召喚者は一家を支える。

RayRim

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第2部

69話

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 コインが落ちると同時に始まる自己バフ合戦。

【闘気】【鬼神化】【インクリース・オール】【バリア・フィジカル】【プロテクション・フィジカル】

 前衛用のスキルと全強化魔法、物理耐性強化魔法を掛ける遥香。
 魔法は以前のままだが、魔力の使い方が格段に向上している。以前からの低下分を完全に補えている程の進歩に、思わず心が震えた。

【闘気】【鬼神化】【格闘の極致】【明鏡止水】

 魔法抜きで自己強化を行うロドニー。
 格闘の極致で体内魔力の最適化を行っているのが間近だとよく分かる。以前にジュリアもやっていたが、明鏡止水は冷静さを獲得する為だろうか?

 魔法が多い分だけ遅くなるかと思いきや、数ヶ月の訓練の成果がしっかり出ており、遥香が不利という事はない。

 動き出しはほぼ同時。
 互いに突っ込み、剣を突き出す遥香。ロドニーは紙一重で避けて遥香の腕を取ろうとするが、剣を持つ手を横に引いて避ける。そのまま身体を捻ってシールドバッシュを狙うが、上体を逸らして避けられて逆に背を晒す事になった。隙ありと言わんばかりに、ロドニーが拳を叩き付けようとするが、遥香の脚が相殺どころかロドニーの拳を弾き飛ばす。その反動を利用してロドニーの脚が振り上げられるが、遥香の顔を掠めながら空を切った。

 互いにバク転するように退き、仕切り直す。

「やばい…見えない…」

 そう呻くバニラと、

「本当に紙一重ですね…確信は持てませんが、あれでお互いに出所と角度を見て避けているようですし…」

 オレの袖を掴む手と逆の手を顎に当てて言うリリ。
 そう言っている間に再びぶつかり合い始める。
 ロドニーの拳を盾で打ち払いながら剣を突き出す。
 遥香の刺突を、遥香の手を押さえて止める。
 密着した瞬間、バリアなんぞお構いなしと言わんばかりの互いに容赦のない頭突き。バリアが割られた上でぶつかり合う二つの石頭は両者悶絶しながら数歩下がって踞った。

「一旦止める。」

 バニラがそう言って両者の間に入り、状態をチェックする。

「あれ、痛いんだ。私もやったことあるから分かる。」

 額を擦する柊。インファイターあるあるだったりするのだろうか。オレも遥香との対戦でやって2日の安静を言い渡されたのでよく分かる…
というか、お互い全身を凶器にしているなぁ…

