現役高校生にリアルな戦場はマジ無理、勘弁してください……

アイイロモンペ

文字の大きさ
25 / 27
第3章 広く人材を集めよう

第25話 凶弾

しおりを挟む
 一月下旬、由紀が資金の目途もたち女学校の設立に向けて準備を始めていると、桜子が奇妙な話を持ちかけてきた。

「由紀よ、お前がカレンさんから貰ったものの中にクレイモアってないか?」

「クレイモア?」

 由紀は、ラノベなんかに出てくる大剣の事かなと思ったが、オウム返しに聞き返してしまった。

「海兵隊の装備にあると思うのだが。たしか、強襲揚陸艦を持っていただろう?」

 由紀は、指示されたとおり検索してみると、桜子の予想通り強襲揚陸艦に積まれている弾薬の中にクレイモアが存在した。

 由紀があると言うと、今度は明日早朝に出かけるから付いて来いと言う。

 翌朝、桜子の運転するSUVに乗せられて、着いたのは奥多摩の人里離れた山の中であった。
 車を降りた由紀に、クレイモアを出すようにと桜子は指示する。
由紀が桜子のクレイモワを手渡すと、

「由紀、よく見ておけよ。これからクレイモア地雷を設置してみせる。
次はお前にやってもらうからちゃんと見ているんだぞ。」

といって、桜子は手馴れた手つきでクレイモアを設置、起爆までして見せた。

 クレイモアって指向性の対人地雷のことだったらしい、その方面に疎い由紀は全く知らなかった。

 そして、桜子は、由紀に巻尺を待たせてクレイモアの効果が及んでいる範囲を測らせた。

 その後由紀は、リモコン起爆による設置の仕方、ワイヤートラップ起爆による設置の仕方、二つ組み合わせた設置の仕方、三つ組み合わせた設置の仕方などを、一日中やらされることとなった。
 また、そのたびに効果範囲の測定をさせられ日が暮れるころにはくたくたになっていた。

 この間、何でこんなことをさせられるのか、桜子からは何の説明もなかった。

 由紀が疲れ切って華小路邸に帰宅したとき、桜子は無常にも「明日も早朝から出かける」と由紀にいって自室へ去っていった。


 翌朝、人里離れた奥多摩に着くと、今度はミニミ軽機関銃を出せと桜子は言った。
由紀は、言われるままに桜子に渡すと、桜子はミニミ軽機関銃を実際に撃って見せた。
そして、前日同様、由紀にやってみろと桜子は言った。
 元々華奢な体躯であり、全然体を鍛えていない由紀には、とても扱えたものではなく反動で腕や肩は痛いわ、銃口がぶれて危ないわで、とても出来ないと訴えたが、桜子の返答は「出来るまでやれ」だった。
 日が暮れる頃には、何とか前に向かって撃つことだけは出来るようになったが、肩には酷い青痣ができていた。

 流石に今日は、「何でいきなりこんなことをするのか。」と由紀は、桜子に尋ねたが返ってきた答えは、

「あと一月したら嫌でもわかる。それまでに、お前は自分を守るすべを持たねばならないのだ。」

と意味深なことを言うだけで大事なことは何も教えてもらえなかった。


 これ以降、週二回奥多摩まで出かけ、地雷設置と機関銃操作の練習をすることになった。
機関銃操作の日には、スタングレネードを投げてからそこに機関銃を撃ち込むという練習も加わった。


     **********


 また、この間一年ぶりに懐かしい人と会うことになった。
 越生の名主山本翁である。
 三日一緒に過ごしただけの人物であるが、この世界に来て寄る辺無い二人を泊めてくれかつ社会常識を教えてくれた恩人である。

 山本翁を訪れたのは、 翁に由紀が設立する学校の校長になってもらうためである。
本音を言えば女性校長を据えたかったのであるが、翁が反軍国主義的かつ民主主義的な思考の持ち主であり、三日間一緒に過ごしてこの国で支配的である男尊女卑の考え方があまり強くないと感じたことからである。

 山本翁は、由紀たちとの再会を喜ぶと共に、由紀たちが息災に生活できたことに感心していた。
そして、由紀たちが、東北で貧困家庭の娘を引き受けて高等教育を施す学校の設立を計画していることを打ち明けると、強く賛同してくれた。

 山本翁に校長就任を要請すると、翁は即座に承諾すると共に、かつて帝都女子高等師範学校で教鞭をとっていたという初老の女性数名を紹介してくれると言ってくれた。


     **********


 そんな日々を送っていた二月も終わろうと言うある日、桜子が商談に行くから付いて来いと言った。最近、商談は由紀が主導になっているので、桜子から振ってくるのは珍しかった。
 しかも、きちんとアポイントも採って、フォーマルな服装で、グラスセットを献上品として手土産に持っていくという。
 桜子は、「今日は私が話をするから由紀は口を開くな。」と指示したまま黙っている。


 桜子の運転するSUVは、赤坂にある大きな邸宅の中に入っていった。
事前にアポイントをとってあってので、スムーズに奥の座敷に通された。

 しばらく待つと、恰幅の良い丸顔ひげ面の好々爺とした老人が入ってきた。

 桜子は、珍しく緊張した面持ちで言った。よっぽどの大物であろう。

「お初にお目にかかります。
私は、日本商会の華小路桜子と申します。隣に控えるのは我が社の代表の山縣にございます。
閣下にはご多忙中貴重なお時間をおとりいただき感謝したします。
こちらは、ほんのご挨拶ですので、ご笑納ください。」

「ほう、華小路子爵の紹介の商人と聞いて迎えてみれば、子爵の縁の者であったか。
どれどれ、これは立派なグラスであるな。舶来のかなり良いものだろう。
わが国も、武器ばかり作っておらんと、こういった身の回りもので良い物を作れるようにならんとな。
有難く頂戴することとしよう。
さて、今日はどの様なものを売り込みに来たのかな。」

「今日の商品は、閣下の命です。
単刀直入に申しましょう、陸軍のはねっかえりの馬鹿共が、閣下を亡き者としようと企てています。
明朝五時、約百名の陸軍の兵士がこの屋敷の襲撃します。」

「その話、わしが信じると?」

「信じる信じないは閣下のご判断に任せます。小娘の戯言と切って捨てるならそれも良し。
ただ、閣下は大八洲のこれからにとって必要なお方、ここで命を落とされては困るのです。
今閣下がお亡くなりになれば、誰が軍の馬鹿共を止められましょうか?」

「それで、わしにどうしろと。」

「閣下には私どもと共に来ていただきます。帝都ホテルに特別室を取ってあります。
申し訳ございませんが閣下には私どもの車で商品と共に寝ていていただきます。
帝都ホテルには通用口から入れるよう手配してあります。
これで、閣下が帝都ホテルへ移動したのは気取られないはずです。」

「わしが、拒否したらどうするのだ。」

「ここで、私と由紀が応戦します。
我々の命に代えても閣下の命はお守りします。」

女子おなごにそこまで言われたら断れんだろう。よっし、あんたに従いましょう。」

 こうして、桜子は閣下の説得に成功し、帝都ホテルへかくまうこととなった。


     **********


 翌朝、いたるところで響いた銃声が、帝都を震撼させた。

 この朝、総理大臣官邸をはじめとする多くの要人宅が襲撃され、内大臣、陸軍教育総監が殺害され、侍従長が重傷をおった。
 桜子の言うとおり、閣下の邸宅も襲撃されたが、もぬけの殻で人的被害はなかった。


 この事件を境に、大八洲帝国の歯車は狂い始めるのであった。

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...