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2.Yellow star jasmine
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よく見れば、顔立ち自体はそれ程でも無いと思う。
もうハッキリと覚えてないから比べようもないけど、父親似なのかもしれない。
でも、よく似ている。
特に、笑い方が。
『ゴメンね。色々と、ありがとう』
そう言って微笑んだ、その人の姿がアイツに重なって―――覚えたのは、やっぱり怒りだった。
ゴメンね、も。
ありがとう、も。
自分が望んだ言葉では無かった。
でも、じゃあ、自分の望みは何だったんだろう―――?
ヴヴヴ―――と、枕元のスマートフォンが振動して目を覚ました。
いつもはその前に起きるのに、夢見が悪かったせいだろうか。
今日は、あの日だ。
思い出して、ため息を吐いた。
「顔色が悪いな」
例によって、ランニングコースで監督に捕まった。
ちょっと夢見が悪くて―――と言うと、片眉を少し上げる。
「まぁ、余り無理はすんな。これからもっと暑くなるし、倒れられても困る」
心配するところが違くね?と思ったけど、まあ、いい。
「今日も病院ですか?」
「いや―――」
深く追求するつもりは特になく、何となく聞いた所に、1台の車が停まった。
黒光りする有名どころの外車から、体の線にピッタリと合わせた高級そうなスーツを纏った男が降りてくる。
「やあ、おはよう」
と、和やかに微笑まれて、戸惑いながらも挨拶を返した。
とはいえ、誰だ?こいつ…というのが顔に出ていたんだろう、四十代だろうか、少し威圧感のある、だが品の良い物腰のその男性と監督が苦笑する。
「理事長だよ。…わからねぇか?」
思いもよらない正体に、素直に驚く。
理事長って、成陵の?―――何でこんなとこに…?
疑問を覚える自分を他所に、監督が理事長に向き合った。
「ずいぶん早いですね。…何か?」
聞かれた男性が、意味ありげに微笑む。
「今日はこれから緊急の理事会でね。ちょっといいかな?」
言われた監督は、どうぞ、と理事長を促しながら、こっちには顎で行け、と示す。
失礼します、と頭を下げてランニングを再開した。
背後に「例の保護者達が、連名で…」という言葉を聞きながら、今日の用事は理事長絡みだろうかと、ぼんやりと思った。
「なんだぁ?しけた顔して」
シャワールームを出たところで、今度は風間に捕まった。
うるせえよ…と目線で返すと、風間の後ろにちょうど井口先輩がやってくるのが見える。
ちょうど良かった、と鍵を渡すと、訝しげな顔をされた。
「進藤これ、どこで受け取ってんの?」
「あぁ、なんか、こいつのランニングコースの途中に監督ん家があるんすよ」
なぜか風間が答える。すると、一緒にいた別の先輩が、ええっ?!と声を上げた。
「ランニングって、毎朝?! それで朝風呂なんか?!」
「そーなんっすよ。それで監督が目ぇつけて…」
「お前、もう黙れ。」
被せるように言って睨みつけるが、風間はへらりと笑って続ける。
「いいじゃん、せっかくだし、誤解は早いうちに解いとこうぜ」
誤解?と眉を潜めると、風間が海外ドラマみたいに肩を竦めた。
「お前、朝からシャワー浴びてるスカしたヤツって言われてんだぜ?」
言われた意味が一瞬わからず、呆気にとられる。
そう言えば、さっき先輩が何か言ってたな…と思いながら顔を向けると、揃って視線を逸らされた。
「いや、こっから出てくるのしか見たことねぇからさ…」
「そうそう、ウエア着てりゃまだしも、制服着てるだろ?朝からお忙しい事てって…」
