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第2部
70話
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今回は略奪ではなく、侵略が目的の陣容だった。
機動力重視のあの時のロドニー達と違い、徹底的な破壊が目的の装備である事が遠くからでも見て分かる。
機動力の高い突撃を警戒してか、前衛は大盾持ちの重装兵が多く、進行方向を魔導具で足場を凍らせて固めながら進んできていた。その後ろは軽装の弓兵、投石器や木製バリスタ、攻城塔なんかも引っ張ってきている。
数は2万近い。食料の厳しいビースト領でよくこれだけの数を動員できたものである。
ここまで本格的な軍団同士のぶつかり合いに参加するのは初めてな事もあり、これから起きる事を考えると時々武者震いが起きる。
北方エルフに混じった時は寄せ集めだったし、英雄と呼ばれる事になったあの時は戦っていないからな。
今回も都市防衛組と自宅防衛組に分けていた。
自宅にはアリスとサンドラ、アンナ、アクア、メイプル、ココア、ショコラ、ヒルデ。ケリーも家に居て貰うことにし、今回は農業指導部の出番はなしとなった。数が多い上に兵器も用意しているのでは、安全を保証できないからな。家畜共々、寮住まい、近隣住まいの非戦闘員は用意した地下施設に避難してもらっている。流石に地下を押し潰したり、地表を貫通するような攻撃はないと思いたい。
戦闘担当はまとまって行動することになった。前回は勝手が違い過ぎ、支援や戦闘がし難かったという反省を踏まえる。
一家は右翼部で独立して陣取り、開戦に備えて準備をしていた。大きな方針には従うが、細かい指示は受ける必要はないとロドニーに言われている。総大将は別にいるのだが、今回のオレたちは商会から派遣された傭兵という立場。部隊に組み込んでも互いにマイナスになると判断されたらしい。
商会からは警備部の連中も、殺る気満々でその時を待っている。特にセントラル・フォートレス勤めを経たヤツらはその傾向が強く、遥香も例に漏れない。向こうでどんだけ嫌がらせを受けていたんだ。
「本当にリーダーは私でよろしいのですか…?」
ガチガチになりながら尋ねてくるフィオナ。
大規模な戦闘の指揮役となると、相応しいのは他にいないという皆の総意だ。
バニラもオレも一家をまとめるので精一杯。他との連携まで考えられる下地は、フィオナくらいしか持っていない。バニラを参謀役に付けてはいるが、緊張が抜けないようだ。
「リーダー、珍しく固くなってるね。」
準備体操まで終えた柊がやって来て、フィオナを茶化す。
「あなたも一度経験してみるとよろしいですわ。学生の頃から私ばかりじゃありませんか…」
「フィオナより上手く出来る気がしないよ。」
魔法の知識がからっきしというのもあり、柊にリーダーは出来ないだろう。前衛への指示は引くか進むかの判断くらいで、後は各人に任せれば良い。その指示の為に、前で戦える必要はないが、前で戦えなくては信じてもらいにくい。そう考えると、どちらでも戦えるフィオナ以上の人材はいないだろう。
「柊に指揮を任せたら私たちは出番がなさそうだ。」
バニラも紙を何枚か持ってやって来る。
「父さん、これが罠の配置図と点火タイミングだ。シールド・ラミネーションは最低でもここまで維持、ビースト達で弓を使えるのは少ないから、この時点では私たちが主力となる。」
「矢は何が良いかな?」
聞いていたジュリアが尋ねてくる。
「最初は爆裂矢が良いだろう。数が多いから、広くちょっかいを掛けよう。魔導師組も同様だ。」
ゲームの時とだいたい同じ感じである。
