精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第140話 ミーナちゃんの考え

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「どういうこと、ミーナちゃん?」

「上手く説明できないんですが、『黒の使徒』の人たちは私達が残したものを消しに来たのではなく、木を伐りに来たような気がするんです。」

「あんな若木を伐ってどうするの?
 木材にはならないし、薪にしたところでたいしたことないよ。
 だいたい、林にしようと思ってまとまって植林したところは全部燃やされちゃったし。」

「だから、木を伐ることそのものが目的なんですよ。
 正確には、将来森や林になりそうなまとまって植えられている木を伐ることでしょうか?」

 ふむ、村を取り囲むように植樹したハリエンジュも十年もすれば立派な防風林、防砂林になるかも知れないね。それが何か拙いの?

 いつもは口数の少ないミーナちゃんが珍しく長舌を振るう。

「以前から漠然と頭にひっかかることがあったんです。
 自分でもよくわからなかったのですが、いま気付きました。
 この国の辺境の村って、風が強かったり砂埃が酷かったりするのに村の周りに風よけや砂よけの林がないんです。
 ノイエシュタット周辺の開拓村には必ず防風林があるんですよ。
 それが、この国に入ってから帝都までの間に、木なんて庭木くらいしか見当たらないんです。
 それともう一つ、直接は関係ないけどザイヒト殿下ってちょっとおかしくないですか?」

「皇族の癖に頭が悪すぎる?」

「今はそういうことを言っているのではないんです。
 アーデルハイト様、ザイヒト殿下は帝国にいらしたときあんなにすぐに魔力切れを起こしていましたか?」

「ごめんなさい、私は弟が五歳のときに王立学園に留学してきたので弟が魔法を使うのを見たことなかったの。」

 ハイジさんの答えにミーナちゃんは少し残念な表情で言った。

「そうですか、じゃあ完全な憶測になってしまいますが……。」

 そう言ってミーナちゃんが言ったのはこんな内容だった。

 ザイヒト殿下の魔法の使い方は効率を完全に無視したもので王国では全く役に立たなかったけど帝国ではそれなりに使えるんじゃないかということ。

 皇族なんだから魔法に関しても家庭教師がいるはずで、あんな一回魔法を使ったら魔力切れを起こすような使い方は注意するはずだと言う。
 それでも改めなかったのは帝国にいた時は魔力切れを起こした経験が無いのではないかという。

 ミーナちゃんは予想として、帝国の濃い瘴気の中ではザイヒト殿下は魔力切れを起こさなかったのじゃないと考えているみたい。
 ザイヒト殿下は体質として濃い瘴気を素早く効率的に体内に取り込み蓄積できるのではないかと予想しているみたい。そして、その体質は『黒の使徒』が尊ぶ黒髪、黒い瞳、褐色の肌の人に共通するんじゃないかって。

 反面、ヴィーナヴァルトのように瘴気の極めて薄い土地では、十分に体内に瘴気を取り込めないためすぐに魔力切れを起こすのではないかとミーナちゃんは言っている。


 ミーナちゃんの考えを聞いて考え込んでいたハイジさんは、

「たしかに、弟には魔法の家庭教師をつけていたはずです。
 私は弟が傲慢な性格ですので家庭教師の言うことを聞かなかったのじゃないかと思っていました。
 考えてみれば、魔法を使い始めたときから先生の言うことを無視するなんて普通はないですね。
 そう考えるとミーナさんの言うこともあながち間違いとはいえないかも知れません。」

と感想を漏らした。

 そしてミーナちゃんは自分の予想の核心を打ち明けた。

「それで、『黒の使徒』の人たちは自分達が優位に立てるように、強力な魔法が使いやすい環境であるように、より瘴気の濃い状態を作りたいんじゃないかと思うんです。
 だから、瘴気を浄化し清浄なマナを生み出す森ができることを良しとしないし、将来森になるようなまとまった植樹は許せないんじゃないでしょうか。」

 ミーナちゃんは、いくら食料が不足しているからって今ある畑を荒れるに任せて森を開墾するなんて不自然だという。荒れた畑を手入れして使う方が、新たに森を開墾するより楽じゃないかって。

 どっちが楽かはわたしにはわからないけど、せっかく森を開墾して作った畑もわずかな期間で痩せてしまって放置されているのは確かに不自然だと思う……。
 何も工夫をしていないってことだもんね。


「わたしのお母様のように濃い瘴気に当てられて病気になる者もいるというのに敢えて瘴気の濃い状態を作ろうとしているというのですか。
 自分達が都合の良いように……。そんのことは許せませんわ……。」

 ハイジさんが握り締めたこぶしを怒りに震わせている。

「アーデルハイト様、これはあくまで私の憶測で、特に根拠のあるものではございません。
 どうか、お怒りを鎮めてください。」

 怒りに震えるハイジさんをミーナちゃんが慌てて宥めている。


 あれ?
 ミーナちゃんの考えだと、『黒の使徒』の連中は一般に魔力と呼ばれているものが実は瘴気と同じ物だって知っているって事だよね。
 ハイジさんやヴィクトーリアさんでさえ知らなかったのに?

 それとも、単に瘴気の濃いところでは魔力を吸収しやすいと経験で知っているということかな?


 まあ、ミーナちゃんの考えが当たっているかどうかは関係ないんだ、わたしがやることは一つだもの。
 もし、ミーナちゃんの想像通りなら『黒の使徒』の連中怒るだろうね……。

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