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1.Cape jasmine
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「結局、他にも3カ所見つかってさ。」
そう言いながら「小石」と名乗った先輩は、よっ、と米袋を持ち替える。
ちょっと…いや、かなり強引に10㎏のお米を抱えた先輩は、
「ゴメンね、何かスゴい欲しそうだったし、昨日のお礼代わりだと思って、使ってやって下さい。」
と言って譲らず、買ってしまったものはしょうがないと、結局お願いする事になった。
「すみません、ここ、坂道結構キツイですよね」
「あー、いや、単純に片方だけでずっと持ってると、体のバランスが崩れて良くないんだ。大丈夫だよ、気にしないで。」
その瞬間、以前同じ事を言われた事を思い出して、無意識に胸元を掴んだ。顔も性格も全く違うっぽいのに、なんで…なんて、内心で苦笑する。
小石先輩は、気付かずに無邪気な笑顔で続けた。
「ホント、危ない所だったんだ。顧問からも、宜しく言っといてくれって頼まれたし。」
「はぁ…」
「や、ホントだよ。前の顧問はあまりやる気なかったみたいだから、道具とかもケッコー悲惨な状態だったらしいし。」
「今の先生は違うんですか?」
「うん、今のシガちゃんはすごいよ。高校ん時甲子園行ったことある人だから、すごい熱い。偏差値超低かったのに、野球のおかげで大学行けたって言ってて。ウチの野球部強くしたの、その先生なんだよ。」
そう言う先輩はすごく良い顔で、、顧問の先生を心から慕っているのがわかる。
けど多分、顧問てあの先生だよね…いつもジャージをてろんと着てる茶髪の。つまりこの先輩は、見た目でどうこう言うタイプじゃないってことだ。
こういう人は嫌いじゃない、けど。
話してるうちに坂道が終わり、マンションの敷地内に入った。
このマンションはバブル期に建てられたもので結構古い。
そのせいか、エントランスにオートロックが無いので、エレベーター前まで行ってから先輩に向き直った。
「ありがとうございます」
「あ、うん。…えーと、大丈夫?」
「大丈夫です」
強がりでもなんでもなく、あとちょっとだからと思ったのに、お米を受け取ってすぐに、ちょっとよろけてしまった。意外に重い…
「持つよ、お礼だからね」
そう言って再びお米を取り返すと、先輩はそのまま、開いたエレベーターに乗り込んだ。
小さくため息をついて後に続き、6階のボタンを押す。
ちらりと見ると、先輩の額に汗が滲んでいた。…さすがに何も無しで返す訳にはいかない…かな?と思うものの、今家に誰も居ないのも事実だ。
「ごめんね、強引なマネして」
ハッとして顔を向けると、先輩が困ったように笑っていた。
「いや自分でもどうかとは思ったんだけど、どうにも気が済まなくってさ」
「いえ…こちらこそ。…大したことしてないのに」
「いやいや、そんだけの事してもらったんだよ、ネットだけじゃなくってさ。なにしろ神田、全中のベスト8だし。…ホント、深山さんのおかげっていうか、最初はもう絶対やらないの一点張りだったからね。」
―――え?
聞き捨てならない言葉に、顔を上げて先輩を見た。
ちょうどそこで、ポーンと音を立ててエレベーターが止まる。
「降りないの?」
言いながら先に降りる先輩を慌てて追いかけた。
「あの、“カンダ”君、そんなに…」
嫌がってたんですか?と続けようとして、はっと口元を押さえる。
振り向いた先輩が、それに気付いて苦笑した。
「俺はカウントしてないから、大丈夫だよ。…アイツも必死だなぁ…。」
「必死?」
「あー、うん、いや…ほら、長篠は進学校だろ?大学行くつもりで来てる訳だからって。」
―――そう言われて。
不意に、去年の事が蘇った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
老後の面倒みないといけないのが3人いるからな―――
進路指導の三者面談が終わって直ぐの、放課後だった。
ナオはもう部活を引退していて、その日は醤油が特売だったから買い物に付き合ってくれる予定で、先生の用事が終わってからナオの教室を覗いたら、ナオはちょうどケイマ君と進路の事を話してた。
ナオの顔は反対向きで見えてなかった、けど。
こちらを向いていた、ケイマ君の顔が、何だか可哀想な人を見るような、情けないような顔をしていたから。
だから、
それが、ナオの本意ではないのだと、教えられたような気がして。
有名私立高の勧誘を蹴って、公立に行くと決めたナオに、寂しそうな顔をしていたたっくんの顔を思い出して。
