趣味に全力!森の魔女は勝手気ままに生きたい 〜気になる漫画の続きが読みたいので、弟子を取りました〜

蒼烏

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第4話 魔女の家1

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 深い深い森の中、一軒の小さな家が建っている。
 一部が2階建てになっているその家の主は森の魔女。
 そしてその相方の猫の獣人が暮らしている。
 最近この家に新たな住人が増えたようだ。
 
「ん……んー、トイレ……」

 新たな住人は、まだ幼さの残る少年グレン、年齢は6歳。
 赤髪に紫色の瞳を持ち、背はこれから伸びてくるだろうが、今はまだ120センチメートル位だ。
 パジャマ姿で寝ぼけながら教えられたトイレの場所まで辿り着き、用を足して部屋へと戻る。
 まだ周囲は暗く、夜行性の鳥が鳴き、虫の達の声が合唱している。陽が昇るには今暫く時間がかかるだろう。

「ねむい……」

 新たな家族としてグレンを迎え入れたのは、森の魔女と謳われるクレアとその相方の寅吉。
 家族を失い、着の身着のまま逃げたし、死を受け入れようとしていたところを助けられたのだ。
 優しく家族に迎え入れてくれた2人に、グレンは幼いながらも恩を返さねば考えていた。
 とは言っても、幼いグレンにできることはそう多くない。村で生活していた頃にやっていた、水汲みや竈門の準備、料理や畑仕事は手伝い程度、なるべく早起きして掃除や朝ごはんの準備をするくらいだ。

「もうすこし、ねてていいよね……」
 
 朝の準備のことを考えながら、もう一眠りしようと部屋へ足を向ける。

「はやくなれないと……」
 
 グレンが最も慣れていた仕事は妹のお守りである、そうした仕事がない以上、慣れない仕事を頑張るしかない。
 そう考えていると、ふと川に落ちて流れていってしまった妹のアイラの顔が浮かぶ。

「アイラ……」

 ここに来てまだ数日しか経っていないが、目まぐるしく変化する日常にいまだに付いて行けていない。
 それでも、寂しさを忘れるには都合がいい忙しさだった。

「おとうさん……おかあさん……」

 一度堰を切ってしまった感情は、グレンの心を埋め尽くしていく。
 振り払おうとしても、すぐに思い出される光景がある。
 寂しさと郷愁がグレンの心を掻き乱す。

 ◇◇◇

 次にグレンが目を覚ましたのは丁度陽が昇ろうがという時合であった。
 薄らと眼を開き、段々と意識が覚醒していく。

(なんだろう……すごくフワフワして、あたたかい……)

 思わず顔を埋めたくなる様なモフモフ感がグレンを再度微睡へと誘う。

(……モフモフ?)

 手に当たる感触はツルツルフワフワで、滑らかな絹の様な肌触り。
 思わず顔を埋めてその感触を確かめる。
 両手で抱きしめると温かく、いい香りが鼻腔をくすぐる。

(きもちいい……)

 グレンはその感触の虜となり、再び微睡の中へ落ちようとしていた。

「……グレン、そろそろ起きてもいいかな?ちょっと……苦しい……」 
「――ぇっ……あれ?」

 突如声をかけられ、グレンは落ちかけた瞼を開ける。
 急激に覚醒する思考と共に、目の前にサバトラ柄の毛玉が目に入った。

「――あっ!ごめんなさい!へやまちがえちゃいました……」

 グレンは飛び起きて顔を真っ赤にしながら、最後は消え入りそうな声で謝る。
 どうやら寂しさの余り、無意識に寅吉の布団に潜り込んでしまったようだった。

「んにゃ、大丈夫だ。何かうわ言の様に両親や妹の事を呼んでいたからな。そんな時もあるだろう」
「ごめんなさい……かぞくのことをおもいだして……それで……さびしくなって……」

 もはやグレンのライフはゼロだ。
 寅吉に追い討ちかけられ、小さな身体が更に小さくなってしまっている。

「そんな時もある。ただ……余り強く触られると……痛いのでな……触るなら優しく頼む……ああ!だがブラシは少し強めがいいな。特に背中は強めに頼む」

 寅吉も余りにもグレンが恥ずかしそうにしているので、話題を変えようとしてくれるのだが、よく分からない方向へと行ってしまった。

「――はい!よろこんで!いっしょうけんめいブラッシングします!」
「後で、頼もうかな……」
 
 ちょっと嬉しそうに答える寅吉の声を聞いて、グレンは漸く俯いていた顔を上げた。

「はい!じゃあブラシとってきます!」
「あっ、その前に朝食の準備をして、皆で食べてからだ。グレンは着替えて支度してきなさい」
「わかりました!」

 グレンは寅吉からの指示を素直に聞き、自分の部屋へ走って戻っていく。
 この家に来た日、クレアと寅吉が何処からともなく用意してくれた服に着替える。
 柔らかで肌触りの良い生地のシャツにしっかりとした生地のズボン。
 村にいた時には見たこともない様な服だったが、着心地はすこぶる良い。
 着替え終わり、一息ついて部屋の中を見回す。
 あの日、グレンを連れ帰ったクレア達はグレンを風呂に入れ、新品の着替えを用意し、部屋を与えてくれた。
 風呂なんて見たこともなかった、部屋を1人で使えるなんて考えたこともなかった。

