精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第15章 四度目の夏、時は停まってくれない

第429話 今更ながら思った、全部あいつ等が悪いと

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 領館の中に入るとホールでルーナちゃんが迎えてくれた。

「ターニャちゃん、ようこそ、良く来たね。
 体を壊したって聞いたよ、ここでゆっくり体を休めていってね。」

 いつもと変わらぬ元気な声で歓迎してくれたルーナちゃん。
 ノースリーブで膝丈の装飾の少ないワンピースという相変わらず動きやすさ重視の貴族らしかなぬ服装をしている。夏らしいといえば、夏らしいのだけど……。

 ルーナちゃんの後ろには、フローラちゃんとヴィクトーリアさん、それに三人娘の姿もあった。
 今回は、このメンバーで旅してきたんだね。

 ルーナちゃんの紹介で、ルーナちゃんのご両親、アルムート男爵夫妻にご挨拶を済ませた。
 クラフトさんは猟師のような恰好から貴族らしい服装に着替えていたよ。
 
 その後、仕事を先に片付けてしまうと言って、ミルトさんはヴィクトーリアさんと共にリタさん達を連れて滞在している客室へ行ってしまった。

 残ったのは、いつもの三人とフローラちゃんにルーナちゃんの五人、そしてウンディーネおかあさん。
 ルーナちゃんの案内でリビングに通され、ソファーに腰を落ち着けて話をすることにしたの。

「ウンディーネ様まで一緒とは思わなかった。
 ターニャちゃん、そんなに具合が悪いの?」

 ルーナちゃんが唐突にそんなことを言ったの。

「えっ、どうして?」

 ルーナちゃんの言わんとすることがいまひとつピンと来なかったので尋ね返すと。

「だって、ターニャちゃんの具合を心配してウンディーネ様が付いてきたのでしょう。
 そんなに具合が悪いのかと思って。」

 ああ、ルーナちゃんはウンディーネおかあさんが最初から一緒にいたものだと思っていたのか。
 誤解があるようなので、ブルーメン領で偶然会ったこと、わたしが北部に行くことはウンディーネおかあさんは知らなかったことをルーナちゃんに説明した。

「ふーん、そうなんだ。それで、実際、体は大丈夫なの?」

 ルーナちゃんは一応納得しつつ、尚もわたしのことを気遣ってくれた。

 だから、わたしは今までの経緯、成長期に入って生成されるマナの量が増えてきたことから始まって、体の中のマナがあふれ出して倒れたところまで順を追って説明した。

 そして、今はエーオースおかあさんがわたしのマナを押さえ込んでくれているので体に異常はないと伝えたの。
 ただ当分の間、マナを大量に消費するようなことは止められていることも話した。

 そいうえば、当分の間っていつまで大人しくしていれば良いのだろう?
 わたしは、ふとそれが気になってウンディーネおかあさんに聞いてみた。

「そうねえ、成長期が終って生成されるマナの量の増大が収まるまでかしら。
 数年はおとなしくしていた方が良いと思うわ。」

 驚きだった、当分というのは数ヶ月のことかと思っていたよ。
 そんなに大人しくしているなんて無理、帝国西部の再生が出来ないじゃない。

 わたしの不満が顔に出ていたみたい、ウンディーネおかあさんが呆れた表情をして言ったの。

「そんな不満そうな顔をしないの。
 何をそんなに焦っているの、ターニャちゃんがやろうとしていることは百年かかることだと言ったじゃない。一、二年遅れたからどうだと言うの。
 それにね、見渡す限り一面を実りの地に変えるなんて上位精霊じゃあるまいし、無茶よ。
 よく聞いてね、ターニャちゃんは抑えているつもりでも、生成されるマナの量の増大に伴って体からもれ出るマナは増えているの。 
 ターニャちゃんの傍にいるチビちゃん達はそれをいつももらっているので十分なマナを溜め込んでいるわ。
 多少のことは対価なしで聞いてくれると思うわよ、それこそ畑の一枚や二枚であれば何とかなるでしょうね。それで良いじゃない、飢えで苦しむ人の当面の糊口は凌げるわ。
 それ以上のことは身を削ってまですることではないわ。」

 おかあさんはヤスミンちゃんやマルクさんの村でやったことはやりすぎだと言いたいのだろう。
 森や池を復活させたのはフェイさんやシュケーさんでわたしは何もしていない。
 わたしがしたのは圃場の整備の部分だけど。
 確かに今年食べるために必要な大豆やソバや芋を植えた畑だけにしておいて、それ以上は村の男衆に任せるという手もあったかもしれない。
 灌漑用水が使えるようになったので、それでも周りの畑に作付けすることは可能だったと思う。
 でも、痩せてしまった土地では遅々とした歩みになっただろう。
 一面の小麦畑に変えるのには何年かかることか。
 それでは、男衆が帰って来れないかもしれない。

