精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第166話 瘴気の森の施設 ⑤

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 目の前にいるフュンフさんは狂信的な『黒の使徒』の信者という訳でもないようだ。
 にもかかわらず、瘴気の森を魔力に溢れる素晴らしい場所と信じており、王国では子供ですら知っている瘴気の有害性を全く認識していないことにこの商会の不気味さを感じたよ。
 まあ、そう信じてなければいつ瘴気中毒になっても不思議じゃないこんな所までは来ないか。

 でも変だよね、ハイジさんやヴィクトーリアさんは瘴気の有害性をちゃんと理解していた。
 帝国でも瘴気が有害なものとちゃんと教えているんじゃないかな?
 フュンフさんは下っ端とは言っているけどこの施設の管理の仕事をしているようで、ちゃんとした教養のある大人みたいだ。なのに何でこんな事を言うのだろう?


     **********


「それで、ヴェストエンデ伯爵とこの商会はどう関わっているのかしら?
 ここで働いている若い人をここまで送り届ける馬車は伯爵が出しているようだけど。」

 ミルトさんの問いにフュンフさんは、

「俺はプッペ支配人と伯爵の間でどういう約束が交わされているのか知らされていない。
 少なくともこの施設の運営に伯爵は口を挟める立場にはいない。
 俺が知っている伯爵との付き合いは商取引だけだ。」

と言った。

 フュンフさんの言う伯爵と商会の商取引とは次のようなものだった。

 第一にこの施設を作るための資材、主に木材を伯爵に売ってもらったとのことだった。
 伯爵が所有する森を一つ丸々伐採しこの施設の建設用木材に当てたらしい。
 フュンフさんの話では、全然お金を生まない森が大金に化けたと伯爵はご満悦だったそうだ。

 次に口入れ屋が王国の各地から集めた若者をヴェストエンデの街からここまで馬車で定期的に運んでもらうこと。これもきちんと対価を決めた商取引らしい。
 市井の貸し馬車を雇うと情報漏えいの恐れがあるので、伯爵を抱きこんだとのこと。
 一応、この施設が違法なものだということは商会も最初から認識していたんだね。

 一方で、魔晶石の不正流通には伯爵は直接関与はしていないらしい。
 魔晶石は全てこの施設を中心に流通しており、オストマルク王国内で流通させた分は複数のダミー会社を経由させているので容易に足がつかないと思っていたらしい。
 伯爵には、お目溢しと口止めのために魔晶石の国内での売り上げの一定割合を支払っていたらしい。これがどの程度の割合なのかはプッペ支配人しか知らないと言っている。


 フュンフさんの話を聞いたミルトさんは少し考える素振りをした後言った。

「あなたの話が本当なら、この商会と伯爵の関係はあくまでビジネスライクのものなのね。
 プッペ支配人は伯爵に口出しさせないために深い繋がりを求めなかったのかしら、それとも伯爵をそこまで信用していなかったのかしら、逆に表向きは深く関わっていない形にして摘発された場合でも微罪で済む様にしていたと見ることもできるわね。
 もしかしたら裏ではもっと深い繋がりがあって、この人が知らされていない可能性もあるわね。」


 ミルトさんが言うには、魔晶石の不正流通は重罪だけどそれに直接関与した訳ではなく賄賂を貰ってお目溢ししたということだと微罪に留まると言う。
 お取り潰しや強制隠居などは言うに及ばず減封、領地換え、降爵などにもあたらず、精々が罰金か厳重注意程度だと言う。

 木材の販売にいたっては犯罪行為に問えるのかも怪しいと言う。


     **********


 さて、重要な情報を握っていると思われるプッペ支配人だけど、商会に対する忠誠心が強いのか黙秘したままで何も語らないと言う。

 このまま素人が尋問しても時間の無駄なので、王都に送って専門の人に任せようということになったみたい。
 
 ただ、そうなると何処に証拠となるものが隠されているかもわからないとのことで、結局室内の物を一切合財押収することになってしまった。

 大丈夫か、わたし…?

 しょうがない、やるか…。

「クロノスおねーちゃん、お願いがあるの!ちょっと来て!」

 わたしは、みんなが見ている前で、大きな声で叫んだ。もうイヤ、この羞恥プレー…。

「はーい、クロノスお姉ちゃんですよ!ターニャちゃん、久し振りね、元気にしてた?」

 このハイテンションなお姉さんは時空を司る精霊クロノスさん。なんでも時空を操れるのはクロノスさんしかいないらしいよ。
 クロノスさん、なかなかの曲者で、『お姉ちゃん』と呼ばないと答えてくれないし、何か頼むときは大きな声で呼ばないと来てくれないの。だから、毎回恥ずかしい思いをするの。

「クロノスおねえちゃん、精霊の森の空き部屋に運んでもらいたいものがあるの。お願いできる?」

「ターニャちゃんのお願いを断るわけないでしょう、お姉ちゃんに任せておいて。」

 そう胸を張ったクロノスさんを連れて、事務所の中の什器備品全てを精霊の森にあるわたし達の家の空き部屋に送ってもらう、次に作業所へ行き中にある機械その他一切も送ってもらった。
 
 そのつど、クロノスさんはわたしに抱きついては、わたしのマナをごっそりと吸い取るので全部終ったときにはわたしはヘトヘトに疲れていたよ。

 大きな機械が次々に消えていく様子に、侯爵をはじめ周りにいた騎士達が呆然としていた。

「たぶん、十日くらい後になると思うんだけど、次にわたしが呼んだときにさっき送った物を今度は王都に送って欲しいの。いいかな?」

「もちろんよ!今度は十日でターニャちゃんと会えるのね、嬉しいわ!」

 そう言ってクロノスさんは去って言った。


     **********


 事務所の建物に戻ると兵士達が床板を剥がしたり、壁を壊したりしていた。
 何をしているのか聞いたら、証拠を隠すような場所がないか探しているそうだ。
 徹底的にやるのね…。

 少しの間待っていると家捜しが終ったようで、侯爵が撤収しようと言ってきた。

 プッペ支配人たち幹部はわたし達と一緒に魔導車で連行し、魔獣狩りの若者達は兵士が馬車で連れて行くらしい。
 それと、追加の大型魔導具の搬入が予定されているようなので、それを接収するため一つ手前の村に兵士を十人ほど残すことになったみたい。
 あの村ならば、森に囲まれているので瘴気中毒の心配はあまりないかな。

 今日はプッペ支配人を護送するためヴェストエンデには寄らずノイエシュタットに直接向かうみたい。
 ヴェストエンデ伯爵の追及は一旦帰った後だって。




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