最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい

アイイロモンペ

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第17章 夏、季節外れの嵐が通り過ぎます

第486話 いや、その姿で十二、三歳と言われても…

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 さて、私とリーナで手分けをして領内を巡ってみると、揃ったのは皆線の細い華奢な感じの男の子ばかりでした。

「何処へ行っても親御さんの関心が低いので驚きました。
 学校で男の子を受け入れると言うと。
 子供だって十二にもなれば働き手だから、連れてかれたら困るとか。
 学校なんかで一日中座ってばかりじゃ、ひ弱になってしまうから困るとか。
 まるで、読み書き算術の大切さを理解してないのですもの。
 村長さんあたりはその辺を理解しているのですけど。
 あいにく、年齢のあう男の子がいませんでしたわ。」

 そう嘆いている通り、リーナの方も男の子を学校に通わすと言うと良い顔をされなかったようでした。
 そんな中で、学校に通いたいと希望したのは、華奢で余り重労働には向かない感じの男の子達でした。
 やはり、力の強い子がもてはやされる農村部に於いて、肩身が狭い思いをしていた子供達のようです。

 とは言え、決して病弱な訳ではなく、力だって人並みにあるのですよ。
 ただ、農村部の力仕事で要求される水準に達していないだけで。

 でも、

「俺、頑張って勉強する。
 そんで、偉くなって、俺をバカにした連中を見返してやるんだ。」

 リーナが連れて来た男の子はそんな風に意気込んでいました。
 その子に限らず四人とも多かれ少なかれそう思っているようで、みなやる気に満ちているのが救いでした。
 是非とも、その気持ちを忘れずに五年間勉学に励んで欲しいものです。

 これで、農村部の貧困家庭から保護した女の子十人と合わせて十四人となりました。
 定員三十人の残枠は十六人、男の子四人に引き続き新たな試みを行います。
 開校三年目にして初の年齢以外に制約を設けない一般の生徒募集です。

 とは言え、今回募集を掛けるのは領都シューネフルトだけです。
 応募してくる方はリーナの領地内なら何処に住んでいてもかまわないのですが。
 募集要項はシューネフルト各所に設けられた告知板に掲示され、申し込みの受付も女学校だけです。
 人手の関係で領内各地に募集をかけることが出来なかったことが主な理由ですが。
 もう一つ、理由があります。
 今までは、貧しい農村部の貧困家庭からの生徒募集を優先していました。
 その結果、比較的ゆとりのあるシューネフルトの子供が在校生の中に殆どいないのです。

 三年後に領民学校を創設する際はシューネフルトにも開校したいとリーナは言います。
 そうなると、地元出身者がいないのはいかがなものかとなりました。

       *******

 ということで、募集を掛けた訳ですが…。
 掲示した募集要項で定めた応募受付の日、指定した女学校の募集会場は溢れていました。
 十六人の募集に対して、三十人くらいの子供がいます。
 当然、親御さんが同伴しているので、会場にいる人の数は倍以上な訳で急遽控え室を一つ増やしました。

「思ったよりも、多く集まってくださったのには驚きました。
 シューネフルトの町に住む人には、娘を学ばせたいと言う方がこんなにいたのですね。
 できれば、希望する方全員を受け入れたいものですが…。
 無理なのですよね、ヘレーネ。」

 集まった子供達を見てリーナは領地の金庫番ヘレーネさんに尋ねますが。

「元々、この女学校はなけなしの領地の予算をやりくして運営していますので。
 それに、実際にはそれじゃ全然足りなくて。
 シャルロッテ様の『アルムハイム育英基金』から毎年賛助金を支援して頂いてますし。
 シャルロッテ様にお買い上げいただいた土地の代金も丸々女学校の運営に充てている状態です。
 それを考慮すると毎年三十人を維持していくのがやっとかと。」

 ヘレーネさんは定員以上の生徒を受け入れることに消極的な意見をリーナに返しました。
 ヘレーネさんの言葉を耳にして、リーナはとても残念な表情をしていましたが…。

 実際のところは、そんなに気落ちする必要もなく。
 リーナに頼まれて、私も応募者の面接を手伝っていたのですが…。

「あなた、募集要項はご存知ですよね。
 今回、女学校の生徒として募集をしているのは十二歳若しくは十三歳の女の子です。
 あなた、明らかに違いますよね。」

「いえ、私、今、十三歳です。」

「嘘おっしゃい、年齢詐称にもほどがあります。
 何処に私と同じくらいの身長で、そんな豊満な胸の十三歳の少女がいますか。
 あなた、どう見ても、十七、八でしょうが。」

 ちゃっかり、女学校に潜り込もうと言う年長の女性がいたりします。

「えーっ!ダメですか。
 私、自慢じゃないですが、十二、三歳の知恵しかないですよ。」

 ええ、全然自慢になってないですね。

「ダメです、精神年齢じゃなくて、実年齢が十二、三歳じゃなければ。
 だいたい、何でそんな見え透いた嘘をついて申し込んできたのですか。」

「私、この町の大店で下働きをしてるんだけど。
 読み書き算術が出来ねえと、何時まで経っても安い給金で扱き使われるんだ。
 私より幾つも年下の商人の娘が奉公に来てよ。
 小っせい頃から読み書き算術を教え込まれたらしくて、すぐに帳場に回されたんだよ。
 それで、もう三年も下働きをしている私よりずっと給金が高いんだ。
 私も読み書き算術が出来ればと思ってたら、この募集を耳にしてよ。
 聞けば、通っている間は宿とメシと制服がタダであたると言うじゃねえか。
 学校を出た後の職も貰えると言うし、私しゃ思ったね、これを逃す手は無いって。」
 よくよく話を聞くと、この女性、元々近くの農村の出身らしいです。
 十五の時に、とてもイヤな男の所に嫁に行けと言われ我慢が出来ずに家を飛び出して来たそうで。
 この町でも大きなお店の下働きに潜り込んだようです。
 凄いバイタリティですね、私は女性が少し気に入りました。

