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冒険者編
第86話 鍛治師
しおりを挟む「簡単な話だと言っている!その剣を俺に売ればいいんだ!金なら出す!お前も商売だろ!」
「こっちも簡単な話だ!俺の傑作をてめぇなんざに売りはしない!お断りだ!帰れ!」
「クソッ!覚悟しろじじい!こんなボロ店すぐに潰してやる!」
「やってみろ小僧!」
何か喧嘩してんな。
話の内容から察すると、ドワーフが作った剣を買おうとした青年が断られたところかな?
それにしては会話がヒートアップしてる気もしなくはないが、よほど断られたのが恥だったんだろう。
「どうする?また来る?」
「そうだな……ただ、店のものを見るくらいだったらいいんじゃないか?それとも何か頼むつもりだったか?」
「いや、僕は特に……ただ一応さっきの件には触れないよう気をつけとこう」
「あぁ、なにも見てないように振る舞っといたほうがいいだろうな」
ドワーフが「二度と来るな!」と青年を追い返し、また店の中に戻っていくのを確認してから何事もなかったように鍛冶屋に向かって歩き出す。
鍛冶屋自体の外装は飾りもなにもなく、道に面した窓もない。ただ『鍛冶屋』と書いた看板と、質素な扉が一つあるだけ。中からはカンッ、カンッとリズムよく鉄と鉄を叩きつける音が響いてきている。
「期待できるような外装だな」
「そう……かな?なんか質素で貧しい感じがするけど……」
「いや、“下手で売れない鍛治師”ってことはないと思うぞ。さっきのエプロンの皮は良いものだった。それに、人は才能があるほど何かに特化する。それ以外のことが目に入らなくなることが多い。店の外見なんて気にしてる暇があったら鉄を打ってるだろう」
「そうなんだ」
天才も所詮は人間。欠点、短所は存在する。
エジソンは自分と反対していた人間の発明の危険性を示すためその発明で動物園の象を公開処刑したし、フロイトはノーベル賞を“人格に問題があるため”、何度も逃している。
天才や偉人に問題があるのは一般人と一緒。それをかき消せるほどの実績を出すことでようやく歴史に名を残せるようになれるのだ。もちろん、それほどの実績を得るには何かに自分の全てを捧げることが必要になる。
「じゃ、入ろっか」
「あぁ」
そういってジオが扉を開けた瞬間、ものすごい熱量の壁が顔にぶつかった。早速、汗が一筋頰を這うのを感じながら店の中を見回す。
外見と同じく、内装も簡単なもので壁に沿って剣や防具、盾やその他多数の珍しい武器が並んでいて、奥には接客用のカウンターが一つ設けられていた。
「僕の剣より良いものもある……ノアの予想は当たってたみたいだね」
「あぁ、みたいだ。いい出来の品だな」
もちろん『カエルムの門』に入ってる師匠のアダマンタイトの刀には劣るが、ミスリルのロングソードからから合金のダガーみたいなものまで、幅広い種類の素材や型の刃が並んでいた。しかも割と上級の品だろう。
「中学生の俺が剣のなにを知っているのか」という話にもなるが、レイナ洞窟では今まで死んだ人たちの多種多様な武器を見てきた。地上に近づば近づくほど、より強い人の、より高級な武器が転がっているのを見てきたのだ。そういう意味ではある程度の武器の良し悪しが俺にはわかる。
ここのは……侍オーガの二段階上の黒蜘蛛と戦ってたエリアに落ちてた武器と同じぐらいの品質か。
そうだな……
「ジオ、剣買ってくか?」
「えっ?」
「その剣、ただの鉄だろ?刃こぼれが目立ってきてるし、特別な思い入れがないんだったら買い換えた方がいい」
「これは急いで訓練場から奪ってきた剣だし、それはそうなのかもしれないけど……」
「金ならあるぞ?」
「いや、そういうことじゃなくてね。ただこに並んでる剣がどれもパッとしな––––」
ジオが話し終える前に、店の奥から野太い声が響いた。
「帰ろつっただろがぁ!」
そのドッサリとした体格からは考えられないほどの爆発力で剣を振りかぶり駆けてきた、筋肉の塊。
「ノア!」
「はぁ、面倒な」
剣はそのまま俺の左肩から食い込み、袈裟斬りの軌道を描きながら進む。
しかし相手も流石に異常だと思ったのか、斬撃が心臓の斜め下を通ったあたりで驚いた声を上げながら思わず剣から手を離してしまった。
「なっ!?」
「あのー、大変申し上げにくいんですけど……多分、人違いです」
少し馬鹿にするような敬語で対応する。
「ノア!?」
「大丈夫大丈夫。剣が刺さっただけだから」
「剣が刺さっただけって!…………はぁ。まぁ、ノアだし」
「ため息つくなって。ジオもいずれ俺と同じぐらいの化け物にしてやるから」
「えぇ……」
完全に引いているジオを片目に、未だ放心している鍛治師のドワーフに向き直る。
まだ放心してるのか。人を殺しかけたのに呑気なやつだ。
「おーい?生きてるかー」
「あ、あぁ」
目の前で何回か指を鳴らしながら呼びかけると、ドワーフが反応した。
「ここの鍛治師のドワーフでいいな?」
「そ、そうだ、が……何か……」
やっと、さっき何をやったのかの自覚とともにドワーフの目に彩が戻るのと顔が真っ青になるのを見届けてから、質問を続ける。
「あんたは俺をさっきの青年だと思って襲いかかった、でいいか?」
「あぁ、だが、どうして?……いや、剣が刺さったままになっているが血がない、だと」
「そういうスキルツリーでな。傷は直した。服代は別に弁償してもらうが」
事実、俺が襲われた形跡は今となっては服に入った切り込みと、未だ胸に刺さる剣だけ。『完全再生』様々だ。
ちなみにこれは昨晩の盗賊狩りでわかったことだが、『2倍返し』でドワーフが死んでいないのは『完全再生』の再生速度が速すぎてダメージとして認識さていないからみたいだ。
『2倍返し』の発動条件が脳で痛みを感じることだとしたら、『超速再生』は神経が切られてから痛みを脳に伝達するまでの間に傷と神経を治していることになるようだ。
女神相手に『2倍返し』が使えなくなるのは残念だが、模擬戦でジオを殺す心配がなくなるし、良しとしよう。
「金ならいくらでも出す!本当にすまなかった!俺のしたことが、こんなもので許せる程度のものではないのは、分かっている!でも、この通りだ!」
そう言って土下座をするドワーフ。
「はぁ、だから面倒なんだよ。別に俺に敵意があった訳でもないだろうに、俺は服代さえ払ってもらえばいい」
「だ、だがっ––––!」
「それ以上は時間の無駄だ。……時は金なり。この程度のことにこれ以上時間をかける方が損だ。もういいだろ」
「じゃ、じゃぁ、せめて何かを持っていってくれ。なんでもいい。なんなら、店のもん全部持っていってもらっていい」
「お?」
これはいいかもしれないな。ジオの剣が無料で手に入る。
ここにある剣がどれもしっくりこないとは言ってたが、それは今持ってる剣も一緒だろう。ならば、まだ性能が上の方がいい。
「ジオ、剣を選んだらどうだ?」
「…………」
「ジオ?」
反応がないからと振り返ってみれば、そこにはジオが無言で俺の胸に刺さって剣を眺めている姿があった。
いや、これは……見惚れている?
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