序盤は仕込んだ罠と範囲攻撃でどれだけ減らすか、という戦い。前衛とぶつかり合うまでに如何に消耗させるかが肝となる。
矢の準備は各種潤沢。亜空間収納には、ジュリアにも背負い切れない程のストックを用意してあった。
今回のオレは、なるべく支援に徹して動く。壁を作ったり、穴を掘ったりは既にしてあるが、必要ならもう撤退しながら更に仕込むことになる。せっかく整えた農地や牧草地だし、町へも入れる訳にはいかない。
セントラル・フォートレスでもそうだったが、ここも出城のように都市から飛び出ているので、どうしても狙われてしまう。
外壁の外に空堀を設けたかったが、そこまですると都市の正面で受ける事になるという理由で却下された。せっかく仕込んだ罠もそれじゃ使えず無駄になってしまう。
「お姉ちゃん、この追加パーツどう使うの?」
遥香が愛用の魔導弓に付いた突起物を指差して尋ねる。今日のために準備した物だそうで、とても有用なパーツだとは聞いていた。
ソニアも同じような弓を持ってこちらを見ている。
「普通に撃てば良い。ただ、地面ではなく、空を狙ってな。曲射のイメージだ。」
「曲射用パーツなの?」
「まあ、そんなところだ。ただ、あまり真上には向けるなよ。味方に被害が出るから。」
「うん。気を付ける。」
脱着しやすくしてあるようで、着けたり外したりして取り扱いの確認をしていた。
「旦那、フィオナ、そろそろですぜ。」
ユキが影から現れて報告する。
「そうか。始まれば連中の鼻も敏感になるだろう。諜報はここまでで良いから手伝ってくれ。」
「へぇ。分かりやした。多分ですが、もう気付かれてやしたぜ。ビーストはおっかねぇですよ…」
影から出ない限り普通は気付かないのだが、どうも一部のビーストは影の中でも分かるらしく、通っていた子供達にも影移動潰しの出来るビーストがいた。
「カトリーナにも注意するように言ってくれ。恐らく、不意打ちは潰される。」
「分かりやした。」
返事をして天幕へと向かうユキを見送る。
「ビーストはやっぱり強いよね。東方エルフも強いけど、違う強さがある。」
魔導弓を握る手に力が入る遥香。
それは横にいるソニアも同様だ。
全力で戦ってビーストに勝てていない二人だからこそ、その種族特有の強さを認めているのだろう。
「ただまあ、この布陣はその強さを活かせてるのか疑問だがな。」
既に敵の軍団は感知の範囲にいるので、おおよその状況は把握できている。
横に長く三列、最前列に重装を置き、後方に攻城兵器を置いてある以外は混成。いや、分けるほど遠距離を担える装備も人材もいない様子。この出城のような農地を包囲して潰し、足掛かりにするようだ。攻城兵器は少し警戒が必要だが、攻城塔はジュリアの良い的だろう。
「どういう事?」
「ビーストの強みは高い身体能力だが、それが活かせる程のスペースがない。存分に身体を動かせそうにないんだよ。」
「んー…確かに。」
オレの説明を聞き、ゴーグルを外して向こうを凝視する遥香。まだ米粒のようだが、魔眼なら見えるのか。
「それをさせない為の仕掛けもある。ロドニー達には上手く使ってもらいたいもんだな。」
「うん。そうだね。」
「あの方々なら大丈夫ですわ。数の差を埋めるだけの強さはございますので。」
二人の御墨付きを得られた。
「じゃあ、勝つための手伝いをしよう。
中央が戦い安いように、妨げ、減らし、挫く。これがオレたちの役割だ。」
『おう!』
この場にいる皆が声を揃えて返事をする。
はい、でも、おー、でもなく、おうと来たか。
「皆さん、返事はちゃんとしましょう。ここは他にも目があるのですから…」
『はーい…』
天幕から顔を出したカトリーナに咎められる一同であった。
軽めの食事を終え待機していると、いよいよその時がやって来た。
