精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第6章 王家の森

第123話 ミルトさんと商人

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「そう、あの大司教がドゥム伯爵のところへ来たの。
 それで、ドゥム伯爵に世論操作を依頼したのね。」

 伯爵邸を探らせていたおチビちゃんから貰った情報をミルトさんに伝えたところ、ミルトさんは考え込んでしまった。

「でも、そんな事ができるのですか?
 この間の噂は目撃した人が多かったから面白いほど早く王都全体に広がったけど、でっち上げの話なんかそう簡単に広めらるのですか?」

 あの伯爵、人望なさそうだし、あの人の言うことをそうそう信じる人はいない気がするんだけど。

「ターニャちゃん、なにも伯爵自ら噂を流すわけではないのよ。
 彼の周りにはそういうことが得意な人達がいるの。
 ターニャちゃんだって帝国で利用したでしょう、商人の口コミ。
 ターニャちゃんが魔獣から助けた商人が触れ回ったので、帝国の辺境では『白い聖女』の噂が広まっているらしいわ。それこそ『黒の使徒』が刺客を送るぐらいに。」

 その話はやめて欲しい…、恥ずかしいな、もう…。

 ミルトさんの話では、ドゥム伯爵と連名で王家の森を開発したいと請願書を出してくる商人が数人おりいずれも王都では指折りの商人らしい。

 商人はいかに早く有用な情報を掴むかが儲けにつながるため、商人を介すると面白いほど早く情報が広まるらしいよ。
 それに、商人は日頃多くの客に接しているため、その気になればいくらでも民衆に噂を流せるとミルトさんは言っている。
 
 王家の森の開発利権を狙っている商人も、王族が精霊の再臨をしきりに持ち出すものだからやきもきしているらしい。
 民衆の王家への支持の高まりや精霊に対する認識の変化には当然のことながら良い気持ちはしていないだろうって。

 現在、王家の森はその所有者である王家の意向のみによって保護されている。 
 これ以上精霊に対する信仰心が強まって王家の森の保護が民衆の支持まで集めてしまっては、王家の森の開発は今後半永久的にできなくなるかもしれない。
 もし、開発を推進したいものがそのように危機感を募らせれば、世論誘導ぐらい平気でやるだろうとミルトさんは言っている。


「じゃあ、大司教の思惑通りに民衆に対する情報操作が出来てしまう恐れがあるのですか?」

「そうね、ターニャちゃんが教えてくれなければそうなったでしょうね。
 でもね、今私は大司教とドゥム伯爵のたくらみを知ってしまったわ。
 大司教がドゥム伯爵のもとを訪れたのは今日で間違いないわね、ターニャちゃん?」

「ええ、おチビちゃんがすぐに知らせてくれたので、数時間前のことですね。」

「わかりました。早速手を打ちましょう。」

 そういったミルトさんの行動は素早かった。
 その日の夕方、ミルトさんの前には五人の商人の姿があった。

 普段はぽわーんとしているミルトさんの本気になったときの行動の早さには本当に驚かされるよ…。


     **********


「みなさん、お忙しいところを突然呼びつけて申し訳なかったですね。」

 ミルトさんは五人の商人を前に労いの言葉をかけた。

「して、皇太子妃殿下におかれましては、私め等にいかがなご用件がございますのでしょうか?」

 商人の一人が代表してミルトさんに用件を尋ねた。

「あら、お互いの顔ぶれを見て予想できないかしら。
 今日は、あなた方に選択の機会を差し上げようかと思いましてお呼びしたのですよ。
 ここ数日中にあなた方に良からぬたくらみを持ち掛けてくる方がいると思います。
 もし、あなた方がそのたくらみに乗るのであれば、残念ですが今後王家の御用商人の座は剥奪させていただきますので相応の覚悟を持ってくださいね。」

「ちょっとお待ちください!それでは何のことかわかりかねます。
 何を示すのか明らかにせず、御用商人の地位を剥奪するなんて脅しではないですか。」

「そお?
 では、あなた方は今、王都で流れているわたしの噂はご存知ですよね?」

「皇太子妃殿下が、創世教の大司教に創世教の金儲けの邪魔をするなと脅されたという件ですか?」

「まあ、そんな風にいわれているのですか?」

 うーん、あの会話を簡略化するとそこまで極端な言い方になるのか…。

「その噂がどうかしましたか?」

 商人の問いにミルトさんはこう答えた。

「あなた方商人は正確な情報が命のはずですから、噂の真偽は確かめているはずです。
 一両日中に、この噂の真相を捻じ曲げ、『あの噂は私が仕組んで相手を陥れたものだ』という噂を流してくれという依頼があなた方に行くと思います。もう聞いている方もいるかも知れませんね。
 聡明なあなた方であれば、今流れている噂とあなた方が依頼される内容のどちらが真実に近いかわかるはずです。
 この国では言いたいことを言う自由がありますので、何を言うのも自由です。
 でも、悪意を持って事実と違う風聞を流されるのはやはり気分が良いものではありませんわね。
 意趣返しに私的取引である王家の御用達ぐらい取り消したところで問題ないと思いませんか。」

 ミルトさんが何が言いたいのかを理解した商人達が青い顔をしている。

「あと、これもご存知のこととは思いますが、私は創世教の妨害はしたことはございませんし、王家が私的に祀っている精霊を信仰しろと他者に強要したこともございません。
 政治に宗教を一切持ち込まないことは、わが王家が代々守り続けてきた政治信条です。
 王家の一員たる私もこれを侵す気は全くありません。
 にもかかわらず、私が創世教を迫害しているとか精霊に対する信仰を強要しているとかの世論が高まることがあると非常に悲しいですわ。
 思わず王宮における調達一切を公開入札制に変えたいくらいに悲しいですわ。」

 ミルトさんの言葉を聞いた商人の一人が言う。

「それは、我々に対する脅しですか?」

「イヤですわ、脅しだなんて。
 私がいつ商人のみなさんを脅したことがありまして。
 私はあなた方が真実を捻じ曲げるような風聞を流さなければどうこうするつもりは一切ありませんよ。
 だって、他の商人の方はお呼びしていないでしょう、その心配がないからです。
 あなた方に対してここ数日中に良くないたくらみを持ちかけられることが事前にわかったから忠告してあげたのです。
 むしろ、感謝して欲しいですわ。」

 ここまで言われて、商人たちは自分達の情報が筒抜けであることを理解したようだ。
 何人かは既に話が持ちかけられているようでうな垂れてしまった。
 そして、現在の王室御用商人の地位と可能性が読めない将来の利権のどちらかを今選択しろと迫られていることも理解したみたいだ。

 

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