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第5章 冬休み、南部地方への旅
第92話 悪いことは重なるもので…
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*お昼に1話投稿しています。
お手数ですがお読みでない方は1話戻ってお読みください。
よろしくお願いします。
**********
わたし達が、『黒の使徒』の救済神官と称する暗殺者の存在を知ってから数日たった。
おチビちゃんが探ってきた情報では、まだわたし達を襲う計画は固まっていないようだ。
彼らが想定していたよりもこちらの警備体制が厳重すぎて突破口が見い出せないらしい。
彼らの得意な手口は人混みに紛れて毒のついた刃物でブスリとやるとか寝所に侵入してブスリとやるとかみたいだ。まあ、暗殺者だからね。
間違っても護衛の騎士を剣で排除して標的を仕留めるなどという大立ち回りが得意なタイプではないらしい。
元々、学園の寮にいるところを襲うつもりで少人数で来たようだしね。
いくら貴族が通う学園で警備がしっかりしていても、敷地は広いし隠れられそうな場所がある。
警備の穴はあるだろうと思ったらしい。
たしかに、帝都を出る時点ではヴィクトーリアさんは学園の寮でハイジさんと一緒に暮らすと言っていた。そのことは、ケントニスさんから皇帝に言ってあったので教団に知られていてもおかしくない。
学園の寮にはわたしとミーナちゃんもいるし、まとめて片付くと思っていただろう。
ヴィクトーリアさんが王宮に身を寄せていることは知らないようだ。
おチビちゃんからの情報では四人組のうちの一人は春まで待って当初計画どおりヴィーナヴァルトで暗殺を実行しようと言っているようだ。
だけど、他に三人がポルトで決着をつけたいと強く主張しているみたいなんだ。
その三人は安宿暮らしと日雇いの荷役作業に辟易しているらしい。
何でも十分なお金を貰ってきたつもりが予定外のポルト逗留で随分と厳しいものになったようだ。
雪の情報を掴んでいなかった教団上層部に不満たらたらのようだよ。
まだ一月安宿住まいをした挙句、乗合馬車で一月かけて王都まで行くのはうんざりだそうだ。
この様子ならばしばらくはそう警戒しないでもよさそうだね。
この間みたいに迂闊に人ごみの中に入らなければいいのだもの。
ミーナちゃんは気軽に屋台に行けなくなったって不満を言っていたけどね。
夜間の別荘への侵入?イヤ、無理でしょう、敷地を囲む高い塀の向こうは崖だから。
ここは低いけど丘の上で、別荘の周りは切り立った崖になっている。
警備上の観点からそういう場所に別荘を建てたらしいよ。
唯一登ってこれる道がポルトの裏門から続いている道だけなんだ。
ポルトの裏門は常時閉まっており、王族の滞在中は常に騎士が警備している。
この別荘の門にも警備の騎士がいる。
さすがに、ここに侵入するのは難しいと思うよ。
大人たちも周囲の警戒は緩めないから、わたし達はそうピリピリしないでも良いと言っている。
おチビちゃん達も引き続き暗殺者達の監視をしてくれるのでそう心配することはないはずだ。
***********
今日は診療所がお休みの日で別荘でのんびりとお茶を飲んでいる。
「ごめんなさいね、うちの国の者がご迷惑をおかけしてしまって。
休みの日は街へ遊びに行きたいでしょうに気軽に出かけられなくなってしまいましたね。」
ハイジさんが申し訳なさそうに言った、声に元気がない。
「いいえ、アーデルハイト殿下がわたし達に申し訳ないと思う必要はございませんですわ。
殿下こそお命を狙われている一番の被害者なのですから。
悪いのは殿下ではなく、『黒の使徒』とかいう宗教団体ですわ。」
フローラさんが沈んでいるハイジさんを励ますが、ハイジさんは責任を感じたままだ。
まあ、仮にも帝国の国教だから帝室の一員であるハイジさんが責任を感じるのもわかる。
でも、ハイジさんも狙われているのだからもっと怒ってもいいと思うよ。
雰囲気が暗くなってしまったので話を変えようと話題を探していたら、遠くで
ドーン!
という鈍い音が聞こえたような気がした。
それから少し間をおいて、今度は近くで
ガシャーン!
という大きな音が響いた。
えっ、襲撃?と思ったが近くにいるおチビちゃん達は侵入者の気配を感じてないようだ。
「何があったかすぐに調べてください!」
フローラちゃんが部屋の隅に控えていた護衛の騎士に指示を出す。
騎士が部屋を出ようとしたところで、侍女の一人が部屋に入ってきた。
「みなさま、不安を感じさせてしまい申し訳ございませんでした。
先程の大きな音の原因ですが、敷地を囲む塀の海側の一部が何者かに破壊されました。
何か大きな鉄の玉が降ってきて塀を壊したのです。
近くに不審者は見当たりませんし、何者かが侵入したという形跡も無いです。」
侍女はそう説明し、差し迫った危機はないと告げた。
わたし達は騎士に護衛してもらい、壊された塀を見に行った。
海側の塀までたどり着くと石造りの塀の一部が崩れており、そこから海がよく見えた。
足元には砕けた石が散乱していて、少しはなれたところにやや大きめな鉄の玉が転がっていた。
そのとき、海を見ていたハイジさんが海の方を指差して言った。
「なんか、見慣れない大きな船が三隻、沖合いに停泊していますよ。」
みんなの視線が海に集まったとき、沖合いの船から白い煙が立ち上った。
ほんの少し遅れて、さっきと同じドーンという鈍い音が聞こえ、シュルシュルという音が聞こえてきた。
そして、わたし達から少し離れたところで、
ガシャーン!
