精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第12章 三度目の夏休み

第314話 次の村の様子は…

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 ハンスさんの村を出て再びわたし達は瘴気の森沿いに街道を北へ進む。
 次に向かうのはやはり魔獣狩りを生業とする村で、昨年製材所のある村へ出稼ぎに出た人達が軒並み瘴気中毒に罹り苦しんでいた村なの。

 ハンスさんの村を出て一時間もしないで目的の村に着いた、村はハンスさんの村とは違いちゃんと女性や子供もいる普通の村だよ。
 外から見る限りでは森も村も無事な様だ、少なくとも『黒の使徒』に焼き払われた様子はない。

 わたし達の魔導車が村の入り口に近付くとそれに気付いた何人かの男性が侵入を阻むように村の入り口に並んだの。
 まあ、あんまり外部から人が訪れる村ではないし、よそ者に警戒するのは当然かな。


 村の入り口で魔導車を停めてソールさんをお供に車を降りると、一人の青年がわたしと気付いたようだ。

「誰かと思ったら聖女のお嬢ちゃんじゃないか、あん時は世話になったな。
 久し振りだな、今日は何の用だい。」

 この青年はアインさん、この村の若手のリーダー格で新婚さんらしい。
 警戒を緩めたアインさんが用件を尋ねてきた、別にこれと言った用件がある訳じゃないけど…。

「今日は昨年作った森や畑の様子を見に来ただけですよ。
 それと、森のことで『黒の使徒』の嫌がらせを受けていないか気になったので。」

「おう、そうかい。そりゃあ、心配してもらってすまねえな。
 こんなところで立ち話もなんだ、村の中に入ってくれ。」

 そう言って、アインさんはわたし達を村の中に招き入れた。
 わたしは、リタさんをお供にハイジさん、ミーナちゃんと一緒に、アインさんに付いて村長のお宅にお邪魔した。
 
「これはこれは聖女様、ご無沙汰しております。
 此度もこの辺境まで足を運んでいただき恐縮です。」

 村長がえらく丁寧な挨拶をしてきた…。いや聖女様って、わたしはそんなモノになった覚えは無いよ…。それに、わたしの隣に皇女様がいることに気付いてないの?

「あの、わたしを聖女と呼ぶのはやめて頂けませんか。
 そう呼ばれると色々と問題があるものですから。」

「そうですか?
 でも、この東部辺境のどこへいても『白い聖女』の噂で持ちきりですよ。
 飢饉にあえぐ辺境の村に、食べ物を配って歩き、病を治し、農地を作るという慈悲深い行い。
 これを聖女と呼ばずして誰を聖女と呼ぶのかと。」

 他の村でもそんな事を言う人がいたような気がする…。
 わたしは、『白い聖女』と呼ばれると創世教や『黒の使徒』との揉め事になるからやめて欲しいと説明し、村長を説得するのに無駄な時間を費やしてしまった。
 何とか納得してもらい他の人にも聖女呼びは止めるように伝えてもらうことにした。

「それで、森や畑の様子を見に来られたということですが、共に青々と茂ってとても助かっています。
 畑は昨年は芋をはじめとしてどれも豊作で、冬場の食べ物に困らずに済みました。
 今年も、生育状況はすこぶる良くて豊作が期待できそうです。
 昨年作っていただいた泉と森のおかげで、飲み水にも薪にも不自由することがなくなりました。
 お嬢さんにはただただ感謝するばかりです。」

 畑や森については上手く回っているみたいで安心したよ。瘴気の問題は大丈夫だったのかな?

「それで、その後瘴気中毒に罹る方はいませんでしたか。」

「ええ、それもおかげさまでその後一人も瘴気にあてられる者は出ておりません。
 お嬢さんの言葉に従って隣村に出稼ぎに行くのも控えることにしました。」

 畑で食べ物が収穫できるようになったので、出稼ぎに行く必要性も薄れたらしい。
 ただ、隣村の魔晶石買取所は、この村で採取したものでも買取してくれるようで定期的に魔晶石を売りに行ってるという。

 わたしと村長の会話が一段落したとき、アインさんが言った。

「ところで、お嬢ちゃん。
 この村の目の前の森、今朝起きたら突然出来ていたんだけど、あれはお嬢ちゃんの仕業か?」

 アインさんは自分の目を疑ったそうだ、訳が解らないことが起きたものだと困惑していたという。
 そこに、わたしが現れたので合点がいったのだそうだ。

「そうですけど、内緒にしてくれますか。
 公には勝手に生えてきたことにしてもらえると助かります。」

「やっぱりそうか、あんなことをするのはお嬢ちゃんくらいしか思い浮かばなかったんだ。
 内緒にしろっていうのは、『黒の使徒』とかいう連中に関係するのか?」

「ああ、わかります?
 『黒の使徒』は、わたし達がこの辺境で森を増やすのが気に入らないのです。
 度々、わたし達に暗殺者を送ってくるのですよ。
 だから、わたし達が注目されるのは避けたいのです。」

 まあ、それだけが理由ではないのだけどね。幾ら辺境の荒地とはいえ勝手に使うのは後々問題になるかも知れないしね。自然に出来たことにするのが一番だよ。
 わたしの言葉を聞いていたアインさんが言う。

「『黒の使徒』の連中な、村々を回っては森を伐採するように迫っているみたいなんだ。
 この村にはまだ来ていないんだが、俺達も交替で見張りをやって連中を警戒しているんだよ。
 この村より手前の村で手酷く返り討ちにあったようで、連中も少しは慎重になっているかもな。」


 ああ、村の入り口であんなに警戒していたのは、『黒の使徒』のことを警戒していたんだ。
 『黒の使徒』の噂はこの村にも届いているみたいだね。


     **********


 その後、わたし達は村長の案内で村の様子を見せてもらうことにした。

 畑の様子を見ると、ソバもアマ芋も良く育っていて、村長の言う通り今年も豊作が期待できそうだ。

「行商人から聞いた話しですが、やはりお嬢さんが畑を作った別の村では小麦を栽培したというではないですか。
 それを聞いて、この村でも今年は畑を一面だけ小麦の栽培に充ててみようかと考えています。」

 村長はロッテちゃんの住む村の話を聞いているようだ。
 ここで、小麦が出来るかどうかはわたしにはわからないけど、瘴気に関してはこの場所はだいぶ薄れているし、土の浄化も畑を作るとき徹底してやったから大丈夫だと思う。
 でも、農業に詳しい人がいなくて大丈夫なものなの?
 わたしがその点を尋ねると、村長は元々農村の出身で小麦を作った経験があるそうだ。
 次男坊で継ぐ農地がないから家を出たんだって。

「なあ、お嬢ちゃん、目の前のでっかい森だけどあれはどんな意味があるんだ。」

 村の中を歩きながらアインさんが尋ねてきた。

「あの森が瘴気の森から漏れ出してくる瘴気を大分浄化してくれるはずです。
 この村は昨年作った森に囲まれているのでかなり瘴気が薄くなっていますが、村の外はまだ瘴気が濃いままでした。
 あの森ができたので村の外の瘴気も幾分薄くなるはずです。
 当然、この村に流れ込んでくる瘴気も減りますので、この村の中は更に住み易くなると思いますよ。」

 わたしが瘴気の森沿いに新たに作った森の効用を説明すると、アインさんは『俺達を瘴気から守ってくれるのならば大事にしないとな』と言ってくれました。

 

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