精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

文字の大きさ
451 / 508
第15章 四度目の夏、時は停まってくれない

第450話 帰国、ところでこの子どうするの?

しおりを挟む

 ケントニスさんの即位式も済んだので、わたし達は王国へ戻ることになりました。
 皇太后となったヴィクトーリアさんはケントニスさんを補佐するため帝国に残ることになったの。
 健康状態も良くなったし、ヴィクトーリアさんの命を狙う者も帝都からいなくなったからね。
 
 この二年で、帝都の周囲にシュケーさん達が点々と森を作った成果で、ヴィクトーリアさんが瘴気中毒となった三年前に比べ、帝都の瘴気は大分薄くなっている。
 これなら、瘴気中毒がぶり返すこともないだろう、シュケーさん達に感謝だね。

 念のためという訳ではないけど、シュケーさんが皇宮は殺風景だといって空いている空間に木を植えてくれた。
 皇宮内の瘴気もこれで多少は掃えるだろうって。

 そして、ケントニスさんの即位式から三日後の朝。
 王国の使節団一行は、ケントニスさんとヴィクトーリアさんに別れを告げ、帝都に一番近いわたし達の屋敷へ向かった。
 帰りは東部辺境まで魔導車で戻るなんて悠長な真似はしない、宰相がそんなに国を空ける訳にはいかないからね。

 帝都に一番近いわたし達の屋敷から王宮裏の精霊の泉に直行するよ。
 
 さて、帝国組だけど、ハイジさんとザイヒト皇子はまだ留学中の身なので一緒に王都に戻る。
 もう夏休みは終っているものね、あまり学園を休むことは出来ない。

 あとは、ポルトの孤児院からついてきたネルちゃんをどうするか。

 元々、魔獣のため両親を失ったザイヒト皇子を心配してここまで付いて来たのだ。
 ザイヒト皇子は、ネルちゃんのおかげで大分元気を取り戻した様に見える。

 そろそろ、ポルトの孤児院に帰さないとステラ院長や孤児院のみんなが心配するだろう。

 わたしがザイヒト皇子とネルちゃんにどうしたいか聞こうとした丁度その時。

「ねえ、ネルちゃん。ネルちゃんは勉強が好き?」

 ミルトさんがネルちゃんに尋ねたの。

「うん、大好き!いっぱい勉強して大きくなったらお医者さんになるの。」

 ネルちゃんの元気いっぱいの返答にミルトさんは相好を崩して続けたの。

「そう、おばさんがお医者さんの学校を創ろうとしているのは知っているわよね。
 その学校に行きたいのなら、王立学園に通った方が良いわ。
 おばさんが、学費と生活費を出してあげるから王都に出てこない。」

 おやおや、いきなりの申し出だね。ネルちゃんも戸惑っているよ。

「いいの?いつから?」

 ネルちゃんが上目遣いに尋ねると、

「勿論良いわよ。
 そうね、学園は八歳になってからなんだけど、今日からでも良いわよ。
 寮のフローラの部屋にまだ空きがあるので住めるように手配して上げるわ。
 それに学園の図書館も使えるように許可を取ってあげる。
 孤児院の図書室よりたくさん本があるわよ。
 そうすれば、ザイヒト皇子とも一緒にいられるわよ。
 ザイヒト王子のことは好きかしら?」

 ミルトさんはそう答えて、図書館の本とザイヒト皇子でネルちゃんを釣ったの。

「うん、ザイヒトお兄ちゃん、大好き!。」

「そう、じゃあ、今日から王都に住むということで良いかしら?」

 ミルトさんがそう念を押すとネルちゃんは、「うーん」と言って考え込んでしまった。

「どうしたの?なにか問題でもあるかしら?」

「ミルト様はとっても偉い人なのでしょう。
 どうしてそんなに良くしてくれるの?
 ネルはスラムの子だよ。
 ポルトの孤児院だって十分良くしてもらっているのに。
 これ以上、良くしてもらう理由なんかないと思うの。」

