召喚者は一家を支える。

RayRim

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第2部

109話

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 転生から半年が経ち準備が着々と進む。
 冬が終わった森の西部は春の色に染まっており、ビーストの越冬地は撤収が進んでいた。

「これはヒガン様。見送りに来て下さったのですか?」
「ああ。オレもこれで最後だからな。」

 ここの仕切り役だった犬系ビーストのラルフがやって来る。

「いよいよ英雄様もこの地を経つのですね…」

 一緒に居た夫人のシャーリーが寂しそうな表情をしている。様子を見に来る度にこの夫婦に捕まり、食事を振る舞ってもらったりこちらから振る舞ったりしており、付き合いも長くなっていた。

「最後の選別だ。」

 亜空間収納が施された鞄を一つ投げ渡す。中身を確認して驚いた表情を見せる。

「メガ・チキンの肉!?」
「魔導具もこんなに…」

 加工済み巨大な鶏肉と野宿等の軽作業に便利な魔導具セットを20ほど。
 チキンはオレ、カトリーナ、ジュリアから、魔導具はアリス、ユキ、ココア、リリが選んで作った物。

「下味は付けてあるからしっかり火を通せば食べられる。皆で食べてくれ。」
『有難うございます…』

 感激した様子の夫婦。
 仕切り役とは言っても、向こうへ行けばただの労働者。チキンは長旅となる帰りの楽しみにしてもらおう。

「色々とありましたが、領主様との結婚には度肝を抜かしましたよ…」

 一家に馴染み過ぎて忘れがちだが、やはりリリは領主としての方が認知度が高い。それが冒険者と結婚となれば驚かれるのも当然だろう。

「また会えますかね?」
「お互い息災でいよう。そうすればまた会えるさ。」
「ワタシらが老いれる前に会いましょうね。」
「もちろん。」

 お互いに笑い合い、握手を交わして旅立ちを見送る。出会いから別れまで、気持ち良く付き合えたビーストの夫婦だった。
 最後の越冬隊と護衛隊がいなくなり、ここもじきに交易拠点への再整備が始まる。
 夫妻はリリを領主と呼んでいたが、オラベリア領はオラベリアの手から離れ、優秀な後継者へと代替わりしていた。エルフ森西部、『第2位』オラベリア領は血統による世襲制を放棄し、指名制へと移行したのである。

 魔法で冬の間に穴だらけとなった土地を均し、通路用のタイルを敷き直していく。この先は担当者の仕事となり、オレの西部での依頼は完全に終了した。
 腰に手を当て周囲を見渡すと、既に集積所として使用されている所では馬車、竜車が絶え間無く行き交い、喧騒が聞こえて来る。
 閑古鳥が鳴いていたかつての面影はなく、流通都市オラベリアが春の風と共に目覚めつつあった。立っているこの場所も、3週間後はどこかの商人が送り先の指示を出しているかもしれない。
 まだ北からの寒さが残る風を感じつつ、装着したライトクラフトを吹かし、管理塔へと仕事終了の報告に向かった。



 
「ゆうちゃんにめちゃくちゃひっぱたかれた…」

 頬を氷嚢で冷やしながら姿の遥香が嘆く。
 1年振りにこちらへ来た悠里に見せたらバチバチンと叩かれたらしく、第2の脱法ロリは妹に嫌われてしまったようだ。 悠里も痛かったのか手の平を冷やしている。

「お姉様が学園に来ると学園が成立しなくなりますから!」

 酷い言われようだが、あながち間違っていないので何も言うことはない。
 バニラは笑顔でその様子を見ているが、口が笑っていないので作り笑顔だろう。これは着替えて出迎えなくて良かったって思っている顔だ。

