趣味に全力!森の魔女は勝手気ままに生きたい 〜気になる漫画の続きが読みたいので、弟子を取りました〜

蒼烏

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第24話 グレンのお留守番2日目5

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グレンはお腹は満たされたものの、何時の間にか無くなってしまった昼食にショックを受け、若干しょんぼりしながら昼食の後片付けをしていた。

「こんどは、もっとゆっくりたべよ……」

 グレンは片付けを終えて自室へと戻ってきていた。
 作画机の上にはりんごの絵。

「もっとかきたいな……でもほかにもやることが……」

 グレンは描きたい欲を抑え、まずは寅吉の課題と仕事をやることにする。

「あ、かみとえんぴつもってけばいいんだ!」

 グレンは閃いとばかりに紙と鉛筆を手に持ち部屋を出る。
 卵の収穫用のカゴを持って家の外へ。
 天気も良く、青空が広がっている。
 鳥達が鳴きながら空を飛び、その間を優しい風が吹き抜ける。
 穏やかな午後の光を浴びて、グレンは目を細める。

「まずは、まりょくのちかくから」

 景色が一変し、周囲は魔力で満たされている世界へと変貌する。
 上空の結界も相変わらず健在であり、森からは魔力が立ち昇っている。

「きれいだな……さっ、あるこう!」

 世界に見惚れていたグレンは、気を取り直して寅吉の課題を始めることにする。

「どっちからいこうかな……」

 先に牛達の所に行くか、一周回ってから最後に行くか。

「よし!ぐるっとまわっていこう!」

 絞った牛乳をそのまま置いておくのも良くないと、牛の乳搾りは最後に回すことにして、グレンは歩き出す。
 庭園の小道を歩き、森の端まで行くことにする。
 庭園には様々な植物が植えられ、花が咲いているものや、実を付けているもの、小さな花から大輪の花、高い木の枝に実を付けているものもある。
 どれも魔力を含んでおり、翠色の光を放っている。
 幻想的な世界に迷い込んだグレンはキョロキョロと見渡し、時には座り込んで花を眺めたりしながら曲がりくねった小道を進む。
 
「あ、かわだ」

 庭園の中程まで進むとそこには小さな小川が流れており、橋が架けられている。

 橋の手すりから水面を覗き込み、川の中を観察するグレン。

「みずにも、まりょくがある!」

 動植物と比べれば量は少ないが、流れる水にも魔力ご含まれていることが分かる。
 流れに沿って翠色の光が蛍の様に漂いながらグレンの足元を過ぎていく。

「あのひかりは……さかなだ!」

 目視では見えない川の中に魔力の塊を見つける。
 形から魚が泳いでいるのが見て取れた。
 魔力は魚の隅々まで行き渡り、真ん中により輝く魔力の塊が命そのものの様に、ゆらゆらと揺らめいている。
 どうやら小川は、庭園を横断しながら流れているようだった。

「どこからくるんだろう?」

 近くに川が無く、井戸を掘ったと言っていたが、流れている水は小川とは言えそれなりの水量がある。
 気になったグレンは小川沿いの小道に曲がり、小川の上流を目指す。
 早速寄り道をしているが、体力作りのためなので問題ないだろうと、小川の流れに逆らって歩いていく。
 
「なっにがあるかな~♪」

 落ちていた丁度良い長さの棒を拾い、気分は探検隊である。
 水面や花ばかりに気を取られていると、ふと見上げた先に大きな木が生えていた。
 立派な幹、太い枝、青々と茂った葉。
 花は咲いていないが、妙に存在感がある。

「おっきなき!ひかってる!」

 目に入るのは眩い翠色の輝きを放つ大樹だった。
 枝葉から魔力が湧き立ち、周囲を魔力で満たしている。
 枝には色とりどりの鳥たちが集まり、体を休めている。
 他に植えられた木よりも一段背が高くこんもりとしている。
 その大樹へ近付くにつれて、その全容が露わになる。

「うわぁ……きれい……」

 そこには池があり、池のほとりに大樹が根を下ろしていた。
 根は池の水面の中まで入り込み、水中でうねり、根の陰には魚が隠れ、水面には水鳥が羽を休めて優雅に漂っている。
 大樹の周りには色とりどりの花が咲き、風に吹かれて揺れる。

「すごく……おおきい……」

 幹周りがグレン何人分だろうか。
 大人が5人も手を繋がないと一周できないであろう太さ。
 ゴツゴツとした幹に巨大な木の枝。
 その葉からは魔力が溢れだし、幻想的な雰囲気を醸し出している。

「クレアさんがつくった、じゅかいのきみたい……」

 ふと、あの時の光景が蘇る。
 クレアが使った樹海魔法で生まれた“聖樹”のような雰囲気。
 あの樹はもっと巨大で大きかったが、この樹はそれと同じか、それ以上の存在感を感じる。

「ここで、かいてみていいかな?」

 グレンは魔力を知覚した目を通してみたこの光景を、絵に描きたいと思った。
 目に焼き付けるだけでは足りない。こんな美しいものがあるのなら、みんなに見てほしいと。

「でもかだいもあるし……どうしよう……」

 寅吉からの課題を始めたばかりでいきなり寄り道した挙句、止まって絵を描いてもいいものかとグレンは悩む。

「でも……かきたいな……かいたらクレアさんもとらきちさんもよろこんでくれるかな?でもとらきちさんのかだいをやらないとおこられちゃうかな……」

 グレンの今の心情は、兎にも角にも助けられた恩を
返したい、2人の役に立ちたい、よろこんでもらいたいと思っている。 
 そうでなければ、1人生き残ってしまった自分が、こんなに楽しんでいていいのかと、ふとした瞬間に後ろめたい気持ちが湧いてきてしまう。
 クレアと寅吉のことを口実にするのも躊躇いがあるが、少年としてのグレンは気持ちの赴くままに行動しろという。

