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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ
第155話 これからどうする?
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製材所の事務所から戻って魔導車の中、ソファーに腰を落ち着けたわたし達はこれからのことを相談している。
ハンナちゃんの情操教育に悪そうなので、ハンナちゃんには別の魔導車で遊んでもらっている。
「支配人のギリッグから聞いたことで幾つかわかったことがありました。
一番の収穫は、シュバーツアポステル商会というのは我が国の皇室・貴族に深い繋がりを持っていることがわかったことです。
次に、最初にミーナさんが感じたとおり、最初からスラムの人間を使い潰すつもりで連れてきていること。
そして、スラムの人の命のみならず貴族達の要望を優先してオストエンデの町全体を危険に晒すような倫理観に乏しい人達が経営していることですか。」
ハイジさんがギリッグさんとの面談で気付いたことをあげていく。
不思議なのは皇室御用達の商会にもかかわらずあまり名を知られていないことだよね。
いや、むしろ秘匿されている感じだよ、知りたければ皇帝か皇太子に聞けなんて言ってたもんね。
スラムの住人の扱いなどを聞いていて、なにかあまり表に出したくない後ろ暗い仕事をしている印象を受けたんだけど…。
「瘴気の森の木材で作られた調度品の評判を聞けたのも大きいと思うよ。
あの怒り方からすると支配人は本気で瘴気の森の木材の危険性を全く感じていないみたい。
ヴィクトーリアさんが病気になったという情報より、他の貴族からの評判を重視していたよ。
あの木材を使った調度品の購入者の評判の内容も気になった。」
「あの魔法がうんぬんという評判ですか?」
わたしの発言にすかさずミーナちゃんが反応した、ミーナちゃんも思うところがあるらしい。
「そうそれ、ハイジさん、この国の貴族の方はそんなに疲れるほど魔法を使うものなのですか?」
「職務が何かにも依りますが軍属以外の貴族が自ら魔法を使うことはそう多くないので、魔法を使うことであまり疲れると言うのは聞いた事がないですわね。
軍属であれば訓練などで毎日相当魔法を使うと思うので疲れを感じるのではないでしょうか。」
そうかあ、貴族でも軍に所属する人がいるんだ。毎日魔法の訓練をしていれば疲れもするか。
だとするとわたしの考えは正しくないかもしれないな……。
「それがどうかしましたか、ターニャちゃん?」
「いえ、支配人が言っていた高貴な人の評判と言うのを聞いて、以前ミーナちゃんが言っていた事が頭に浮かんだのです。」
「私が言った事って、もしかして黒い髪・黒い瞳・褐色の肌の人って魔力の効率が悪いのじゃないかって事ですか?
実は私も支配人の話を聞いてそのことが頭をよぎったのです。」
ミーナちゃんが漠然と思い描いていた仮説とは、「黒い人は魔力の使用効率が悪く瘴気が薄いところではすぐに魔力切れを起こし、あまり魔法を使えないのではないか」というもの。
もし、ミーナちゃんの思った通りなら、あの調度品を置いた瘴気の濃い部屋にいれば魔力の回復が早く魔力切れによる疲れが早く取れると喜ばれるのだろう。
濃い瘴気の中にいることで短時間で魔力が十分に溜まるので魔法がたくさん使えるようになるだろうし、魔法をたくさん使えば上達もするだろうと思ったんだよね。
ただ、支配人が言っていた評判が日頃たくさん魔力を使う人からの評判ならば、日常的に魔力切れを起こすのもおかしくないのでミーナちゃんの思っていることが正しいとは言えないんだよね。
一つ言えるとすれば、ヴィクトーリアさんのような普通の人だと体を壊すような濃い瘴気を発する調度品も、色の黒い人にとっては今のところ害は見られずむしろ好都合なことのほうが多いと言うことかな。
**********
「ハイジさん、支配人の言う通りあの製材所は法に違反していることはないのですか?」
「ターニャちゃん、私に聞かれても困ってしまいます。