「妹の力で、今度はソニアちゃんとまともな学園生活が送れると思ったのに…」

 少し大きめの制服だが、ちゃんと調整はされている。 本気で通うつもりだったようだ。

「きっと私は居心地が悪いですわ…教え子がまだ在籍してますので…」

 きっとソニアは引っ張り凧になるだろう。教師側に。
 そのせいか、まともな学園生活が送れるかは疑問符が付いてしまう。

「それより、どうしてお姉様はそんなに小さくなってしまったのですか…」

 とは言え、悠里よりは大きい。悠里にしてみれば、母よりずっと大きな姉に見えていたかもしれないが。

「体を作り直したいのが一番の理由かな。
 師匠に言われたけど、どうも片手剣士向きの体になりすぎてるみたいだったから。」
「刀のお前に討ち倒された面々が不憫だよ…」

 とんでもない理由にバニラが呻くように言う。
 あの強さで適性が低かったとか言われたら、戦った相手はふざけんな!と言いたくなるだろう。ふざけんな!
 柊は苦笑いを浮かべ、フィオナ、ソニアは信じられないと言いたげな表情をしていた。

「それより、お話とはなんでしょうか?」

 気を取り直して悠里が尋ねる。
 恐らく察してはいるようで、真剣な眼差しでオレを見ていた。

「一家を分けることにした。外を目指す組と、ここに残る組でな。」
「そうですか…」

 膝の上の拳を握り締め、体をオレの方に向ける。

「戦闘に向いていないケリー。外に興味の無いサンドラ、アンナ。外に出せないフブキさん、シュガー。外に出たがらないミミは残す。
 何かあったらフェルナンドさん達かハロルドさん達を頼ると良い。」
「はい。」
「専用の1対1通話器を置いていく。恐らく、魔力が妨害されない限り、何処からでも何処に居ても通じるはずだ。」

 そう言って、悠里にではなく、アレクに通話器を渡すバニラ。
 一瞬、悠里の眉間にシワが寄ったのを見逃さない。自分こそが後継者という自負があるようだが、それを背負うには早すぎる。

「悠里、まだ早い気がするけど、あなたはあなたの道を見つけなさい。私たちを追う必要はないわ。」

 気付いていたアリスが悠里に助言する。

「ですが…」

 だが、納得いかないのか、悠里の表情は曇ってしまった。

「何もヒガン一家を、英雄の娘を名乗る必要はない。まずは悠里としてこの地で生きてみせろ。」
「…はい。」

 やはり、まだ幼すぎる。
 順調に体が成長するかと思ったがそんな事はなく、ヒト換算で5歳を過ぎてから急に遅くなっており、5年前からあまり背が伸びていない。
 今でようやく7歳、8歳くらいだろうか?

「悠里、お前くらいの頃の遥香には何も任せられなかったんだ。まだ、気負う必要も無理をする必要もない。もっと色々と学べ、繋がりを作れ。」

 横で遥香も頷く。
 青春に犠牲にしまくった遥香だが、今はあちこちに人脈が作れてなんとか社会性を保てている。こんな危うい人生は参考にしないで欲しいと悠里達にも、フェルナンドさん達にも言ってあった。

「はい。」
「それでもまだオレたちを追う意思があるなら、強くなって追って来い。」
「…はい!」

 躊躇い、迷いがあったが力強い返事をする悠里。レオンとビクターは仕方ないなーという表情をしていた。

「アレクには魔導具技師を目指して貰えるとお姉ちゃん嬉しい。」
「そのつもりです。」
「おお!弟よ!」

 アレクに抱き着こうとするが、避けられて地面と激突するバニラ。大袈裟になってきたバニラだが、アレクも上手く避けるなぁ。

「悠里、アレク。迷い、悩みなさい。生きてる限り、それは必ず糧になるから。
 それと…」

 悠里、アレクの手を握るアリス。

「ちゃんと卒業を見届けられそうになくてごめんね。」
「お母様…」「母上…」
「何を言っているんだ 。」

 しんみりしてる所に介入する倒れたままのバニラ。

「わたしのテレポーターなら、大地の裏側からでも駆け付けられるぞ。」
『え?』

 流石に想像してなかったようで、3人とも目が点になる。オレもそこまで出来るとは思っていなかった。

「まあ、妨害の可能性もあるから、どこからでもとは限らないが。」
「そう。良かった。
 じゃあ、四人の晴れ舞台を見に行くからね。」
「はい。」

 さっきまでの緊張が解れた様子の悠里。
 アレクは適度にマイペースなようだが、悠里はどうも義務感が強すぎる。ドートレス夫妻にも解消出来るように色々と手は尽くしてもらっているが、本人が納得出来ないと無理だろうという結論に至った。
 妙に頑固だったり、見栄っ張りなのは誰に似たのだろうか?