という大音響と共に海側の塀の一部が吹き飛んだ。
お手数ですがお読みでない方は1話戻ってお読みください。
よろしくお願いします。
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わたし達が、『黒の使徒』の救済神官と称する暗殺者の存在を知ってから数日たった。
おチビちゃんが探ってきた情報では、まだわたし達を襲う計画は固まっていないようだ。
彼らが想定していたよりもこちらの警備体制が厳重すぎて突破口が見い出せないらしい。
彼らの得意な手口は人混みに紛れて毒のついた刃物でブスリとやるとか寝所に侵入してブスリとやるとかみたいだ。まあ、暗殺者だからね。
間違っても護衛の騎士を剣で排除して標的を仕留めるなどという大立ち回りが得意なタイプではないらしい。
元々、学園の寮にいるところを襲うつもりで少人数で来たようだしね。
いくら貴族が通う学園で警備がしっかりしていても、敷地は広いし隠れられそうな場所がある。
警備の穴はあるだろうと思ったらしい。
たしかに、帝都を出る時点ではヴィクトーリアさんは学園の寮でハイジさんと一緒に暮らすと言っていた。そのことは、ケントニスさんから皇帝に言ってあったので教団に知られていてもおかしくない。
学園の寮にはわたしとミーナちゃんもいるし、まとめて片付くと思っていただろう。
ヴィクトーリアさんが王宮に身を寄せていることは知らないようだ。
おチビちゃんからの情報では四人組のうちの一人は春まで待って当初計画どおりヴィーナヴァルトで暗殺を実行しようと言っているようだ。
だけど、他に三人がポルトで決着をつけたいと強く主張しているみたいなんだ。
その三人は安宿暮らしと日雇いの荷役作業に辟易しているらしい。
何でも十分なお金を貰ってきたつもりが予定外のポルト逗留で随分と厳しいものになったようだ。
雪の情報を掴んでいなかった教団上層部に不満たらたらのようだよ。
まだ一月安宿住まいをした挙句、乗合馬車で一月かけて王都まで行くのはうんざりだそうだ。
この様子ならばしばらくはそう警戒しないでもよさそうだね。
この間みたいに迂闊に人ごみの中に入らなければいいのだもの。
ミーナちゃんは気軽に屋台に行けなくなったって不満を言っていたけどね。
夜間の別荘への侵入?イヤ、無理でしょう、敷地を囲む高い塀の向こうは崖だから。
ここは低いけど丘の上で、別荘の周りは切り立った崖になっている。
警備上の観点からそういう場所に別荘を建てたらしいよ。
唯一登ってこれる道がポルトの裏門から続いている道だけなんだ。
ポルトの裏門は常時閉まっており、王族の滞在中は常に騎士が警備している。
この別荘の門にも警備の騎士がいる。
さすがに、ここに侵入するのは難しいと思うよ。
大人たちも周囲の警戒は緩めないから、わたし達はそうピリピリしないでも良いと言っている。
おチビちゃん達も引き続き暗殺者達の監視をしてくれるのでそう心配することはないはずだ。
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今日は診療所がお休みの日で別荘でのんびりとお茶を飲んでいる。
「ごめんなさいね、うちの国の者がご迷惑をおかけしてしまって。
休みの日は街へ遊びに行きたいでしょうに気軽に出かけられなくなってしまいましたね。」
ハイジさんが申し訳なさそうに言った、声に元気がない。
「いいえ、アーデルハイト殿下がわたし達に申し訳ないと思う必要はございませんですわ。
殿下こそお命を狙われている一番の被害者なのですから。
悪いのは殿下ではなく、『黒の使徒』とかいう宗教団体ですわ。」
フローラさんが沈んでいるハイジさんを励ますが、ハイジさんは責任を感じたままだ。
まあ、仮にも帝国の国教だから帝室の一員であるハイジさんが責任を感じるのもわかる。
でも、ハイジさんも狙われているのだからもっと怒ってもいいと思うよ。
雰囲気が暗くなってしまったので話を変えようと話題を探していたら、遠くで
ドーン!
という鈍い音が聞こえたような気がした。
それから少し間をおいて、今度は近くで
ガシャーン!
という大きな音が響いた。
えっ、襲撃?と思ったが近くにいるおチビちゃん達は侵入者の気配を感じてないようだ。
「何があったかすぐに調べてください!」
フローラちゃんが部屋の隅に控えていた護衛の騎士に指示を出す。
騎士が部屋を出ようとしたところで、侍女の一人が部屋に入ってきた。
「みなさま、不安を感じさせてしまい申し訳ございませんでした。
先程の大きな音の原因ですが、敷地を囲む塀の海側の一部が何者かに破壊されました。
何か大きな鉄の玉が降ってきて塀を壊したのです。
近くに不審者は見当たりませんし、何者かが侵入したという形跡も無いです。」
侍女はそう説明し、差し迫った危機はないと告げた。
わたし達は騎士に護衛してもらい、壊された塀を見に行った。
海側の塀までたどり着くと石造りの塀の一部が崩れており、そこから海がよく見えた。
足元には砕けた石が散乱していて、少しはなれたところにやや大きめな鉄の玉が転がっていた。
そのとき、海を見ていたハイジさんが海の方を指差して言った。
「なんか、見慣れない大きな船が三隻、沖合いに停泊していますよ。」
みんなの視線が海に集まったとき、沖合いの船から白い煙が立ち上った。
ほんの少し遅れて、さっきと同じドーンという鈍い音が聞こえ、シュルシュルという音が聞こえてきた。
そして、わたし達から少し離れたところで、
ガシャーン!
という大音響と共に海側の塀の一部が吹き飛んだ。
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