帝室の一員だといっても私だってまだ未成年の学園生なんですよ、そんなに法律に詳しい訳ないでしょう。
流行病の報告義務の件は大事なことなので小さい頃から何度も聞かされて知っていただけです。
はっきり法に反しているのは流行病と疑わしき病気を隠蔽したことですね。
ただし、あれは実際には流行病ではないし、人から人へ感染しないのがはっきりすれば罪には問えないですね。」
結構何でも詳しいソールさんとフェイさんにも聞いてみたが、オストマルク王国については事前に色々調べていたけど、わたしの留学当初は帝国を訪れる予定がなかったため帝国の法は調べていないと言う。
ただ、フェイさんは、支配人の言う通り日雇いの人は自分で宿を借りるのが普通で、無償で宿舎を使わせるのはかなり良い待遇とだと言っている。働かないなら出て行けと言うのもごく自然だと言う。
また、スラムの人についてもゼクスさんの話を聞く限り騙されて連れて来られた訳ではないし、本人達も納得して魔獣狩りをしているので、法的に拙い点は無いのではないかと言う。
報酬にしても、隣村のアインさんがかなり良い条件だと言っていることから問題になるようなものではないだろうと言う。
最後にフェイさんは、
「帝国の法には詳しくありませんが、たぶん法の文面上は違法なことはしていないのではないでしょうか。
みなさんが納得がいかないのはおそらく人道上の問題だと思います。
例えば、依頼した仕事に起因する病気や怪我で働けないものを宿舎から追い出すとか未経験者に指導もせずにいきなり危険な魔獣狩りを行わせるとかいうことについてですね。
この辺をどう感じるかはその人の倫理観により違ってくるので何とも言えませんね。」
と締めくくった。
フェイさんの話を黙って聞いていたハイジさんが頷いて呟きをもらした。
「たしかに、疫病予防に観点から『街中に死体を放置してはならない』と言う法はありますが死体をどう処理しろとは定めていないですね。
そこのところは各人のモラルに任せています、普通は共同墓地の一角に埋葬するのですけどね。
少なくとも魔獣に食べさせてはいけないとは定めてないですね、そんな非人道的なことをするとは想定しませんもの。」
**********
「ハイジさん、製材所の件はこのまま放置するしかないのですか?」
ミーナちゃんが悲しそうな目をしてハイジさんに尋ねた。
「今のところ製材所を差し止める理由に乏しいので、私達があの製材所に対して手を出すのは難しいですね。
もちろんいつまでも放置しておくつもりはありません。
まずは、お兄様とお母様に相談しようと思います。
それと、シュバーツアポステル商会について詳しく調べる必要があるようです。
お父様の後ろ盾があるようですが、なんか胡散臭いです。
ターニャちゃん、無理を言って付いて来た身で申し訳ございませんが、王国に帰国していただけませんか。早くお母様と相談したいのです。」
「いいよ。
わたしも今回の辺境訪問は瘴気の森の伐採現場がわかっただけでも収穫があったと思うから。
それと、この村を見ていて少し気になることがあって、わたしも王国に戻りたいと思っていたところなの。
帰り道、ミルトさん達と合流してから少し寄り道するけどいいかな?」
「もちろんですわ。こちらからお願いしているのですもの。
多少の寄り道は問題ございませんわ。」
本当はかなり長い間この辺境で森を作っていようと思っていたのだけど、この村を見ていて気が付いた事があるの。
それを急いで確認する必要があるので急遽帰りたいと思ったの。でも、ハイジさんが帝国辺境の窮状を気に掛けているのでもう帰るとは言い出し難かったんだ。
ハイジさんのお願いは渡りに船だよ。
「じゃあ、やることをやって帰ることにしますか。」
**********
わたし達は村長さんの家にお邪魔している。
「昨日は村の若い者を救っていただき有り難うございました。
みんなもうすっかり良くなって起き上がれるようになりました。」
「そうですか、それは良かったです。
それで、私が連れてきた治癒術師の方から提案があるそうです。」
「それはどのようなことでしょうか?