「あなた、今働いている店には前借はないのよね。
 年季奉公なしの、下働きと考えて良いのよね。」

「ああ、私は金に困って売られてきたわけじゃないからな。
 そうじゃなければ、学校の入学募集に来たりしないぜ。」

「そう、じゃあ、この女学校の入学は無理だけど…。
 少し良い話が出来ると思うわ、この入学募集が終わるまで。
 しばらく、しばらく控え室で待っていてくれるかしら。」

 向上心があるようなので、工房か、ホテルの使用人に誘ってみようかと思ったのです。
 ともかく、こんな、そもそも、募集要項から外れている子供が少なからずいたのです。
 さすがに、この女性みたいに十八にもなってしゃあしゃあと十三歳と言う方は他には無かったですが。

      *******

「その子、明らかに十二歳に達してないですよね。」

 私が尋ねると。

「何をおっしゃいます、うちの娘マーヤは今年十二歳になりました。
 少々、小柄ですが、これも個性ですよ。」

 いかにも商人といった雰囲気の父親が調子の良いセリフを口にします。

「ねえ、マーヤちゃん。
 マーヤちゃんは今幾つかしら?」

 私が尋ねると、マーヤちゃんはモミジのような可愛らしい手のひらを出して答えました。

「まーや、いま、五つ!」

「あっ、こら、バカ!
 聞かれたら十二と言えと言っただろう。」
 
 それは無理がありますよ、うちのサリーやエリーと同じくらいの背格好ですし。
 漂う幼さが似ているんですもの。

 何故そんな見え透いた嘘をつくのか尋ねると。

「いえ、女学校の話は以前から耳にしてまして。
 うちの娘にも、キチンと読み書き算術を習わせたいと思ってるんですが。
 この女学校は、貧しい村からしか生徒を集めないと聞いてまして。
 今年、たまたま定員に空きができたので、この町でも募集すると聞いたんです。
 こんなチャンス、もう無いかも知れないと思いダメもとでやって来ました。」

 この父親は、この町で小さな雑貨店を営んでいると言います。
 その雑貨店には、時折女学校の生徒も買い物に来るそうです。
 そんな女生徒に色々と女学校の話を聞いていたそうで。
 マーヤちゃんを是非通わせたいと思ったようです。

「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。
 今後も毎年、一定程度の一般募集を続けることになると思います。
 それに、マーヤちゃんが就学年齢になる頃には、領民学校が出来ているはずです。
 この領地では全ての領民の子供に読み書き算術等を教える学校を創る計画がありますので。」

 私がそう説明をすると、この父親、安堵したような様子でマーヤちゃんを連れて帰って行きました。
 実は、このパターンがとても多かったのです。
 今回の募集が定員に空きが出来た故のもので、今後もあるか分からないと何処からか漏れたようです。
 情報が命の商人達は、その噂を嗅ぎ付けたみたいなのです。

 高度な教育が無償で受けられる、しかも在学中の衣食住も無償で。
 利に聡い商人たちがこんな好条件を逃すはずがありません。
 この機を逃すまいと、娘がいる商人が一斉に応募してきたのです、年齢を詐称してまで。

 そんな、要件不適格な子を除くとちゃんと定員に収まっていました。
 いえ、正確に言うと、その中に十一歳や十四歳の子がいるかも知れませんが、そこは仕方がありません。
 この国には、正確な戸籍が無いですし、そもそもが数え年ですので年齢が不正確なのです。

    *******

 そして、生徒の募集が全て終わりがらんとした控え室の中、一人の女性がポツンと座っています。
 十八歳、私より立派なモノをお持ちなのに、しゃあしゃあと十三歳だと年齢詐称したあの女性です。

「待たせたわね。
 私は、シャルロッテ・フォン・アルムハイム。
 隣国アルムハイム大公国の大公なんだけど。
 この領地で幾つか事業を営んでいるの。
 私の経営する職場では、男性も女性も平等。
 女性の管理職もたくさんいるの。
 あなた、向上心があるみたいなので、良かったら私の下で働かない。」

 私は単刀直入に言うと、事業の概要を説明しました。
 機械工房、時計工房、それにホテルですね。
 いずれも、読み書き算術が必須で、業後に毎日、その指導の時間を設けていることを伝えます。
 それと、欠かすことの出来ない、給金の水準ですね。

「そんな高い給金が貰えるんかい。
 しかも、読み書き算術がタダで教えてもらえるって。
 他にも工房なら図面の読み方・書き方、ホテルなら礼儀作法も教えてくれるんだ。
 なあ、私、真面目に働くから、雇ってもらえないかい。
 生まれた村で、ブサイクな筋肉バカを宛がわれて、それが嫌で飛び出して来たけど。
 いつまでも商人の下働きじゃあ、村を飛び出した甲斐がねえなと思ってたんだ。」

 この女性、昨年、ノノちゃんの村から採用したセレナさんと気が合いそうですね。
 彼女も村の男からの求婚にウンザリして村を逃げ出して私のホテルに来たのですから。
 でも、何処の村でも似たようなモノなのですね。

 私は、彼女を採用することに決めました。
 今務めている大店を辞めて身辺整理をしたらリーナのもとを訪ねるように指示します。
 まっ、行き当たりばったりですが、一人くらいどうとでもなるでしょう。
 
 
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