召喚者は一家を支える。

RayRim

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第2部

108話

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 相変わらずの真っ白い部屋。タマモとレッドの分体も横に座っていた。ただし、大きさは通常サイズでどちらも裸である。

『まさか、一生で2度目があるとは思いもしなかったぞ。』
『随分と偉くなったの。無一文の旅人から神気取りのダンジョンマスターとは。』

 珍しく感心するオーディンに対し、苦々しい表情でタマモが言う。
 
『違うな。汝らの物差しで神と呼ばれる者が、無一文の旅人だったのだよ。』
『どっちも一緒じゃ。』
『まあ、そういう事にしておきましょう。』

 レッドも微妙な表情でオーディンを見ていた。

『今回は若返るだけで良いのか?エルフになるという選択もあるだろう。』
「迷ったが、妹か弟に純粋なエルフが増えるのはどうかと思ってな。」
『もうなにもいわぬ…』

 腕を組み、額を指で押さえるタマモからタメ息混じりに言われてしまった。

『望みとあらば子が作れる様にするが?』
『本体に言ってやれ。妾がそうなると大陸が凍土に覆われてしまうわ。』

 色恋が理由で呪われた大地になるのは困る。

『ところで、今回は聞きたいことは無いのか?』
『聞きたい事か…』

 知りたいことは多いが、すぐに答えを知る必要も無いことも多い。
 そんな中でオレが尋ねたのは、

「もっと感知、知覚能力を上げられるか?」

 という事だった。
 アリスの呪いの正体がまだ見えない。それが今、一番の懸念事項である。

『嫁の呪いがまだ見えないか?』
「ああ。」
『そんなものはないと考えたことはあるか?』
「ない、では説明のつかない事が多すぎる。」

 似たタイプのバニラと比べて、身体能力に限らず成長の著しい遅さの原因はそれ以外に理由が思い至らない。

『回りくどいのぅ…』
『そう言うな、必要な事なのだ。足りねば足りるように必要な知識や能力を与える。
 あの呪いも所詮は人によるもので、我の見立てでは知識も能力も足りている。』
「にも、関わらず見えていないのはオレの問題か…」

 アリスとの事をよく考えてみる。
 この10年、あまり長く一緒にいる時間が取れていない気がした。オレはオレの、アリスはアリスの仕事や役割があり、お互いそれに集中する時間が多く、あまり長い時間を一緒に居る機会が作れていない。

『そういう事だ。もっとよく観察するといい。』

 そう言うと、オレの様子がおかしかったのか、オーディンがクックックッと堪えきれなかったかのように笑い出した。

『汝が女の為に一生懸命になっているのがこんなにも愉快だとはな。』
 『まあ、気持ちは分かるが、妾には微妙な気分じゃ。』
『お前はコイツにずっとベッタリだったからな。』
『正に歴史あり、ですね。』

 三者それぞれが、愉快そうに、呆れ気味に、興味深そうにオレを見ている。
 正直、オレ個人の事にそこまで表情が変わるのが解せぬ。

『皆、御主が気になって仕方ないのじゃ。
 ハルカを導いたのは間違いなく御主じゃし、この変わり者の集団は御主なくしてまとまれぬ。』
『そうですね。私もそう思いますよ。
 自分達だけでは見れない景色を求めて、あなたの側に居続けるのだと思います。』
「そうか…」

 そう言われると責任重大だ。老け込んでる暇もないらしい。

『若返るのは間違いではない。だが、その分、汝の息子達は肩身が狭くなるだろうがな。』
「そうだな…」

 下の娘たちにとってヒガン一家はステータスになるし、武器になるはずだ。
 ただ、アレクと悠里にとっては将来の重荷になる可能性がある。成人して、能力を、名声を高めてもオレが現役のままではやりにくいはずだ。どこかで引き際を見極めないといけない。

「難しいなぁ…」

 そう呟くと、タマモに背を叩かれる。痛くも痒くもないが、叩かれたというのは分かった。

『悩むのは子供が道を誤ってからで良い。御主が悩むと、それだけ子供らには重荷になるのだからな。』
『そうですね。就学時期を決める際に悩んでいた時がそうでしたから。』
「そうか…」

