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分かれ路
しおりを挟むマジでヤバい。ヤバい。どうしよう。
人を撥ねた。
頭がぐるぐるして上手く考えられない。こういう時って救急車だっけ? いや、事故起こした訳だし、警察が先だったかな。どうだっけ……!
付近は空き地や草むらばかり。助けを呼ぼうにも人通りはゼロ。唯一の建物は、T字路の角にぽつりと建つデカい空き家だ。
空き家を囲うブロック塀を恨めしげにチラ見する。灰色の壁は、知らん顔でただその場に立ち続けていた。
今朝、共働きの両親が出かけた後のリビングで、私は食パンを焼きながら居眠りしてしまったらしい。いっけなーい! 遅刻遅刻!! と思いながら真っ黒のパンを咥えて家を飛び出し、どうせド田舎だからと全速力で自転車を走らせた。
結果、曲がり角で人を吹き飛ばす。
私は前カゴが少しひしゃげた程度で済んだけど、倒れた男性の頭からはだらだらと血が流れている。引き締まったスーツ姿で、よく見れば中々のイケメンだ。
ぶつかったのが自転車でなければ、少女漫画のようなラブコメが始まったかもしれないのに。
狼狽えているうちに相当な時間が経っていたらしい。気づけば男性は転がったまま、電話で迎えの車を呼んでいて、そのまま去ってしまった。
私は高校へ電話し、正直に「食パン焼きながら寝ちゃいました」と伝える。 無事にガチギレされた。ぴえん。もう帰る。喉がずっと震えてる。
悲しみのあまりか、倒れた自転車が視界に入るたびにさっきのイケメンが頭に浮かぶ。
「あれ、力が入らない……」
思い出すだけで背中がぞくぞくして、腰が抜ける。
これは……まさか、恋!?
そんな馬鹿なことを考えてたら、気づけば私は自転車を忘れて家に帰ってしまっていた。
※
数日後の通学時間。
T字路を曲がると目の前に、スーツを着た大柄の男性が三人立っていた。うち一人は中々のイケメンで、頭に包帯を巻いている。
背後には、黒塗りの高級車が二台。
あっ……。
終わった。報と復の二文字が書かれたプラカードが頭の中でくるくる回る。これはきっと……ボコられる。助けを呼ぼうにも人通りは皆無だし、今日は徒歩だ。逃げれる訳ない。
血の気が引いてゆく中で、男性の大きな声が轟いた。
「先日はすいやせんっした!! 嬢ちゃん、怪我はありやせんでしたか!?」
「……えっ、えっ? あ、貴方こそ……」
「俺は鍛えておりやす。掠り傷のようなモンですぜ」
包帯の男が頭を下げる。私はひたすら困惑していた。
無傷であることを何とか伝えると、後方にいた二人がなぜか自転車を差し出してきた。なんか、私が乗ってたやつにそっくり。
「自転車は弁償させていただきやした。ご無事でホッとしやしたぜ」
歯を見せて笑う彼の姿に、思わず胸が高鳴った。
彼らは車に乗り込んで、やがて道路の先へと去ってゆく。
私は自転車のハンドルを握りしめ、道路の先をしばらく眺め続けた。
「……素敵な人だったなぁ。うへへ」
「ご、ご機嫌だね……」
帰宅した姉から不気味そうに声をかけられた。しんどい。せっかくトラウマを克服したのに。
「なくした自転車が見つかったの。すごい素敵なイケメンが届けてくれて」
「あー。よかったね。あんた異常なほど落ち込んでたから」
姉に例のイケメンについて話をする。そこへちょうどタイミング良く、そっくりな顔の男性がテレビに映った。
「そうそう! こんな顔!」
テレビでは、暴力団幹部が殺人および拳銃所持で逮捕された旨が報道されていた。なにやら最近仲間内で抗争が起きたようで、そこから警察が情報を得たとかなんとか。
あと隠れ住んでた空き家から、壊れた自転車が一台押収されたらしい。
あっ……。
これ本当に、人生終わってなかった方が奇跡では?
押し殺してた恐怖と後悔が復活する。
安全第一。うん、徹底しよう。
応援ありがとうございます!
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