「引き分けだ引き分け!今回はここまでにする!」

 そう言って、交互にリザレクションを掛ける。
 流石に、この二人の頭突きは洒落にならなかったようだ…

「二人共、萎えてしまったからな。」

 呆れ顔で二人に水を差し出すバニラ。オレは二人の座れるベンチを出し、休むよう促した。

「ま、まだ、たたかえるから…」
「おうとも。このくらいなんともない…」

 ふらふらしながらベンチに座る二人。これは確かに重傷だ。

「白閃、なかなかの剛鎚ハードヒットだな…」
「こっちじゃそう言うんだね。ルエーリヴ風に言うと、凄い岩人形ロックドールだったよ、破城さん。」

 お互い、バニラが出した氷嚢をぶつけた所に当て、近い方の手同士を叩き合い健闘を称えた。

「新魔法の出番がなかったな。」
「ちょっと仕込む余裕がなかった。」
「なら、しかたない。」

 あっさり引き下がるバニラ。
 このあっさりさが百戦錬磨の開発者という感じがする。

「二人共、頭はもっと大事にしてくれ。
 遥香もそんなコブを作ったら母さんが泣く。」
「ハルカ様!」
「んぐっ!?」

 影から飛び出したカトリーナの頭がオレの顎を打ち抜き、ミニタマモ共々吹っ飛ばされてしまった。

 強烈な一撃に意識が一瞬飛び、目がチカチカしている。とんでもない石頭の不意打ちはあまりにも強烈だった…

「ああ、こんなコブを作ってしまって…」

 視線を向けると、遥香から氷嚢を取り上げ、頭の状態を確認していた。

「父さん、大丈夫?」

 柊がしゃがんでオレの顔を覗き込んだ。
 痛む顎を擦り、柊の手を借りて身体を起こす。ついでに目を回してるタマモも摘み上げて影に放り込んだ。

「遥香達に比べれば大した事ない…」

 ヒールを掛けて治す。
 カトリーナの石頭もなかなか強烈だ…

「お前の嫁は本当に想像を越えてくるな…」

 親分の手も借りて立ち上がる。
 ダメージは大した事無かったが、軽い目眩を感じていた…

「ご夫人、ここは一応、軍の施設で…」
「手続きは後でします。」
「は、はい…」

 カトリーナの圧にたじたじの鹿男。
 何かと目立つから悪さも出来ないだろうと判断していただきたい。お願いします。

「お、お母さん、流石に恥ずかしいから…」
「名高き白閃法剣も母には敵わぬか。」
「どう戦っても勝てないし…」
「そ、そうか…」

 遥香の本音に姿勢を正すロドニー。
 そんな先ほどの激闘が嘘のような二人の姿に、観客たちから笑いが起きた。




 食堂を借りての宴会になったが、一家の面々はオレ以外は酒を飲まないので、必然的に介抱する役目も負うことになった。
 皆も商会に勤める間に対処に慣れたようで、テキパキと酔っ払い達の処理を済ませていく。

「客人にこんな事をさせて済まんな。」

 巨大なウワバミがやって来て頭を軽く下げる。
 コブもすっかり消え、調子も問題無いようだ。
 最後の一人を毛布に包んで隅で寝かす。

「うちはみんな飲まないから慣れてるんだ。」
「珍しいな。ルエーリヴの女は酒を飲まないのか?」
「いや、酒で大失敗して、それからはみんな…いやほとんど飲んでない。」

 ジュリアだけは実家で飲んでいたようなので、訂正しておく。

「そういう事情か。まあ、オレも若い時に記憶を失うまで飲んで同僚に迷惑を掛けまくったからな…」
「想像できる。」

 堪えきれずに笑うと、ロドニーは決まりが悪そうに後ろ頭を掻く。

 「でも、やめられねぇんだよなぁ。日々の訓練の、雪の辛さを忘れられる。オレたちにとって酒は明日への活力だ。」
「ルエーリヴでも冒険者はそういうヤツが多かった。いや、冒険者だけじゃない。職人にも、商人にも、貴族にも居た。
 酒のお陰で今日を生きているヤツは、いつ、何処へ行ってもいるもんだ。」

 ロドニーは大きく息を吐き、オレの肩を叩いた。

「だが、お前たちはそこに少し色を着けてくれた。落書きみたいだが、悪い気はしねぇ。
 若い連中は触発されたみたいだしな。」

 弦楽器やら太鼓やらが転がっている隅を見る。そこはさっきまで、若い獣人が拙い歌や演奏をやっていた辺りで、メイプルの歌のコピーだったが少し荒っぽいアレンジにされていた。

「深海でも好評だった。うちの歌姫は天下一だよ。」
「天下一か。言うじゃねぇか。」

 笑いながら窓の方へと歩くロドニー。オレもその後ろをついていく。

「この大地にもお前らみたいなのが山ほど居るってのに、海の向こうはどうなってるか想像できねぇな。」
「だから確かめに行くんだよ。何がいるか、どんなヤツがいるか、ずっと楽しみにしている。」
「そのわりに、のんびりしているな?」
「まだ見ていない所がある。それを見てから大陸を出るよ。」
「そうか。…ああ、くそっ!オレもあと20若けりゃついて行くんだが。」

 大きな拳を掌に打ち付けて悔しがるロドニー。

「お前みたいなのは連れていけないな。今のビースト国家群、特にこのホワイト・ガーデンには必要な人材だ。いつか国家群じゃなくなるまで、都市間が安定するまで、優秀な人間を連れ出すのは惜しい。」
「そう言えば、お前達の中にビーストを見ていないな。理由を聞いて良いか?」

 こちらを見て、腕を組むロドニー。
 単純な好奇心で聞いているようだが…

「答えにくいなら答えなくても良いぞ?」
「いや、答えよう。
 単純に寿命の問題だ。親しいビーストも居るが、ルエーリヴに居着いた頃に知り合った面々はもう退いたりしているしな…」
「そうか。もうオレの世代でもあの鹿くらいしか残ってねぇもんな…」

 あの側近っぽい鹿は同世代らしい。一緒に介抱して回っていて、今は隅で遅れて食事をしながら休憩している。

「オレたちの一生が短すぎるのは仕方ねぇが、それを理由にビーストがまとまれねぇのは仕方ねぇとは言いたくねぇな…」
「親の世代の繋がりが子の世代では…という事はよくある話だ。そうさせない為の仕組みを作るのが親世代の役割かもな。」
「オレには無理な話だなぁ。戦う事しか知らねぇからな!」