 子供には最善を、と思って色々と頭を悩ませていたが、それが既に最善から遠退いていた訳か…
 思えば召喚前の遥香が期待され過ぎて潰れ欠けていたと聞いている。それと同じじゃないか。
 そのせいで、遥香には明確な目標や道が必要だったが、バニラと柊は真逆。親に目を掛けられず育ってきた二人は、自由にさせ過ぎるくらいでちょうど良かったようだ。
 悠里とアレクはオレたちに何を求めているのか、それをしっかり聞いた方が良いかもしれない。

『クックック。汝もすっかり父親だな。
 自分の事以外ばかり考えているのは変わらんが、それが嫁と子供になっているのは愉快だ。』
『妾は安心しておる。個人よりもっと大きな物ばかり考えるよりずっとマシじゃ 。
 そもそも、それが身の丈に合っていたとは思えぬからな。』

 北風と太陽のようなオーディンとタマモ。
 なんだか、二人に遊ばれているように思える。やたら息が合っているように感じるし、二人と旅をしていた頃もそんな感じだったのだろうか?
 そんな風に感じつつも、思考は一家と子供達の事に占められる。

「人より多くのものが認識できても、見えていなかったり、見落としていたものが多いな…」

 何処まで行っても完璧にはなれない。
 より多く認識出来ることで、大事な事を見落とし続けている気すらする。

『人である限りそれは変わらぬ。どう足掻いても、全てを見抜く事など不可能だからな。』
「人の、一人の限界か…」

 今度はオーディンだけでなく、タマモも笑い出す。

『もっと家族を頼るべきは一家の主のようじゃな。一人で解決しようとする事が、既に最適解から離れている事もあるんじゃよ。』
「遥香をどうこう言えないな…」
『それより、娘離れをせよ。もうみんな良い大人じゃ。』

 良い機会だと言わんばかりに言いたい放題のタマモ。
 共に居るようなもので話す機会は多いが、一家に関する話はあまりない5年だった。まあ、依頼が終わると依頼の日々だったからな…

『とは言え、お互いに離れられない様子ですよね。
 大陸の外へ出る以上、一家の繋がりは重要になるでしょうから。』
「そうだなぁ…」

 また1から地盤固めが必要となる以上、最初は一家の結束のみが頼りだ。
 いきなりエディさんのような強力な人脈を得る幸運は期待すべきではないだろう。勝手知ったるこの大陸とは違い、外は何があるか全く分からないのだ。

『外へと向かう汝に一つ贈り物だ。』

 そう言うと、烏と狼が現れてオレの側にやって来る。オーディンが連れているものと似ているが、中身は全く別物のようで神性が欠けており、魔法生命体として生み出されたようだ。
 アクアの絵画召喚の、もっと上位に当たる方法によるものだろう。

『名前は好きにせよ。形は似せてあるが、紛い物だからな。』
「そうか。」 

 狼に手を差し出すと頭を下げたので一撫でし、鳥は腕に止まらせて胸元を一撫でした。

『最後に確認するが、顔は若いままでいいのか?』

 念を押すように尋ねるオーディン。疑問に思ったのか、タマモとレッドが首を傾げる。

『見せてもらえるかの?』

 タマモがそう言うと、二人の前にウィンドウが浮かび上がり、揃って微妙な表情になった。

『やめておけ。厄介事しか呼び寄せぬぞ。』
『私もそう思います。』

 そんなに良くないのか。オレの若い時の顔…

『いや、これはそういう問題ではなく…』

 なんとしても思い止まらせたい様子のタマモ。面倒事になりそうなので、顔は10年前程度で留めておく事にした。

『うむ。それで良い。』
『平穏が守れそうですね。』

 ホッと胸を撫で下ろす二人。どういう事だ。

『猫とトカゲにも、もう少しまともな器を用意しておいた。この者から離れて戦闘も出来る。』
『猫ではない!』
『トカゲ…』

 微妙な表情を浮かべるが、便利を与えてもらった以上、強く言えないようだ。

『3度目があるならば手加減はせぬ。その日を楽しみにしておるぞ。』

 最後にそう言われ、景色が白い部屋から花畑へと切り替わる。
 タマモとレッドの姿は無く、皆がオレを見ていたがすぐに目を逸らした。やはり全裸のままだったか…

「はい、新しい服よ。」
「いつも助かる。」

 速やかに着替え、感触を確認する。
 体型は変えていないのでサイズはピッタリ。流石はアリスだ。

「あんまり若返った感じはしないけど…出会った頃を思い出すわ。」

 懐かしそうにオレを見るアリス。
 じっくりオレを観察するその顔を体を、全身をくまなく、見落としが無いように見る。だが、分からない。
 呪いの正体、根源が何なのか全く見えなかった。

