迷っていると、脱衣所の扉が開けられ母さんが入ってくる。
心
「ごめんなさいしずか。今日バスタオルをしまい忘れて……」
静香
「――――ッ!」
咄嗟に母さんと対峙するように向き直るが、遅かった。
母さんは目を見開き、持っていたバスタオルを落とす。
見られた。あの痣だらけの背中を。
この人につけられた、忌み嫌われていた証。
心臓がバクバクと音を鳴らす。逃げ出したいけれど、扉は母さんで塞がれている。
こればかりは、さすがに記憶を刺激するのではないか……そう思うと恐ろしくて声すら出なかった。
母さんが歩み寄る。思わず身体が震える。
けれど、僕が思っていたようなことは起きなかった。
心
「…………」
母さんは黙って、バスタオルを拾って僕の身体を優しく拭いた。
それから簡単に服を着せて、優しく僕を抱きしめた。
心
「ごめんなさい……全然、気づかなかった」
静香
「……?」
心
「どうして黙っていたの。そんなに痕が残るなんて、酷いことをされたんでしょう?」
心
「一体、誰がそんなこと……」
頭の中で、何かが音を立てて割れた気がした。
身体を心配してくれる優しい母。全身で感じるやわらかい温もり。
すべて、すべて、しあわせなもの。
その幸せが、ガンガンと僕の頭を叩いて、砕こうとする。
静香
「う……ぁ…………」
これでいい……?
いやだ。
静香
「あ、あぁ……ううぅっ……」
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ。
静香
「うあああああああああああっ!!」
温かいそれを突き飛ばし、とにかく逃げたくて駆け出した。
《住宅街》
外は雨が降っていた。そんな中を、傘もささず靴も履かずに走った。
母さんの記憶が戻らなくてよかった。嫌だった。
しあわせだった。いやだった。
何かを考えることが苦痛で、嫌で、ただ走ることだけ考えた。
どこに行こうとしているのかなんて分からない。
考えたく、ない。
《自宅・居間》《零時視点》
何もする気になれず、一人リビングでボーっとする。外からはザアザアと雨の音が聞こえていた。
零時
「……静香」
気がつくと静香のことばかり考えている。
いつだったか、あいつは俺無しに生きられないと言っていたけど、それは俺も同じだった。
静香に会いたい。
会って……どうするんだろう。俺がしてやれることなんて無い。
あいつが手に入れたかったものはもう、そこにあるんだ。
零時
「今度こそ、本当に用なしだな……」
この家で静香と暮らすことも、もうないのだろうか。
きっと俺の存在は心さんには認められない。このまま付き合い続けるのも難しくなるだろう。
零時
「女々しすぎだろ、俺……」
自分の情けなさに腹が立つが、どうしようもない。
そんな時、玄関から来客を告げる音がした。
零時
「――――ッ!?」
インターホンの音で飛び起きる。もう遅い時間だ。思い当たる来客は一人しかいない。
零時
「静香……っ!」
玄関の扉を開け、言葉を失った。
零時
「せい、か……」
静香
「零時……零時、零時、しょうご……!」
ずぶ濡れで、Yシャツだけの静香。靴すらはいていない。
どうしてそんな格好でとか、傘も差さずにどうしたとか、そんなことを聞くことすらできない。
静香は俺を見るなり飛びついてきて、俺を呼び続けた。
静香
「しょうご……うぁ、あぁぁ……しょう、ご……」
まるで壊れた玩具みたいに、零時と繰り返す。
俺にはなにもできなかった。抱きしめてしまったら、もっと壊してしまいそうで。
どうして、こんなことになっているんだ。
静香は幸せじゃなかったのか。心さんは優しくしていたのではないのか。
零時
「……とりあえず、うちに入ろう」
静香
「う……うぁ……っ、ぁ…………」
返事はなかったが、このままにもしておけない。
少し強引にだが、その身体を引っ張って部屋へと連れて行くことにした。
《自室》
着ていた服を脱がし、シャワーを浴びせ、身体を拭いて俺の服を着せる。
その間静香はされるがままで、瞬きだけが生きていることを教えてくれた。
零時
「どうしたんだよ……話すこと、できるか?」
静香
「…………背中を……見られた」
零時
「それで、まさか心さんの記憶が……?」
静香は弱弱しく首を振る。
静香
「ちがう……あのひとは、やさしかったよ……しんぱいして、くれた……」
静香
「だれが、やったんだって……」
零時
「な、んだよ……それ……!」
頭が一瞬にして怒りに支配される。冷静になんてとてもなれなかった。
零時
「誰がって、あんただろうが! ふざけんなよ! 散々痛めつけといて何を……!」
静香
「でも……仕方ない、ことだ」
零時
「何がだよ!」
静香
「あの人に記憶が無いのは、あの人のせいじゃない……」
零時
「あ……」
そうだ……それは、俺のせいじゃないか。
俺の力が心さんから男だった静香を消してしまった。静香の事を忘れさせてしまった。
俺が……悪いのか…………
静香
「僕は……永い間、あの人と仲良くなるために努力していた」
おかあさん、おかあさん。小さな静香がそう言葉をかけるたび、母は怖い顔で睨む。