「とらきちさん、ちゃんとかだいもやるのでえをかかせてください!」

 ならば全部やればいい。
 そう結論付けるグレン。
 
「おとうさん、おかあさん、アイラ。ぼくがんばって、みんなによろこんでもらえるようになるから……だから、とおくでみてて!」

 クレアと寅吉のために、まだ見ぬ皆んなのために、そして己のために、グレンは全てに頑張ると誓う。
 絵も、魔法も、武術も、料理も、誰かが喜んでくれるなら、全部頑張る。
 それは自分自身の願いでもあり、欲でもある。
  
「よし、かくぞー!」

 グレンは紙と鉛筆を用意し、目の前の光景を紙に落とし込むことに集中する。
 全てを叶えるために。
 
 ◇◇◇
 
「にゃ、あそこだ」
「分かった、とりあえず村を上から見てみようか」

 一方その頃、クレアと寅吉はグレンの故郷の村までたどり着いていた。
 ゆっくりと村の上空にたどり着くと、村の様子を確認する。

「ひどいね……」
「ああ、かなり大きな群れに襲われたみたいだ。村の外れに遺体を集めて埋葬してやろう」
「……そうだね」

 クレアの寅吉は神妙な面持ちでゆっくりと村の中心へと降り立つ。
 村はそこまで大きなものではなく、家も20戸もないだろうか。
 村の中心には井戸があり、一軒だけ少し大きな家がある。これは村長の家だろうか。

「生き残りは、誰もいないんだよね?」
「ああ、それは昨日確認した。外の森と接する辺りに武器を持った人が何人も倒れていたから、その辺りで防衛していたのだろうな。そこでグレンと同じ赤髪の男の人を見つけてな……グレンの面影があったから恐らく父親だろう。その近くに埋葬した」

 寅吉は森と接する辺りを指差し、埋葬した場所を示す。

「分かった、じゃあ私はその辺りに魔法で穴を掘っていくね、寅吉は家の中のご遺体を運び出してくれる?」
「了解だ。昨日確認してあるからそっちに運ぼう」

 クレアと寅吉は手分けして村人の埋葬準備を始める。
 吹き抜ける風は冷たく、春が近いと言うのに肌を刺す。
 人の気配の消えた村で、2人は黙々と作業を続けた。

 ◇◇◇

「よし、これで全員かな?」
「ああ、見える範囲の村人はこれで全員だ」

 一通り村人の遺体を集め、クレアの用意した墓穴へと並べていく。
 誰が誰の家族かも分からないため、一緒に並べてあげることもできない。
 せめてもと、村人達をまとめて埋葬することにしたのだ。
 墓標も建てることができず、石や木を目印にすることしかできなかった。
 こんもりと盛られたむき出しの土に、ずらりと並ぶ石や木の墓標。
 殺風景で寂しいけ景色が広がっている。

「このままじゃ寂しい限りだな……」
「そうだね……じゃあ、やるね」

 クレアは短くそう言うと、杖を取り出して構える。

「……」
「クレア、大丈夫か?」
「……大丈夫、ありがとう」
 
 杖を構えたまま立ち止まるクレアを心配して、寅吉が声をかける。

(あの子達は、お墓も作ってあげられなかったな……)

 ふとした感傷。
 孤児院で過ごした仲間には墓を作ることもできなかった。
 こうして弔えることが、どれだけ貴重なことだったか。
 寅吉とて思いは同じだろう。
 あの日、守れなかった者の想いを一番知っているのは寅吉だ。
 涙は流さない。もうとうに枯れたものだ。
 今生きるもの達のために、力を尽くすと決めたのだ。
 少し寂しそうで、懐かしいものを見るような目。
 2人は少しの感傷とグレンという未来への想いで現実へと帰ってくる。 
 
「賑やかにしてやってくれ」
「うん」
 
 クレアは魔法を発動させる。

「せめて、花くらい咲かせてあげないとね」

 杖の先に魔法陣を展開。
 クレアが一言だけ呟く。

「死者に安寧を、咲け」

 クレアの言葉と同時に魔法陣が展開、墓地を囲み魔力を解放する。
 剥き出しだった土から芽が出てくると、一気に成長する。
 一面が緑色の葉で埋まり、更に蕾が膨らみ花が咲く。

「スノードロップか」
「幸福の花だからね、もう春だし」

 墓地は白いスノードロップの花で覆い尽くされ、春の訪れを告げる風に吹かれ、揺れている。
 まるで死者を慰めるかのように。

「あ、寅吉。グレンの家って分かる?」
「にゃ、多分だが分かる。グレンの魔力の匂いが残っていたからな」
「そっか、じゃあ荷物とか回収しとこうか」
「そうだな、いつか渡せる時がきたら渡してやりたいしな」

 2人はグレンの生家へと赴き、グレンの思い出の品がないか確認することにする。
 いつ、ここに戻ってくることができるか分からない。
 その間に、グレンの大切なものが失われてしまうのは余りにも可哀想だと思ったのだ。
 グレンが成長した時、全てを受け止めることができるようになった時、渡せるようにとの2人の親御心がそうさせるのだ。
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