雨に薫る

はなの*ゆき

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1.Cape jasmine

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 さああああ―――


 雨音が通り過ぎて、湿り気を帯びた風が頬の産毛を掠める。
 開け放した掃き出し窓の向こうから、濡れたアスファルトと草木の青い匂いと共に、微かに薫る甘い匂い。
 眼裏に、敷地内の植え込みで密かに咲いていた白い花が浮かんだ。

(くち、なし…?)
(うん)
(変な名前)

 そう言われれば、そうかも。

 目を閉じたまま、返事の代わりにふ、と笑った頬に、温かな手の平が触れる。
 すっぽりと顔半分を包み込む大きな手は、そっと動いて頬を撫でて―――




 ぶるり、と肩を震わせて目を開けた。

 薄闇の中に、リビングの白い壁と天井が浮かび上がっている。時計は19時を指していた。
 母は今日、少し遅くなると言っていたっけ。
 冷たいフローリングの床に横たわったまま、腕を上げて額に手の甲を乗せ、また目を閉じた。

「…ごはん、作らなきゃ…」

 小さな呟きは、静かに、1人の部屋の空気に溶けて消える。


 さああああ―――と。


 また、雨が通り過ぎた。
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