『田舎者どもよ武装を解いて降伏せよ!我らに下るならば悪いようにはせぬ!』
『相手を見て物を言え!我らホワイト・ガーデンの民に、セントラルのオークに媚びへつらう者は一人もおらん!』
という風にお約束と言っても良い罵り合いが終わると、相手がゆっくりと進軍してくる。
最前列の大盾部隊が魔導具で足元を平らにして凍らし、移動しやすいようにしながらなので進軍は遅い。
「攻城兵器を運搬しやすいようにしているのか。考えたな。」
エルディーの技術が入っているなら、ライトクラフトを用いて戦いやすい場を作るだろう。
それをせずに、時間を掛けながら進んでくるのは前時代的と言うしかない。
「ヒガン様、手筈通りにお願いします。
一発かまして戦意を挫いて差し上げましょう。」
〈氷麗法剣〉の指示が出る。
エルディーで活動するのと大差ない姿のフィオナだが、薄く青み掛かった外套を着ている。遥香の色違いだが、この細身で背が高めのエルフのお嬢様によく似合っていた。
「分かった。遥香、オレが攻撃したら旗を掲げろ。」
「うん。」
計画通りの位置まで重装兵が進軍して来たところで仕込みを起動。
【アクティベート】
1列目の後ろ半分、2列目のほぼ全部の足元が光り、一瞬だが進軍が止まる。
だが、何事もないと分かった所で数歩進んだ所で戦場に文字通り激震が走る。
氷が割れ、深い穴へと兵達が一気に落ちた。
深い雪、自分たちが作った厚い氷が覆い被さり、埋もれていく。
事前に雪を掘り、魔法式の描かれた板を置いて埋めまくったのだ。
感知内にあれば起動できるのは事前の試験で確認しており、この戦場内であれば何処であろうと仕込んだ罠は起動できる。
とはいえ、そこまで十分な準備は出来なかったので、これ以上の罠は仕掛けていないのだが。
「よしっ!計算通りの効果だ!」
後ろで歓喜の声を上げるバニラ。発案者はバニラで、仕掛けの準備はリリとアクアとオレで行った。
「仕上げだ。遥香、準備しろ。」
「うん。」
【ファイア・エクスプロージョン】
敵軍団の頭上で大爆発が置き、爆風の圧力で更に氷が割れて穴が広がり被害は拡大、風に煽られ落ちずに済んだ連中も僅かだが穴へと落ちるハメになった。
攻城兵器にも被害が出て、塔が倒壊して下敷きになる者も居たり、爆風で吹き飛ばされた者も居る。
遥香が高々と一家の印が入った旗を突き立てると、ホワイト・ガーデン側から大きな歓声が上がった。
「…もう壊滅と言っても良い状況ですわね。」
「バニラ、これはやりすぎじゃないか?」
「皆殺しにされなかっただけ感謝してもらいたいくらいだ。
全ての魔導具の設計図と権利を渡せという要求の代償だよ。」
あの時に設計図だけでなく、権利まで要求されていたのか。バニラが本気で潰しに掛かるには十分な理由のようで、魔導具発明家の努力の結晶をただで寄越せという要求は我慢ならないものだったようだ。
『追撃する!掛かれー!』
戦場にロドニーの大きな声が響くと、屈強な戦士達が次々に壁を飛び越えて敵兵の中へ突撃していく。
敵は大混乱の内に潰走を始め、残存兵は討ち取られるか、捕らえられるかされていく。
その間に後衛に向かって放たれる魔導弓による光の雨。拡散している分、威力は低いようだが軽装の後衛には堪ったものじゃないようで、ロドニー達を阻めずに防御魔法一辺倒になっている。
「私たちも行くよ。」
「お供します。」
「出番なしではヒガン一家の名折れですわ。」
そう言って、遥香、カトリーナ、ソニアも飛び出していった。あの3人組なら大丈夫だろう。
「柊は良いのか?」
「私はこういう戦いはちょっと…魔物相手なら良いけど。」
「私も追撃は向いてないからなー」
柊と梓はここに残るようだ。
確かに、二人はそこまで戦果に拘る性格じゃないし、追撃に向いた戦闘スタイルでもない。