つまりあれか、朝からシャワー浴びて身だしなみに余念がない、所謂チャラ男だと…
悪ぃ、悪ぃと言いながら、先輩方がなおも追い打ちをかける。
「ほら、風間がどうしても部屋替わりたいっつーし、夜もさ、何か遅くにヘッドフォンつけてトイレ行ってたの見た事あって、てっきり…」
てっきり…何だろう?嫌な予感しかしない。
「こいつ、音楽聞きながら勉強するんですよ」
「聞きながら?集中出来ねぇだろ?」
「集中したら聞こえなくなるから問題無いって」
「ほえー…」
「それを12時までやった挙げ句に、5時起きとか、ありえねぇでしょ?」
「5時ぃ?! って、5時間しか寝てねぇの?!」
「正確には4時間半」
指を立ててドヤ顔をする風間をど突く。
「オラ、飯っっ、行くぞっっ!!」
「いや、待て待て、そこまで言ったら聞かせろよ~」
「遅刻しますよ」
「大丈夫、大丈夫!」
俺が全然大丈夫じゃない―――のに、風間が調子付いて先輩に顔を寄せる。
「こいつ、1時間半単位で起きれるんですよ」
「はぁっ?なんで?」
「“なんとか睡眠”と“なんとか睡眠”の波が1時間半だから、その谷間で起きるとか言って、アラームかけるんですけど」
「起きれないのか?」
「アラームより先に起きて解除するんです!」
「それのどこが悪いんだよ?」
アラームで起こしちまったらイヤだろうに。
忌々しい気持ちで突っ込むが、先輩2人…プラスいつの間にか増えていた寮生が、揃ってげぇ~っと奇声を上げた。
「人間じゃねぇ…」
「つか、そんな早くから起きてランニングって…」
「いやいや、その前に洗濯機使って、シャツにアイロンもかけますよ~!」
だからそれのどこが悪いんだよっと、胸倉を掴んで締め上げるが、風間は堪えずへらへら笑っている。
「ねぇわ…」
「うん、ねぇな…」
何がねぇのか皆がうんうんと頷き合う。
「よし、進藤。お前卒業まで1人部屋決定な。」
いつの間にか来ていた、サッカー部主将の寮長が声を上げる。
「1、2年もしっかり申し送りしとけよ!」
「はいっ!」
威勢の良い返事に憮然とした。
俺が一体、何したってんだよ―――
もうハッキリと覚えてないから比べようもないけど、父親似なのかもしれない。
でも、よく似ている。
特に、笑い方が。
『ゴメンね。色々と、ありがとう』
そう言って微笑んだ、その人の姿がアイツに重なって―――覚えたのは、やっぱり怒りだった。
ゴメンね、も。
ありがとう、も。
自分が望んだ言葉では無かった。
でも、じゃあ、自分の望みは何だったんだろう―――?
ヴヴヴ―――と、枕元のスマートフォンが振動して目を覚ました。
いつもはその前に起きるのに、夢見が悪かったせいだろうか。
今日は、あの日だ。
思い出して、ため息を吐いた。
「顔色が悪いな」
例によって、ランニングコースで監督に捕まった。
ちょっと夢見が悪くて―――と言うと、片眉を少し上げる。
「まぁ、余り無理はすんな。これからもっと暑くなるし、倒れられても困る」
心配するところが違くね?と思ったけど、まあ、いい。
「今日も病院ですか?」
「いや―――」
深く追求するつもりは特になく、何となく聞いた所に、1台の車が停まった。
黒光りする有名どころの外車から、体の線にピッタリと合わせた高級そうなスーツを纏った男が降りてくる。
「やあ、おはよう」
と、和やかに微笑まれて、戸惑いながらも挨拶を返した。
とはいえ、誰だ?こいつ…というのが顔に出ていたんだろう、四十代だろうか、少し威圧感のある、だが品の良い物腰のその男性と監督が苦笑する。
「理事長だよ。…わからねぇか?」
思いもよらない正体に、素直に驚く。
理事長って、成陵の?―――何でこんなとこに…?
