異世界で、男に抱かれる快感に目覚めちまった…!?

海藻

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第一章・俺の価値

どこだよここ!?

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「ねぇ姫、お金…いつ返してくれるんだっけ」


彼女…という体で一緒に暮らしている女の子にそう聞かれると、毎回イラついてしまう。


(…姫って呼ぶなよ)「…あ~…何円?」

「いや、今まで貸した分全部だけど…覚えてないとかないよね?」

(あぁ…ウザ…もうコレに寄生すんのは無理かな~)


朝の10時、遅めの朝ごはんを寄生先の女の子に提供するルーティン。
いつもなら美味しい美味しいって食べて「今日はお仕事見つかるといいね」って可愛くお金置いてってくれるのに…。


(今日コレが家出たら俺も荷物まとめて家出るか…)


俺、城内 姫(きうち ひめ)は所詮「ヒモ」だ。
自分の顔が良いことは自覚してる。
可愛い女の子に甘い言葉を囁いて、気持ちいいことをして…そうして衣食住を獲得してきた。
…が。流石に女の子1人に1ヶ月以上も夢を持続させることはできずに女の子の家を転々とする日々…。


(日頃の言葉遣いとかちょっとした事で夢って覚めちゃうんだな~…今回は何がダメだったんだろ、返事が遅かったとか?可愛いって言い損ねた?…外で別の女の子と会ってるとこ見られたかな)


原因を探ればキリがない。
かといって、関係を頑張って修復するほど1人に構っていられない。


「じゃ、仕事行くけど…バイトくらいなら日雇いでもあるんだからさ、ちゃんと考えて。」

「うん、分かった…ごめんね?」

「…別に、怒ってるわけじゃないから」

「分かってるよ…いつもありがとう」

「…じゃあね、いってきます」

「いってらっしゃい~」

扉が閉まる音、カツカツと鳴る踵の音が遠くなるのを確認して

(…さて、やりますか)


早速荷物を纏める。
纏めると言っても服とアクセサリーは元々リュックが収納代わりで、片付けなくてはならないのは歯ブラシ、今干されている衣類程度。


(ここのシャンプー、甘くて良い匂いだったんだけどな~…)


今後の参考に風呂場の写真を撮って、食器も片付けず家を出る。
こういう時、最初は罪悪感で家の中をピカピカにして出ていたけど最近は傲慢さが出て少し、してやったという気持ちになる。


(…性格悪くなっちゃったな~、俺)


完璧に自業自得だが…
緩い自己嫌悪に死にたくなる前に足を動かす。今は11月、着込んでいても少し寒かった。


(これからどうしよ…)


顔に自信がある。愛嬌もある方だと思う。
それでも同性の前ではその自信が鼻につくのか、あまり上手く友達ができなかった。


『あいつ、マジでナルシだから』
『常に調子乗ってるよな』
『わかるw』


その点女の子は優しくて、いつも俺を褒めてくれるし、柔らかいし、良い匂いだし、好きだと思った。


(…なのに俺、何してんだろ)


優しさに甘えて、女の子を下に見てた?


(なんか今日…すげえネガティブだ。…いつもはそんな事ないのに)


こういう時思い返すのは、いつも“男”だった。
俺だって男だけど、変だけど…
一度、高校でヤンチャしていた頃に、つるんでいた先輩の兄貴とピアスを開けた。


「姫ちゃん、顔可愛いからピアス開けたらもっと可愛いよ」

「…はは、可愛いてなんすか!あと姫って呼ぶのやめてくださいよ」

「そのままの意味で可愛いの、姫も一緒だよ、可愛いから呼んでる」

「…うざいっすよ」

「あはは!可愛いなあ!」


女の子に褒められるよりも、女の子を抱くよりも満たされた、『可愛い』の会話。
女の子に優しくできないのも、
キツく当たるのも全部…


(…俺って、男が好きだったのかな。)


赤信号で立ち止まって、
先輩の兄貴ことを思い出して…
今頃何してるんだろうと思う。


(女の子って存在に、嫉妬してたのか?)


病まない自問に顔を覆ってその場でしゃがみ込む。
朝の街並みで人目がある中こんなことをするのも、今日は本当に変だ。


「…ゲイバーとかって朝開いてんのかな…」


(やば、声に出た)


覆ってる顔が熱くなって咄嗟にあたりを見回すと


「…は?」


そこは赤信号で立ち止まったはずの交差点ではなく、
青々とした草原…そして目の前は数歩歩けば落ちる、断崖絶壁だった。


「ッうわ!?は、?え?!」


急いで崖から飛び退いて再度あたりを確認する。


(は、何何何、夢?!俺、、死んだ?!信号待ちしてる間に死んだ?!)


この状況を誰かに話したくて咄嗟にSNSを開いた。
しかし当然圏外で、心臓が破裂しそうになる。


(え…怖…怖いんだけど、マジで何?!)


崖の下は川、崖の向こう側もこちら側も森が広がり、到底都会育ちの俺が歩けるような場所ではない。
聞いたこともない「ギャー!」といった鳥なのか何なのかも分からない鳴き声とザワザワとうるさい森全体がしなる音にチビりそうだった。


(お、女の子に酷いことしたから神が怒ったとか…そういうこと…!?)


支離滅裂な思考だとは理解していても、現実がまずこんな事になってるんだからそりゃあこんな考えにもなる


(どうしよう…俺は…ただ次も楽して生活したかっただけなのに…)


ただただ震える事しかできず、学生以来初めて三角座りをして、膝の間に頭を入れた。
少し湿った土の匂いが、夢じゃないってわかる。
手についた草の感触が、崖から離れる時擦った膝の痛みが…心細くなる。


(男なのに…)


涙が滲んで、1人で勝手に恥ずかしくなる、でも誰も見てないからって久々の泣きの続行しようと決めた時


「お~い!君!!大丈夫か~!」


崖を挟んだ向かいの森から声がした。
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