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居眠り姫は笑えない
居眠り姫は笑えない 3
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「『思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば 覚めざらましを』
百人一首にもおさめられているこの和歌だが、作者は絶世の美女と言われた・・・・・・」
国語教師の国分先生が、小野小町の和歌を板書する。
最後列窓側という絶好の席に座る夢一は、ノートに書き写す手を止め、隣の絶世の美女をちらりと見る。
絶世の美女――入学式の朝に出会った眠り姫は、今日もこくこくと眠気と闘っていたが、今日も敗れたらしく、バタンと机に突っ伏した。
入学式から約2週間。
なんの因果か、夢一と眠り姫――成宮姫子は、同じクラスに、しかも隣同士の席になってしまった。
あのあと、なんとか入学式に間に合った2人。
長い坂を2人分歩ききって疲弊した夢一と対照的に、姫子はラクチンな登校のはずだったのだが、彼女はなんと式典中も寝ていた。
両隣に座るスポーツマンらしい男子の肩を枕代わりにするも、夢一のなで肩とちがい、直角の肩では寝心地が悪かったのか、最終的には首をだらんと後ろに倒して爆睡。つかの間の彼氏気分を味わっていたスポーツマン2人の残念そうな顔ったらない。
、というか。
夢一は、姫子を見ながら考える。
成宮さんって、いっつも寝てる。
隣の席になれば彼女のことが多少は分かるかと思ったが、むしろ逆、彼女の謎は深まるばかりだった。
【謎その① いつも寝ている】
授業中は9割がた寝ている。起きているのは授業開始後10分くらいまでと、話がうまい先生の授業のみ。
勉強が嫌いなだけかと思えば、授業中だけでなく休み時間も寝る。
友達づくりにおいて最重要とも言える、入学後数週間の休み時間をすべて寝て過ごすなんて、なんたる孤高のぼっち精神。これは、「あなたたちと仲良くなる気はない」という無言の意思表示か。この作戦(?)が功を奏し、姫子には1人も友達がいないようだった。まあ僕も友達いないけど。
ここまではむりやりにでも説明がつくのだが、驚いたことに、彼女は食事中にも寝ることがあった。
コンビニのサンドウィッチをまだ半分しか食べていないのに、倒れ込むように寝てしまう。ぶらりと垂れ下がった右手から卵サンドがぼたりと落ちても、姫子は気づく様子がない。一部始終を見ていた夢一は、驚いて手からカツサンドをすべらせた。食事中に寝るなんて、小学生でもやらないだろ・・・・・・。
「じゃあこの問題を・・・・・・今日は4月18日だから出席番号18番の・・・・・・渋谷! 渋谷うらら!」
国分先生の視線が、夢一の前の席に座る生徒・渋谷うららに向く。
うららも、姫子と同様に、頬杖をついて船をこいでいた。
渋谷うらら。
クラスの誰よりも明るい茶髪にクラスの誰よりも短いスカート。もはや絶滅危惧種と化した『渋谷のギャル』を彷彿とさせるその見た目は、そのままレッドリストに載っててもいいレベルである。
しかも持ち物はほとんどブランド品。財布や定期入れ、ペンケースに至るまでルイ●ィトンでかためた彼女に、クラス中が恐れおののいた。
おかげで、「パパ活してる」だとか「休日、ブランドの紙袋を大量に抱えたオッサンと街を歩いているのを見た」だとかよろしくない噂が絶えず、友達はゼロ。まあ僕も友達以下略。
このように生徒にとっては恐ろしい存在であっても、教師はおかまいなし。
うららの額に、国分先生名物『弾丸チョーク』が飛ぶ。
「いてッ」
折れたチョークは、うららの隣の郡山怜のところまで転がった。
郡山怜は、うららとはちがった理由でクラス中(主に女子)から怖がられている存在だった。
端正な顔立ちに180cmという長身の彼を見て、同クラスになった女子たちは色めき立っていたが、一軍女子が怜に「郡山くんはなんの部活入るのぉ~?」と聞いたとき、彼は満面の笑みでこう答えた。
「君みたいなどうしようもない××が俺を追いかけて同じ部活に入ってくることを思ったら反吐が出そうだから、どの部にも入らないつもりなんだよね」
以来、「氷の王子」と呼ばれるようになった郡山怜に話しかけた者はいない。当然、友達は皆無。まあ僕も以下略。
つまり夢一の席は、『万年寝太郎』・『パパ活(?)ギャル』・『毒舌イケメン』の一匹狼たちに囲まれているのである。
入学後によくある、近くの席のやつら同士でしゃべったりお昼食べたりして、そのままなし崩しに友達ゲットだぜ!ということが、夢一にはできない。なぜなら、そういうタイプの隣人じゃないから。
他の皆はクラスでなんとなく自分の居場所を確保し始めているのに、この4人だけ未だにぼっち。
まさに、クラスという大陸から分裂した4つの孤島。
この島から夢一がSOSを出しても、大陸におうちを建ててぬくぬくと過ごす住人には気づいてもらえない。