「これで20、っと。」
壁を盾に、矢を撃っていたジュリアが一息入れる。こっちは動かずに戦果を上げていたようだ。
視界の隅で、魔導師や立て直そうとしていた攻城兵器を狙撃しているのを見ている。魔導師は杖を持っていた腕が吹き飛び、攻城兵器はこの場で修理できないくらい破壊されていた。
「ジュリア、その調子で頼む。」
「分かった。」
突き立てられていた旗を抜き、フィオナの方を見る。
「ここはもう大丈夫ですわ。後の事はお任せください。」
「旦那、背中はお任せくだせい。」
「おう。頼むぞ。」
箱を二つ出し、頭上に浮かして壁の向こうへと飛び降りるとまだ重装兵がうろうろしている。
「死にたくなければ武器を捨てて道を開けろ!」
生き残りに警告をするが、
「死ねやオラアアァァ!!」
逆上した大きな白毛の獣人がメイスを振り下ろしてくるが、片方の箱で受け止め、もう片方の箱で吹っ飛ばす。
【威圧】
「道を開けろ。」
「ひ、ヒイィ…」
戦意を失った周囲の重装兵が次々に武装を放棄していく。
海が割れるように開いた道の間をユキと歩き、落とし穴の辺りまで行く。
その向こうでは遥香達が大暴れしていた。中央ではロドニー達も大暴れしている。
中央の重装部隊はほぼ壊滅し、ロドニー達がやや突出している感じだ。遥香達も人数にしては快進撃という所だが、やはりやや遅れ気味。
「ユキ、掴まるか?」
「必要ありやせんよ。」
「頼もしい。じゃあ、ついて来い!」
「へぇ!」
旗を掲げながらオレたちは遥香に続いて敵陣を崩し、大混乱の中、万を越えていた兵の大半は氷と雪で逃げられずに屍へと成り果てていく様を見届ける。
制圧された頃には昼を過ぎていた。
機動力重視のあの時のロドニー達と違い、徹底的な破壊が目的の装備である事が遠くからでも見て分かる。
機動力の高い突撃を警戒してか、前衛は大盾持ちの重装兵が多く、進行方向を魔導具で足場を凍らせて固めながら進んできていた。その後ろは軽装の弓兵、投石器や木製バリスタ、攻城塔なんかも引っ張ってきている。
数は2万近い。食料の厳しいビースト領でよくこれだけの数を動員できたものである。
ここまで本格的な軍団同士のぶつかり合いに参加するのは初めてな事もあり、これから起きる事を考えると時々武者震いが起きる。
北方エルフに混じった時は寄せ集めだったし、英雄と呼ばれる事になったあの時は戦っていないからな。
今回も都市防衛組と自宅防衛組に分けていた。
自宅にはアリスとサンドラ、アンナ、アクア、メイプル、ココア、ショコラ、ヒルデ。ケリーも家に居て貰うことにし、今回は農業指導部の出番はなしとなった。数が多い上に兵器も用意しているのでは、安全を保証できないからな。家畜共々、寮住まい、近隣住まいの非戦闘員は用意した地下施設に避難してもらっている。流石に地下を押し潰したり、地表を貫通するような攻撃はないと思いたい。
戦闘担当はまとまって行動することになった。前回は勝手が違い過ぎ、支援や戦闘がし難かったという反省を踏まえる。
一家は右翼部で独立して陣取り、開戦に備えて準備をしていた。大きな方針には従うが、細かい指示は受ける必要はないとロドニーに言われている。総大将は別にいるのだが、今回のオレたちは商会から派遣された傭兵という立場。部隊に組み込んでも互いにマイナスになると判断されたらしい。
商会からは警備部の連中も、殺る気満々でその時を待っている。特にセントラル・フォートレス勤めを経たヤツらはその傾向が強く、遥香も例に漏れない。向こうでどんだけ嫌がらせを受けていたんだ。
「本当にリーダーは私でよろしいのですか…?」
ガチガチになりながら尋ねてくるフィオナ。
大規模な戦闘の指揮役となると、相応しいのは他にいないという皆の総意だ。