 ネルちゃんがそう言うとミルトさんは更に相好を崩した。

「そう、そういうところよ。普通、ネルちゃんくらいの歳の子はそこまで考えないわ。
 ネルちゃんの言う通りおばさんはとっても偉いの。
 偉い人は国の利益になることを考えないといけないのよ。
 ネルちゃんをおばさんの手許に置くことが国益に叶うと思ったからよ。」

 ミルトさんは、今日、思いつきでネルちゃんに言った訳ではないみたい。
 孤児院のステラ院長からネルちゃんは孤児院では持て余すと言う相談があったらしい。
 ステラ院長は、ポルトで大きな商会を営む息子夫婦の養子にとって、もっと良い教育を与えたいと言っていたそうだ。

 ネルちゃんとザイヒト皇子の関係を聞いていたミルトさんは、ステラ院長にその話は待って欲しいと伝えたらしい。それは拙いと思ったらしいの。

「ネルちゃん、おばさんはネルちゃんに出来る限りたくさんの選択肢を用意してあげたいの。
 そのどれもが、王国の国益に叶うと思っているから。
 希望通りお医者さんになって、たくさんの人の命を救ってもらうのでも良いわ。
 ザイヒト皇子のお嫁さんになるのだって良い。
 ソフィちゃんの様に貴族籍を用意してあげるわ、それで両国の友好に資するなら十分よ。
 おばさんが初めて会った頃に言ったように外交官になって両国の架け橋になるのでも良い。
 とにかく、おばさんの許で王立学園に通う方がネルちゃんの選択肢が増えると思うの。」

 ミルトさんの説明を黙って聞いていたネルちゃんは、ザイヒト皇子に不安そうに尋ねた。

「ザイヒトお兄ちゃんはどう思う?ネルが近くにいた方が嬉しい?」

 ネルちゃんの問いにザイヒト皇子は照れくさそうに顔を赤らめて答えたの。

「吾はネルが傍にいた方が楽しいと思う。
 吾も王国へ留学して三年になるが、王都の中を殆んど見たことないのだ。
 ネルと一緒に王都の見物でも出来たら面白いと思うぞ。」

 ザイヒト皇子の答えが嬉しかったのだろう、ネルちゃんは満面の笑みを浮かべて言ったよ。

「ザイヒトおにいちゃんが喜んでくれるなら、王都に行く!
 ミルト様、お世話になることに決めました。これからよろしくお願いします。」

 ネルちゃんの返事を聞いてミルトさんは満足気に微笑んでいた。

 結局、ネルちゃんはポルトへは戻らず、王都に住むこととなったの。
 ポルトの孤児院に関しては、月に一回はリリちゃんを遊びに連れて行く約束になっているので、いつでも一緒に行くことが出来るしね。

 王宮では息が詰まるだろうということで、学園の寮のフローラちゃんの部屋にある空き部屋に住むことになる。

 学園の寮であればザイヒト皇子も同じ寮に住んでいるし、会おうと思えばすぐに会えるから。
 また、学園の図書館も歩いていける場所にあるしね。

 ただ、本来は付き人を住まわせるための部屋だし、寮生と同じ食事を出してもらう手続きもある。
 更には、学園の図書館の利用許可もとらなくてはいけないと言うことで今日から住むのは難しいみたい。

 それら諸々の手続きで数日掛かるので、その間は王宮のミルトさんの許に滞在することになった。
 ミルトさんは、ネルちゃんにフローラちゃんの小さい頃の服をあれこれ着せて楽しむ気満々だよ。
 着せ替え人形じゃないって……。
 まあ、貴族中心の学園の寮に住むからは、それなりの服装をしないといけないからね。

 でも、王女様の古着では上等すぎる気がするよ。

 ネルちゃんの処遇も決まり、わたし達は王国の使節団と共にウンディーネおかあさんの術で、王都ヴィーナヴァルトの王宮裏にある精霊の泉に飛んだの。
 
 さすが大精霊の術、総員で百人以上の人を一瞬で帝国から転移させたよ……。

 こうして、前皇帝の国葬とケントニスさんの即位式に出席するための帝都への旅は終りました。


 でも、わたしはすぐに帝国に戻るけどね。
 やっぱり、最後の詰めは自分でやりたいからね。
しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

処理中です...