「アレク、魔導具の事はロッティに尋ねると良い。わたしが居なければ、この地で最高の魔導具技師だろうからな。」
「はい。」

 助手を卒業し、二人目の〈魔国創士〉を名乗れるようになったロッティはついに自分の店を持った。今は魔導具の販売や設置、製造依頼を請け負っており、忙しい日々を送っている。
 バニラは元々独立させるつもりだったようで、出店の話をしにきた時には満足そうな表情をしていた。
 創士を名乗るに当たって相応の成果が必要なのだが、ロッティは自分のアイデアと知識と技術の全てを注ぎ込み、ピュアクリスタルのリサイクル設備を発明し、普及させている。
 ピュアクリスタルの生産に必要な転換炉はまだ発掘品しかないが、リサイクル設備の登場はそんな状況において大幅なコスト削減を果たしてくれた。ロッティはこの設備の製造権利を陛下に売り、国の内外で設置したことにより〈創士〉として認められたようである。
 その試作品を見せられた時、頭を抱えて悔しそうにのたうち回っていたそうだ。

「学校はどうだ?楽しいか?」
「微妙です。エルフは派閥を作りたがりますし、ディモスやビーストは好き勝手にしがちですし、ドワーフは物作り以外にやる気を出さないので…」
『分かる。』

 腕を組んで同意する姉二人。
 バニラは魔法式の常識をひっくり返してしまったから、遥香は卒業RTAの為に単位を落とせなかったという事情があるが…

「悠里、この二人は参考にしちゃダメよ。絶対にダメよ?」
「は、はい…」

 顔を近付け、しっかり悠里に言い聞かせるアリス。迫力に圧され、たじたじになっていた。

「わたしは1年で十分だったが、日数が足りなくて2年になっただけだしな。」
「私は3年しか時間がなかったから。」
「だから、しっかり学んでねー。おねーちゃん達は元々ちゃんと勉強してたから…」

 梓が悠里に言い聞かせるように言う。
 遥香は何処まで学べていたか疑問だが、背伸びをした勉強をしていたようだったし、バニラ達のおかげでしっかり家で学べたのも大きい。
 悠里達はこちらに合わせての教育なので、二人とは事情が違う。

「まあ、それもあってもう一度通いたいなって思ってたんだけどね。」

 残念そうに制服の袖を眺めながら言う遥香。
 そこで渋い表情の悠里が何も言わない辺り、本当に遥香には来てもらいたくないようだ。

「でも姉上、1年はここに居るという事ですか?」
『あっ』
「お姉様…」

 アレックスの指摘に目が泳ぐ姉二人と、それをジト目で見る妹。バニラはテレポーターがあるから良いや、とか思ってそうだっただけに意外である。

「船酔い回避に利用したらどうだ?」
「それだ!」

 ビシッとオレに向けて指を突き付けるバニラ。
 だが、すぐに腕を組んで悩ましげに考え込む。

「とは言え、航海中のグロリアスからは離れたくないな。トラブルが起きた時に対処できるのが多いに越したことはないし。」
「オレ達じゃもうどうにもならないからな。」

 アリスとリリが苦笑いを浮かべながら頷く。
 多少なら修理や対応も出来るが、核心部分には高度な式が刻印、封入されていてどうにもならない。交換しようにも、向きがどちらかすら分からないものばかりなのだ。