夢一、自分の運の悪さを呪う。
僕が未だにぼっちなのは席運がなかったからだそうだそうにちがいないそうじゃなきゃ困るわ。
百人一首にもおさめられているこの和歌だが、作者は絶世の美女と言われた・・・・・・」
国語教師の国分先生が、小野小町の和歌を板書する。
最後列窓側という絶好の席に座る夢一は、ノートに書き写す手を止め、隣の絶世の美女をちらりと見る。
絶世の美女――入学式の朝に出会った眠り姫は、今日もこくこくと眠気と闘っていたが、今日も敗れたらしく、バタンと机に突っ伏した。
入学式から約2週間。
なんの因果か、夢一と眠り姫――成宮姫子は、同じクラスに、しかも隣同士の席になってしまった。
あのあと、なんとか入学式に間に合った2人。
長い坂を2人分歩ききって疲弊した夢一と対照的に、姫子はラクチンな登校のはずだったのだが、彼女はなんと式典中も寝ていた。
両隣に座るスポーツマンらしい男子の肩を枕代わりにするも、夢一のなで肩とちがい、直角の肩では寝心地が悪かったのか、最終的には首をだらんと後ろに倒して爆睡。つかの間の彼氏気分を味わっていたスポーツマン2人の残念そうな顔ったらない。
、というか。
夢一は、姫子を見ながら考える。
成宮さんって、いっつも寝てる。
隣の席になれば彼女のことが多少は分かるかと思ったが、むしろ逆、彼女の謎は深まるばかりだった。
【謎その① いつも寝ている】
授業中は9割がた寝ている。起きているのは授業開始後10分くらいまでと、話がうまい先生の授業のみ。
勉強が嫌いなだけかと思えば、授業中だけでなく休み時間も寝る。
友達づくりにおいて最重要とも言える、入学後数週間の休み時間をすべて寝て過ごすなんて、なんたる孤高のぼっち精神。これは、「あなたたちと仲良くなる気はない」という無言の意思表示か。この作戦(?)が功を奏し、姫子には1人も友達がいないようだった。まあ僕も友達いないけど。
ここまではむりやりにでも説明がつくのだが、驚いたことに、彼女は食事中にも寝ることがあった。
コンビニのサンドウィッチをまだ半分しか食べていないのに、倒れ込むように寝てしまう。ぶらりと垂れ下がった右手から卵サンドがぼたりと落ちても、姫子は気づく様子がない。一部始終を見ていた夢一は、驚いて手からカツサンドをすべらせた。食事中に寝るなんて、小学生でもやらないだろ・・・・・・。
「じゃあこの問題を・・・・・・今日は4月18日だから出席番号18番の・・・・・・渋谷! 渋谷うらら!」
国分先生の視線が、夢一の前の席に座る生徒・渋谷うららに向く。
うららも、姫子と同様に、頬杖をついて船をこいでいた。
渋谷うらら。
クラスの誰よりも明るい茶髪にクラスの誰よりも短いスカート。もはや絶滅危惧種と化した『渋谷のギャル』を彷彿とさせるその見た目は、そのままレッドリストに載っててもいいレベルである。
しかも持ち物はほとんどブランド品。財布や定期入れ、ペンケースに至るまでルイ●ィトンでかためた彼女に、クラス中が恐れおののいた。
おかげで、「パパ活してる」だとか「休日、ブランドの紙袋を大量に抱えたオッサンと街を歩いているのを見た」だとかよろしくない噂が絶えず、友達はゼロ。まあ僕も友達以下略。
このように生徒にとっては恐ろしい存在であっても、教師はおかまいなし。
うららの額に、国分先生名物『弾丸チョーク』が飛ぶ。
「いてッ」
折れたチョークは、うららの隣の郡山怜のところまで転がった。
郡山怜は、うららとはちがった理由でクラス中(主に女子)から怖がられている存在だった。
端正な顔立ちに180cmという長身の彼を見て、同クラスになった女子たちは色めき立っていたが、一軍女子が怜に「郡山くんはなんの部活入るのぉ~?」と聞いたとき、彼は満面の笑みでこう答えた。
「君みたいなどうしようもない××が俺を追いかけて同じ部活に入ってくることを思ったら反吐が出そうだから、どの部にも入らないつもりなんだよね」
以来、「氷の王子」と呼ばれるようになった郡山怜に話しかけた者はいない。当然、友達は皆無。まあ僕も以下略。
つまり夢一の席は、『万年寝太郎』・『パパ活(?)ギャル』・『毒舌イケメン』の一匹狼たちに囲まれているのである。
入学後によくある、近くの席のやつら同士でしゃべったりお昼食べたりして、そのままなし崩しに友達ゲットだぜ!ということが、夢一にはできない。なぜなら、そういうタイプの隣人じゃないから。
他の皆はクラスでなんとなく自分の居場所を確保し始めているのに、この4人だけ未だにぼっち。
まさに、クラスという大陸から分裂した4つの孤島。
この島から夢一がSOSを出しても、大陸におうちを建ててぬくぬくと過ごす住人には気づいてもらえない。
夢一、自分の運の悪さを呪う。
僕が未だにぼっちなのは席運がなかったからだそうだそうにちがいないそうじゃなきゃ困るわ。
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