不機嫌な茶博士<boy>

はなの*ゆき

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憂鬱な月曜日

ないわ……うん、ないね。

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 先週はホントに酷かった―――茶道部始まって依頼、と言っても過言じゃ無いだろうと思う程には。


 最初のお稽古の翌日から、3人の元には入部希望者が殺到した。

 もちろん、誰でもいいって訳じゃない―――なんて、婚活中のアラフォーみたいな思いが、ちらりと頭をかすめたのは確かだ。
 実際、入部希望でやってきたほとんどが2・3年生だったのだから、純粋に“茶道”に興味をもってやってきたなんて、美織自身も思わなかった。
 それでも、とりあえず入部してみて、「へ~、結構おもしろいじゃん?」と思って、吉岡先生が戻ってきても続けてくれる人が何人かでもいてくれたら―――と。

(客寄せパンダじゃないけど、吉岡先生がお詫びのつもりで寄越してくれたのかもしれないし!!)

 なんて都合よく解釈して、ひとまず希望者全員を受け入れたのだが、その人数たるや、マジでハンパなかった。

 何しろ六畳の茶室の中では収まりきらず、普段は使わない隣の十畳まで、襖を取り除いて開放した上で座ってもらい、それでも何人かはその隣の水屋にまではみ出した。もちろん、廊下にも立っている。
 当然、全員分のお菓子なんて準備出来るわけも無く、とりあえず講師である彼が来てから、どう対応したらいいか相談する事にしたのは、少なくともこの時点まで、美織にとって彼は、吉岡先生と同じ“師匠センセイ”という括りだったからだ。

 というのも、初日の彼はこちらが気後れする程の美貌の持ち主ではあったけれど、御曹司だからとステレオタイプに尊大な態度を取る事もなく、若干無愛想な感じは否めなくとも、終始礼儀正しく接してくれていた。
 小柄でややぽっちゃり体型の美織は、小学校の頃それをからかわれて以来同年代の男子が苦手で、それもあって中学からこの女学院に入っていたのだが、彼の距離感や年下とは思えない程の落着きに安心感を覚えていたのだ。
 だから、きっとせんせいなら上手く対処してくれるはずだ―――と。

 だが、事はそう簡単にはいかなかった。

 が茶室に姿を見せた途端、「キャー!!!」と、所謂黄色い声が上がった。
 まるでアイドルの握手会場もかくやといわんばかりの熱気に、本来の部員である3人は唖然とした。
 その位の凄まじさだった。

「マジ、王子~っっ」
「いや~っっ」
「今の見た?背ぇ高~っっ」

 と、訳の分からない声を上げながら、食い入るように―――というか、ホントに食いつきそうな勢いで、皆一様に目を爛々と輝かせている。
 もし自分だったら、回れ右して速攻部屋を出るだろうと思うのに、彼は慣れているのか、眉一つ動かさずにぐるりと顔を巡らせて、こっちを見た。

「神崎さん」
「はっ、はいっっ」

 呼びかけられた途端、美織に視線が集まり、その鋭さに息が止まりそうになる。
 いやいや、私、部長なんですっっ!!

「この人達は一体どうされたんですか?」
「あ、あの…皆さん、入部希望で…」

 そう言いかけた美織の声を、甲高い声が遮った。

「ハイ、ハイッ、センセー、しつもーん!」
「きょーはSP居ないんですか~?」
「ベ○ツ待機~?」

 矢継ぎ早に上がる質問に、彼の目が細まる。

「センセー、1年生ってマジで?」
「彼女いるんですか~?」
「バッカ、王子だよ?婚約者がいるに決まってんじゃん~」
「えー、それでもいー」

 アハハ~という笑い声に、美織は呆然となった。

(どうしよう、これ、どうしたら……)

 「せんぱい…」と両隣の2人が小さな声で呼び掛けるのも聞こえないぐらい、頭の中がぐるぐると渦巻いて、微かに体がふらついた、その時だった。

 ―――パンッ!!!