「グロリアスは私とおねーちゃんの全てが詰め込まれてるからねー」

 梓も認めてしまう。
 まあ、そうそう壊れるものでもないから大丈夫だと思いたい。

「ココア、ショコラが居ればなんとか…」
「核心部の20層の魔法式とか、作った当人しか対処出来ないぞ。偽装が入っていたら尚更だ。」

 呆れ顔のショコラと横でコクコク頷くココア。
 そんな魔法式、何か問題があってもどこが問題なのか解りそうもない。丸投げされても事態が悪化してしまいそうだ。

「気合いを入れて詰め込みすぎたか…」
「分割しよっかー…」
「そうだな…」

 出発前に重大な問題点が見つかって何よりだ。

「父さん、1年待って欲しい。もう少し試験をしたいし、アレクにも色々と教えてやりたい。
 職人たちの手も借りたいし、こちらに居る内じゃないと出来ないんだ。」
「私も少し造船について学ぼうかと思います。この5年、時間が取れませんでしたから。」
「おおー。リリちゃんが学んでくれるなら大助かりだよー」

 なし崩し的にもう1年こちらで過ごすことになりそうだ。
 思わずタメ息が漏れ、アリスに手を握られる。

「良いじゃない。またあちこち行くんでしょ?」
「そうなるだろうな。」
「じゃあ、一緒に回りましょう。」

 アリスがそう言うと、ユキとジュリアが一緒に影から出てきた。聞き耳を立てていたようである。

「あたしもついて行きやすぜ。二人だけじゃ心配でさぁ。」
「私も行くよ。ずっと西部で依頼三昧だったからね。」
 
 ムッとした表情になるココアとリリだが、カトリーナが宥めるようにお茶を出した。

「私たちは家を守りましょう。それは学びながらでもできるはずですよ。」
「はぁ…想像していた新婚生活と違いますよ…」

 リリはぼやきながらお茶を飲むが、しかたないとでも言うかのような笑みを浮かべてカップを置いた。
 向かう先はこの大陸の人間にとって未踏の地で、何があるのか全く想像もつかない。準備はやり過ぎて困ることもないだろう。
 それに、ようやく作れたアリスとの時間は、呪いの正体を解明する絶好の機会だ。なんとしても尻尾を掴みたい。

「初期パーティーの再結成ね。」
「ああ、そう言えばそうか。」

 他も気を利かせてくれたのだろう。自分もという者はいなかった。

「あの頃、果たせなかった事を果たしてこよう。」
「私たちの冒険は」
『それ以上は言わせない!』
「えぇ…?」

 バニラ達と梓にセリフを阻まれ、困惑するアリスであった。


 
 春の風と日差しは心地好く、何処までも飛んで行けそうな高揚感を与えてくれた。
 オレとユキはなかなかライトクラフトで飛び慣れないアリスの手を握る。後ろでジュリアが『また仲間外れ…』と言いたげなオーラを発していた。
 目的地はエルフの森西部と南部の国境沿いに新たに出来たダンジョン。若い冒険者達が入ったは良いが、消息を断っているらしい。
 今回の依頼はそんな若い連中の救助とダンジョンの突破。何処にでもある普通の依頼だが、急を要する上に対応出来るチームが出払っているという事で、暇を持て余していたオレ達にお鉢が回ってきた。

「よし、行こう。一刻を争うからな。」
「へぇ。アリス、暴れないでくだせいよ?」
「こ、子供じゃないんだからそんな事しないわよ。」
「大丈夫。落ちたら抱えて上げるから。」
「お、落とさないでよ!?」

 久し振りに狼狽えるアリスの姿を、微笑ましく思いながら手を引いて浮かび上がる。
 へっぴり腰なアリスの姿を『みっともない姿ですぜ。』と笑うユキを、『ダメだよ。』と嗜めながら腰の取っ手を摘まんで支えるジュリア。
 家と外では力関係が真逆になるこの三人。このバランスがちょうど良いのかもしれない。

「ユキ、ジュリア、アリス。遅れるなよ?」
「へぇ。しっかり引っ張りやすぜ。」
「うん。ちゃんと押すよ。」
「じ、自分でとべ…ああああっ!?はやっ!はやすぎるわよおぉっ!?」

 三人でアリスを支えるように、将来ある若者達を救う為、雲一つ無くどこまでも澄み渡る青空を急ぐ。
 まだしばらくは、この地で冒険者家業を閉める訳にはいかないようだ。
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