少しでも手を触れたなら、汚らわしい、触るなと家具や物で叩かれる。
あんたなんか嫌い。男なんて嫌い。産まなければよかった。
静香は叩かれるのは自分が悪いからだと信じて、ごめんなさいと謝り続けた。
母が落ち着いている時は、学校であった出来事のような平凡な会話を語り続けた。
返事なんかない。返ってくるとしたら、冷め切った視線と暴力だけ。
そんな日々を十年以上続けて、それでも静香の願いは届かない。
静香
「今の母さん中に、あの頃の僕はいない……頑張っていたことすべて、なくなっている」
静香
「そして今の僕ですら、いない」
静香
「努力は結果を残せなくても、何かしら意味があるのだと信じていたけど、違ったんだな」
静香
「あの頑張りに意味なんかなかった……十五年以上のすべてが無駄だった……」
そんなに悲しいことが、真実だった。
子供の頃の静香の行いには、意味なんてない。
自分の人生のほとんどを費やしてした努力は、無駄でしかない。
静香
「だから、魔法なんてものにあっさりと負けてしまう」
静香
「生きていたこと全部が無駄だったなんて、気づきたくなかった……」
人はよく「生きる意味」を探す。そんなものがなくたって生きていけるのに。
でも、静香には「生きていた意味」がない。
それがなければ、人は生きていけない。
静香
「零時……僕は、だれだ?」
零時
「静香は……せいかだろ」
静香
「うん。そうだな……だれなんだろうな、せいかって」
もう、俺の言葉も届かなくなってきている。
静香はこんな思いを十何年もし続けてきたってのか……
ずっと近くにいたけれど、俺はその辛さを全然分かってやれてなかった。
静香が幸せになればいいとか……分かったようなつもりで言っていた。
静香
「ずっと思い描いていた幸せな家庭すら嫌がって逃げて……意味が無い上にばかなのか、僕は」
静香
「幸せなはずなのに……これでよかったのに……」
幸せな、はず……? これでよかった……?
零時
「……違う」
この壊れきった姿を見て、ようやく俺はしてきた間違いに気づけた。
零時
「幸せなはずって、そんな風に言ってる時点でおかしかったんだよ」
温かい家庭が必ずしも幸せになるわけじゃなかった。
ずっと求めてきたものを得ることが、幸せになるわけじゃなかった。
幸せは定義されたものじゃない。
俺達が、自分で決めて、掴み取るものだ。
零時
「俺も、こうすればお前が幸せになるんだって自分に言い聞かせてた。誤魔化そうとしてた」
零時
「俺らは二人して、本当にしなきゃいけなかったことから逃げてたんだよ」
零時
「目の前の、見せ掛けだけの幸せに逃げ込んで」
見せ掛けだけの幸せは、優しく優しく静香を蝕んだ。
見えないところからじわじわと溶かして、簡単に壊れてしまうくらいに。
静香にその幻を見せてしまったのは俺だ。
でも、それを見せないように防ぐことはできたはずだ。
俺はそこから逃げていた。
今度は逃げない。心さんになんか任せない。俺がするべきことをする。
俺が静香の逃げ道を塞いで、一緒に前に進むために支える。
零時
「お前、心さんに言ったのか。自分の思ってること」
静香
「え……」
零時
「これが幸せだからとか理由つけて押さえ込んでることがあるだろ。それ、心さんに言ったことあるか」
静香
「押さえ込んでる、こと……」
思い当たるものがあるのだろう。静香の目に少しだけ戸惑いが映る。
静香
「い、言えないから押さえ込むのだろう。言ってしまったら、もうあの母さんは……」
零時
「押さえ込んでるから幸せじゃねーんだろうが! 心さんがお前を見てないのは、お前が自分のことを伝えないからだ!」
零時
「静香はいないんじゃない、お前が静香を隠してるんだ!」
静香
「僕が…………」
静香
「でも……それを伝えて、母さんが全部思い出したらどうする」
静香
「また敵でも見るかのような目で見られろというのか……あんなのはもういやだ。たくさんだ」
零時
「その時は……俺がお前を殺してやる」
静香
「え……?」
零時
「きっとお前は一生そのことを引きずって生きるだろ。そうなったら、俺にはもう幸せにしてやれない」
零時
「お前を苦しませないよう、心中してやるよ」
静香
「本気で……言っているのか?」
零時
「冗談でんなこと言うか。お前だって、それが一番いいって分かってるだろ」
静香
「………………」
静香
「……そう、だな……生きていた意味がないのだから、死んだところで何も変わらないか」
全てを投げ出したかのような返事。
それでいい。全てを投げなければ、向き合えない事がある。
零時
「静香」
静香
「…………」
零時
「俺を殺さないでくれよ。大好きだ」
静香
「…………考えておく」
これで俺はもう逃げられない。
静香が前を向くまで、何度だって言葉をかける。
零時
「今日は泊まってけ。お前の家には母さんから連絡入れてもらう」
静香
「ああ……」
この日、俺は静香と同じ布団で寝た。
ぴったりと背中をくっつけて、向き合うことはなかった。
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