精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第3章 夏休み、帝国への旅

第57話 ハンナちゃんの処遇

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(注)台風の関係で夜投稿できるか分らなかったのでお昼に1話投稿しました。
   現時点で投稿できそうでしたので、いつもどおり20時にも投稿します。
   お昼に投稿した話を読んでいない方は1話前からお読みください。
   よろしくお願いします。

   *************


「ターニャちゃん、大変よいことを言いましたね。
私が言おうとしたことを全て言ってくださったわ。」

 天幕の入り口をみると、ミルトさんがわたしに声を掛けながら天幕に入ってきた。

「子供の泣き声が聞こえたので、何事かと思って見に来たのよ。
そしたら、ターニャちゃんが熱弁を揮っているじゃない、思わず聞き入ってしまいました。」

 ことの成り行きを見ていたなら、ミルトさんがここにいるみんなに話をして欲しかった。
皇太子妃殿下のお言葉の方が、みんな真剣に聞いてくれたと思うよ。


「皇太子妃のミルトです。
 ここ十年くらいの間に、この国でも巷で『色なし』と呼ばれる人を蔑視する悪しき風潮が広がってきました。
 確かに魔法が使えないと色々と不便なこともありますが、別に生活できない訳ではないのです。
 そういう意味では、さっきターニャちゃんが言ったとおり、魔法が使えないことも、木登りができないことと大差ないことなのでしょう。
 それを大げさに『神の恩寵がない忌むべき存在』なんていうのは、あまりに偏狭な考え方です。
 みなさんは、ここにいるターニャちゃんやミーナちゃんが素晴らしい治癒術を施しているのを実際に目にしてるでしょう。
 それでも、『色なし』と蔑視しますか?
 今日を契機に少し考えを改めてもらえれば、わたし達がここまで来た甲斐があったと思います。」


 ミルトさんが、名のったとたんみんな跪いて、神妙な顔つきでミルトさんの話を聞いていた。
やっぱり、王族の言葉は重みがあるね。

 話を終えたミルトさんが天幕を出て行くと、男の子が言った。

「おまえ、王族の知り合いなのか、ちっちゃいのに本当に凄いんだな!」

 男の子が大げさに凄い、凄いというモノだから、治療を待っている人々のわたし達を見る目もさっきより敬意がこもったものになったような気がする。

 そんなこともあり、その後の治療はきわめてスムーズに行うことができた。


     **********


 そして、長かった十日間の治療の旅も今日最後の街を終えて王都ヴィーナヴァルトへ帰る。
え、領主館には泊まらないよ、ここは王都の隣の町だもの。
 魔導車で一時間の距離だから、治療のあとにそのまま帰るよ。
だって、領主館に寄ったらいろいろと気を使うじゃない。
 ただでさえ、へとへとに疲れているのだから領主館に泊まって気疲れするより、さっさと学園の寮に帰る方を選ぶよ。外はまだ明るいし。

 王都へ帰る魔導車の中、ミーナちゃんとフローラちゃんは疲れて眠ってしまった。

「ねえ、ターニャちゃん、ヴィクトーリア様は一旦王宮の迎賓館に迎え入れることになったけど、ハンナちゃんはどうするの。
 この子身寄りがないのでしょう。」

 ミルトさんが、ハンナちゃんを膝に乗せた姿勢で聞いてきた。
このところ、ミルトさんはハンナちゃんを膝の上に抱えているのがお気に入りだ。
 本当に一行のマスコットになっている。

「ハンナちゃんは、学園の寮でわたし達と一緒に住むつもりですよ。
一応、わたしの付き人の見習いという形にすれば、寮の部屋も空いてますし。
まだ五歳ですから、ソールさんやフェイさんに色々教えてもらって、
八歳になったら学園に入学して勉強してもらおうと思っています。」


「そうなの?
私は、ハンナちゃんが良ければ王宮で引きとってもいいと思っているのだけど。
もし、必要ならば父の養女にしても良いと考えているのよ。」


 ミルトさんのお父さんは、今の国王の王弟だっけ?確か公爵だとか言っていたような気がする。
王室が養女を迎えるのは難しいけど、公爵家なら大丈夫ということなのかな。


「まだ五歳とは言うものの、ずっと農村で暮らしてきた子を貴族に迎え入れるのは難しいのではないですか。」

 貴族のしきたりとか、礼儀作法とかは平民で育ってきた子には煩わしいよね。
わたしが、学園で貴族の友達を見ていてしきたりとかが煩わしいなと思うもの。


「そうかしら?
ねえ、ハンナちゃん?
ハンナちゃんは、これからターニャちゃんと一緒に暮らすことになっているみたいだけど、おばさんのお家に来ない?」

 ミルトさんは、唐突にハンナちゃんを誘いにかかった。
 いきなり 話を振られて、ハンナちゃんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。

「ミルトおばさんと一緒に住むってこと?
ミルトおばさんの家って、今まで泊まった貴族様の家みたいなところ?」

「ええ、そうよ。もう少し大きいけど。」

 いや、王宮の大きさは少し大きいってもんじゃないでしょう。


「じゃあ、いや!
ミルトおばさんは優しいから好きだけど、貴族様のお家は嫌い!
平民がうろちょろするなとか、平民がミルトおばさんと馴れ馴れしくするなとかいっぱい意地悪言うの。
そんなんだったら、ターニャおねえちゃんやミーナおねえちゃんと一緒の方が楽しそう。
でね、ハンナ、もっともっといっぱい小人さんたちと仲良くなりたいの。」

 領主自らハンナちゃんに声を掛けることはないだろうから、執事か侍女にでも言われたかな。

「あらそう、それは残念ね。
 家の者にはそんな事は言わせないけど、王宮にいる貴族の中にはそんな事を言う者もいるかもしれないわね。
 じゃあ、ターニャちゃん達と一緒に住むのはいいけど、おばさんの家にも遊びに来て欲しいな。
それは良いでしょう?」

「うん、遊びに行く。
ミルトおばさんも一緒に遊んでくれるよね?」


 ミルトさんは、一旦引くように見せかけて、実際のところ諦めていないようだ。
 現時点で精霊の力を借りられるのはわたしを含めて五人だけ。
 しかも、ハンナちゃんは、ミーナちゃんやフローラちゃんよりも精霊に好かれる体質のようだ。
 それは王室に取り込んでしまいたくもなるよね。


 ミルトさんがしきりにハンナちゃんを誘っているの姿を見て、話の核心を知らないヴィクトーリアさん親子が不思議な光景を見たという顔をしている。
 ヴィクトーリアさん達には精霊の話はしていないから、どうしてミルトさんがハンナちゃんにご執心なのか分らないよね。


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