 そう考えると、やっぱりあそこまでするしかなかったような気がするんだ。

 これが魔晶石の採取を主たる収入源とするロッテちゃんの村とかであれば、畑の一枚、二枚を提供してあげることができれば十分だろう。
 食べ物に事欠かないように自給自足用の畑を用意してあげれば自立できるのだから。

 東部辺境地域の村々は魔晶石の採取という本業があったから、飲み水用の泉と薪を取る林それに自給自足用の畑を用意することで大変な状況から脱却することが出来た。

 広大な農地から生活の糧を得ていた西部地区では、東部辺境と同じような心構えで手助けできると考えたのが間違いだったのかな。
 その広大な農地がないと生活が出来ないのだから、畑の一枚や二枚では焼け石に水だもの。

 
     **********


「ウンディーネ様のおっしゃるとおりだと思うわ、ターニャちゃん。
 わたしも常々思っていたのだけど、ターニャちゃんったらやることがどんどんエスカレートしている。
 自分達の手の届く範囲で、手の届くことだけをする。それが奉仕活動というものだと思うの。」

 ミーナちゃんはわたしが納得していない様子なのを見て、ウンディーネおかあさんの言うことを支持した。

 そして、

「最初、ロッテちゃんの村にしてあげたことは、当面の食料の援助と冬越しが出来る程度の畑の提供だった。
 それでも、十分に感謝されたし、現にあの冬は飢えに苦しむことは無かったと言っていたわ。
 あの年の冬も他の村では餓死者が出たって言ってたじゃない。
 それだけでも、凄いことだと思ったわ。
 翌年の森を作るというところも理解できた、瘴気を厭う精霊と利害が一致してソールさん達が助けてくれたから。
 派手に森や泉を作ったけど、私達がしたことは村のみんなが食べるための畑を作っただけ。
 私達自身がしたことは、最初の年と余り変わらなかったわ。」

と過去を振り返り、最初のうちの活動でも十分に人々を救うことも出来たし、無理も無かったと言ったの。

 ミーナちゃんは三年目の夏休み以降帝国各地に転移拠点を作ってから、わたしが無理をするようになったと言うの。

 夏休みに魔導車で行ける範囲をまわって人助けをするところまでは理解できるけど、学園の長期休暇以外の休日を転移で帝国まで行って各地を回るのは流石にやりすぎだろうと言う。

 確かに、ミーナちゃんに指摘されると、そんな気がしてきた。
 なんで、こんなことになっているのだろう。


     **********


 自問自答して、ハタと気付いた。すべては、『黒の使徒』の連中のせいだ。

 元々、帝国へヴィクトーリアさんの治療に行く際に、ハイジさんから食料不足から森を伐って農地へ変え、そこで無理な連作をしてせっかく作った農地を荒廃させたと聞いたの。
 それで、農地を持たない東部辺境では酷い事になっていると思い、食糧支援を思いついたんだ。

 その時点では、『黒の使徒』が絡んでいるとは知らなかった。
 帝国の飢餓の問題に関っていくうちに、それが『黒の使徒』によって人為的に引き起こされていることを知った。
 更に、瘴気の森やルーイヒハーフェンで孤児達を食い物にしている『黒の使徒』の所業に腹が立った。
 だいたい、最初の年からわたしに刺客を送ってきて『黒の使徒』に怒りを覚えていたんだ。
 あの毒つきのナイフで腹を刺された痛みは今でも忘れていないよ。

 『黒の使徒』のやっていることが徐々に明らかになってきて、絶対に許せないと思った。
 それで連中を排除してやろうと思ってからだ。わたしの行動がどんどんエスカレートしてきたのは。

 そう、わたしが今活動を休むことに納得ができないのは、『黒の使徒』のことがあるから。

 魔晶石の流通から主導権を取上げ、王国からの輸入穀物の流通から完全に排除した。
 後は、帝国の国内産の穀物の市場から主導権を取上げれば、連中は詰むだろうと思ったの。
 だから、西部地区の小麦畑の復活に拘ったんだ。
 あの一帯を穀倉地帯に戻して、その流通に『黒の使徒』を一切関与できないようにすれば、連中は追い詰められると思うから。

 後一手で詰みなのに、そんな思いがあるから納得できないんだ。

 わたしがそのことを告げると、ミーナちゃんが言った。

「私、以前にも言ったと思うけど、もう帝国の大人に任せれば良いんじゃないの?
 ここまで、ターニャちゃんがお膳立てしたのだから、もう十分だと思うよ。
 後一手なんだったら、大人にやってもらえば良いじゃない。
 それとも、ターニャちゃんは最後はどうしても自分の手で止めが刺したいの?」

「私もそう思うなぁ、ターニャちゃんが全部やってあげること無いんじゃないの。
 それじゃあ、大人の立場がないわ。後は任せましょう。」

 ミーナちゃんの言葉にウンディーネおかあさんが相槌を入れた。

 そうかなぁ…、大人に任せると血生臭いことになるような気がしてならないのだけど…。


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