バニラもオレも一家をまとめるので精一杯。他との連携まで考えられる下地は、フィオナくらいしか持っていない。バニラを参謀役に付けてはいるが、緊張が抜けないようだ。
「リーダー、珍しく固くなってるね。」
準備体操まで終えた柊がやって来て、フィオナを茶化す。
「あなたも一度経験してみるとよろしいですわ。学生の頃から私ばかりじゃありませんか…」
「フィオナより上手く出来る気がしないよ。」
魔法の知識がからっきしというのもあり、柊にリーダーは出来ないだろう。前衛への指示は引くか進むかの判断くらいで、後は各人に任せれば良い。その指示の為に、前で戦える必要はないが、前で戦えなくては信じてもらいにくい。そう考えると、どちらでも戦えるフィオナ以上の人材はいないだろう。
「柊に指揮を任せたら私たちは出番がなさそうだ。」
バニラも紙を何枚か持ってやって来る。
「父さん、これが罠の配置図と点火タイミングだ。シールド・ラミネーションは最低でもここまで維持、ビースト達で弓を使えるのは少ないから、この時点では私たちが主力となる。」
「矢は何が良いかな?」
聞いていたジュリアが尋ねてくる。
「最初は爆裂矢が良いだろう。数が多いから、広くちょっかいを掛けよう。魔導師組も同様だ。」
ゲームの時とだいたい同じ感じである。
序盤は仕込んだ罠と範囲攻撃でどれだけ減らすか、という戦い。前衛とぶつかり合うまでに如何に消耗させるかが肝となる。
矢の準備は各種潤沢。亜空間収納には、ジュリアにも背負い切れない程のストックを用意してあった。
今回のオレは、なるべく支援に徹して動く。壁を作ったり、穴を掘ったりは既にしてあるが、必要ならもう撤退しながら更に仕込むことになる。せっかく整えた農地や牧草地だし、町へも入れる訳にはいかない。
セントラル・フォートレスでもそうだったが、ここも出城のように都市から飛び出ているので、どうしても狙われてしまう。
外壁の外に空堀を設けたかったが、そこまですると都市の正面で受ける事になるという理由で却下された。せっかく仕込んだ罠もそれじゃ使えず無駄になってしまう。
「お姉ちゃん、この追加パーツどう使うの?」
遥香が愛用の魔導弓に付いた突起物を指差して尋ねる。今日のために準備した物だそうで、とても有用なパーツだとは聞いていた。
ソニアも同じような弓を持ってこちらを見ている。
「普通に撃てば良い。ただ、地面ではなく、空を狙ってな。曲射のイメージだ。」
「曲射用パーツなの?」
「まあ、そんなところだ。ただ、あまり真上には向けるなよ。味方に被害が出るから。」
「うん。気を付ける。」
脱着しやすくしてあるようで、着けたり外したりして取り扱いの確認をしていた。
「旦那、フィオナ、そろそろですぜ。」
ユキが影から現れて報告する。
「そうか。始まれば連中の鼻も敏感になるだろう。諜報はここまでで良いから手伝ってくれ。」
「へぇ。分かりやした。多分ですが、もう気付かれてやしたぜ。ビーストはおっかねぇですよ…」
影から出ない限り普通は気付かないのだが、どうも一部のビーストは影の中でも分かるらしく、通っていた子供達にも影移動潰しの出来るビーストがいた。
「カトリーナにも注意するように言ってくれ。恐らく、不意打ちは潰される。」
「分かりやした。」
返事をして天幕へと向かうユキを見送る。
「ビーストはやっぱり強いよね。東方エルフも強いけど、違う強さがある。」
魔導弓を握る手に力が入る遥香。
それは横にいるソニアも同様だ。
全力で戦ってビーストに勝てていない二人だからこそ、その種族特有の強さを認めているのだろう。
「ただまあ、この布陣はその強さを活かせてるのか疑問だがな。」
既に敵の軍団は感知の範囲にいるので、おおよその状況は把握できている。