「ふふ」

 あの日のことを思い出して、グレンは自然と笑みが漏れる。

「あさのじゅんびしなきゃ」

 グレンは部屋の扉を開けて1階へと降りていく。

 ◆◆◆

「あったー!おっ、続きもの巻もあるじゃない。もしやこれは……完結してるー!揃ったー!」
「にゃ、これは知らない料理本だ。こっちは……刀の図録!」

 結局お目当ての本を探すために地上へと戻ったクレア達。
 クレアはお目当ての漫画を見てけてご満悦の様子だ。
 戻ることに難色を示していた寅吉もクレアと一緒になって本を物色し、趣味の本を見つけては尻尾をブンブンと振り回しながら興奮している。

「……たのしそう」

 そんな2人の様子を側から眺めていたグレンは、自分も何か探してみようと歩き出す。
 新たに生まれた森の中を歩き出す。
 元からあった都市遺跡が森に飲み込まれ、更に遺跡感が増している。
 遺産と共に散らばっている本や何の用途で使用するのか分からないようなものを見ながら、グレンも2人に習って手近な本を手に取ってみる。

「……なんのほんだろう?」

 手にした本をパラパラとめくりながら、書いてある文字の読めないグレンは描かれた絵だけを見ていく。

「……きれいだ」

 村にも幾つかの本があった、両親と村長の家に行った際に見せてもらったことがある。
 だがその本には文字が書かれているだけで、内容は全く分からないため、面白いものとは思っていなかった。
 だが、今手にしている本には色彩豊かに様々なイラストが描かれている。
 見たことある動物や植物、また人間の描き方が詳しく描かれているようだった。

「お、グレンも何か見つけたかな?おー、それ漫画の書き方の本じゃないかな?」
「まんが?」
「そう漫画だよ。絵と文字で様々なものを表解するものだよ。これなかんがそうだね」

 クレアは手にした本をグレンに手渡す。

「――すごい」

 文字は読めない、だが描かれた絵の動きだけで何をしているか分かる程に精緻な絵。いや、細部はデフォルメされていたり、誇張されていたりする。
 村長家で本と同じく見せてもらった写真とはまた違ったものだと言う事は分かる。

「ぼくも……よんでみたい……」
「そうかそうか!いいよー、文字も教えるよー、漫画読んでみたいよね!?興味あるよね!?いやー仲間が増えるのは嬉しいなー、最近は興味を持ってくれる人が居なくてね。布教できてなかったんだよね。あっ、絵を描いてみたいとか思わない?描いてくれると嬉しいなー。この漫画独特の表現と技法、そしてストーリー。私的には熱い展開の漫画が好みかな、あぁでも恋愛ものも捨て難い、いや静かに考えさせられる哲学的な作品も身体が求める時もある。絵柄もポップなものからリアルのものまで様々だ、ストーリーとマッチしていてもギャップがあってもいい、それがまた魅力になるからね。いいかい?漫画の表現は無限大だ、きっと君に合う作品があるはずだ。大丈夫だ私も手伝おう、じっくりたっぷり味合わせてあげるから任せてくれ」

 クレアは漫画に興味を示したグレンにここぞとばかりに語りだす。

「……はっいっ!」
 
 呆気に取られてクレアを見つめるグレンは弾かれたように返事をする。
 その顔は満面の笑みで、期待に満ち溢れていた。

「んなー、何を早速引き込んでるだ。グレンにはまず文字や計算を教えるのが先だろう。丁度いい本もあったから持ってきたぞ。グレン、ここに料理の本がある、これは文字も写真もあるし分量を測ったりしなければならない。勉強には最適のテキストだ。丁度新しい料理に挑戦しようと思っていたところなんだが、どうだ?俺と一緒にやっていないか?クレアも料理はできるんだが、新しいものには挑戦したがらなくてな、俺も刺激が欲しくてな。お前が興味あるなら色々教えてもいいと思っているんだ。あぁ、あとここに刀の図録もあってな、これは見ているだけでも心踊るものだが、勿論勉強にもなる。ちゃんと歴史的背景も分かった方が、理解が深まるからな。勿論これもお前が興味を持てたらの話だが……」

 寅吉はクレアを諌めたかと思えば、次に口にしているの結局自分の趣味に引き込もうと勧誘しているだけであった。

「はっいっ!きょうみあります!」
「にゃ!そうか!じゃあ帰ったら早速――」
「ちょっと!寅吉何してのよ!私が先でしょ」
「そんな事はない、俺のは生活に必要な事だ」
「刀は必要ないでしょ。まずは文字が読めないとダメなんだからまずは漫画でしょ」
「それなら料理でも十分だろ。グレン、料理ができればクレアが喜ぶぞ」
「!」
「トラ!それはずるい!」

 騒がしくも暖かくグレンの事を迎え入れようとしている2人を見て、グレンの心は改めて温かいきもちで満たされる。

「はは……ははは……あはははははは」

 グレンの口から自然と漏れ出た笑い声。
 こんなに笑ったのはいつ以来だろうか。
 心から笑えたのはいつ以来だろうか。
 それでも、心の底から笑っていいんだという思いが溢れ出る。

「はは。やっと笑い声が聞けた。そうだ、ギャグ漫画も最高だよ?」
「俺はバトルものが好きだけどな。あと料理漫画もなかなかな興味深いが……んにゃ!」
「ふっ……決まりね」
「くっ……」
「いっそ殺そうか?」
「んにゃ、何で俺が、くっ殺されなきゃいけないんだ」
「あはははははは、2人とも、おもしろいです」

 楽しそうに笑うグレンに言われ、クレアも寅吉も自然と笑い声が溢れる。

「「「はははははは」」」

 新たな家族は、笑いの中から始まった。
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