この村の恩人の言われることであれば、多少の無理であれば受け入れますが。」
わたしはハイジさんに促され村長さんの質問に答えた。
「この村の方が罹った病気は濃い瘴気に晒されて体が異常を起こしたものです。
この村は瘴気の森に近く、しかも村の若い男性は瘴気の森に入って魔獣を狩っています。
このままでは、また同じ病気になる恐れがあります。
わたし達はこの病気に対して有効な予防手段を提供することができます。むろん対価は要りません。」
わたしの提案を詳しく聞きたいと村長さんが関心を示したので、他の村にしたのと同じ説明をする。
「なんと、森を作ることで病気に罹る恐れを低下させることができるのですか。
しかも、畑と泉まで作ってくださると、それも無償で。
それは本当に信じても良いのでしょうか、だいたいそのようなことが可能なのですか?」
村長さんの疑問を打ち消すようにハイジさんが太鼓判を押してくれた。
「勿論ですわ。私はこの村に来る前に何度も目にしましたもの。
治癒術師が連れている者は大魔法使いなのです。実際に目にすると驚きますわ。」
ハイジさんの言葉が決め手となって村長さんが森を作ることを依頼してきたよ。
そして、わたし達は村の空堀の外、西側に来ている。
今回は村の西側に農地を作り、村と農地の西、北、南側を森で囲むことにしたんだ。
今までの村と違うのは、森の厚みを今までの倍の厚さにすることにしたこと。
最後だから大盤振る舞いする訳ではないよ、村の中に瘴気を発する製材所があるからより浄化能力の高い森を作ろうということになったんだよ。
ソールさん、シュケーさん、フェイさんにはまた頑張ってもらった。
そして数時間後、目の前には青々とした作物が植わった広い畑が広がっている。
畑の先にはこれまた青々と茂る豊かな森が広がり、畑の西側の森との境には滾々と湧き出る泉が作られている。
今回は西側と南側が精霊の森だ、村長さんには『黒の使徒』が森を伐りに来る恐れがるので特殊な魔法で守っていると説明したよ。
村長を始め村の人達が森を見て驚愕の表情を浮かべている。…いつものことだね。
いきなり森ができたと聞きつけギリッグさんが駆けつけてきた。
「なんですかこれは、いきなり森ができたと聞いてきてみればこれはどういうことですか?」
ギリッグさんが声を荒立て詰問するように言った。
「村の人からの依頼で森を作ったのですが何か問題がありましたか?
少しでも村の人の生活が楽になるようにと農地と水場も用意したのですよ。
私の同行者に大魔法使いがいたのでお願いしたのです。
私は『スラムの住人にも気を配る慈悲深い皇女殿下』ですので。」
ああ、ハイジさん、ギリッグさんに言われたことを根に持っているよ。
ギリッグさんは何か言いたそうだったが、皇女殿下がなさったことだと聞いて口をつぐんだ。
ギリッグさんが項垂れるように下を向き何か呟いている。
「なんてことをしてくれたのですか…。何十年もかけて森を減らしてきた努力を踏みにじるような真似を…。」
えっ、なんか聞き捨てならないことが聞こえたような…。
わたしが問い詰める間もなく、ギリッグさんは足早に去って行った。
今から追いかけて聞いても教えてくれそうな雰囲気ではないみたい…。
ハンナちゃんの情操教育に悪そうなので、ハンナちゃんには別の魔導車で遊んでもらっている。
「支配人のギリッグから聞いたことで幾つかわかったことがありました。
一番の収穫は、シュバーツアポステル商会というのは我が国の皇室・貴族に深い繋がりを持っていることがわかったことです。
次に、最初にミーナさんが感じたとおり、最初からスラムの人間を使い潰すつもりで連れてきていること。
そして、スラムの人の命のみならず貴族達の要望を優先してオストエンデの町全体を危険に晒すような倫理観に乏しい人達が経営していることですか。」
ハイジさんがギリッグさんとの面談で気付いたことをあげていく。
不思議なのは皇室御用達の商会にもかかわらずあまり名を知られていないことだよね。
いや、むしろ秘匿されている感じだよ、知りたければ皇帝か皇太子に聞けなんて言ってたもんね。
スラムの住人の扱いなどを聞いていて、なにかあまり表に出したくない後ろ暗い仕事をしている印象を受けたんだけど…。
「瘴気の森の木材で作られた調度品の評判を聞けたのも大きいと思うよ。
あの怒り方からすると支配人は本気で瘴気の森の木材の危険性を全く感じていないみたい。
ヴィクトーリアさんが病気になったという情報より、他の貴族からの評判を重視していたよ。
あの木材を使った調度品の購入者の評判の内容も気になった。」
「あの魔法がうんぬんという評判ですか?」
わたしの発言にすかさずミーナちゃんが反応した、ミーナちゃんも思うところがあるらしい。
「そうそれ、ハイジさん、この国の貴族の方はそんなに疲れるほど魔法を使うものなのですか?」
「職務が何かにも依りますが軍属以外の貴族が自ら魔法を使うことはそう多くないので、魔法を使うことであまり疲れると言うのは聞いた事がないですわね。
軍属であれば訓練などで毎日相当魔法を使うと思うので疲れを感じるのではないでしょうか。」
そうかあ、貴族でも軍に所属する人がいるんだ。毎日魔法の訓練をしていれば疲れもするか。
だとするとわたしの考えは正しくないかもしれないな……。
「それがどうかしましたか、ターニャちゃん?」
「いえ、支配人が言っていた高貴な人の評判と言うのを聞いて、以前ミーナちゃんが言っていた事が頭に浮かんだのです。」
「私が言った事って、もしかして黒い髪・黒い瞳・褐色の肌の人って魔力の効率が悪いのじゃないかって事ですか?
