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冒険者編
第85話 朝帰り
しおりを挟む「や、やめろ!お、おねが––––!」
「うるさい。喚くな。こっちは疲れてんだよ。死ね」
「がっ!」
盗賊の首がずり落ちる。
「はぁ、やっと終わったぁ!……ちょこまかと逃げおって、まったく面倒な奴らだったぜ」
俺はただいま、昨日の“影さん”達の最後の一人を処刑した。
「無駄な時間かけさせやがって。あぁ、二度とやりたくない」
昨日の午後に始めたと言うのに、すでに街には朝日が登ろうとしている。
ただ追いかけて殺すだけだったら、もっと終わるのが早かったかもしれない。
しかし、街の中なので全力で走ったら道や屋根が凹むし、本気で剣を振ったら近くの壁が風圧で裂ける。もちろん、俺がこんな芸当をできると知っているのはジオとゴジ、ギルマスと審判をやっていた受付娘ぐらいだけだ。
それでも何か自分に繋がる証拠を残すと後ほど問題になるかもしれないので、力を抑えなくてはならなかった。
その上で、誰かを捕まえたら、誰か他の人に俺のことを話したかを拷問で一々聞き出さないといけないから、実に面倒な作業だった。
しかし、それもなんとか終わり、ジオと泊まっている宿に足を向ける。
「ジオ達はまだ起きてないだろうな。そういや昨日、鍛冶屋に行くって言ってたな。何か旅に役立つものとかあったかな?」
それからしばらく歩けば、だんだんと街を歩く兵士が増えていることに気付く。
「朝の見回りにしては、多いな。普通の人もあまり見当たらない。どうしたんだ?」
まぁ、一応はとぼけてみたが、大体の理由には見当がついている。
俺だ。
昨日から今朝にかけてあれだけ騒いだんだ。そりゃあ、人も起きるし、悲鳴も聞こえる。なんなら死体は放置したままだから、視覚情報が増える分それだけ危機感があるわけだ。
銃も刀も使っていなければ、返り血を一切浴びない様にしたから俺につながる要素はないだろうし問題はないだろうが、出歩いているところを見られたくはない。
「よっと」
軽く飛んで近くの屋根に飛び乗れば、また宿に向かって歩き出す。
屋根が低いところだったら上を見ればすぐ見つかるが、今はそうはならない。
殺人鬼がこの街のどこかでうろついているのだ。いつ、どこで、姿を表すかわからない状態で、兵士の意識は目の前の空間に向けられる。相当な物音を立てない限り、上に目を向けることはないだろう。
「お、ついたな」
屋根上から見ると違和感があるが、確かに俺達が泊まっていた宿だ。
入口から入ると女将さんに見つかるのでさっと窓から入れば、椅子に座ったまま寝てしまっているジオと、ジオの足元で丸くなってるゴジが目に入る。
起こさない様、静かにベッドに腰かければ、ゴジが眠そうにあくびしてから辺りを見回す。
「流石に気付くか。やっぱりすごいな、野生の勘ってやつ。……ま、ともかく、おはようゴジ。よく寝れたか?」
「グルゥ……」
ジオを気遣ってか、ただ眠いのか、いつもの元気のある声と打って変わって、優しく返事するゴジ。
テクテクと歩いてきて、そのままベッドに飛び乗る。
そのままゴジとゴロゴロしながら時間を潰すこと30分。ようやくジオが起きてきた。
「ベッドで寝ればいいものを……俺が帰ってくるまで起きていようとしたのは嬉しいが、俺がなんとかすると言ったことはなんとかなるんだ。少しは信用してくれ」
心底残念だったかの様に言う。
「あ、いや、ごめん。でも、それでも、心配で……」
「ははっ!いい、いい。冗談だ。気にするな。この程度でどうこう言う俺じゃない。とりあえず、おはよう」
「あ、あぁ。……そう言うノアは何時に帰ってきたんだよ」
「大体30分ぐらい前かな?」
「え!?じゃ、寝てないの?」
「そうだな」
「“そうだな”って……大丈夫なの?疲れてるんじゃ……」
「ん?別に?洞窟にいた頃は時間感覚がなかったし、一ヶ月ぶっ通しで戦ったことだってある。1日寝てない程度、問題じゃない」
「そ、そうなんだ……」
想定外の答えに困惑するジオ。
ジオ、もう驚かないって言ってなかったか?……まぁいいが。
「そういや昨日、鍛冶屋でなんか見つけたか?」
「ん?あぁ、行ってないよ。あの後、行く気にもならなかったし」
「あぁ、なんかすまん……」
「いいんだよ。僕の気持ちの問題だから」
「じゃ、今日も時間があるし、図書館と合わせて行ってみるか?」
「うん。それがいいね。準備してくるよ」
「おう」
それからジオの準備が整うのを待って、いつものところで串焼きを買ってから、鍛冶屋に向かった。
「鍛冶屋ってどんなところなんだろ?」
「そうだね……僕も屋敷に引き籠らせられてたからあまり詳しくないけど……ドワーフがやってるところが多いって聞いたことがあるね」
「ドワーフか……やっぱり、新しい種族は新鮮だな」
「ノアの世界には、人間と動物しかいないんだっけ?でもその割には、僕を見た時驚かなかったよね?」
確かに、ハーフエルフのジオの耳はエルフにしては短いとはいえ、明らかに人間のものではない。初めて会った時も、すぐに異種族だと分かった。
「新鮮とは言ったが、驚くとは言ってないぞ。元いた世界にも、エルフや獣人、ドワーフの伝承とか物語とかはあったからな。ドワーフだって、大体のイメージがある」
「へぇ……どんな?」
「背が低くて、筋骨隆々。気難しい鍛治師だけど、認めてもらえれば最高の一振りを造ってくれる。あとは、肌が褐色で酒に強いことぐらいかな?」
「すごい……最高の一振りの部分はそのドワーフの技量によるだろうけど、ほとんど合ってるよ。でも、ただ……」
「確かに、あまりにも一致しすぎているな。少なくとも、誰かが考えた話が偶然一致したとは考えられないぐらいにはな」
「そうだね……つまり、ノアの世界にもドワーフがいたってこと?」
「かもしれないな。でも、今はあっちだ」
そういって俺が指をさした先にいたのは、剣士のような身なりをした青年と黒い鍛治用のエプロンをつけたドワーフが、目的の鍛冶屋の前で言い争いをしていた。
聞き耳をたてる。
「簡単な話だと言っている!その剣を俺に売ればいいんだ!金なら出す!お前も商売だろ!」
「こっちも簡単な話だ!俺の傑作をてめぇなんざに売りはしない!お断りだ!帰れ!」
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