趣味に全力!森の魔女は勝手気ままに生きたい 〜気になる漫画の続きが読みたいので、弟子を取りました〜

蒼烏

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第6話 魔女の家3

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「……」
「どう?凄いでしょ?」
「にゃ、もっと驚いてもいいんだぞ」
「はい……すごいです……なんで……たきがあるんですか?」

 ◆◆◆

 グレンは深い森の中にあった魔女の家に降り立つと、何より先に風呂場に連れてこられていた。
 2人に案内された先には木の柵で囲まれたもう一つの家があった。
 そう家と言っていいくらいの大きさだ。
 2人は小屋と言っているが、グレンからすれば今まで住んでいた家と変わらない大きさだ。
 寅吉に連れられ、男女別れて脱衣所に入る。

「ここで服を脱ぐんだ、その服はあとで洗濯しておこう」
「……はい」
「にゃ?どうした?何かあったか?」
「いえ……おふろってきたことないので……」
「ああそうか、ここじゃ一般的じゃないからな。じゃあ基本的なお風呂のマナーから教えていこう。まずここは脱衣場、服を脱いでそのカゴに入れておくんだ。あそこにトイレもあるぞ。あとあっちは洗面所だ、髪の毛を乾かすのに使うといい。あと……」

 寅吉は何やら透明なガラスケースの前までやってきて中の入れられた瓶を指差す。

「これは風呂上がりに飲む牛乳だ。コーヒー牛乳かフルーツ牛乳が良ければ言ってくれ、用意しよう。俺は断然牛乳派だがな」

 牛乳は知っているが、こののような空間は見たことも聞いたこともない。
 呆気に取られて声も出せないまま、寅吉にふかふかのタオルを渡されて部屋を区切る扉をくぐる。

「え……ひろい……」
「にゃ、そうだろう。自慢の風呂だ。だか風呂にそのまま入るのはマナー違反だ。まずはそこの椅子に座るんだ。そしてそこの蛇口を捻ってお湯を出すんだ」
「おゆが……でる?」

 グレンは恐る恐る言われたとおり木のいすに座り、木桶を持って目の前の蛇口に触れる。

「んにゃ、そこの上の部分だ。そこを回してみろ」
「はい、わっわっ!」
「にゃはは!もう少し締めて少しずつ出すんだ」
「おー楽しそうだねー」

 慌てふためくグレンの後ろからもう1人の声がする。

「にゃ、新鮮な反応だ」
「だねー、どれどれ、私が洗ってあげよう」

 タオルを巻いた姿でクレアが現れて、グレンを洗うと言い出す。

「だっ、だいじょうぶです!じぶんでできます!」

 グレンは立ち上がって自分の体くらい自分で洗えると慌てて抵抗する。
 
「いいからいいから、全身泥だらけだよ、このまま湯船に入ったら寅吉に怒られるよ?」
「まさしく、じゃあ俺も一緒に洗おう。早く風呂に入りたいしな」
「……はい」

 グレンの抵抗虚しく速攻で言いくるめられてしまう。グレンも観念して素直に椅子に座り直す。 

「グレン、これが髪の毛を洗う石鹸だ。こっちが髪の毛の仕上げ用、これが体を洗うためのものだ」
「よっし洗うぞー」

 グレンはクレアと寅吉に全身を揉みくちゃにされながら洗われる。
 わしゃわしゃとクレアが髪の毛を洗い、ゴシゴシと寅吉がタオルで力強く体を洗う。

「ふぁぁぁ……」
 
 くすぐったくも気持ちいい感覚にグレンの表情が緩む。
 
「ほっほ、お客さんかゆいところはありませんかー?」
「い、え、だいじょうぶです……」
「よし、じゃあ流すぞ」

 寅吉が頭からお湯をかぶせ、全身の泡を洗い流す。

「――ぷっはー」
「おー綺麗になったね、じゃあ仕上げにこっちの石鹸をつけて――寅吉やっちゃって」
「にゃ、もう一回いくぞ」

 ぐっと目を瞑り、流れるお湯をやり過ごす。

「ちょっと待っててねー私達も洗っちゃうから。あっ、グレン、寅吉の背中洗ってあげてくれる?洗い辛いんだって」
「んなー、頼む。普段はクレアにやってもらうんだが中々大変でな。特に発掘に行った後は埃っぽくてな。そこのブラシを使ってくれ」
「はい!」

 まずはブラシでざっと大きな汚れを落とす。
 それが終わったら桶のお湯で全体を流していく。
 更に石鹸を使って細かい汚れを落としていく。

「うわっ、あわがすごい」

 グレンは寅吉の背中を全身を使って洗っていく。
 汚れが落ちてくると段々と泡立ちが良くなってくる。
 グレンは一所懸命寅吉の背中を洗っていく。
 そうしているうちに、何やら雷の様な音が響き始める。