横に長く三列、最前列に重装を置き、後方に攻城兵器を置いてある以外は混成。いや、分けるほど遠距離を担える装備も人材もいない様子。この出城のような農地を包囲して潰し、足掛かりにするようだ。攻城兵器は少し警戒が必要だが、攻城塔はジュリアの良い的だろう。
「どういう事?」
「ビーストの強みは高い身体能力だが、それが活かせる程のスペースがない。存分に身体を動かせそうにないんだよ。」
「んー…確かに。」
オレの説明を聞き、ゴーグルを外して向こうを凝視する遥香。まだ米粒のようだが、魔眼なら見えるのか。
「それをさせない為の仕掛けもある。ロドニー達には上手く使ってもらいたいもんだな。」
「うん。そうだね。」
「あの方々なら大丈夫ですわ。数の差を埋めるだけの強さはございますので。」
二人の御墨付きを得られた。
「じゃあ、勝つための手伝いをしよう。
中央が戦い安いように、妨げ、減らし、挫く。これがオレたちの役割だ。」
『おう!』
この場にいる皆が声を揃えて返事をする。
はい、でも、おー、でもなく、おうと来たか。
「皆さん、返事はちゃんとしましょう。ここは他にも目があるのですから…」
『はーい…』
天幕から顔を出したカトリーナに咎められる一同であった。
軽めの食事を終え待機していると、いよいよその時がやって来た。
『田舎者どもよ武装を解いて降伏せよ!我らに下るならば悪いようにはせぬ!』
『相手を見て物を言え!我らホワイト・ガーデンの民に、セントラルのオークに媚びへつらう者は一人もおらん!』
という風にお約束と言っても良い罵り合いが終わると、相手がゆっくりと進軍してくる。
最前列の大盾部隊が魔導具で足元を平らにして凍らし、移動しやすいようにしながらなので進軍は遅い。
「攻城兵器を運搬しやすいようにしているのか。考えたな。」
エルディーの技術が入っているなら、ライトクラフトを用いて戦いやすい場を作るだろう。
それをせずに、時間を掛けながら進んでくるのは前時代的と言うしかない。
「ヒガン様、手筈通りにお願いします。
一発かまして戦意を挫いて差し上げましょう。」
〈氷麗法剣〉の指示が出る。
エルディーで活動するのと大差ない姿のフィオナだが、薄く青み掛かった外套を着ている。遥香の色違いだが、この細身で背が高めのエルフのお嬢様によく似合っていた。
「分かった。遥香、オレが攻撃したら旗を掲げろ。」
「うん。」
計画通りの位置まで重装兵が進軍して来たところで仕込みを起動。
【アクティベート】
1列目の後ろ半分、2列目のほぼ全部の足元が光り、一瞬だが進軍が止まる。
だが、何事もないと分かった所で数歩進んだ所で戦場に文字通り激震が走る。
氷が割れ、深い穴へと兵達が一気に落ちた。
深い雪、自分たちが作った厚い氷が覆い被さり、埋もれていく。
事前に雪を掘り、魔法式の描かれた板を置いて埋めまくったのだ。
感知内にあれば起動できるのは事前の試験で確認しており、この戦場内であれば何処であろうと仕込んだ罠は起動できる。
とはいえ、そこまで十分な準備は出来なかったので、これ以上の罠は仕掛けていないのだが。
「よしっ!計算通りの効果だ!」
後ろで歓喜の声を上げるバニラ。発案者はバニラで、仕掛けの準備はリリとアクアとオレで行った。
「仕上げだ。遥香、準備しろ。」
「うん。」
【ファイア・エクスプロージョン】
敵軍団の頭上で大爆発が置き、爆風の圧力で更に氷が割れて穴が広がり被害は拡大、風に煽られ落ちずに済んだ連中も僅かだが穴へと落ちるハメになった。
攻城兵器にも被害が出て、塔が倒壊して下敷きになる者も居たり、爆風で吹き飛ばされた者も居る。
遥香が高々と一家の印が入った旗を突き立てると、ホワイト・ガーデン側から大きな歓声が上がった。
