少年ドラッグ

トトヒ

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母親と自分の罪を償うには

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「あなたのお母さんは、悪魔だった」

ホノカが俺の髪の毛を触ってくる。

「幼い君は、天使のように可愛かった」

ホノカは俺に口づけをした。
煙草の苦い味。
化粧品と香水の混ざった匂い。

「今の君もタイプよ。ねえ、悪いようにはしないから。思い出してちょうだい」

何をだ。もう、思い出したよ。

「気色悪いものを見せるな」

白衣の男がホノカに冷たく言い放つ。
ホノカの眉毛が吊り上がった。

「薬人君。記憶の中で、君の母親がドラッグをやっていた光景は無いかな」

母親は常に酒を飲んでいた。
それは思い出した。
ドラッグは分からない。
俺は首を横に振った。
話す気力は無い。

「思い出せ! あの女はドラッグを持っていたはずだ」

男は必死の形相で、俺の肩を揺さぶってくる。

「お前の母親は新型ドラッグの被験者だった。それで、中毒になってドラッグを持ち逃げした。俺にはそのドラッグが必要なんだ!」

金じゃなくて、ドラッグを盗んだのか。
金の方がマシだったかもしれない。
返すことができるものだから。
俺の記憶にそのドラッグの手掛かりが無いかと、この二人は思ったのか。
残念ながらドラッグの記憶は無い。
俺は余計なことを思い出して終わりだ。
もう、どうでもいい。
何も考えたくない。
俺が目をつぶると、男は俺の頬を思いっきり叩いた。
痛かったけど、それもどうでもいい。

「ちょっと、暴力はやめて。特に顔は!」

ホノカが声を荒げる。

「うるさいぞクソ女。お前がこいつをちゃんと勧誘していれば、誘拐なんかしなくて済んだんだ。もう後には引けない。思い出してもらえなければ、俺のキャリアは終わるんだ」

「ドラッグを使ってすぐじゃない。もう少し待てば思い出すかもしれないわよ。それに、この子の処理は任せて。ドラッグ漬けにして私がもらうから。あんたは心配する必要ないわよ」

ああ、誰か俺を殺してくれ。

記憶が蘇ってから日付も時間も分からず、俺は手術台の上に横たわり続けた。
いつやられたのか、俺のブレザーとワイシャツが無残に引き裂かれている。
ズボンは汚物まみれで、ひどいありさまだ。
制服って結構高いから、おじさんにねだるのは申し訳ない。
いや、その必要は無いのか。
俺はきっと帰れない。
時々ホノカが食べ物を勧めて来たけれど、口に入れることを体が拒否する。
俺は生きようとしていない。
点滴を腕につながれてしまったけど、このまま食べなければ死ねるだろうか。

「このままじゃ、もっと痩せちゃうわよ」

ホノカが俺のあばら骨に手を沿わす。
あんたのその長い爪で、今すぐ俺の喉をかっ切ってくれよ。

「突破口を見つけたぞ」

ある日と言うべきなのか、今がいつかも分からないけど、白衣の男が興奮気味に部屋へ入ってきた。

「本当に?」

椅子に腰掛けてスマートフォンをいじっていたホノカが顔を上げる。

「もしかしたらと思って、こいつの血液検査をしてみた。そうしたらわずかに、例のドラッグ反応が出たんだよ」

俺はいつの間にか採血されていたらしい。

「つまり、どういうことなの?」

「こいつの血液を使ってドラッグの化学構造を割り出し、もう一度ドロップへヴンを作り出せるってことだ。時間は多少かかるがな。こいつが何も思い出さないなら仕方ない。まだまだ使い道があることを喜べ」

白衣の男が、俺の顎をつかむ。
その何とかへヴンというのが、母親が盗んだドラッグなのか。
どうして俺の血液からドラッグ反応が出てくるんだ。

「この子の血が必要ってことよね。何も食べてないけど大丈夫かしら」

「この際、全部の血を抜いてでも手伝ってもらう。母親の罪は、その子供が償わないとな」

ホノカが反論していたけれど、白衣の男は聞く耳をもたないようだ。
さっそく俺の血を抜こうと準備を始める。
ホノカが終始煩かったが、分け前をやるという男の言葉を聞いて大人しくなった。
所詮、俺の存在なんてそんなものだ。
でも、まあいいや。
こんな汚い血で、母親と俺の罪を償えるなら安いもんだろ。
男が俺の腕に太い針を刺す。
その先につながれたチューブへと、俺の血が流れ出ていく。
俺はそれを眺めた。
俺の血が透明な入れ物に満たされていく。
それがいっぱいになったら、俺は救われる。
目がかすみ、意識が朦朧としてきた。
それが心地よい。
強力なドラッグを打ったら、こんな気持ちなのだろうか。
そりゃ、中毒になる奴も多いだろう。
だって、現実世界はこんなにも辛いのだから。

夢と現実の狭間にいた俺の耳に、何かがはじけるような激しい音が二回聞こえた。
ぼんやりと音の方を見ると、ホノカと白衣の男の頭が吹き飛んでいる。
スローモーションで飛び散る赤い血と、灰色の何か。
あの日母親を殺した時に嗅いだ、むせ返るような匂い。
扉に誰かが立っている。
顔をフードで覆い、全身黒い服を着ている。
死神さんですか。
悪魔ですか。
かつて横行したドラッグ中毒者の証言では、ドラッグを摂取するとこの世のものではない者が見えるという。
叔父さんが言っていた、ドラッグは怖いものだと。
でも、怖くないよ。
きっとこの死神が俺の魂も刈り取ってくれる。
悪魔だったら地獄に連れて行ってくれるだろうか。
罪を犯した俺のもとへ、天使は現れないはずだから。
何でもいい、誰でもいいから俺を連れて行ってくれ。
黒い人物が俺に近づいて来る。
そいつが持っていたのは死神の大鎌でも、悪魔の鉾でもなく拳銃だった。
この国でそんな物を見るなんて、やっぱり幻覚かもしれない。
それは残念だ。
がっかりした俺は、意識を手放し暗闇に落っこちて行った。
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