「なんのおとですか?」
「んな~、これは中々……やるなグレン……」

 寅吉は気持ち良さそうに目を細めながら喉をゴロゴロと鳴らしていた。

(あ、ねことおなじだ)

 寅吉が気持ちよく洗われているのを見て、クレアが羨ましそうに口を開く。

「いいなー私も洗ってよー背中流してよー」
「えっと……」
「洗ってやってくれ、ああなると洗うまで治らないからな」

 寅吉から離れ、クレアの背中の後ろに立ってタオルに石鹸を着けて洗いだす。

「あ~これは気持ちいい~寅吉の肉球で洗われるのも良いけど、これはまた違った良さがあるわ~」
「グレン、クレアの髪も洗ってやってくれ。ほっとくとすぐにケアをサボってボサボサになるんだ」
「はい」
「ちょっとーひどいなーでも洗ってー」

 クレアはサボってるのは否定せず、されるがままに洗われていく。

「かゆいところはありませんか?」
「ん~もうちょい右~あ~そこそこ~」

 2人を洗い終わるといよいよ湯船だ。
 洗い場の外には池ほどある大きさの露天風呂が広がっていた。
 更に木で作られた浴槽や、大きな壺のような物やお湯が流れ落ちる滝のようなものまである。
 露天風呂の先には庭が広がっており、様々な樹々が植えられている。
 所々に石や岩が配置され、小さな山の様なものもある。
 そして岩山からは水が流れ落ち、滝ができている。
 滝壺に落ちた水は小さな小川となり、庭園の中を流れていく。
 
「……」
「どう?凄いでしょ?」
「にゃ、もっと驚いてもいいんだぞ」
「はい……すごいです……なんで……たきがあるんですか?」

 今日は驚いてばかりだったが、ある意味で一番の衝撃かもしれない。

「にゃ、自慢の風呂だ。色々改造してきたからな」
「そうだねー、ちょっと途中から楽しくなっちゃってやり過ぎちゃったけどね」

 どうやらこれらは2人の合作らしい。
 一通り驚いたところで、寅吉が風呂の入り方を説明してくれる。
  
「いきなり湯船に入るのではなく、軽く体にかけて慣らすんだ。そしてタオルは湯船に漬けてはいけない。お湯が汚れてしまうからな。畳んで頭の上に乗せるのがマナーだ」
「はい」
 
 グレンは言われたとおりに、掛け湯をしてからゆっくりと湯船に足からゆっくりとお湯に浸かってみる。 

「……ふぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ふふ、良い声が漏れてるね」
「これでまた1人、風呂の虜ができたな」

 クレアと寅吉もグレンの左右に並んで湯船に浸かる。

「「「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~」」」

 頭にタオルを乗せ、全員の顔が蕩ける。

(こんな、きもちいいの、はじめて……)

 頭の中に今日一日のことが走馬灯のように流れる。
 辛く、生きる意味も無くし、死を待つだけだった時間。
 体に、心に、積もって染み付いた澱が溶け出していく。
 自然と溢れ出る涙。

「あ、れ……?」

 グレンは溢れ出る感情を止めることができない。
 とめどなく流れてくる涙を温かなお湯が受け止める。
 そんなグレンをそっとクレアが抱きしめる。
 
「辛いことも、悲しいことも沢山あっただろうけど、全部ここに流しちゃいな。でも心の中の思い出は大切に持っていなさい。いつかきっと、それと向き合える時が来るから」
「――っ、はいっ!」

 クレアの腕の中で大粒の涙を流すグレン、そっと頭を撫でる寅吉。
 2人に見守られて、グレンは涙が枯れるまで泣いた。

「落ち着いたか?」
「ずっ、はい……」
「ねー、随分泣いてたもんねー上気せちゃうね」
「にゃー、まあたまにはこんな長風呂もいいだろ」

 風呂の縁に腰掛けながら、3人が熱った身体を外気で冷やしている。
 
「そうだね、風呂は命の洗濯よ」
「グレン、安心しろ。ロボットには乗らないからな」
「あれはロボじゃありませんー人造人間ですー汎用人型決戦兵器ですー」
「んにゃ、そうだけど……無いんだからいいだろ」
「作る?」
「作るな、誰の魂を閉じ込めるつもりだ」
「寅吉?」
「母親だからクレアだろ」
「えー」

 心の洗濯を終えたグレンの顔には、柔らかな笑みが浮かんでいた。
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