 と言って、ガッハッハと笑う。
 フェルナンドさんのような大男だが、こっちは武人100%という感じだな。

「笑い事じゃありませんよ。英雄殿の耳にもそう遠くない内に入ると思いますが、セントラル・フォートレスで動きがあると聞いています。冬の蓄えを奪われなかったおかげで余裕が出来たのでしょう。」
「オレたちがお膳立てしてしまったという事か。」

 幸せそうに空の酒瓶を抱いて、毛布に包まれて眠っている親分を見る。
 支店経営を軌道に乗せる事、収穫や家畜を守ることに必死でそこまで考えていなかったもんな…

「だが、奪えなかった分がそっくりこっちに来た。高品質な装備、高度な技術と知恵を持った職人と一緒にな。」
「そうだな。」

 あの戦いは何だったのか、という気もしなくはないが、遥香に大きな負けを経験してもらえたし、そのおかげで色々と見直す切っ掛けも得られた。無駄な戦いではなかったはずだ。

「是非、英雄殿、白閃殿、蒼星殿には参陣してもらいたいのですが…」
「無理強いはしない。これはオレらの戦で、商会とは無縁だからな。
 だが、兵は間抜けだが、上まで愚か者の集団という訳じゃねぇ。確実に商会の土地を狙って押し寄せてくる。次もそこが戦場になるのは避けられない。」
「我々は護衛の為に出陣します。せっかく整えた耕作地、荒らされるのは面白くありませんからね。」

 あちらとは大違いだな。
 1から10までこちらに押し付けたセントラル・フォートレスとは真逆の対応だ。
 こんな護衛が存在しているからこそ、住民たちも辺境の辺境で楽しくやれている訳である。

「そうなると、オレも出る事になるな。商会には返し切れない恩がある。」
「今度は白閃と共に戦う事になるか。妙な縁だ。」

 そう言って、今度は窓から離れて一休みしている遥香達の元へ行く。

「聞いていたな?その時は頼りにさせてもらう。」
「うん。私も向こうの人たちはあんまり好きじゃないし。」
「冒険者も飯の種があるから居着いているだけだって聞いた。」

 バニラはジュリアから聞いたのだろうか。
 大きな都市の割に活気がなかったのは、色々と理由がありそうだな。

「質はともかく、数は多い。雑兵100人に匹敵する戦士に活躍してもらう。」

 ロドニーが握手を求めて遥香に手を差し出すが、大きな手を見つめるだけで握り返さない。
 それどころか首を振り、

「それは違うよ。」

 と、ロドニーの言葉を否定した。

「雑兵100人程度じゃ私たちには触れられない。どうにかしようと思うなら、1人に1000人は必要だよ。」

 そう言って、力一杯手を叩き付けてから握り返す。
 今朝まで見えていた弱気は既に無く、ロドニーとの戦いを経て自信を取り戻していた。

「この父は数千の兵の侵入から都市を守った英雄だ。100は過小評価が過ぎる。」

 バニラも身長差のある遥香の肩に腕を回し、遥香を擁護する。
 だが、それはオレが恥ずかしいからやめてくれ。

「都市を封鎖しただけだ。戦ったのは伯爵達だからな。」

 あのお節介な隊長は元気にしているだろうか?苦労人の伯爵は厄介ごとに巻き込まれていないだろうか?
 あまり顔を合わせる機会はないが、色々と良くしてくれた事に変わりないからな。
 
「多分、父さんと同じ事を向こうも考えていると思うぞ。」
「ああ…そうかもしれないな。」

 それはお互い様か。
 この旅が終わったら、義父達の次に会いに行くことにしよう。

「そんなお前らが味方にいる事がこの上なく心強い。この関係がいつまでも崩れねぇ事を願ってるぞ。」

 握っていた遥香の手を離し、ロドニーは部屋を出ていった。

「オレたちも帰るとしよう。子供達が待っているからな。」
「表までお送りします。白閃法剣様、今日の事は皆にとって良い刺激なったと思います。
 性別、年齢、体格差を越えてうちのボスと互角に戦う姿、素晴らしかったですよ。」
「ありがとう。」

 おだて半分、本音半分という所かもしれないが、悪い気はしないだろう。オレたちもその賛辞に鼻が高くなる気持ちだ。
 鹿男に見送られ、まだ踏み固められた雪が残る道を歩いて帰宅する。

 2週間経ち雪が融け始めた頃、再び巻き込まれる形でオレたちの職場は防衛の最前線となるのであった。
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