「どうかした?」
「いや、これからはもう少しアリスとの時間を取りたいと思ってな。
 10年くらい、お互いにゆっくりする機会が無かっただろう?」
「何か向こうで言われたのね。まったく…」

 少し照れた様子で顔を背けるアリス。
 外での一番の目標は、アリスと悠里の呪いを解く方法を探すことになる。その為にも、やはりちゃんと把握出来るようになっておきたかった。
 アリスとバニラ、ココア、ショコラの体が光り始める。次は4人一緒らしい。
 ココアはともかく、ショコラも適用されるのは意外だ。畏れ多い!と拒んだヒルデも引っ張ってくるべきだったか?

「じゃ、行ってくるわね。」
「おう。」

 4人を見送り、皆の元へ行くとくまなく調べられる。
 顔はそこまで変わってないはずなので、見た目は大差無いはずだが…

「向こうでどんな話をしたの?」
「これからの事だな。オマケも貰った。」

 影から出てくるタマモ、レッド、烏と狼。
 タマモは巫女服、レッドは執事服のようになっている。

「私もその烏と狼貰ってこよう。」
「狼はアッシュが居るだろう。」
「…そうだった。」

 遥香も妙なコレクター魂を得てしまったようである。
 5年の間、リリの側から離れられなかったせいで増えてはいないようだが。

「体はどんな感じ?」

 先に聞いてもらいたかったが、それが遥香らしさの気もするので言わないでおく。

「魔力の限界が更に遠退いた気がする。体はだいぶキレが戻ったな。」
「成長の限界じゃなかったの?あれで?」
「お前の魔法と剣技の両立も大概おかしいからな?」

 納得いかない様子の遥香だが、当人も自覚がないようで困る。

「思ったほど時間は経過しておらんようじゃな。」

 普通に話し掛けてくるタマモ。

「そうですね。もっと時間が経過してたと思ったのですが。」

 レッドも声で喋れるようになっており、狼はタマモの側に立ち、烏はレッドの腕に止まっていた。

「名前は決めてるの?」
「狼はフレア、烏はゲイルだな。」

 赤く炎を宿したような魔力を秘めるフレア、自在に空を飛び回るだけでなく、風の魔法も扱えるゲイル。これ以上の名前はないだろう。

「もっとふざけた名前にすると思った。」
「それはお前の姉くらいだよ。」
「…否定出来ない。」

 アリス達が戻ってきそうな反応を感じたので、オレとレッドは体を逆側に向ける。
 遥香も察したようで、そちらへ注視した。

「お姉ちゃん、大人になってくるかと思ったけどそのままなんだ。」
「おう。まだやり残したことがあるからな。」

 衣擦れの音が微かに聞こえてくるので、まだ服を着ている最中のようだ。

「私たちの関係を知っていたなら、もっと早く言ってもらいたかったわね。」
「そうですね。」

 気付かなかったがソニアも転生していたらしい。柊の影になっていて、見落としていたか?
 ベラもミニベラではなくなっている。

「参った。わたしは下着なんてないぞ?」
「わたしのをやろう。替えは後で買えば良い。」
「すまん。」

 そんなやり取りをするココアとショコラ。
 魔力と肌の色に差異があるので見分けはつくが、それ以外は本当に双子にしか見えなくなっていそうだ。
 横に居た遥香の反応が消える。見ていなかったので、急に消えて少し驚いた。

「男ども、着替え終わったぞ。」

 振り向くと服装以外、一部を除きあまり変化のない顔触れが揃っていた。
 
「全部新たに用意したのか?」
「バニラの言葉を借りると、こんなこともあろうかとと思ってね。」

 最近は自由な時間があったようで、色々と作っていたと聞いてはいたがこの為の物とは思ってもいなかった。
 オレのもだが、全体的に装飾が増えており、全てが意味のある物となっている。装飾は刻印が施されていたり、ピュアクリスタルが納められそうだったりと実戦用のものばかりで、戦闘力の向上を図った物になっているようだ。
 言葉を借りられた本人は、何とも言えない表情。まあ、バニラの言葉、という訳でもないしな。

