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1.Cape jasmine
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「…そんな事があったんだ…」
なんだか遠い目をしながら、リツが言った。
昼休憩、クラスにやって来たリツに、今日は天気がいいから外で食べようと言って連れ出された。どうも朝の事が、女子の間で噂になっているらしい。
意外に―――と言ったら失礼かも知れないけど、ジンデ君は女子に人気があるのだそうだ。
割と背が高く、1本芯が通ったような落ち着いた雰囲気が大人っぽいのだとか。正直、あんな事の後では、どこが?と言いたくなるけど。
しかも、本人は誰にも言ってなかったのに、中学時代に全国大会でベスト8まで行ったピッチャーだったというのがばれて(?)からは尚更らしい。
「結構長いこと、熱心に口説かれてたんだよ。是非、その腕をウチでふるって欲しいって。」
「そうなんだ…ていうか、リツと同じクラスだったんだね。」
「…スミって、ホント、他の男子が目に入ってないよね。」
どういう意味だろう?首を傾げると、苦笑を返された。
「まあ、ちょっと、基準がハイスペック過ぎるよね。」
誰の事かと聞くまでも無くて、黙ったまま視線を逸らした。
ハイスペック、か―――
子供の頃はホントに小さくて、可愛い弟みたいに思ってた。今に思えば、それが良くなかったんだと思う。
「今日、ジンデに聞かれたよ。実際のとこ、どうなのかって。」
「どうって言われても…昨日、彼女だって言われたから、おかしいなとは思ったんだけど…」
「同中だと、そう思ってる人が大半だと思うよ。」
「え、なんで…?」
だって、ナオと付き合ってた、という事実は無い。
「まぁ、結構進藤あからさまだったから…」
言い方が悪いけど、というリツに目を見張った。だって、私とナオは、学校ではあまり話したりしてなかった筈だ。
―――雨の日、以外は
「んー、なんて言うかな…、態度?」
「態度?」
「うん」
たまたま、だとリツは言った。
自分では全く覚えてないけれど、階段で私がナオと話していたのを見かけた事があると。
「その時にね、大騒ぎしながら上がってきた男子達がいてさ、あー、ぶつかりそうって」
そう言ったリツが、体操座りで頬杖をつきながら、思い出したように微笑んだ。
「全然、躊躇無かったんだよね。すごく当たり前みたいにさ、スミの背中にこう、腕を回して。…うん、引き寄せるっていうカンジ?すごい優しいなぁって思ったんだけど…」
そこまで言って、リツはクスッと笑うと、意味ありげにこっちを見た。
「進藤さ、スミを大事そーに自分の体の陰に庇って、どうしたと思う?」
「どうって…」
そもそもその時の事を覚えて無い。
大事そうに…は、見えるかもしれない。大きくなってからのナオは、ちょっと無愛想にはなったけど、中身は変わらなかった―――優しいのだ、昔から。
でも、それ以外…って事だろうか?わからなくて首を傾げた私に、リツがなんとも言えない顔で笑った。
「スッゴイ勢いで睨んだんだよ、相手の事。もー、可哀想なぐらい、相手のコ怯えてた」
「睨んだって、…ナオが?」
「他に誰がいるのよ?」
「え、だって…、なんで?」
実際にはぶつかって無いんだよね?
意味がわからなくて戸惑っていると、リツがヤレヤレという様に眉を下げた。
「進藤、一部で“ケルベロス”って言われてたんだよ?」
「ケルベロス?」
「そう、ギリシャ神話に出てくる、地獄の番犬」
「番犬?…なんでそんな…」
「なんでだろうねぇ、本人に聞いてみたら?」
言われて黙り込んだ私に、リツがため息をついた。
「言いたくない事を聞く気は無いよ。でも、これだけは知ってて。」
「…何?」
顔を上げてリツを見ると、リツは真っ直ぐに私を見つめていた。
「何があっても、私はスミの味方だからね?」
その言葉に、唇だけで笑って返した。
ホントの事を知ったら、そうは思ってくれないかもしれないけれど。
「深山さん」
リツと別れて教室に入って直ぐ、近くで話していた女子の集団から声をかけられた。
同じクラスだけど、話した事のないグループ―――いわゆるクラスカーストのトップにいるタイプの、キレイめな女の子達だ。
「何?」
「深山さんて、進藤君と別れたんだよね?」
思わず瞬いたのは、彼女達の事を知らなかったからだ。同中だったっけ?ていうレベル。
「…別れるって…」
「3年の時にケンカしてたっぽくなかった?それで神田君なの?」
「ケンカ…」
歯切れの悪い私の態度に、話しかけてきた彼女が苛立たしげに髪をかき上げる。
「だからぁ、進藤君と別れたから、神田君に乗り換えたのかって、聞いてんのっ!!」
キレた彼女に、思わず半眼になった。
何言ってんの、コイツ。
大きくため息をついて、睨みつけた。
「ナオは幼なじみ。付き合ってません。カンダ君とも何も無いし、テキトーな事でっち上げるの、止めてくれない?」
息を呑んだ集団を一瞥して、少し足音を立てる様に自分の席に着くと、気持ちを落ち着かせる為に、もう一度大きく息をついた。
わかってる、そんな事、言われなくたってわかってる。
