雨に薫る

はなの*ゆき

文字の大きさ
12 / 84
1.Cape jasmine

12

しおりを挟む
「…そんな事があったんだ…」

 なんだか遠い目をしながら、リツが言った。
 昼休憩、クラスにやって来たリツに、今日は天気がいいから外で食べようと言って連れ出された。どうも朝の事が、女子の間で噂になっているらしい。
 意外に―――と言ったら失礼かも知れないけど、ジンデ君は女子に人気があるのだそうだ。

 割と背が高く、1本芯が通ったような落ち着いた雰囲気が大人っぽいのだとか。正直、あんな事の後では、どこが?と言いたくなるけど。
 しかも、本人は誰にも言ってなかったのに、中学時代に全国大会でベスト8まで行ったピッチャーだったというのがばれて(?)からは尚更らしい。

「結構長いこと、熱心に口説かれてたんだよ。是非、その腕をウチでふるって欲しいって。」
「そうなんだ…ていうか、リツと同じクラスだったんだね。」
「…スミって、ホント、他の男子が目に入ってないよね。」

 どういう意味だろう?首を傾げると、苦笑を返された。

「まあ、ちょっと、基準がハイスペック過ぎるよね。」

 誰の事かと聞くまでも無くて、黙ったまま視線を逸らした。

 ハイスペック、か―――

 子供の頃はホントに小さくて、可愛い弟みたいに思ってた。今に思えば、それが良くなかったんだと思う。

「今日、ジンデに聞かれたよ。実際のとこ、どうなのかって。」
「どうって言われても…昨日、彼女だって言われたから、おかしいなとは思ったんだけど…」
「同中だと、そう思ってる人が大半だと思うよ。」
「え、なんで…?」

 だって、ナオと付き合ってた・・・・・・、という事実は無い。

「まぁ、結構進藤シンドーあからさまだったから…」

 言い方が悪いけど、というリツに目を見張った。だって、私とナオは、学校ではあまり話したりしてなかった筈だ。

 ―――雨の日、以外は

「んー、なんて言うかな…、態度?」
「態度?」
「うん」

 たまたま、だとリツは言った。
 自分では全く覚えてないけれど、階段で私がナオと話していたのを見かけた事があると。

「その時にね、大騒ぎしながら上がってきた男子達がいてさ、あー、ぶつかりそうって」

 そう言ったリツが、体操座りで頬杖をつきながら、思い出したように微笑んだ。

「全然、躊躇無かったんだよね。すごく当たり前みたいにさ、スミの背中にこう、腕を回して。…うん、引き寄せるっていうカンジ?すごい優しいなぁって思ったんだけど…」

 そこまで言って、リツはクスッと笑うと、意味ありげにこっちを見た。

進藤シンドーさ、スミを大事そーに自分の体の陰に庇って、どうしたと思う?」
「どうって…」

 そもそもその時の事を覚えて無い。
 大事そうに…は、見えるかもしれない。大きくなってからのナオは、ちょっと無愛想にはなったけど、中身は変わらなかった―――優しいのだ、昔から・・・
 でも、それ以外…って事だろうか?わからなくて首を傾げた私に、リツがなんとも言えない顔で笑った。

「スッゴイ勢いで睨んだんだよ、相手の事。もー、可哀想なぐらい、相手のコ怯えてた」
「睨んだって、…ナオが?」
「他に誰がいるのよ?」
「え、だって…、なんで?」

 実際にはぶつかって無いんだよね?
 意味がわからなくて戸惑っていると、リツがヤレヤレという様に眉を下げた。

進藤シンドー、一部で“ケルベロス”って言われてたんだよ?」
「ケルベロス?」
「そう、ギリシャ神話に出てくる、地獄の番犬」
「番犬?…なんでそんな…」
「なんでだろうねぇ、本人に聞いてみたら?」

 言われて黙り込んだ私に、リツがため息をついた。

「言いたくない事を聞く気は無いよ。でも、これだけは知ってて。」
「…何?」

 顔を上げてリツを見ると、リツは真っ直ぐに私を見つめていた。

「何があっても、私はスミの味方だからね?」

 その言葉に、唇だけで笑って返した。
 ホントの事を知ったら、そうは思ってくれないかもしれないけれど。




「深山さん」

 リツと別れて教室に入って直ぐ、近くで話していた女子の集団から声をかけられた。
 同じクラスだけど、話した事のないグループ―――いわゆるクラスカーストのトップにいるタイプの、キレイめな女の子達だ。

「何?」
「深山さんて、進藤君と別れたんだよね?」

 思わず瞬いたのは、彼女達の事を知らなかったからだ。同中だったっけ?ていうレベル。

「…別れるって…」
「3年の時にケンカしてたっぽくなかった?それで神田ジンデ君なの?」
「ケンカ…」

 歯切れの悪い私の態度に、話しかけてきた彼女が苛立たしげに髪をかき上げる。

「だからぁ、進藤君と別れたから、神田君に乗り換えたのかって、聞いてんのっ!!」

 キレた彼女に、思わず半眼になった。
 何言ってんの、コイツ。
 大きくため息をついて、睨みつけた。

「ナオは幼なじみ。付き合ってません。カンダ・・・君とも何も無いし、テキトーな事でっち上げるの、止めてくれない?」

 息を呑んだ集団を一瞥して、少し足音を立てる様に自分の席に着くと、気持ちを落ち着かせる為に、もう一度大きく息をついた。


 わかってる、そんな事、言われなくたってわかってる。
 あの日からずっと、ナオの優しさに甘え続けてた。



 悪いのは、私だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...