「あなたの若い時の顔を見せてもらったけど、完全に別人だったわね?」
「わたしたちは今のままで良かったと思う。」

 若い時の顔はアリスとバニラ達には不評らしい。若返り過ぎなくて良かった。
 よく見ると、北方エルフのココアに対し、ショコラは南方エルフになっており、これなら見間違える事は無さそうである。

「遥香達が戻ってくるな。」
「思ったより早いわね。」

 背を向けると、アリスが服を準備する。ちゃんと全員分あるようで頭が下がる思いだ。 

「おお…遥香、お前…」

 バニラの驚く声が気になるが、そちらを向けない。向いて水天はゴメンだからな。

「着終わったわ。」
「おう。…おう?」

 一瞬、遥香を見失った気がしたが、ちゃんと目の前にいた。

「ごめんね。ぶかぶかになっちゃった。」
「良いのよ。あなたの事だからちゃんと考えての事なんでしょう?」

 遥香が小さくなっていた。
 出会った頃の身長で、何もかもサイズが合わないディモスの姿の遥香。ギャップが有りすぎてなんだか可愛い。

「お姉ちゃんを見下ろすの、ずっとしっくり来なくて。」
「わたしが理由にされるのか…
 だが、すぐにまた見下ろす事になるぞ?」
「良いんだよ。 お姉ちゃんもちゃんと大人になってるだろうから。」
「服もだけど、刀は大丈夫ー?」

 梓に言われ、刀を出して抜刀してみせる。

「オーディンから剣の伸縮ができる魔導具貰ったから大丈夫。」

 確かに鞘の邪魔にならない所に何か輪が嵌め込まれている。オレのフレア、ゲイルと同じようだ。

「バニラ達は何か貰ったのか?」
「わたしたちは魔法式の識別子を教えて貰った。」
「やはり知識に無いものが山ほどあったな。」
「とてもじゃありませんが、世に出せないのがほとんどですが…」

 これで、魔法や魔導具の使い勝手が更に良くなるはず。全員に影響がある話なので非常に大きな収穫だ。

「聞いてて吐きそうになったわ。吐けなかったけど。」
「気持ちは分かる。」

 世界の理を紐解くような話は、アリスには信心深さもあって荷が重いだろう。
 その話についていけるのは、バニラ達くらいしかいないはずだ。

「とは言え、外の大陸では判明しているものばかりらしい。思ったよりも進んでいるようだな。」

 話をしていると、カトリーナ、柊、フィオナ、ジュリアがいなくなる。戦闘特化組という組み合わせのようだ。

 その後も器の限界を遠ざけるだけでなく、知識や魔導具等を得て、全員が2度目、若しくは2度分の転生が完了する。
 遥香が思い切ったのを見てか、カトリーナ、ジュリア、ミンスリフ、ランフリアが大分若返っており、マーマン二人は3倍の長命化までしたらしい。種族的に正解かどうかは分からないが、二人にとってそれが必要な事だと判断したようだ。
 ミンスリフに振り回されまくってるランフリアだが、それで良いのか不安になってくる。人が良いのか、それはそれで楽しいのか、軽いぼやきくらいしか聞いていないので不安になる。

「ランフリア、本当に良かったのか?飛び抜けた長命は帰った時に孤独を招くかもしれないぞ?」
「覚悟の上です。それに、神殿はあまりそういう事は気にしないですからね。」
「ん?声が…」
「魔導具無しでもちゃんと喋れるようになりました。水中は水中で今まで通り喋れますよ。」