 と、大きな音が室内に響いた。
 見れば、彼が掌を撃ち合わせた様で、シン―――と静寂が落ちる。

「―――わかりました。」

 さっきまでとは明らかに違う、腹の底から響く低い声で言うと、彼は立ったまま半眼で、“自称新入部員”達を見下ろした。

「皆さん、入部希望ということで、よろしいですね?」

 ガラリと雰囲気の変わった彼の様子に、一部の「いや~っっ!S?S王子~?!」と逆に喜んだのを除いて、その場にいた部員3人を含むほとんどが息を飲んだ。

 だって、明らかに怒っている・・・・・

「では、稽古を始めましょう。まずは、全員三組に分かれて下さい。」
「あ、あの、遠野、先生…?」

 急な展開に思わず声をかけると、半眼のままで目を向けられ、美織は反射的にビクッと体を硬直させた。
 だが、彼は気にせず続ける。

「一組は“茶筅通ちゃせんとおし”を、もう一組は“袱紗捌ふくささばき”を練習します。神崎さん達がそれぞれ指導して下さい。残りは俺が・・、“お辞儀と歩き方”の練習をします。」
「あ…、は、はい。」
「では、始めましょう。」


 それは、おそらく彼が“ムチ”を持っていたら、ここでぴしゃりとやっていたのではないか―――という勢いだった。

 そして、言われるままに3組に分かれると、後で「ないわ~、あのセンセー、マジオニだよ。」と言わしめた稽古が始まったのである。

 ちなみに、彼が行ったのは“割稽古わりげいこ”と呼ばれるもので、初心者がまず初めに行う稽古として妥当なものではあった。

 なにも入っていない茶碗で茶筅という竹で作った泡立て器のような道具の使い方を練習するのが“茶筅通し”。
 お点前の最中に道具を拭いたり、炉に掛けられた茶釜の蓋を取ったりするのが“袱紗”で、その畳み方等を練習するのが“袱紗捌き”。
 そして、茶室に入る際にするお辞儀や畳の歩き方―――読んで字のごとしだが、これが一番問題だった。

「腰を浮かさずにお辞儀して下さい。」
「畳一畳を6歩で歩いて下さい。」
「柔道ではないので、がに股はやめてもらえますか?」
「畳の縁を踏まない。」
「背筋を伸ばして下さい。」
「足を崩して良いとは言ってませんが?」

 決して声を荒げることはないのだが、むしろ無表情なまま静かな低い声で言われ続ける方が怖いという事を、その場にいた全員がヒシヒシと感じていた。

 そしてこの3セットを順繰りに、部活終了までの2時間延々と行った結果、

「やっぱ、やめる~っっ」
「サド過ぎだよ~っっ」
「足、跡ついたじゃ~ん!」
「ないわ~っっ!」

 ―――と。

 “変なの”3人組以外の全員が、入部を撤回する事になったのであった。


 今日、部室にやって来て、あの3人組以外誰も来ない様子に、美織は心底ガッカリした。
 もしかしたら、芳華祭を待たなくても、部員獲得出来るんじゃないかという期待は、ほぼ打ち砕かれたのだ。

 そりゃ、皆が皆、ものになるなんて思ってた訳じゃ無いけど、それにしたってあんまりだと思う。
 もうちょっと愛想良くしてくれたって良かったじゃん?―――と思ったところで後の祭りだ。

 となれば、次にやることは1つだけだ―――芳華祭野点計画の遂行あるのみ。
 なのに、連休含めてもう1ヶ月近くお点前していないのだ。その事に、美織は焦りを感じずにはいられなかった。
 来週は中間テストで休み。
 週1しかないのに、こんな事をしていたら、芳華祭なんて直ぐだ。美織は意を決した。

「だからっ、あのっ、どうかっっ―――」

 お点前のお稽古を―――!!と。
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