実は私も支配人の話を聞いてそのことが頭をよぎったのです。」
ミーナちゃんが漠然と思い描いていた仮説とは、「黒い人は魔力の使用効率が悪く瘴気が薄いところではすぐに魔力切れを起こし、あまり魔法を使えないのではないか」というもの。
もし、ミーナちゃんの思った通りなら、あの調度品を置いた瘴気の濃い部屋にいれば魔力の回復が早く魔力切れによる疲れが早く取れると喜ばれるのだろう。
濃い瘴気の中にいることで短時間で魔力が十分に溜まるので魔法がたくさん使えるようになるだろうし、魔法をたくさん使えば上達もするだろうと思ったんだよね。
ただ、支配人が言っていた評判が日頃たくさん魔力を使う人からの評判ならば、日常的に魔力切れを起こすのもおかしくないのでミーナちゃんの思っていることが正しいとは言えないんだよね。
一つ言えるとすれば、ヴィクトーリアさんのような普通の人だと体を壊すような濃い瘴気を発する調度品も、色の黒い人にとっては今のところ害は見られずむしろ好都合なことのほうが多いと言うことかな。
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「ハイジさん、支配人の言う通りあの製材所は法に違反していることはないのですか?」
「ターニャちゃん、私に聞かれても困ってしまいます。
帝室の一員だといっても私だってまだ未成年の学園生なんですよ、そんなに法律に詳しい訳ないでしょう。
流行病の報告義務の件は大事なことなので小さい頃から何度も聞かされて知っていただけです。
はっきり法に反しているのは流行病と疑わしき病気を隠蔽したことですね。
ただし、あれは実際には流行病ではないし、人から人へ感染しないのがはっきりすれば罪には問えないですね。」
結構何でも詳しいソールさんとフェイさんにも聞いてみたが、オストマルク王国については事前に色々調べていたけど、わたしの留学当初は帝国を訪れる予定がなかったため帝国の法は調べていないと言う。
ただ、フェイさんは、支配人の言う通り日雇いの人は自分で宿を借りるのが普通で、無償で宿舎を使わせるのはかなり良い待遇とだと言っている。働かないなら出て行けと言うのもごく自然だと言う。
また、スラムの人についてもゼクスさんの話を聞く限り騙されて連れて来られた訳ではないし、本人達も納得して魔獣狩りをしているので、法的に拙い点は無いのではないかと言う。
報酬にしても、隣村のアインさんがかなり良い条件だと言っていることから問題になるようなものではないだろうと言う。
最後にフェイさんは、
「帝国の法には詳しくありませんが、たぶん法の文面上は違法なことはしていないのではないでしょうか。
みなさんが納得がいかないのはおそらく人道上の問題だと思います。
例えば、依頼した仕事に起因する病気や怪我で働けないものを宿舎から追い出すとか未経験者に指導もせずにいきなり危険な魔獣狩りを行わせるとかいうことについてですね。
この辺をどう感じるかはその人の倫理観により違ってくるので何とも言えませんね。」
と締めくくった。
フェイさんの話を黙って聞いていたハイジさんが頷いて呟きをもらした。
「たしかに、疫病予防に観点から『街中に死体を放置してはならない』と言う法はありますが死体をどう処理しろとは定めていないですね。
そこのところは各人のモラルに任せています、普通は共同墓地の一角に埋葬するのですけどね。
少なくとも魔獣に食べさせてはいけないとは定めてないですね、そんな非人道的なことをするとは想定しませんもの。」
**********
「ハイジさん、製材所の件はこのまま放置するしかないのですか?」
ミーナちゃんが悲しそうな目をしてハイジさんに尋ねた。
「今のところ製材所を差し止める理由に乏しいので、私達があの製材所に対して手を出すのは難しいですね。
もちろんいつまでも放置しておくつもりはありません。
まずは、お兄様とお母様に相談しようと思います。
それと、シュバーツアポステル商会について詳しく調べる必要があるようです。
お父様の後ろ盾があるようですが、なんか胡散臭いです。
ターニャちゃん、無理を言って付いて来た身で申し訳ございませんが、王国に帰国していただけませんか。早くお母様と相談したいのです。」
「いいよ。
わたしも今回の辺境訪問は瘴気の森の伐採現場がわかっただけでも収穫があったと思うから。
それと、この村を見ていて少し気になることがあって、わたしも王国に戻りたいと思っていたところなの。
帰り道、ミルトさん達と合流してから少し寄り道するけどいいかな?」
「もちろんですわ。こちらからお願いしているのですもの。
多少の寄り道は問題ございませんわ。」
本当はかなり長い間この辺境で森を作っていようと思っていたのだけど、この村を見ていて気が付いた事があるの。
それを急いで確認する必要があるので急遽帰りたいと思ったの。でも、ハイジさんが帝国辺境の窮状を気に掛けているのでもう帰るとは言い出し難かったんだ。
ハイジさんのお願いは渡りに船だよ。
「じゃあ、やることをやって帰ることにしますか。」
**********
わたし達は村長さんの家にお邪魔している。
「昨日は村の若い者を救っていただき有り難うございました。
みんなもうすっかり良くなって起き上がれるようになりました。」
「そうですか、それは良かったです。
それで、私が連れてきた治癒術師の方から提案があるそうです。」
「それはどのようなことでしょうか?