「…もう壊滅と言っても良い状況ですわね。」
「バニラ、これはやりすぎじゃないか?」
「皆殺しにされなかっただけ感謝してもらいたいくらいだ。
全ての魔導具の設計図と権利を渡せという要求の代償だよ。」
あの時に設計図だけでなく、権利まで要求されていたのか。バニラが本気で潰しに掛かるには十分な理由のようで、魔導具発明家の努力の結晶をただで寄越せという要求は我慢ならないものだったようだ。
『追撃する!掛かれー!』
戦場にロドニーの大きな声が響くと、屈強な戦士達が次々に壁を飛び越えて敵兵の中へ突撃していく。
敵は大混乱の内に潰走を始め、残存兵は討ち取られるか、捕らえられるかされていく。
その間に後衛に向かって放たれる魔導弓による光の雨。拡散している分、威力は低いようだが軽装の後衛には堪ったものじゃないようで、ロドニー達を阻めずに防御魔法一辺倒になっている。
「私たちも行くよ。」
「お供します。」
「出番なしではヒガン一家の名折れですわ。」
そう言って、遥香、カトリーナ、ソニアも飛び出していった。あの3人組なら大丈夫だろう。
「柊は良いのか?」
「私はこういう戦いはちょっと…魔物相手なら良いけど。」
「私も追撃は向いてないからなー」
柊と梓はここに残るようだ。
確かに、二人はそこまで戦果に拘る性格じゃないし、追撃に向いた戦闘スタイルでもない。
「これで20、っと。」
壁を盾に、矢を撃っていたジュリアが一息入れる。こっちは動かずに戦果を上げていたようだ。
視界の隅で、魔導師や立て直そうとしていた攻城兵器を狙撃しているのを見ている。魔導師は杖を持っていた腕が吹き飛び、攻城兵器はこの場で修理できないくらい破壊されていた。
「ジュリア、その調子で頼む。」
「分かった。」
突き立てられていた旗を抜き、フィオナの方を見る。
「ここはもう大丈夫ですわ。後の事はお任せください。」
「旦那、背中はお任せくだせい。」
「おう。頼むぞ。」
箱を二つ出し、頭上に浮かして壁の向こうへと飛び降りるとまだ重装兵がうろうろしている。
「死にたくなければ武器を捨てて道を開けろ!」
生き残りに警告をするが、
「死ねやオラアアァァ!!」
逆上した大きな白毛の獣人がメイスを振り下ろしてくるが、片方の箱で受け止め、もう片方の箱で吹っ飛ばす。
【威圧】
「道を開けろ。」
「ひ、ヒイィ…」
戦意を失った周囲の重装兵が次々に武装を放棄していく。
海が割れるように開いた道の間をユキと歩き、落とし穴の辺りまで行く。
その向こうでは遥香達が大暴れしていた。中央ではロドニー達も大暴れしている。
中央の重装部隊はほぼ壊滅し、ロドニー達がやや突出している感じだ。遥香達も人数にしては快進撃という所だが、やはりやや遅れ気味。
「ユキ、掴まるか?」
「必要ありやせんよ。」
「頼もしい。じゃあ、ついて来い!」
「へぇ!」
旗を掲げながらオレたちは遥香に続いて敵陣を崩し、大混乱の中、万を越えていた兵の大半は氷と雪で逃げられずに屍へと成り果てていく様を見届ける。
制圧された頃には昼を過ぎていた。
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タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
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その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
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