異世界で、男に抱かれる快感に目覚めちまった…!?

海藻

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第一章・俺の価値

魔法使いじゃん

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「おーい!!君!大丈夫かー!!」


確かにそう聞こえた。
声がした時、反射で顔を上げ崖を挟んだ向こう側に男が立っている事を視認したが、
泣き顔を見られるのが嫌でまた下を向いて涙を拭っていると


「立てるか?」


近くで声がした。


「ッうわぁ!?」

(は、何、瞬間移動?!)


ビックリ続きで心臓に悪い、胸だけじゃなく足先まで心臓の振動が響いてきた。


「はは、大袈裟なリアクション…」


手を差し伸べてきた男は、ドイツ系の顔立ちをしていた。
肌は健康的に焼けていて、茶髪、それと同じ茶色い瞳。眉毛はちょっと太め。最近の俺らみたいな日本男児はすぐ眉毛抜くか剃るかしちゃうけど、こういう男にも憧れるなぁ…
すぐ他人の見た目を気にするのは、俺の悪い癖だ。


「…っあ、ごめん」


俺が男を見上げて思考していたから、見つめ合うようになってしまっていた構図に、茶髪の男は少し顔を赤くして目を逸らした。
俺が見つめてたんだから全然謝る必要ないけどな…
そして俺はひと迫遅れて


(あ、日本語流暢だな)


と感心する。


「あ、全然怪我とかは無いんで、全然…」


今までの人生、外国の人との交流は全然無かったけど、なんとなくこういう時、手は取っといた方がいい気がして手を握り、体を起こしてもらう。
ぐっ、と腕に力を入れて俺が起き上がろうとすると、茶髪の男も腕を引き、しかも腰に手を添える男前な仕草で難なく起き上がる事ができた。


「おお…」


めっちゃめちゃに鍛えているのか腕が俺の2倍くらいあることに気付いて、

(俺が力入れなくても持ち上がってたかな…)

とアトラクションを乗り損ねた時と同じような気持ちになる。


「ありがとうございます」


とお礼を言うと


「いや、…大したことない」


と、先程から登場時の大声とは打って変わって大人しく目を合わせない茶髪の男。
疑問を抱きながらも、少し


(…俺の顔が良いからかな)


と自惚れながら顔を覗き込む。


「…っあ、」


すると茶髪の男がまたも顔を赤らめたので、俺は確信した。


(ははーん、外国人にも俺の顔はドストライク…と…。)


少し良い気分になりながら、
茶髪の男にさっきからの疑問をぶつける。

「ねぇ、さっきあっちで声掛けてきたのになんで今ここいるんすか?」

「っえ、?何が?」

「えっとだから、あっち側で、…えっと、あっちの崖で俺に声掛けましたよね?どうやってあんなすぐこっちに来れたのかなって」

「…?」

(え、何…俺変なこと言ってる?)


さっきまでの童貞丸出し赤面の表情はどこへ消えたのか、鳩が豆鉄砲~というような顔できょとんとこちらを見る男。
かと思えば何か慌ただしく目をキョロキョロさせた後


「失礼だったらごめん…そ、その.
君は…あんまり飛べない感じ?
あっ…いやでも、その体だしな…」

「は?」


(飛べない?

…いや待て待て。崖から崖までお前は飛べないのか、て事を言ってんのか…?
崖から崖まで、大体電車2両分程度はあるし、普通の人間には…というかめちゃくちゃ凄い人間でも無理だろ!)


俺が混乱していると


「…もし君が飛べないなら、その…俺が抱っこして家まで連れてってあげようか?」


と再度顔を赤くした男が提案してくる


「抱っこって…」


そこまで言って、さっき少し後悔したアトラクション気分を思い出す。

(…普通にめちゃくちゃ飛びたいな)

きっと先程の腰に手を添える仕草があったように、危険なことは無いはずだし…


「いや、き、君が嫌っていうなら全然!お家の人を呼んでくるよ!待っててくれるなら!でも…ここは魔物が出るし…その…」

「魔物!?」


(また“飛ぶ”より凄いの出てきたな…いよいよここが日本じゃ無い気がしてきた)


「そう、魔物…て、そうか見たことないのか…そうだよな、その…体だしな…」

「………」


てかさっきから“その体だしな…”てなんなんだ?飛べないのが体由来なのはまだ分かるとして魔物見たこと無いのも体由来になんの?幽霊みたいに見える見えないに個人差あるって事なのかな…てか、「おうちに送る」って、俺が誰か分かってるみたいな口振りだし…

「ねぇ、『その体だしな』って、なに?」

「っえ、あ!ごめん!気にさわっちゃったかな、じゃ!なくて!……気に,さ、触りましたか…」

(…敬語)

「ごめんだけど、俺を誰かと勘違いしてる?」

「…勘違い、ですか」

「ほら、それも…急に敬語だし」

(…まあ俺も途中からタメ口だけど)

「誰か、知り合いと勘違いしてる?俺達初対面だよね?」

「はい…初対面ですね…」

「あ、初対面なんだ」


(…じゃあなんで俺の家が分かるんだよ、ますます意味がわかんねぇ…)


「ま、いいか…魔物は俺も嫌なんで、飛んで一緒に帰りたいです、家…はあなたが思ってるとこと俺の家が一致してるか分かんないけど」

「ッあ、はい!じゃあ…すみません、失礼しますね」


ゆっくり、大切なものを抱えるように俺の体を姫抱きにした男は、

「…ちょっと危ないんで、首…とかに捕まってもらえると」

と警告する。

「あ、はい」

俺も確定ではないにしろ二度死ぬのは嫌なので、大人しく首に手を回す。男の鎖骨あたりに耳が近づくと、物凄く心臓が動いているのに、少しまた良い気になる。

「はは、」

面白くなって少し頬を男の胸に擦り付けると、俺を抱く腕の力が強くなった。

「…じゃ、そのまま、…捕まっててください」

少し深呼吸した男が軽く助走をつける。
軽くたんたん、と走っているだけに思えて、景色が一瞬で動いているのを見て、陸上選手の目線ってこんななのかなー…と呑気に考えていると
ぴょーん、と軽々と崖の上を飛び超えた。

スッ、とあの距離を飛び越えたとは思えないほど華麗な着地で数本歩いた後に

「…えっと、怖くなかったですか」

とまだ顔を赤くさせながらそっぽを向いて聞いてくる男…

「…っすげえ、」

「え?」

「すげー!!マジすげえ!ヤバ!え、どうやったの今!!マジで魔法じゃん!!筋肉どうこうの話じゃねぇって!」


俺はその男に完全に尊敬の眼差しを向けた。
凄すぎる、助走の時点であんなに早いのも、崖飛び越えるのも、着地が滑らかなのも!
久しぶりに、子供の頃に戻ったように大笑いしながら男に抱きつく。

「あはは!…あーあ…でも、少し怖かった,でもそこが面白かったんだけどな!」

「…っ、」

「ね、まだ俺の家?に着くまでに崖って…」

あるのか、そう聞こうと目線を上に向けると、悲しそうな、苦しそうな茶髪の男がいた。

「え、何…大丈夫?」

「…まだ、残ってるんですね」

「残ってる?…ッうわ!」

さっきまでの優しく、少し子犬のような気遣いの塊だった男が嘘のように、俺を地面に押し付けた。
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