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第12章 三度目の夏休み
第318話 どうしてと訊かれました
しおりを挟むギリッグに製材所を追い出されたわたし達は、魔導車の中でこれからどうするかを話し合った。
「…という訳で、光の精霊達が製材の魔導具を思い切り浄化していたみたいなの。
だから、あっという間に魔晶石が消耗したみたい。
これからも、光の精霊達は製材所を浄化する気満々みたいだから、もう製材所が垂れ流す瘴気を心配する必要はないかな。」
わたしが製材所で見たおチビちゃん達の話をするとリタさんが愉快そうに言った。
「良かったじゃないですか、帝国の魔晶石相場の暴落が防げて。
ここで余剰な魔晶石が消費しつくされてしまえば、市場に出回る心配ないですからね。
もっとも、その状態ではこの製材所をいつまで維持出来るかわからないですね。」
「そうですか、村の方々の健康状態も問題ないようですし、スラムから連れてこられた少年達も何とかなっているようですのでとりあえずの心配はなさそうですね。」
ハイジさんが安堵の表情を示すとすかさずリタさんが言った。
「では、もうこの村に長居は無用です。みなさんの身の安全を考えると、早々に立ち去るのが賢明でしょう。」
年長者としては『黒の使徒』の傘下の施設があるこの村にわたし達が長居することを看過できないようで、リタさんは早くこの村を出ようと急かしてきたの。
**********
リタさんにせかされて製材所の村を出たわたし達は、ロッテの村経由で一旦屋敷に戻り翌日から西に向かって進むことにした。
その晩屋敷でのこと、お風呂に一緒に入っていたリリちゃんが尋ねてきた。
「ターニャお姉ちゃんはどうして、帝国の辺境の人たちに食べ物を分けてあげたり、怪我や病気を治してあげたりしているのしているの?
それだけじゃない、わたし達みたいなスラムに住む孤児も助けてくれた。
ターニャお姉ちゃんには何の得にもならないのに。」
ああ、そういえば、リリちゃんを保護してからこっち慌ただしく動いていたので、わたしの生い立ちを話していなかったっけ。
「あのね、リリちゃん、理由は色々あるけどね、わたしもリリちゃんと同じ親に捨てられた子供なんだ。
その年は酷い飢饉で食べ物がなくて捨てられたんじゃないかとおかあさん達が言っていたんだ。
わたしは幸いなことにおかあさん達に拾ってもらえたからこうして無事だったけど、おかあさん達が見つけてくれなかったら多分生きていなかったと思うの。
だからね、食べ物がなくて小さな子が捨てられたり、飢えて亡くなったりするのは我慢できないの。
それが一番の理由かな。
そのために、食べ物が足りない場所に食べ物を配ったり、農地を作ったりしているのよ。
後もう一つ、帝国では、わたしやリリちゃんのような『色なし』は酷くみんなに嫌われているの。
だから、『色なし』の子供は親に捨てられやすいの。
嫌われている一番大きな理由はみんなが使える魔法を『色なし』が使えないからなの。
わたしやミーナちゃん、ハンナちゃんみたいな『色なし』が治癒術を使ってみんなの役に立てば、少しは『色なし』を見直してくれるかなと思ってやっているのよ。」
リリちゃんの疑問に対する答えに、リリちゃんは驚いていた。
「ターニャお姉ちゃんも孤児だったんだ、なんか意外。
お金持ちそうだから、貴族のお嬢様かと思っていた。お姫様達とも仲良くしているから。
じゃあ、ターニャお姉ちゃんを拾ってくれたおかあさんと言う人がお金持ちだったんだ。」
ええと、驚くポイントはそこですか…、まあ良いけど…。
「わたしを拾って育ててくれたのは人間じゃないよ。
わたしを育ててくれたおかあさん達は精霊なの、わたしは精霊の森で育ったんだ。」
「精霊って、小人さんたちやソールさん、フェイさんみたいな?」
「そうよ、わたしを育ててくれたおかあさん達は四人の大精霊なの。
帝国でやることが一段落したら、リリちゃんもお母さんに紹介するから楽しみにしていてね。」
お風呂になれないせいだろう、リリちゃんがのぼせ気味になったので、わたし達は話を途中でおしまいにしてお風呂から上がることにした。
**********
そして、翌日から西へ向かった進むことになったが、一つ問題がわかったの。
当初は、ロッテちゃんの村から北に向かって帯状に大きな森を作ったように、西進したところで再び南北の帯状に森を作ってもらおうと思っていたの。
でも、西へ進むとこの辺りと違って村が数多く点在しているんだって、ハイジさんから言われたの。
帯状に森を作ると森に飲み込まれてしまう村が出てきてしまうって。
流石に上位精霊のシュケーさんでも村を避けるように蛇行して森の帯を作るのは無理だって。
一気に森を広げようと思ったら直線状になるみたい。
みんなと相談した結果、これまで通り街道を西に進みながら点在する村々を回って、疾病の治療や農地の造成をしながら村の周りに森を作っていくことにしたの。
この方法だと一つ一つ村を回るのに時間がかかるので、一気に森を広げることは出来ないし、あまり西へ進むことも出来ないね。
ただ、ソールさんやフェイさんは、この辺りに拠点を作るというわたしの目的にはその方が良いだろうって。
人目に付き難くかつオストエンデに程近い良い立地を探すのであれば、辺境をこまめに巡った方が良いって。
そして、十日ほど村々を回って、病気の人の治療をしたり、畑を作ったり、森を作ったりしながら、オストエンデに程近い寒村に辿り着いたとき、ハンナちゃんが顔色を悪くして言った。
「ハンナ、あの村には行きたくない。」
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