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6 お手柔らかに

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 タイミング良く開始の時間が来たようで入口のドアが重厚な音を立てゆっくりと閉じる。


 さぁわたしの...わたしだけの戦いが始まる!

 エドガー様とエセ妹は邪魔以外の何者でも無いので口当たりの良い強い酒を盛った。
レイモンド流石。

この後もふたりにはどんどん飲んでもらおう。
レイモンドに指示を…まぁレイモンドのことだからすでに動いているだろう。


 ところでエドガー様はなぜか軽く捉えているらしく多分しっかりと読み込んでいないようだが、婚約の契約書には婚約を成立させるための条項が幾つも細かく記載されている。

あれにサインすれば完了なのではない。

そこがフィールディングの独特で面倒臭い婚約なのだ。

つまり記載内容をクリア出来なければ(仮)はいつまでも取れないばかりか状況次第では綺麗さっぱり白紙に戻る。
元から何も無かったことになる。

婚約破棄で傷が付くよりマシかと思えなくはないが、一瞬で今までの努力が無に帰すのもなかなか残念な感じだ。

つまりお試し期間…使えなかったらポイ捨てだ。フィールディング意外と鬼。

でもエドガー様は何も努力してないのだから問題無し!


 その条項の中にこの一回目のパーティーでの重要な役割の記載がある。
だから本当に読み込んでいるならこんな残念な状況になるはずが無いし、読んだ上でのコレなら意を汲もう。

どちらにしても既にわたしが出来ることは決まっている。


さて気合いだ!




「皆様!」

視線が集まる。高揚する。さぁ始めよう!


「本日はわたくしヴィクトリア・フィールディングの誕生を祝う会に遠路はるばるお越しいただき感謝申し上げます。
そして本日は皆様もよくご存知の通りフィールディングを継ぐことが決まりましたわたくしの記念すべき一回目の会でもあります。
どうぞ暖かい目でお見守り頂けますよう切にお願いいたします。

皆様どうぞ...」

ヴィクトリアはぐるりと全体を見渡し全ての方に視線を合わせると艶然と微笑む。

「お手柔らかに…」

深く美しい淑女の礼を取る。

温かい拍手と声援が与えられ出だしはなんとか好調のようだ。

「では皆様…グラスをお持ちください。
乾杯いたしましょう。...乾杯!」
「乾杯!」

 楽器の美しい音色に合わせるようにカトラリーの軽やかな音や楽しそうな話し声、笑い声がひとつの音楽のように聴こえて来る。

わたしはこの間に笑顔を貼り付けテーブルを縫うようにして挨拶に周る。
本来なら婚約者と一緒にお世話になる方々に挨拶するのだ。
それなのに今ヤツはのんびりと楽しそうだこと。こちらまで笑えてくる。
まぁせいぜいフィールディングでの最後の夜を楽しんでね♡





「ヴィクトリア穣!」

 ほぼご挨拶も済みホッと気を緩めたところ…
後ろから聞き覚えのある低く艶やかな声がかかり振り返る。


そこには思った通りの懐かしい笑顔があった…。

最後に会ったのは何時だったか。
少なくとも三年は会っていない。
見上げるほど高かった背は、わたしの背がずいぶん伸びても縮まらず少しも追いつけないままらしい。

経験を積むために諸国を周ると聞いていたが、随分と凛々しく逞しくなった彼に時の流れを思い知らされる。

けれど明るく澄んだ優しい紺の瞳はあの日のままで少年のようにキラキラと輝いていた。







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