白き時を越えて

蒼(あお)

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第3章:すれ違う心

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私より先に、綾は戻ってきていたようだ。
寝る支度をしている。

「いやー、今日の話はびっくりしちゃったね」
その割には、いつも通りの笑顔だ。

「……うん、そうだね」

「華菜って悲劇のヒロイン一歩手前なんだねぇ。
 そんなことは、この中井 綾が許さないけど」

「ありがとう」

「あれ? 何かあった?」
私の話し方が、ふわふわとしていて
安定しないからだろう。
綾が心配して、私の顔を覗き込んだ。

「……うん」
「言えることなら言ってみて?」
綾は、いつものようにお姉さんモードだ。
疲れたなら、全部話してしまえばいい、と言う。

話すことで、余計疲れることもあるけど……
でも、綾の言っていることが
間違っているとは思わない。

「ごめん、今は言いたくないかな」
「そっかー。じゃあ私が話してもいい?」
綾はすぐに、話を切り替えた。

「うん」
私は相槌を打つ。

「ああ、真面目に聞かなくてもいいからね。
 誰かに聞いて欲しいだけだし」
「……うん」
知ってる。
……貴女がそういう人だって、ちゃんと知ってるよ。
大丈夫。


「私ね、実は最初から知ってたの。
 私は失踪して、行方不明になる、って。
 私が原因で華菜が死んじゃうって話を……
 千秋さんが教えてくれてたの。
 千春さんと空山さんには内緒で」

「どのみちそうなるのなら、
 先に来た方が事情を知っていた方が
 混乱が少なくて良いと思う、って」
ああ、千秋さんらしいなぁ。
会って間もないけど、そう思う。

「最初は信じられなかったけど、
 華菜がここに来たから、実感が湧いた。
 ああ、そういうことか、って。
 それまでの私、わけがわからなくて、
 気持ちが全然落ち着かなかったんだ」
「大変だったね……」
私には最初から綾がいた。
でも、綾は2週間も、ひとりで耐えた。

「“ぶれない存在”って話、覚えてる?」
「ああ、そういえば……」
綾にとっては私がそうなのだと、
千秋さんが言ってたっけ。

「やっと詳しい話も聞けたことだし
 そのことを千秋さんに
 詳しく聞きに行ったんだけどね、
 あれって半分は嘘だったんだって。
 私を納得させるための。
 じゃないと、私が帰りたがるだろうから、って」
そういえば、
そのことについて説明するときの千秋さん、
ちょっと不自然だったかも。

「最初の、そして最大の目的が
 華菜と私の確保でしょ。
 それしか考えてなかったから
 私には華菜を待つ理由が必要だった」

「でも、華菜がいつさらわれるのか、
 それともあの世界では
 そんなことにはならないのか……
 それは、予想も付かないことで。
 だったら、私を引き留めるしかない」

「酷い嘘をつくなぁ、って思ったけど
 もし華菜がさらわれなくても
 それなりに面倒を見るつもりだった、って
 言ってくれたし、許すことにした!」
綾らしいなぁ。

「それにね、思うんだ。
 千秋さん達が本当に助けてあげたいのは
 きっと柊さんだって」
……そうかもしれない。
見知らぬ私に親近感を抱いていた、と
言っていたけど
それだって、別の私が柊さんを少し変えたからだ。

「あとね、もうひとつ思うんだ。
 “ぶれない存在”のもう半分は嘘じゃない。
 それを華菜は私の前で証明した。
 ……それが、私がここに留まろうと思えた、
 最大の理由」
「……え?」
どうしてそこで、私が出てくるかな。

「千春さん達が帰ってくる前、
 ばっちりしっかり証明したじゃん。
 あんなの見たら、自分のことばかり
 考えてなんかいられない」
そういえば……勢いだけで、
なんか凄いこと言っちゃったような、
やってしまったような……。

「本当は家族のことが心配だし
 学校のことも気になるけど……
 今は、気にしないでおこうって。
 目の前の問題に集中しようって思ったんだ」
「うん……」
私の頭の中は、今それどころじゃないけれど。
綾はいつも、私の前を歩いていくなぁ……。

「で、やっぱり思うんだ。
 来年死んじゃうのを受け入れてるのが
 一番悲しいって」
「……あ」
確かに、そうだ。
何も思いつかなければ、その時には
諦めて元の世界に帰してくれると
言っていたけど……そうなるということは
あの人達が死んでしまうということ。

「だから、まずは知ろうよ。
 あの人達のことをさ。
 そして、考えよう?
 あの人達が、死なずに済む未来!」
明るい笑顔で、綾が言う。

「……そう、だね」
「うん、うん。
 華菜が賛成してくれて良かった」
綾は本当に嬉しそうだ。

元の世界で、
私には綾しかいなかったのと同じように、
この世界では……
綾には私しかいないのかもしれない。

「……理由はどうあれ、
 ずっと見守ってきてくれた人達だし」
「そう! 私もそう思ってた!」
恩返し、するべきかもしれない。

「あと1年もあるんだし!
 華菜が死なない未来と、
 みんなが死なない未来。手に入れようね」

「……綾、自分が失踪しない未来もだよ?」
「あ、そうだね」
私が呆れた声で言うと、綾は照れた顔をした。
そもそも、別の私が死んだ発端も
綾が失踪したことらしいではないか。

うん、頑張ろう。
柊さんのことは、許せない部分もあるけど
それはそれ、これはこれ。

今の話で…再会したとき、
綾の様子がおかしかった理由もわかった。

そうだ、頑張ろう。
本当の意味で前が向けるように
私も、みんなも変われたらいいな。
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