疑問を覚える自分を他所に、監督が理事長に向き合った。
「ずいぶん早いですね。…何か?」
聞かれた男性が、意味ありげに微笑む。
「今日はこれから緊急の理事会でね。ちょっといいかな?」
言われた監督は、どうぞ、と理事長を促しながら、こっちには顎で行け、と示す。
失礼します、と頭を下げてランニングを再開した。
背後に「例の保護者達が、連名で…」という言葉を聞きながら、今日の用事は理事長絡みだろうかと、ぼんやりと思った。
「なんだぁ?しけた顔して」
シャワールームを出たところで、今度は風間に捕まった。
うるせえよ…と目線で返すと、風間の後ろにちょうど井口先輩がやってくるのが見える。
ちょうど良かった、と鍵を渡すと、訝しげな顔をされた。
「進藤これ、どこで受け取ってんの?」
「あぁ、なんか、こいつのランニングコースの途中に監督ん家があるんすよ」
なぜか風間が答える。すると、一緒にいた別の先輩が、ええっ?!と声を上げた。
「ランニングって、毎朝?! それで朝風呂なんか?!」
「そーなんっすよ。それで監督が目ぇつけて…」
「お前、もう黙れ。」
被せるように言って睨みつけるが、風間はへらりと笑って続ける。
「いいじゃん、せっかくだし、誤解は早いうちに解いとこうぜ」
誤解?と眉を潜めると、風間が海外ドラマみたいに肩を竦めた。
「お前、朝からシャワー浴びてるスカしたヤツって言われてんだぜ?」
言われた意味が一瞬わからず、呆気にとられる。
そう言えば、さっき先輩が何か言ってたな…と思いながら顔を向けると、揃って視線を逸らされた。
「いや、こっから出てくるのしか見たことねぇからさ…」
「そうそう、ウエア着てりゃまだしも、制服着てるだろ?朝からお忙しい事てって…」
つまりあれか、朝からシャワー浴びて身だしなみに余念がない、所謂チャラ男だと…
悪ぃ、悪ぃと言いながら、先輩方がなおも追い打ちをかける。
「ほら、風間がどうしても部屋替わりたいっつーし、夜もさ、何か遅くにヘッドフォンつけてトイレ行ってたの見た事あって、てっきり…」
てっきり…何だろう?嫌な予感しかしない。
「こいつ、音楽聞きながら勉強するんですよ」
「聞きながら?集中出来ねぇだろ?」
「集中したら聞こえなくなるから問題無いって」
「ほえー…」
「それを12時までやった挙げ句に、5時起きとか、ありえねぇでしょ?」
「5時ぃ?! って、5時間しか寝てねぇの?!」
「正確には4時間半」
指を立ててドヤ顔をする風間をど突く。
「オラ、飯っっ、行くぞっっ!!」
「いや、待て待て、そこまで言ったら聞かせろよ~」
「遅刻しますよ」
「大丈夫、大丈夫!」
俺が全然大丈夫じゃない―――のに、風間が調子付いて先輩に顔を寄せる。
「こいつ、1時間半単位で起きれるんですよ」
「はぁっ?なんで?」
「“なんとか睡眠”と“なんとか睡眠”の波が1時間半だから、その谷間で起きるとか言って、アラームかけるんですけど」
「起きれないのか?」
「アラームより先に起きて解除するんです!」
「それのどこが悪いんだよ?」
アラームで起こしちまったらイヤだろうに。
忌々しい気持ちで突っ込むが、先輩2人…プラスいつの間にか増えていた寮生が、揃ってげぇ~っと奇声を上げた。
「人間じゃねぇ…」
「つか、そんな早くから起きてランニングって…」
「いやいや、その前に洗濯機使って、シャツにアイロンもかけますよ~!」
だからそれのどこが悪いんだよっと、胸倉を掴んで締め上げるが、風間は堪えずへらへら笑っている。
「ねぇわ…」
「うん、ねぇな…」
何がねぇのか皆がうんうんと頷き合う。
「よし、進藤。お前卒業まで1人部屋決定な。」
いつの間にか来ていた、サッカー部主将の寮長が声を上げる。
「1、2年もしっかり申し送りしとけよ!」
「はいっ!」
威勢の良い返事に憮然とした。
俺が一体、何したってんだよ―――
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