精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

文字の大きさ
78 / 508
第5章 冬休み、南部地方への旅

第77話 ポルト公爵領

しおりを挟む
 ミルトさんがシレッと自分の娘のように言うものだから、ハンナちゃんのことをポルト公爵に説明するのに時間を取ってしまった。

「なんじゃ、可愛い孫が増えたのかと思って喜んだのに…。」

 ポルト公爵が残念そうに呟くと、ミルトさんが言う。

「お父様、お望みであればハンナちゃんを娘にすることもできますのよ。」

 ミルトさん、まだ言いますか。ハンナちゃんはあげませんよ。

「ハンナちゃん、あの人達は放っておいてあっちでお菓子でも食べましょうか。」

「うん、ハンナ食べる!わーい、お菓子だー!」

 呆れた公爵夫人に連れられてハンナちゃんは先に行ってしまった。


     **********


 豪華な応接間に通されたわたし達はミルトさんからポルト公爵へ紹介された。

「これはこれは、帝国の皇后様、皇女様、遠路はるばるようこそお越しくださいました。
 私は、ポルト公爵を賜っておりますギューテ・オストマルクです。隣は妻のカタリーナでございます。
 私達はお二人を心から歓迎いたしますので、どうぞごゆっくりご静養していってくだされ。」

 公爵はギューテさん、公爵夫人はカタリーナさんっていうお名前なんだ。

「ヴィクトーリアと申します、歓迎いただき有り難うございます。
 なにぶんお忍びですので、あまりお気を使わないでくださいね。」

 ビクトーリアさんと挨拶を済ませたギューテさんは、今度はわたし達の方を見て言った。

「君達が、フローラの病気を治してくれたティターニアさんとミーナさんだね。
 孫の命を救ってくれて本当に有り難う、心から感謝している。
 娘から孫の容態を知らされたときは、仕事を放り出して王都へ帰ろうとさえ思っていたんだよ。
 ところが、病気が治った上に魔法まで使えるようになったと便りがあったので驚いたものだ。
 それが、まだ幼い二人の少女によってなされたと記されていたので信じ難いものがあったのだ。
 こうして、孫の元気な姿を見てやっと信じることができた、本当に有り難う。」

 そう言ってギューテさんは、深々と頭を下げた。
いや、幾ら内輪の席でも王族がそんな安易に頭を上げたらいかんでしょう、しかも小娘に。
ほら、ミーナちゃんが恐縮してしまって、どうしたら良いか分らないって顔になっているよ。


 そんなやり取りを済ませたわたし達は、今後の日程をギューテさんと打ち合わせした。
 最初の三日は旅の疲れを癒すため休息にあて、四日目から二日に一回の割合で治療活動を行うことにした。
 場所は、公爵邸の隣にある精霊神殿の前庭に臨時診療所を設けるんだって。
精霊神殿って王都以外にもあるんだって聞いたら、王族の直轄地には建立されているそうだ。
 精霊神殿の神官の多くはわたし達のような『色なし』で、働く場所が少ない『色なし』にとって貴重な仕事の受け皿になっているってミルトさんが言っていた。


 他の街では中央広場に臨時診療所を設けるのに珍しいなと思ったら、明日港を見に行けばわかると言われた。
 どういうことか聞いたら、ポルトは港を中心に大きくなった街で港に市が立つので、中央広場がないらしい。港街には中央広場がない街が結構あるらしい。

 市は港に面した大通りの道の端に立つため、診療所を設けるスペースが取れないということだ。
 どうせ精霊神殿の奉仕活動と銘打って行うので、精霊神殿の前庭を使えば良いとなったらしい。

 ポルト滞在期間は一応三十日くらいで、この間に何回かは近隣の街にも出掛けて治療活動をするつもりだとミルトさんは言っている。ミルトさんって本当に活動的だよね。


     **********

 
 その日の夕食は、ギューテさん、カタリーナさんも一緒に取った。
 海の幸をふんだんに使った料理で、王都から来たわたし達は見たことない料理ばかりだった。

 生の魚が出てきたときは驚いたよ。マリネって言うんだって、白身魚、タコ、イカを薄く切って酢や香辛料で味付けして、オリーブオイルに漬けたんだって。
 生魚は食あたりが怖かったので思わず『浄化』してしまったよ、味はとっても美味しかった。
 タコやイカって魚じゃないのって尋ねたら、ギューテさんはニヤッて笑って、「明日市場で見てきなさい。」と言っていた。あの笑い方が気になる…。

 他に白身魚のムニエルとかも美味しかった。そうそう、学園の食堂で食べたパエリアもあったよ。


 食事の間、ギューテさんがいろいろなことを聞かせてくれた。

 王領と言ってもポルト公爵領ってポルトの町だけなんだって。
ポルト公爵領は、学園の同級生リーンハルト君のフライスィヒ伯爵家の領地にぐるっと囲まれているらしい。
 黄金色の稲穂が一面に続いていたあの土地は、リーンハルト君の家の領地だったようだ。
そういえば、地理の授業でそんな事を言っていたっけ。

 ポルト公爵の仕事は、交易の管理と密輸入の取り締まり、それと一番大事なのが海外から外交使節が来た場合の対応だそうだ。
 外交使節の対応のために王領として王族を一人配置しているんだって。

 ギューテさんは、引退した先代のポルト公爵を引き継いでから、一度も王都に帰っておらずミルトさんやフローラちゃんと会うのはほぼ八年ぶりだといっていた。
 フローラちゃんが生まれて間もなく、ポルトに赴任したらしい。
 ポルトが王都から四十シュタットも離れていて帰るのが大変なことも理由の一つだけど、ポルトに気候に慣れると王都の寒さはとても耐えられないとのこと。

 ちなみに、先代のポルト公爵は王様やギューテさんの叔父に当たる人で、まだ存命だけど隠居の場所としてこの街を選んだそうだ。街外れに館を構えているらしい。



「子供の頃、魔法が使えないため王立学園に入れなくてベソを掻いていたミルトが魔法で人々を癒して回っているなんて夢のようだ。」
 
 少しお酒の入ったギューテさんが、しみじみと呟いていた。



 *臨時で1話投稿します。
  いつも通り20時にも投稿しますのでよろしくお願いします。
  明日は臨時の投稿はございません。
しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス 優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました お父さんは村の村長みたいな立場みたい お母さんは病弱で家から出れないほど 二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます ーーーーー この作品は大変楽しく書けていましたが 49話で終わりとすることにいたしました 完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい そんな欲求に屈してしまいましたすみません

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...