居眠り姫は恋ができない

ナカベ ヒナ

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居眠り姫は笑えない

居眠り姫は笑えない 2

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「はあ・・・・・・はあ・・・・・・」
 4月といえど、傾斜30度の坂を上り続ければ、額に汗もかく。

 本来降りるはずのバス停の、ひとつ先のバス停で下車した夢一と美少女は、無駄に下った分を徒歩で上るハメになった。

 腕時計を確認。あと20分で入学式が始まる。
 夢一ゆめいちは、おろしたてのブレザーに塩をふくほど必死に歩いた。

「はあ・・・・・・大丈夫ですか」

 息を切らしながら夢一が振り向くと、そこには眠すぎて歩くのもやっとな様子の彼女があった。ふらふらと足元がおぼつかない。

 最初は、体調が悪いんじゃないかと心配したが、どうもそうではないらしい。
 熱もなければケガもしていない。
 彼女は、純粋に、ひたすらに、ただただ眠いだけらしかった。

「急がないと入学式遅れちゃいますよ。あなたも新入生ですよね?」

 返事のかわりにあくびする美少女。
 どんだけ寝てないんだよ。

「昨日何時間寝たんですか?」
「10・・・・・・時間・・・・・・」
「10時間寝てそれ!?」

 寝すぎて逆に眠いんじゃないのか!?

 心の中で激しくツッコミを入れると同時に、彼女が立ち止まった。
 それに合わせて夢一も歩みを止める。

「先・・・・・・行って下さい・・・・・・」
「いや、でも」
「私のせいで入学式遅れちゃうし・・・・・・そもそも私のせいでバス降り損ねたし・・・・・・これ以上迷惑かけるわけにはいきません」

 そりゃ、僕1人だけ早歩きすれば、ギリギリ間に合うだろうけど・・・・・・。

「あなたはどうするんですか」
「私のことは放っておいてください」

 その台詞だけ、やけにはっきりと聞こえた。
 半目にもかかわらず、瞳には冷たい意志が宿っているように見える。
 
 彼女が自分との間に頑強な壁を築いた気がして、夢一はうつむいた。

 たしかに、入学式の朝からなんでこんなことにって、僕1人ならこんな大変な思いすることもなかったのにって、アンタのせいだって、思う。思うけど・・・・・・。

 迷惑だなんて、思わない。

 夢一は、彼女の後ろに回りこみ、両手のひらで背中をぐっと押し進めた。
 彼女の足も自然と前に動く。

「おお~」

 とろ~んとした歓声をあげる眠り姫。

 汗だくになりながら、夢一は自分の行動力に驚いていた。
 今までは、放っておけと言われたら何も考えずにしたがっていたのに。その言葉の意図を深く考えたことなんてなかったのに。
 彼女の「放っておけ」は放っておけない。
 
 彼女が美人だから?
 あんなに寂しそうな目を見たから?
 それとも・・・・・・。

「すみません」

 美少女の寝ぼけた声で、夢一ははっと我に返る。

「だ、大丈夫ですよ。はあ・・・・・・はあ・・・・・・き、きっと間に合います」
「いえ、それもそうですけど、あんまりそこ触れられると、ブラのホック、外れそうで・・・・・・」

 両手親指に固い針金のような感触を認め、夢一は思わず彼女の背中から手を離しそうになった。支えを失った彼女が倒れないようにと、徐々に手のポジションをズラす夢一だが、到底冷静ではいられない。

「す、すみません!!」
「いえ、こちらこそなんかすみません」

 激しく動揺する夢一とは対照的に、彼女はなんとも思っていない様子で、のんきにあくびしている。
 デリカシーがなさすぎるのか、男としてカウントされていないのか。

 若干のショックを抱えながら、夢一は眠り姫を押して入学式へ急いだ。
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