あの日からずっと、ナオの優しさに甘え続けてた。
悪いのは、私だ。
なんだか遠い目をしながら、リツが言った。
昼休憩、クラスにやって来たリツに、今日は天気がいいから外で食べようと言って連れ出された。どうも朝の事が、女子の間で噂になっているらしい。
意外に―――と言ったら失礼かも知れないけど、ジンデ君は女子に人気があるのだそうだ。
割と背が高く、1本芯が通ったような落ち着いた雰囲気が大人っぽいのだとか。正直、あんな事の後では、どこが?と言いたくなるけど。
しかも、本人は誰にも言ってなかったのに、中学時代に全国大会でベスト8まで行ったピッチャーだったというのがばれて(?)からは尚更らしい。
「結構長いこと、熱心に口説かれてたんだよ。是非、その腕をウチでふるって欲しいって。」
「そうなんだ…ていうか、リツと同じクラスだったんだね。」
「…スミって、ホント、他の男子が目に入ってないよね。」
どういう意味だろう?首を傾げると、苦笑を返された。
「まあ、ちょっと、基準がハイスペック過ぎるよね。」
誰の事かと聞くまでも無くて、黙ったまま視線を逸らした。
ハイスペック、か―――
子供の頃はホントに小さくて、可愛い弟みたいに思ってた。今に思えば、それが良くなかったんだと思う。
「今日、ジンデに聞かれたよ。実際のとこ、どうなのかって。」
「どうって言われても…昨日、彼女だって言われたから、おかしいなとは思ったんだけど…」
「同中だと、そう思ってる人が大半だと思うよ。」
「え、なんで…?」
だって、ナオと付き合ってた、という事実は無い。
「まぁ、結構進藤あからさまだったから…」
言い方が悪いけど、というリツに目を見張った。だって、私とナオは、学校ではあまり話したりしてなかった筈だ。
―――雨の日、以外は
「んー、なんて言うかな…、態度?」
「態度?」
「うん」
たまたま、だとリツは言った。
自分では全く覚えてないけれど、階段で私がナオと話していたのを見かけた事があると。
「その時にね、大騒ぎしながら上がってきた男子達がいてさ、あー、ぶつかりそうって」
そう言ったリツが、体操座りで頬杖をつきながら、思い出したように微笑んだ。
「全然、躊躇無かったんだよね。すごく当たり前みたいにさ、スミの背中にこう、腕を回して。…うん、引き寄せるっていうカンジ?すごい優しいなぁって思ったんだけど…」
そこまで言って、リツはクスッと笑うと、意味ありげにこっちを見た。
「進藤さ、スミを大事そーに自分の体の陰に庇って、どうしたと思う?」
「どうって…」
そもそもその時の事を覚えて無い。
大事そうに…は、見えるかもしれない。大きくなってからのナオは、ちょっと無愛想にはなったけど、中身は変わらなかった―――優しいのだ、昔から。
でも、それ以外…って事だろうか?わからなくて首を傾げた私に、リツがなんとも言えない顔で笑った。
「スッゴイ勢いで睨んだんだよ、相手の事。もー、可哀想なぐらい、相手のコ怯えてた」
「睨んだって、…ナオが?」
「他に誰がいるのよ?」
「え、だって…、なんで?」
実際にはぶつかって無いんだよね?
意味がわからなくて戸惑っていると、リツがヤレヤレという様に眉を下げた。
「進藤、一部で“ケルベロス”って言われてたんだよ?」
「ケルベロス?」
「そう、ギリシャ神話に出てくる、地獄の番犬」
「番犬?…なんでそんな…」
「なんでだろうねぇ、本人に聞いてみたら?」
言われて黙り込んだ私に、リツがため息をついた。
「言いたくない事を聞く気は無いよ。でも、これだけは知ってて。」
「…何?」
顔を上げてリツを見ると、リツは真っ直ぐに私を見つめていた。
「何があっても、私はスミの味方だからね?」
その言葉に、唇だけで笑って返した。
ホントの事を知ったら、そうは思ってくれないかもしれないけれど。
「深山さん」
リツと別れて教室に入って直ぐ、近くで話していた女子の集団から声をかけられた。
同じクラスだけど、話した事のないグループ―――いわゆるクラスカーストのトップにいるタイプの、キレイめな女の子達だ。
「何?」
「深山さんて、進藤君と別れたんだよね?」
思わず瞬いたのは、彼女達の事を知らなかったからだ。同中だったっけ?ていうレベル。
「…別れるって…」
「3年の時にケンカしてたっぽくなかった?それで神田君なの?」
「ケンカ…」
歯切れの悪い私の態度に、話しかけてきた彼女が苛立たしげに髪をかき上げる。
「だからぁ、進藤君と別れたから、神田君に乗り換えたのかって、聞いてんのっ!!」
キレた彼女に、思わず半眼になった。
何言ってんの、コイツ。
大きくため息をついて、睨みつけた。
「ナオは幼なじみ。付き合ってません。カンダ君とも何も無いし、テキトーな事でっち上げるの、止めてくれない?」
息を呑んだ集団を一瞥して、少し足音を立てる様に自分の席に着くと、気持ちを落ち着かせる為に、もう一度大きく息をついた。
わかってる、そんな事、言われなくたってわかってる。
あの日からずっと、ナオの優しさに甘え続けてた。
悪いのは、私だ。
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