怖くなった。
もし、私が側にいなかったら、と。
そう言いながら「小石」と名乗った先輩は、よっ、と米袋を持ち替える。
ちょっと…いや、かなり強引に10㎏のお米を抱えた先輩は、
「ゴメンね、何かスゴい欲しそうだったし、昨日のお礼代わりだと思って、使ってやって下さい。」
と言って譲らず、買ってしまったものはしょうがないと、結局お願いする事になった。
「すみません、ここ、坂道結構キツイですよね」
「あー、いや、単純に片方だけでずっと持ってると、体のバランスが崩れて良くないんだ。大丈夫だよ、気にしないで。」
その瞬間、以前同じ事を言われた事を思い出して、無意識に胸元を掴んだ。顔も性格も全く違うっぽいのに、なんで…なんて、内心で苦笑する。
小石先輩は、気付かずに無邪気な笑顔で続けた。
「ホント、危ない所だったんだ。顧問からも、宜しく言っといてくれって頼まれたし。」
「はぁ…」
「や、ホントだよ。前の顧問はあまりやる気なかったみたいだから、道具とかもケッコー悲惨な状態だったらしいし。」
「今の先生は違うんですか?」
「うん、今のシガちゃんはすごいよ。高校ん時甲子園行ったことある人だから、すごい熱い。偏差値超低かったのに、野球のおかげで大学行けたって言ってて。ウチの野球部強くしたの、その先生なんだよ。」
そう言う先輩はすごく良い顔で、、顧問の先生を心から慕っているのがわかる。
けど多分、顧問てあの先生だよね…いつもジャージをてろんと着てる茶髪の。つまりこの先輩は、見た目でどうこう言うタイプじゃないってことだ。
こういう人は嫌いじゃない、けど。
話してるうちに坂道が終わり、マンションの敷地内に入った。
このマンションはバブル期に建てられたもので結構古い。
そのせいか、エントランスにオートロックが無いので、エレベーター前まで行ってから先輩に向き直った。
「ありがとうございます」
「あ、うん。…えーと、大丈夫?」
「大丈夫です」
強がりでもなんでもなく、あとちょっとだからと思ったのに、お米を受け取ってすぐに、ちょっとよろけてしまった。意外に重い…
「持つよ、お礼だからね」
そう言って再びお米を取り返すと、先輩はそのまま、開いたエレベーターに乗り込んだ。
小さくため息をついて後に続き、6階のボタンを押す。
ちらりと見ると、先輩の額に汗が滲んでいた。…さすがに何も無しで返す訳にはいかない…かな?と思うものの、今家に誰も居ないのも事実だ。
「ごめんね、強引なマネして」
ハッとして顔を向けると、先輩が困ったように笑っていた。
「いや自分でもどうかとは思ったんだけど、どうにも気が済まなくってさ」
「いえ…こちらこそ。…大したことしてないのに」
「いやいや、そんだけの事してもらったんだよ、ネットだけじゃなくってさ。なにしろ神田、全中のベスト8だし。…ホント、深山さんのおかげっていうか、最初はもう絶対やらないの一点張りだったからね。」
―――え?
聞き捨てならない言葉に、顔を上げて先輩を見た。
ちょうどそこで、ポーンと音を立ててエレベーターが止まる。
「降りないの?」
言いながら先に降りる先輩を慌てて追いかけた。
「あの、“カンダ”君、そんなに…」
嫌がってたんですか?と続けようとして、はっと口元を押さえる。
振り向いた先輩が、それに気付いて苦笑した。
「俺はカウントしてないから、大丈夫だよ。…アイツも必死だなぁ…。」
「必死?」
「あー、うん、いや…ほら、長篠は進学校だろ?大学行くつもりで来てる訳だからって。」
―――そう言われて。
不意に、去年の事が蘇った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
老後の面倒みないといけないのが3人いるからな―――
進路指導の三者面談が終わって直ぐの、放課後だった。
ナオはもう部活を引退していて、その日は醤油が特売だったから買い物に付き合ってくれる予定で、先生の用事が終わってからナオの教室を覗いたら、ナオはちょうどケイマ君と進路の事を話してた。
ナオの顔は反対向きで見えてなかった、けど。
こちらを向いていた、ケイマ君の顔が、何だか可哀想な人を見るような、情けないような顔をしていたから。
だから、
それが、ナオの本意ではないのだと、教えられたような気がして。
有名私立高の勧誘を蹴って、公立に行くと決めたナオに、寂しそうな顔をしていたたっくんの顔を思い出して。
怖くなった。
もし、私が側にいなかったら、と。
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