この村の恩人の言われることであれば、多少の無理であれば受け入れますが。」
わたしはハイジさんに促され村長さんの質問に答えた。
「この村の方が罹った病気は濃い瘴気に晒されて体が異常を起こしたものです。
この村は瘴気の森に近く、しかも村の若い男性は瘴気の森に入って魔獣を狩っています。
このままでは、また同じ病気になる恐れがあります。
わたし達はこの病気に対して有効な予防手段を提供することができます。むろん対価は要りません。」
わたしの提案を詳しく聞きたいと村長さんが関心を示したので、他の村にしたのと同じ説明をする。
「なんと、森を作ることで病気に罹る恐れを低下させることができるのですか。
しかも、畑と泉まで作ってくださると、それも無償で。
それは本当に信じても良いのでしょうか、だいたいそのようなことが可能なのですか?」
村長さんの疑問を打ち消すようにハイジさんが太鼓判を押してくれた。
「勿論ですわ。私はこの村に来る前に何度も目にしましたもの。
治癒術師が連れている者は大魔法使いなのです。実際に目にすると驚きますわ。」
ハイジさんの言葉が決め手となって村長さんが森を作ることを依頼してきたよ。
そして、わたし達は村の空堀の外、西側に来ている。
今回は村の西側に農地を作り、村と農地の西、北、南側を森で囲むことにしたんだ。
今までの村と違うのは、森の厚みを今までの倍の厚さにすることにしたこと。
最後だから大盤振る舞いする訳ではないよ、村の中に瘴気を発する製材所があるからより浄化能力の高い森を作ろうということになったんだよ。
ソールさん、シュケーさん、フェイさんにはまた頑張ってもらった。
そして数時間後、目の前には青々とした作物が植わった広い畑が広がっている。
畑の先にはこれまた青々と茂る豊かな森が広がり、畑の西側の森との境には滾々と湧き出る泉が作られている。
今回は西側と南側が精霊の森だ、村長さんには『黒の使徒』が森を伐りに来る恐れがるので特殊な魔法で守っていると説明したよ。
村長を始め村の人達が森を見て驚愕の表情を浮かべている。…いつものことだね。
いきなり森ができたと聞きつけギリッグさんが駆けつけてきた。
「なんですかこれは、いきなり森ができたと聞いてきてみればこれはどういうことですか?」
ギリッグさんが声を荒立て詰問するように言った。
「村の人からの依頼で森を作ったのですが何か問題がありましたか?
少しでも村の人の生活が楽になるようにと農地と水場も用意したのですよ。
私の同行者に大魔法使いがいたのでお願いしたのです。
私は『スラムの住人にも気を配る慈悲深い皇女殿下』ですので。」
ああ、ハイジさん、ギリッグさんに言われたことを根に持っているよ。
ギリッグさんは何か言いたそうだったが、皇女殿下がなさったことだと聞いて口をつぐんだ。
ギリッグさんが項垂れるように下を向き何か呟いている。
「なんてことをしてくれたのですか…。何十年もかけて森を減らしてきた努力を踏みにじるような真似を…。」
えっ、なんか聞き捨てならないことが聞こえたような…。
わたしが問い詰める間もなく、ギリッグさんは足早に去って行った。
今から追いかけて聞いても教えてくれそうな雰囲気ではないみたい…。
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