恋なし、風呂付き、2LDK

蒼衣梅

文字の大きさ
45 / 119

45 脳内より指令あり

しおりを挟む
「それは……大変だ。まぁ、年末だからね。どこも忙しいよ」

 昨日、旭輝が仕事が遅くて、官僚って大変だよねって、そんな話を国見さんとしながら商品整理をしてた。お店開店直後ってちょっと忙しいんだよね。前に雑誌にも載ったことがあるんだって。海外の可愛い雑貨を取り揃えてるって。そんなこともあって、街でもちょっと有名な国見さんのお店は開店直後が結構忙しいことが多い。
 お昼くらいは少し空くんだ。みんなランチタイムなんだと思う。もちろん土日はそんなの関係ないから、しかもクリスマス前のこの時期において週末が暇なんてむしろ危機的なので。でも平日で、今日は朝から冷たい雨降りだったりすると少し客足は遠のく。
 外は寒そうだけれど、クリスマスの雰囲気が溢れるお店の中はあったかくて、少しワクワクした気持ちにすらなれる。

「ルームシェアじゃ気を使うよね」
「あー、あはは、まぁ」

 旭輝が国見さんのことを見たなら、まぁその逆もあるわけで。そしてそんな彼のことを説明するのにはルームシエアしてるルームメイトっていうのが一番合ってる。
 本物の恋人じゃないし、蒲田さんにはそういうことにしてるけど、でも、ここは職場だからそういうことを隠してますって設定でさ。
 共通点もない俺たちはお友達設定よりも、ルームシェアの方がしっくりくるかなって。

「そっか……でも、官僚って大体そのくらいの時間帯になるからね。午前様なんてことも珍しくなかったり。転勤も多いし。エリートなんていうと響きはいいけど、苦労も多い仕事だ」
「……すごい、詳しいんですね」
「え? あぁ、そうだね」
「すごいなぁ。国見さんって外国語もペラペラだし、いろんなこと知ってて。博識ですよね」

 エリートの旭輝も英語ペラペラだもんね。俺なんて日本語ですらたまに怪しいしって、笑ってみた。

「そうだ! それで、ルームメイトに英語習ったりしたんですよ」
「へぇ」
「英語、全然話せないと大変だからって」
「えらいね」
「いえいえ、仕事なんで。でも、あいつの声、低くてちっとも聞き取れなくて、何度も聞き返しちゃったりして」

 ドキドキして仕方なかったっけ。最近忙しくて英語の練習してないけど、でも俺が交渉するわけじゃないから、ハローって慌てず言えてさ、国見さんに代わりますねって英語で伝えておけばいいだけだし。

「あ! それで、エリートなのに、家庭的なとこもあって。二日酔いにはお味噌汁って、なんかお母さんっぽいとこもあったりして。料理も上手なんです。外食なんて頻繁にしてられるかって言って」

 髪をセットするのが好きじゃないっぽい。帰ってくると一番に髪をクシャクシャにしちゃう。
 ネクタイも窮屈なんだって。たまに廊下歩きながら解いちゃうのか、既にネクタイはなかったりする。
 ご飯は上手。
 お酒は、ストレス溜まってるのかな、結構飲むほう。ビールが多くて、なのに、体型は全然。って、裸見たわけじゃないですけども。シルエットがね。何せアパレル系ですから、見ただけでその人のサイズならだいたいわかっちゃったりする。すごく引き締まってる感じ。

「あ、それから、映画はホラーとかすっごい見たがるんです。あ、俺もホラーとか全然大丈夫ですけど、なんていうか嘘くさいじゃないですか? 本物なわけないし。なので、もっと笑えるのとか。あ、でも、コメディは好きっぽいんですよ。すっごい笑うんです。そこも笑う? ってことでも笑ったりして。この前なんて、」
「聡衣君、楽しそうだ」
「……え……あ」
「ルームメイトの話をする時」
「……ぁ……の……」

 なんか夢中になって話しちゃってた。
 言われて気がつくと、目の前の商品をきれいに並べ替えながら、ペラペラペラペラすっごいたくさん旭輝のこと話してて。
 びっくりするよね。そして退屈だよね。知らない人の話をそんな盛大にされてもさ。

「映画好きなんだ」
「ぁ、はい」
「聡衣君はどんな映画が好き?」
「あ、えっと」
「明日、休みでしょ? 店」

 水曜日は定休日。

「映画、どうかな」
「……ぁ」
「ちょうど水曜は最寄りの映画館がお得な日なので。そうだな。ラブストーリーとか。いかがですか?」

 小さな。
 脳内の小人が、ちょっと騒いでる。

「……」

 ほら。
 おーい! おいおーい! おーけーしようぜー! って。
 旭輝はノンケなんだ。フラれるんだ。それなら今後フラれる気持ち持ってたって仕方ないだろ? だから、ほら、こっちにしようぜ? 良い人だぞ。楽しいぞ。話、丁寧に聞いてくれるぞ。
 だから、こっちにしょうぜ。
 こっちこっち。ぜーったい、こっち。

「時間、少し遅くしようか。せっかくの休みだし。ランチは一緒でもいいかな? 十二時に、ここに」

 ほら、リードが上手。きっとエスコートされるのも心地いいと思うぜ?
 そう、小人が頭の中でぴょんぴょん跳ねてる。

「……ぁ……はい」

 そして、その小人の声に押された俺は、ペコリと頭を下げて。

「十二時、ここに、はい」

 返事をしたら、国見さんが笑ってた。優しく笑ってくれた。


しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

僕の目があなたを遠ざけてしまった

紫野楓
BL
 受験に失敗して「一番バカの一高校」に入学した佐藤二葉。  人と目が合わせられず、元来病弱で体調は気持ちに振り回されがち。自分に後ろめたさを感じていて、人付き合いを避けるために前髪で目を覆って過ごしていた。医者になるのが夢で、熱心に勉強しているせいで周囲から「ガリ勉メデューサ」とからかわれ、いじめられている。  しかし、別クラスの同級生の北見耀士に「勉強を教えてほしい」と懇願される。彼は高校球児で、期末考査の成績次第で部活動停止になるという。  二葉は耀士の甲子園に行きたいという熱い夢を知って……? ______ BOOTHにて同人誌を頒布しています。(下記) https://shinokaede.booth.pm/items/7444815 その後の短編を収録しています。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

処理中です...