 そう言って、綺麗な声でプレアデスを歌ってみせる。マーマン特有のくぐもった感じが完全に抜けており、思わず聞き入ってしまいそうだ。

「うん。きれ」
「そこまでー!!」

 ミンスリフに間に入られ、全部言わせてもらえなかった。こちらも声が綺麗になっている。

「ダメですよ。神の信徒をたらし込むのは。」
「神は気にも留めてないぞ?」

 遥香、バニラ達と何やら話をしている神。
 何か言われたのか、ビックリしているな。

地元うちの神は気にするんですー」
龍神様うちのかみは気にしませんよ。」
「綺麗な歌声だった。」

 神殿に仕える方の言葉を信じ、素直に褒める。

「ア゛!?」
「大変光栄です。」

 ギザギザ歯の大口を明けて凄い顔になるミンスリフと、照れた様子で笑顔を見せてくれるランフリア。
 女性らしさの塊のような見た目のミンスリフだが、どうも中身はそれとは掛け離れた印象が消えない。転生者であるという点を考えてもだいぶ子供っぽさがあった。

「6人も居れば十分でしょ!?あと何人増やす気ですか!?」

 左手でオレの襟を掴み、右手で胸を叩いてくる。

「ゴホッ。」

 予想以上の一撃でむせ、意外とパワーがある事を実感した…

「良い音がしましたね…」
「ご、ごめんなさい。」
「いや、良い…」

 叩かれた所を抑え、ヒールで治すと頭を下げられる。どうやら、本人も予想以上だったようだ。
 流石、マーマンの戦士を名乗る資格を持つだけの事はある…

「肌の質感も変わったな?」
「そうですね。多少なら乾燥しても平気ですが、長時間は無理だと思います。」

 ミンスリフの頬に手を当て、首筋、肩へと手を滑らしていく。以前はもっとぬめりがあったが、今は汗ばんだ人の肌に近い。

「マーマンと言うより、白い人魚姫だな。」
「エッチーッ!」

 今度は全力でビンタをされて、距離まで取られる。観察しただけなのに酷い…

「おとーちゃん、それは紛れもなくセクハラだよ…」
「えっ。」
「私なら問題なかったのですが…」
「ミンスリフ、大丈夫か?なんかの拍子で卵を生んだりしないか?」
「マーマンは卵から産まれませんからね!?」

 バニラの一言で全員の視線が一ヶ所に向いたのを見て、誘導されまいと目を閉じると今度は逆からビンタを喰らった。

「想像しないでください!」
「いや、見たらまずいと思ってだな。」
「うっ…」

 勘違いしたと気付いて白い肌が赤くなっていく。
 
「…ごめんなさい。」
「いや、ちょっとからかい過ぎたな。すまない。」

 ここまでにしておこう。これ以上は自滅していくだけだ。ビンタで済むなら何発でも受け入れるが。

「さて、そろそろ引き上げるか。リリもあまり長居できないしな。」
『そうか。貢ぎ物を持っていつでも来るが良い。』

 貢ぎ物をやたら欲しがる神の言葉はなんだかしまらなかった。

『外の大陸にもイグドラシルはあるからな。』
『は?』

 全員が声を揃える。

『それはそうだろう?そうでなくては世界を見渡せぬ。』

 この神は、とことん人をおちょくる。

「イグドラシルに向けて波濤と水天の練習したいんだけど。いい木人が無くて困ってたんだ。」
『やめろ。一発でどれだけリソースを持っていかれるか分からぬから。』
「一本くらい」
『やめろ。振りではないぞ。本当にやめろ。』

 本気のトーンで止められた。
 まあ、ただ生えてるだけの物でもないようなので、古い枝以外の伐採は避けるべきだろう。
 両手を腰に当て、仕方ないと言わんばかりにフンと鼻息を一つする遥香。なんだか見た目といい完全に子供時代に戻っているな。

「なあ、遥香。もう一度学園に通うのか?」
「お姉ちゃんも通う?」
「高等部ならいけるか…」
「ゆうちゃんたちが困りそうだよー?」

  とんでもない事を言い出した姉と妹を咎める梓。子供達だけでなく、先生も他の生徒も困るだろう…

「やめておけ。多分、カトリーナ以外は幸せにならない。」

 遥香が話を聞いていたカトリーナ見ると、制服姿を想像して緩んでいた表情が一瞬で元に戻る。こういう所は変わらないなぁ…
 これ以上、とんでもない事を言い出さない内に、バニラと遥香の背を押して帰還を促す。

「さあ、帰ろう。帰って次の冒険へ備えるぞ。」
『おー!』

 こうして、この地での最後の大仕事を終えてイグドラシルを後にする。
 その後は各自がそれぞれのやることを終え、海の向こうを目指すことにした。
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